44惚れちゃうよ?
……何か、凄い音が聞こえた気がする。
と同時に私の顔に何かパラパラと、いや、パラパラパラパラ。
もう凄いのなんのーって。
「ぷわっ。うえー。ぷはっ、けほけほ」
ん、何も見えないよ? 此処は、どこ?
あれれ、私もしかして気絶してた? ええとね、直前何してたっけ?
んー。あ、思い出してしまった。
何か恐ろしく早いゴブリンの、どアップに私の精神は保てなかったんだ、多分。
あぁ、やっちゃったね私……って夕顔ちゃん何処。
「ゆ、夕顔ちゃんー。どこー」
「あ、朋ちゃん平気? 明かり明かり、ライト」
夕顔ちゃんが明かりの魔法を唱えたみたい。
直ぐに周囲が明るくなる。
でも砂ぼこりがまだ収まらないから、ぶわあーって感じ。
そこでしゃがみ込んでる私は手を繋いでいる事に気がついた。
二の腕までしか見えないが夕顔ちゃんだろう。
そんな時に思い出してしまった。
姉さんがしてくれた怖い話で、その先の腕の持ち主が付いてないって話があって、瞬間思い出し不安に追い打ちて泣きそうな私。
もうすぐ砂ぼこり落ち着きそう、そんな時腕を引っ張られた。
グイっと。
目の前には夕顔ちゃん。
ああ、良かった。無事だね。
どちらからとかでも無く抱きしめ合って二人して泣いた。
「と、朋ちゃんも怖かったんだね」
「え? あ、うん。私、何か気絶しちゃったみたいで、夕顔ちゃん、ありがとう」
「…………え? あ、うん。私もだよ、ありがとう、朋ちゃん。もう覚悟した所だったんだよ」
「……覚悟?」
「うん。『ゴブリンに捕まった者達』って子供が読んではいけない本があってね。でも、読んだことあるんだ。内緒で……」
「…………うん」
「とっても言い辛いんだけどね。こしょこしょ…………それで、こしょこしょこしょ。んで、こんな感じなの」
「……わ…………っきゃー。きゃーきゃーきゃー。えー。…………えー」
「…………だからね。私達にはまだ早いんだけどそんな事になってしまうんだって、ゴブリンに捕まると。あ、でもこの先はもっと凄くて怖くなっていくんだけどね」
「…………夕顔ちゃんはおとなだ……」
「え、そんなじゃないよぅ。朋ちゃんの方が格好良かったよ。私、もう駄目かと思ってたもの、あの状況で……」
「んん? そうなんだ……」
「あ、朋ちゃん。もう行こう。ゴブリンが追ってくるかもしれないし。あんな大群どうにも出来ないよ、直ぐに逃げよう」
「え、あ、うん。解った」
『ふー。何とかなったな。二人の薄い本みたいな展開は見てみたいけど駄目。可哀想じゃ………ね』
『二人の会話も微妙に逸れたみたい。でも後でばれるだろうなぁ。朋ちゃん記憶無いだろうし…………多分。しかもグラ子さん絡むと危ないか? 結構な感じだしなグラ子さん』
『……でもまぁ別に良いか。だからどうという事でも無いしな、今更。とりあえず朋ちゃんの安全は最優先。夕顔ちゃんもか。何かあったら精神病んじゃうかもしれんし……』
『もう少し安全マージンが欲しいけど現状無理かね。もう一つのあのコード使えれば良いんだがなぁ。理由は分からんが今の俺には使えない』
『防御力が課題かな。気絶はフォロー出来るし、魔法は魔法抵抗力がある。物理を防げないんだよねー。あと回復か、むー。何か良い手は無いかな……』
薄暗い洞窟に夕顔ちゃんのライトのみで私たちは進む帰り道。
結構酸欠になりそうなぐらい息苦しい感じがする。
そこまで進んでないのに少し息が上がっている気がする。
風の魔法で最悪射出しようかしら、私たち自身を…………。
んー。多分、結構怪我しちゃうよね。
最悪ね、最悪。
心構えは大事なの。
あ、そっか、夕顔ちゃんもそうだったのかな。
私が気絶してた時に何があったんだろう……大丈夫だと思うけど怖くて聞けないや。
結構な数のゴブリンがいたみたいだけど。
やっぱ私ゴブリンが駄目みたい。
もう自分から挑むのは止めておこう今回のクエスト限りでね。
何か、対抗策が見つかるまで……。
「あ…………あの辺から明かりが漏れてるよ」
「ほんとだ。結構歩いてきたし、そろそろ出口かも知れないね、夕顔ちゃん」
「うん、とりあえずはパプリカ村に戻ってさっぱりしてから考えよっか、朋ちゃん」
「良いね。私も砂ぼこり結構被っているから誇りまみれっぽいし」
明かりが漏れている所に手をかざしてみるとそのまま外に出た。
ふー。お外は空気が新鮮だ。
あれ? ええと、何か仕掛けがしてあるみたいだね、飛んだ?
「なんだろうね、コレ」
「うーん。魔法の仕掛けか、何かかなぁ? 私も見たこと無いや……あ、朋ちゃん。腕擦り剥いてるよ。…………万物にあられるマナの流れよ。願いと共に彼の者の傷を癒やしたまえ。ヒーリング」
「傷が治っていくよ、ありがと。……この辺もういっそのこと此処も埋めておく?」
「あー。良い案かも、解決にはならないけどやっておく価値はあると思うよ、朋ちゃん」
「んー。うん、解った。やっちゃお!」
何処かで掘っていた気がするんだけど今度は埋めるのかぁ…………。
ん? 何のはなしだっけか?
「じゃあいくね。…………この世界にある万物の源より紡ぎしマナにより、その力を我に示せ。サンド」
基本四種のサンドの魔法を詠唱により発動。
入り口と思われる場所にこんもりと小さい山が出来た。
その山をどんどん大きくするイメージでサンドの魔法を複数回唱える。
何回か唱えると崖っぽい所に小さい山が出来てくっついた感じの崖のフォルムが出来上がる。
詠唱時のイメージにより恐らく通常より堅く仕上がった筈だ。
うん、我ながら良いお仕事をした。
――これが私の芸術作品第一号になろうとは…………いやならないって。
ホントだってば。
「これで……良いかな?」
「うん。後は、ゴブリン達に意志があるか、だろうね。あのゴブリンプリンスしつこそうだったからなぁ……」
夕顔ちゃんは凄く嫌そうな顔をしながらプリンスさん? に関して話している。
名前は良いと思うけどなぁ、私。
「そうなんだ……」
「あれは相当だよ、執念深そうな感じー」
「早く帰ろう。もう当分ゴブリンは要らない」
「あはは……そうだね。私も遠慮するよ。あんな絶望感を感じたくないし」
もうすぐ日が暮れる。
そんな時間にパプリカ村へ辿り着き、ほっと一息。
すれ違う村人さんに挨拶をしながら借りている家へと戻った。
早速順番で二人ともお風呂に入りさっぱりとした。あーさっぱり。
「さてと、ご飯食べながらで村の人にどう話すのか打ち合わせしよっか。朋ちゃん……」
「え? あ、うん。でも私は良く解らないから夕顔ちゃんから話してくれれば助かるかなぁ……」
「えーと、んん? 良く解らない?」
「うん。気絶してからの事、解らないんだよね、私は……」
「は? え? あれ? ちょっとまって? ええと、ちょっと私も良く解らなくなってきた、ええと……こういう時はんー。とりあえずご飯が先かな、うん」
二人でご飯を食べつつ初めからの時系列で出来事を話し合ってみた。
ええと、何その展開っていうか、私はだあれ? あれれれれ?
「ええと、夕顔ちゃん。良く解らないや……。んとね、私は気絶して、目覚めたのはあの砂ぼこりの時なの、だから、その間の私は私じゃ無いよ、多分……」
「んー。そっか、何となく納得出来るかも。何か凄かったし、あ、いや、何って言えば良いのかなぁ。ああ、一番はゴブリン相手に一歩も怯まなかったね、あの時の朋ちゃんは……」
「…………怯まない、うーん。そっか、多分だけど私の中に誰かいるんだよね……きっと」
「誰かがいる?」
「うん。ゴブリンの大群がサラダエクレアの街に来た時もそんな感じの事があったから……」
「ゴブリンキングの逆襲の時?」
「あ、うん。そう、その時は私が、ええと……なんて話せば良いかな……」
「ゆっくりで良いよ」
「…………うん。簡単にいうとね。私が魔法を詠唱した訳でも無いのに私から魔法が発射される。みたいな感じ、誰かが私を媒介として魔法を行使していたの、ゴブリンに対して」
「そ……それは何かあるね、間違いなく」
「うん。姉さんの使い魔かとも思ったんだけどちょっと違うみたいで、何か、意志を感じるんだ」
「んー。ちなみにね、捕まっていた私を助けてくれたのもその朋ちゃんだし、私が手も足も出なかったゴブリンプリンスをいとも簡単にあしらっていたの。それからの脱出劇。あの大量のゴブリンに囲まれながらの落ち着いた動きと仕草。胆力。話していて今、思ったけど異常かも、凄いを通り越していたよ。惚れちゃうよ? 朋ちゃん」
「ふーん。そんな感じなんだ。凄いね。とても良いね、その強さ…………私も是非欲しい」
その後、村の村長さんに何処まで話すかを二人で考えて、人払いをしてもらい、村長さんにだけ伝える事にした。
此処から大体一時間少し歩いて行ける所にそんなにも大量のゴブリンがいる街があるって真実が公になるとこの村の存続が出来なくなる可能性が高い。
サラダエクレアのギルドの指示を仰ぐのが良いと思う。
明日の朝に村長さんに話して、夕顔ちゃんがギルドへ報告に行き私は此処へ残る事に決めた。
本当は一刻も争う事態になる可能性もあるから今日の内にやっておくのが一番良いのだが、そんなに急いでも、もう今更という感覚の方が強く、開き直ろうと腹も括って二人ともすぐ寝る事にした。
今日は何だか凄く疲れたよ。
もうだめ、おやすみ。ぐぅぐぅー。




