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46決戦、ゴブリン界のプリンス

もうお昼だね。

そろそろご飯食べよっと考えてた時にその報告があった。

崖の付近で大勢のゴブリンが集まって来ていると。



早くても崖から此処まで十分から二十分程。

大勢ならもう少し掛かるかも知れない。

村長さん宅へ向かうと他の村人達も同じ方向へ、村長さん宅へと集まって来た。


総勢、私を足して四十名。


「えー。皆の者、集まっておるか? 先ほど近くの崖を監視していたゴン助から報告があった。ゴブリンが大勢集まり出していると。恐らく此処を目指して来るだろう。その辺は先ほど話しを廻した通りじゃ。サラダエクレアにも援軍を呼んでいる。じゃがゴブリンの動きが速い様での。援軍は間に合わん。なのでこれからサラダエクレアを目指して移動しようと思う。今此処にはゴブリンとまともに戦える者はクエストを受けてくれた朋さんのみじゃ。そしてしんがりを勤めてくれる。足腰の弱い者、ろくに動けない者も多数いるのは皆も知る限りじゃ、皆で力を合わせてサラダエクレアに向かうぞ! では、朋さんからも一言お願いします」


「……ええと、私一人で出来ることはとても少ないとは思いますが、できる限りの事はしてみます。任せて下さい。でも…………防ぎきれないゴブリンが向かう事があると思います。その時は……お願いします」


精一杯、大きめの声で皆に向けて話した。


大勢の前で話すのは初めてで、とっても恥ずかしかったけど、なんとか話せた。

後は戦うのみ。

苦手なゴブリンを相手に。


村の人達も様々で、家畜を連れて行く者もいれば家財道具を一杯、馬に運ばせる人もいる。

殆ど歩けない人は小さい馬車が一台あるので上手く運ぶらしい。


殆どの人が歩き。

現状を知り、武者震いか、ゾクゾクっとなった。


姉さん。

力を…………私も頑張る。

今現在も大変な思いをしている姉さんを頼った弱い私。



一分が十分に感じられる程に時間が長い。

ゴブリン達は何処まで近づいているだろうか。


多分報告があってから十五分ぐらいは経過しているから早くてあと五分。

集団と考えるとあと十分ちょっとはあるだろうか? そんな時、村長さんが着た。


「用意出来ました。これからサラダエクレアへ向かいます、朋さんはどうされますか?」


「…………私はとりあえず此処で待機します。三十分待って何も無ければ合流しに向かいますね、ゴブリンが来る様なら、村での戦闘は避けて下がりながら戦います、若しくは完全防衛を目指してみるつもりです、そこはゴブリンの動きを見て決めようと思います」


「…………解りました。ご武運を」


村の人達がパプリカ村を離れていく。

何処でゴブリンを待とうか、村をてくてくと歩いている時に村人に出会った……。


「…………どうされましたか?」


「ん? ああ、どうもしないよ」

「ええと、皆はもうサラダエクレアへと向かいましたが……」


「そうだな。俺は先祖代々守ってきた俺の家や畑を守るんだ。この土地には思い入れがあるんだ。易々と逃げる事は出来ない!」


「で、でも……凄い数のゴブリンが来ますよ? 多分……」

「理屈じゃ無いんだ。放っておいてくれ、俺に構わないで良いから……」


「…………」


どうしよう。

こんな時、どうすれば良いの。

…………確かに、思い入れのある場所は守りたい、それは解るけど……。

私も魔女の住処がこういう状況になったらって、考えると多分……残るだろう。


そう、村人さんは正しい。


でも……何か変だ。

こんな時はどうすれば良いのだろうか? 


もう時間も無い。


「解りました。…………私が守るので、危なかったら避難して下さい」


「…………守ってくれるのか?」

「はい。守ります」


私は場所を見渡して一番良い所に移動した。

此処ならある程度フォローしつつ防衛出来る。

そろそろ用意しようか。


「スケルトンちゃん!」


私の呼ぶ声と共に頼もしい相棒。

スケルトンちゃんが現れた。

さて、此処からだね。


「良いかな? スケルトンちゃん。貴方はリーダーだよ、お願いね」


スケルトンちゃんは、えっ? って顔をしていたけど、その後、腰に手を当てて胸を叩いていた。

ええと、任せなさいって感じかな? よし、リボンを付けておこう。


「多重スケルトンちゃん。いくよ!」


かけ声と同時にボコボコとスケルトンちゃん達が現れる。

二十体ぐらい生成された。

もっと出せそうだけどとりあえず様子見。


「ふふふふふーん……」


何だか口寂しくなり鼻歌交じりで気を紛らわせる。

ふふふふふーん。

そう、ゴブリンはにおいで解るんだ。


少し何かが混じった臭い。


ツンと私の鼻を突く…………近い。

そして歩く音、やはり結構な数がいる。


村の境目には柵がされている。

あれにしよう。


そこを私の境界線とした。

デットライン。


柵は壊すよ、ついでにね。


そして現れるゴブリン達、私はその姿にやはり戦慄する。


あれ、何故か無理げーしない、大丈夫みたい。

行ける…………でも数が多い。

隊列を組む訳では無いが不規則に正しく目的地を目指し歩いている。

ギャーギャーと声も聞こえ出す。


決めたラインに差し掛かる。


「根源より生まれた唯一の始まりセフィロトから重ね合う創造四原種の理よ、今此処に姿を形成し表現せよ。ファイアボール」



戦闘の火蓋は私の呪文、ファイアボールによって切られた。



上級四種のファイアボール。


詠唱による攻撃力や精度がアップされた火球は私の手の中で大きくなっていき限界点まで達する。


私は放り込む様に火球を投げる。

真っ赤な火の玉は対象の地点目掛けて良いスピードで炸裂する。


花火なんてもんじゃ無い。

一度のファイアボールで相当数のゴブリンを殲滅した。


もう黒焦げ。


しかし火を避けるように後続のゴブリン達もわらわらと村へと雪崩れ込む。


「根源より生まれた唯一の始まりセフィロトから重ね合う創造四原種の理よ、今此処に姿を形成し表現せよ。サンドサイクロン」


手のひらから出されたのは砂混じりで高密度の風。


進むにつれて形を成していく。

周囲の空気中の塵や砂。

それらを取り込み形成して更にどんどんと大きくなっていく。


それは竜巻。


小型ながら威力のあるそれは目標へと突き進み辿り着くと同時に更に勢いを増す。

周辺のゴブリンやら物やら、全てを巻き込み上空へと高く舞い上がる。


上空三千メートルまでも巻き込んだ物を跳ね上げて放出するが、その頃には放出する物は塵芥。

細切れの更に細かくされて無へと化す。


それは通常よりも威力が増した結果の威力。

その間にも単体を狙って基本四種で倒していく。

名前を聞き忘れた村人さんはゴブリンと鍬で戦っている。


隙を見て援護の魔法を投げる。

する事が多い。


「スケルトンちゃん半分。村人さんを守って……もう半分は家と畑を!」


古代召喚術による召喚された多めのスケルトンちゃん達。

リーダーのみリボンを付けている。

動きは指揮者の様、何かを命令しているみたい。


私の呪文により結構な数が退治されてはいるが、ゴブリンの勢いは止まらない。

更にどんどん増えていく、戦線を何処まで維持できるか、もう時間の問題かも知れない。


数の暴力には敵わない。

全然減らない。倒すと増える。

しかし、倒して倒して倒す! 私の勢いも止めない。


絶対に。絶対に。守るんだ。


血走った目の私。

まったくの無傷とはいかない。

ゴブリンも今の所近寄らせてはいないけど、何かを投げてくるんだよ。


石とか尖った矢みたいなのとか、私のお肌は大分擦り剥いている。

でも夕顔ちゃんはいないから治せない。



「……………………」



多分もう感覚だと二千体以上は倒している筈。


――――時間はどれぐらい経過しただろう? 村人さんは無事だけど逃げ回っている。


スケルトンちゃんは大分数が減ってきた。

あとどれ位この状態を保てるだろうか……。


もう一度。


「多重スケルトンちゃん、お願い!」


かけ声と共に冥府から現れるスケルトンちゃん達。

うん、多分冥府だよ。

雰囲気的にね、数は二十五体程。


先ほどと同じ命令を投げる。


そんな時に村人さんは逃げていってしまった。


まぁ、良く頑張った方だよ。

私はどうしよう……守ると約束したけど私の価値観と少し違いがある。


――でも決めたんだ。

此処を守ると。


どちらかと言うと私は防御力が無いから守ると言うより攻めるなんだけどなぁ。

と一人でツッコミを入れるぐらいはまだ余裕があった私かっこ半分は意地なんだよ。


でもそんな余裕も意地もそれまでだった。


目の端にキラキラが入り込んだ。

え? 何だろう? 目を凝らして見てみると、ええと、王冠だ。

あっ、あれだ。

何だっけ、プリンスちゃんだ。


「ふーん…………」


確かに――――強そうだ。

禍々しいオーラが見える気がする。

よし……先制攻撃してみよう。


「根源より生まれた唯一の始まりセフィロトから重ね合う創造四原種の理よ、今此処に姿を形成し表現せよ。ファイアボール」


手の中で育てられたかの様に大きくなっていく火球。


勢いは知らず。

先程と同じ様に対象へと投げつける。


私の中の赤い太陽。


私の中のイメージではぶつかり炸裂しながら燃えさかる、筈だった。

到達地点はプリンスちゃんの近く。

敵プリンスちゃんは無駄の無い動きでその到達地点へと移動。



禍々しく昏くそして鈍く光るマントをファイアボールへと翻す。



一瞬。

何が起こったのか解らなかった。


見たまんまだとマントをひるがえし一瞬にして消化させた。

……文字通り消し去った。


あのマント、何か凄いね。

私のファイアボールを消し去ったよ。

撫でる様な動きだけで。


きっとレアアイテム。

装備かな。


良いね、欲しいね。

でも見た目、悪そうだからやっぱり要らない。


臭いそうだし……。


「フン。そのワザはオレに効かない。サッキの仕返しをしてヤルゾ、オレの嫁」

「…………」


何故か私の事を嫁扱いしているゴブリンプリンスちゃん。

いや、嬉しいような嬉しくない様な、んー。


「私ゴブリンはちょっと…………ごめんなさい。無理です」

「ハッハッハー。無理とかジャ無いんだよ。もう決定事項ナンダよ。ターンと可愛がってヤル。俺の前で四ツンばい二なるンダヨ。尻にツメを立ててヤルゾ。毎日ナ、もう日課ダ」


「…………うええ。プリンスって名前なのに考えが酷い。あなたにはプリンスの資格が無いよ。ゴブリンさん」


それからも酷い言葉を永遠に言っている気がする。

半分以上良く解らない。

大人の夕顔ちゃんなら解るのかしら。


他の魔法を試してみようかな。


んー次は…………。


「根源より生まれた唯一の始まりセフィロトから重ね合う創造四原種の理よ、今此処に姿を形成し表現せよ。エアカッター」


詠唱からのエアカッター。

ゴブリンプリンスちゃんへと突き進む二枚刃の風。

風の刃は使い勝手が良くある程度、動かす事が出来る。


故に必中。

この魔法は防げまい。


「その魔法はサッキ見たし食らッタ…………」


ゴブリンプリンスちゃんは後ろにいるゴブリンを自分の前に押し出しエアカッターにぶつけた。


対象に絡んだエアカッターは敵ゴブリンを八つ裂きにする。

その動きは数分間続き絶命した。


その間にも私は他のゴブリンに魔法をお見舞いしている。

ゴブリンプリンスちゃんはエアカッターの動きをじっと見ていた。


私は少し焦りを感じていた。


上級四種の内ファイアボールとエアカッターは単純攻撃では駄目だった。

マーメイドウルフの時みたく工夫が必要かも知れない。


でもあの時とは状況がかなり違う。

敵ゴブリンの数が多すぎる。

それを倒しつつ、村を守りつつ、ゴブリンプリンスちゃんを相手にする。



それって結構厳しいよ。

んー。


先ずはスケルトンちゃん達を一杯出してゴブリンに当てる。

村も守って貰う…………そんなに上手くいくかなぁ?


うーん。

私とゴブリンプリンスちゃんは相手の出方を伺っている。

しかし、相手がほんの少しずつ距離を詰めているのにも私は気がついている。


どうしたものか…………。

近接は絶対に駄目。

私の手が無い。


目の前でファイアボールを炸裂させたくない。

私が震源みたいな状態で何でもありにすると村も私も保たないと思う。



詰んでいる、いや、また奇襲をしてみるかぁ…………。


「……来ナイのか? 此方カラ迎えに行コウ。ジュルリ…………」

「……多重スケルトンちゃん、村を守って。リーダーお願い!」


詠唱三回目は十五体ぐらいだった。

数が減った。

もうそんなに唱えない方が良いのかも知れない。


私の勘がそう告げている。

あと、一回か多くても二回…………。


ユラリとした動きでゴブリンプリンスちゃんは距離を詰めてくる。

私の焦りは最大級。

もう良いや、やってみよう。


「根源より生まれた唯一の始まりセフィロトから重ね合う創造四原種の理よ、今此処に姿を形成し表現せよ。フリーズアロー」


瞬時に場の空気が凍りだす。

薄い氷の矢が四本。

色は無色透明。

目を凝らさないと見えないかも知れない。


小さい氷と氷がぶつかる音と共に発射。

敵プリンスちゃんはユラリとした動きを止めてじっと見ていた。


「多重スケルトンちゃん正面へ!」


私の正面へとスケルトンちゃんが前へならえの様に並び出す。

どんどん、どんどんと生成されてプリンスちゃんの方向へ勢いよく生成していく。


氷の矢は見えにくく、スケルトンちゃんは大きく目に入る程に見える。

気を散らせたのか、最速の氷の矢は三本がプリンスちゃんに刺さる。


「グッ…………」


しかし私もスケルトンちゃんもプリンスちゃんも止まらない。

私はここぞとばかりにファイアボールを詠唱。


「根源より生まれた唯一の始まりセフィロトから重ね合う創造四原種の理よ、今此処に姿を形成し表現せよ。ファイアボール」


徐々に大きくなりソレを目の前のスケルトンちゃん目掛けて放り込む。

前には一寸違わずに並んだスケルトンちゃん。


その装甲、骨だけどね。

その薄いあばらの付近を突き抜けていく。


スケルトンちゃんがプリンスちゃんの目の前まで生成されそこで生成は止まる。


プリンスちゃんはフリーズアローのダメージで動く事が出来ないみたい。


そこにスケルトンちゃんを破壊しながらファイアボールは突き進む。

そして爆裂に炸裂。


ファイアボールはプリンスちゃんの間近のスケルトンちゃんに炸裂した。

半分凍った世界が一変して炎に包まれた。


「やったか? あっ。いけない……」


と姉さんに禁じられていたお約束の言葉を発してしまうドジな私。

念を入れてトドメとばかりにもう一発ファイアボールを放り込む。


収まった所にもう一発のファイアボール…………は炸裂しない。

…………と、言う事は、プリンスちゃんはまだ生きている。


私はもう結構限界だ。

更に視界が開けてニャと嗤うゴブリンプリンスちゃんを見てしまい心が折れそうになる。


足も踏み外し膝を突く。

そんな満身創痍の時、隣に誰かの気配がした。


直ぐ隣、そんなに近づくまで気がつかなかった私、やっちゃった。

でも……でもそんな時こそ私は笑いたい。


やりきった私は諦めた笑顔で迎える様に振り向いた。


あ…………。

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