4おつかい、それは簀巻き
てくてくと歩き家の敷地を出た所から数メートルぐらい。
何も無い空間に私は手を伸ばす。
見えないけどそこには魔法仕掛けのギミックがある。
もう何度も使った事があるのだけど、どういう理論でこうなっているのかは此処の家の七不思議的なもの。
半年前になんとなく聞いてみたら、此処は揺蕩っている空間で、結界番号を登録してあり、打ち込む事によってその場所の空間が、ゆらゆらが繋がり開くって姉さんは話していた。
けど何を言っているのか私には理解出来なかった。
言葉は理解出来てもなんだろう。
そういうものだって言われてもうーんって事もあるよね。
因みにこれは使用者の魔力を使わないから基本誰でも出来るよって教えてくれた。
但し、行くときは結界番号が必要。戻ってくるときは同じ場所からなら結構な期間。
んー、多分数十年は繋がっているから戻れるよと姉さんは話していた。
私はちょっと疑問に思って、それって誰でも此処へ来られるの? と聞いてみると、此処は招かざる者は余程の者以外は弾かれてしまうよって話をしてくれた。
何でも、勇者や魔王クラスなら頑張れば、もう少し劣る実力の持ち主なら執念があれば、実力が無ければ、運があればとか。つまり割には合わないって事らしい。
結界は七ヶ所で出来ていたが、数十年前に一ヶ所壊されたとか、んで今は六ヶ所の結界になったらしいそれを私は六本木さんと呼んでいる。
招かざるその者は執念で結界の一部を破壊し此処へ入り込んだけど、その当時の姉さんの師匠に追い出されたって、此処はつまりそういう場所みたい。
姉さんの師匠もこの家の何処かにいるらしいんだけど、私は会った事が無い。
一年近く此処に住んでいて会えない人がいるってもうわかんないから考えるのをやめた。
そう。此処は魔法仕掛けの魔女の家。
魔法仕掛けのギミックの前まで来た。
えーっと、確か番号は二三四三だったかな?
「ん~にーさんよんさんっと」
番号を打ち込むと目の前の空間から風が吹いた。
私は一歩前へ出てその空間に入る。
そこは特に何も無い場所なんだけど、偶に何か見える。
この前見たのはお城みたいなのが結構近くを通り過ぎていった。
ちょっと怖かったけど、姉さんに話すとその物を認識出来るって事はまだまだ距離が開いているから大丈夫。
まぁそれで無くてもそんな時は閉じられた空間は開かないから安心してって言ってた。
空間に入り一、二分ぐらい進むともう出口みたい。
これもなんだかよく分からない。
同じ場所へ行くのであっても空間の進む距離は毎回変わる。
でも大体、掛かっても数分みたい、今のところだけど。
数分間進むと目の前が突然眩しくなり私は咄嗟に目をつむった。
うん到着した様だ。
暗い所からいきなり明るい所へ出てくると結構眩しい。
あ、今日は天気が良く少し暖かい風も感じる。
「ほんとに良い天気」
周囲を確認するとうん。
間違いない、此処だった。
この前来た場所を私は覚えているよ。
目的の街ダイラックも見える。
私の感覚から行くと結構この街は大きい。
この国、自由都市エスタリアスの中でも王都につぐつぐ……まぁ三つめとか四つめの大きさの街らしい。
私も此処に来るのは二回目だから、迷子にならないかちょっとだけ心配。
この前来た時に主要の道だけは歩いたから多分大丈夫だとは思うけど。
私は今一人。
ちょっとした冒険みたいだけど怖い、という感覚は私の中では理屈では無い。
怖い物は怖いのだ。
そう、一人が。
そろそろ街の門がある所、入り口に到着する。
入り口は二つあって、何か馬車などで荷物を街に出し入れする場合の通用門と、その隣には特に目立って大きい荷物など持ち運びの無い人が通る門と二ヶ所ある。
帰りにはバッグの中身は一杯になるけど、それぐらいは大丈夫らしい。
余りに挙動が怪しいと門番の人に止められてドナドナされるから平常心でねって姉さんは言っていた。
ん? ドナドナって何だろって思って聞いてみたらドナドナはドナドナだよ。
連れて行かれちゃうんだ。
概念だね、うん。
って話してたかな。
世の中は私の知らないことばかり、また一つ賢くなれたかな?
それでこの前来たとき姉さんは顔が広いらしく門番の人も畏まっていたね。
門の前まで来ると並んでいる人は五人。
私は六人目みたい。
前に並んでいる人たちはどうやら二人と三人で来ているみたい、私だけ一人。
うぅ、不安だよぉ。
あ、お腹が…………。
「だからxxxx」
「そんなのxxxxxxxx」
「何故そんなxxxxxxxx」
「また明日来てくれ」
私が不安がっている所。
なにやら前の三人組が門番の人と揉めているのか言い合いになっているのが聞こえる。
これはいきなりと思い私は少しだけ離れる。
けど、結構大きな声で話しているため私の位置でも話が結構な感じで聞こえてしまう。
話を聞いてしまった所、なんでも三人組はこのダイラックのギルドからの依頼を受け漆黒灰色オオカミの討伐及び部位の回収を達成し戻ってきたのだが、依頼を受けたのが半年前。
私がお姉ちゃんから聞いた話では一つの街を出て半年以上他の街に寄った形跡が無い普通の登録証だと審査を受けなければいけない。
門番さんは先ほどギルドに確かめたが、そもそもの依頼が出た形跡が無いとギルド側からの回答があり、悩んだ門番さんは門番長が今日お休みだから明日また話し合おうととりあえず、一日だけ待ってくれみたいな感じの門前払い。
三人組は急いでるとの事で言い合いになっている。
これは埒があかない。
待てども待てども話し合いという名の言い合いは終わらない。
今の私に出来るのは、なんだろう? なんとなく様子を眺めていたらギルドから話を聞いた商人を名乗る人が来た。
もしかしたら解決してくれる救世主の方でしょうか?
「話はギルドから聞いたよ。私はダイラックの商人だから、とりあえずさ、私が買い取るよ……んで、依頼主が見つかったらそこと話を付ける。三ヶ月以内にギルドが見つけられなかったら私が処分する。これでどうかな?」
「でも、依頼された金額が二〇万Cだぞ? 払えるのか?」
「うーん。ちょっと全ての物を見せてよ。そこで決めるから」
「わかった。お前を信じよう」
「じゃあ中で確認させてもらうから、門番さん、待合室借りるよ」
「あぁ、使ってくれ。すまんな、助かった」
商人の人が来て話がついたみたい、良かった。
でも凄いなぁ……漆黒灰色オオカミって災害レベルBぐらい有った筈…………。
そんなの逃げるよ。
というか、恐らく逃げることも出来ないレベル。
――――あぁ、これがドナドナかな? うーん。
……この一年で結構知識を覚えたけどなんだろ、雲の上のお話に感じることが多すぎてどう受け止めれば良いのかわかんない私。
「さぁ、お待たせ。えっと、お嬢ちゃん、あれ? 一人かな」
「はい。買い物に来ました。前回来たのは二ヶ月程前です。よろしくお願いします」
私は持ってきた登録証(仮)を門番さんに見せる。
「ええと、お嬢ちゃんは朋という名前か。お使いか何かかな? どこから来たの?」
「えと、お使いです。お姉ちゃん、あ、メルヴィッセさんの」
「メルヴィッセさん…………悠久の魔道士か。ちょっと待っててね」
門番さんは門の奥に戻っていったけど、すぐに戻ってきた。
結構姉さんは有名な人みたい。
「はい。良いよ。街の中は外よりは安全な方だけど人間っていう怖い生き物がいるから気をつけてね。異種族もいるけどね」
「はい。ありがとうございまず」
「登録証(仮)は何処かのギルドの登録が終われば正式の物になるから、気が向いたら登録してくれ」
「はい――――大丈夫です。後で冒険者ギルドに登録します」
「そうか。では街を楽しんで行ってくれ。今日も良い出会いが共にあらん事を――――」
「――――示す先で理の大地豊かたらん」
私は門番さんの祝福の言葉を返した後、街の中へ入った。
門をくぐると目の前にはメインの道が東北西へと走っている。
周囲を見てみるとまだ時間が早いのか人の通りもまばらで人々の話す声も少ないが、馬車の動きは結構多く荷を乗せたり人を乗せたり、これから一日が始まっていく様が見えた。
近くにある街の案内板に足が向き眺める。
「えっと、現在地が、ここでんーんっと……………………」
時間にして大体五分ぐらい、今日行くであろうお店付近の道や目印など当たりを付けておいた。
ダイラックの街並みは他の街とは違いがあるらしく、前回お姉ちゃんと来たときに、ここで問題ですと、問題を出された。
答えが分からなかったんだけど、今、案内板を見て、なんとなく解ったかも。
でも、これって他の街を知らない私にとって微妙にほほー。
とか、ふーんってならないんじゃ?
…………今度答えを話してみようかな。
ちょっと早く来すぎたみたい。
後一時間ぐらいしないと何処のお店も開店しないかなぁ。
メインの通りを歩きながら開いているお店を見ると朝食が食べられるお店とかしかまだ開いていない様子。
少し時間を潰そうかなと思いメインの通りから外れた道に感覚だけで歩く。
この辺は結構住宅街なのかなぁ、更に歩いていると突然街の雰囲気が変わった様な気がして折り返すか、別の方向に行こうと思った矢先にか細く「たすけてー」
という声が、聞こえたと気がした。
私は怖いけど、好奇心に負けた。
数歩先にある路地裏をソーッと覗くと、大人が二人、余り見えないけど、そばに私ぐらいの背丈の子がいる。
その子は大人二人に取り押さえられようとしているのか、口に布の様な物をくるっと頭の後ろまで巻かれている最中だ。その子は「んー」「んー」と声を出してはいるが余りにも声が小さすぎて結構近くに居る私にも聞こえない。
ど、どうしよう。
どうしよう。
好奇心には負けたけど、私には荷が重い。
怖い。
怖い。
こんな時、どうすれば、助けて…………誰か。
私はどうしたら良いか解らず、その子が今度は手を縄みたいな物でぐるぐるされているのを私は見ている……どうしよう。
うううう…………あ。
大きな声を出せば誰か来てくれるよね。
私は思うと大きく息を吸うと叫んだ!
「誰か来てー!」
私の中では、もの凄く大きい声を出したつもりだったのだけど、思いの外、私の声は小さかった。
聞こえたのは大人二人組。
とそばでぐるぐるに、今にも簀巻きにされそうな子。
三人が私の方を向く。
とすかさず大人二人組が私の方へ走ってきた。
その光景を私は認識すると過去の怖かった出来事が一瞬にして頭をよぎった。
「あ、ああ…………」
私は動けない、足が竦み、気分も悪い。
二人組はもう目の前。
あ、やだ。誰か、姉さん、おとうさん……。
「見たな…………お前も来い」
腕を乱暴に掴まれて思い切り引っ張る怖い顔をした大人。
更にもう一人にも掴まれた。
あ、怖くてもう声も出ない、助けて!
「あ、しまった。おい。あいつの方を捕まえろ!」
二人に掴まれたのは一瞬だった。
もう一人は再び走りだしたが、途中で足を止めた。
「無理だ、もう追いつかない。人に見つかる」
「くっそ、ふざけんな、此処で逃したら俺ら死ぬぞ! どうするんだよ! サイギズの兄貴」
「あー。もー。ちょっとまて、今考える。あーもう…………あ、こいつで良いじゃんか、しらっと渡してとぼけて逃げよう」
「…………えーそんなんで行けるか? 確かに背丈は同じぐらいで、ツラも…………ほう。整ってるな」
「決まりだ! 巻くか!」
「そうだな! こいつに責任を取ってもらおう。で俺らは逃げる。ういんういんだな!」
「…………あほ。使い方間違ってるぞ、しかも誰も得してねー」
「ということで悪かったな、ちっと付き合ってもらうぞ!」
私はサイギスという悪者ともう一人の大人に簀巻きにされるみたいだ。
「んーー」「んーーーー」
やだ、やめて、逃げないと、どうしよう。
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