23魔女の住処の見習いさん
そこを例えるならば、何て言えば良いのだろうか? 地獄が一番近いだろうか? その範囲十キロから二十キロ周辺は焼け野原と化していた。
激しい戦闘の後とかでも無い。
唯々高威力の魔法が敵を殲滅させるだけにか、その場所に放り込まれただけ。
普通はこうはならない。
マナの量的に無理がある。
数人の十を超える者達、大魔法を使える者がいてその辺の羽虫一匹に対し大きい魔法を無作為に放っていけばこうなる。
という有様。
つまりやりすぎ。
そんな中、状況を確認しに来た偵察部隊の一人、ベックは燃え湿気った土を踏みながらそんな感想を思った。そしてその震源地と思われる中心に女の子が一人倒れている。
状況が理解出来ないベックはとりあえず女の子を助けた。
状態は恐らく気絶だろうと判断したベックは女の子を背負いその場を離れ本陣にいるエスタリアス国の参謀に状況を説明し女の子は預けられた。
誰かの活躍もありゴブリンの群れは一日で壊滅した。
なお最終的な被害は新人が数人下手を打ち亡くなったとの報告が国の参謀まで上がった。
後日その震源地に対し国の有識者による実地検証が行われたが、何が起きていたのか、詳しくは解らなかった。
だが、その出来事が無ければ、今回は高ランクの攻撃能力持ちが殆どいなかった事も考慮すると、恐らく街は壊滅していた可能性が高いとの報告が上がった。
数の上では実質三千人対八千体ぐらいだったのではとの報告も添えられた。
◇◇◇◇
その部屋は質素な作りになっていて普通の庶民が使っている様な物しか存在しない。
部屋の大きさも一人が住むには丁度良い位の大きさ。
その部屋の主は何かの書類を読み悩んでいる所に扉を叩く音がした。
――――――――入れ。
部屋の主は部屋をノックした来訪者を部屋へ入れ読んでいた書類を机の上に投げて話し出した。
「……シグレナル参謀よ、報告書は読ませて貰った。その、人物の身元は解っていないのだな?」
「はい――――。ダイソアル将軍閣下」
「ふむ、状況から察するにその者が倒したと考えるのが妥当だな。参謀よ」
「そうですね。恐らく十歳ぐらいの子供なのですが見た目では無いと思われます」
「まぁ、意識が回復したら解ることもあろうて、鬼か蛇かという可能性も捨てきれない。話せる様になるまでは結界の中に居て貰おう」
「了解しました」
「だがあの状況下でゴブリンの大半を殲滅したというのは値千金の出来事だろうて。敵意が無ければ無論、粗相の無いようにな、あのサラダエクレア街の恩人、ひいてはエスタリアス国にとってもだ」
「かしこまりました。そんな人物が話が通じないなんて事だけは無ければ良いのですが…………」
「そうだな。今回はタイミングが悪く後手に回っていたからこれは本当に天の思し召しかとも思えたがな」
「はい――――悪い事というのはタイミングも計ってきますからね」
「しかし、仮にあの少女一人で行ったとしたらどれぐらいの使い手となるのだ?」
「状況から察するに恐らくは『十三』から『十四』程はあるのでは無いかという話ですが、威力だけを見ると計測不能。正直、規格外の力と見ています。恐らく何かのブーストが掛かっているとか、高位魔術展開の才能があるとかそんな状況です」
「ふむ。今までにソレの才能があった者はいない事になっているからな。もし現れたのならまぁ、あり得るか、そんな子供でも」
「はい。因みに現在魔法使いは無限の『十八』悠久の『十六』冥王と鮮血の『十五』夕凪の『十四』という序列ではあります」
「……目が覚めて特に害が無い様なら拘束する理由も見当たらない。必要ならその時は会って判断する。それまでは監視下に」
「はっ――――」
報告に来た人物シグレナル参謀が下がると部屋の主は空に言葉を投げる。
「悠久がああなってしまった現在。我が国に上位の魔法使いの数が足りていない。何かをすれば結果が出るという物でも無い以上、仕方が無いとは言え…………ここ数年、いや、十年程が我が国の正念場となるか」
『うーん。玩具も頭打ちか? 何かが足りなくなったな。何が足りないかも解らん。悟りか? しっかし、朋ちゃん目覚めないなー。でも俺も朋なんよな多分。まぁ、朋ちゃんで良いか。穂美香はきっと別の何かになっているだろうし』
『仮に、この子と俺が混ざるとどうなるかなぁ。きっと今も緩やかには混ざってるんだよな、恐らく』
『そうだなぁ。朋ちゃんはきっとあの姉ちゃんをどうにかしたいのかね。生きてるのか死んでるのかも解らんが』
『あの魔女の住処の閉じられた空間に弾かれた時、俺の意識も消えかかったからなぁ。あれを突破するには知識と力、両方とも足りないな』
『これからの展開に期待だな。おや、意識、戻りそうだね。どうなることやら…………』
「…………うーん。もう食べられないよぉーむにゃむにゃ、、ふぁっ?」
あれ?此処は――――
「…………あ、こ、こ、こ、こんにちは」
「……………………あえ? ん? わ、私。あ、あぁ。生きてる」
私は涎と共に目覚めた、と同時に生きている事を実感した。
ええと、あの酷いことが、あ、思い出した。
でも何かもう現実味が無い。
あれは……何だったのだろう?
と、目の前に女性がいた。
そう、挨拶されたね、私、うん。
「こんにちは、ええと、ん。すみません。此処は、何処ですか?」
「はい。此処は――――サラダエクレア街のとある屋敷の地下です」
「サラダエクレア? って何処だろう? うーん。ええと、ダイラックって知っていますか?」
「はい。ダイラックは此処から南に、大体三ヶ月って所ですかね。私の足だと、あ、馬車ですよ」
「ええっ? そ、そんなに? 何故そんな所へ…………」
ううーん、ちょっと何がどうしてどうなったのかしら…………。
えーと、えっとお。
「…………私はエスタリアス国の魔法使いギルドから派遣されている魔法使いのカローラと言います。よろしくお願いします」
「…………あ、私は、朋と言います。ええと、あ、ま…………」
そこで私は塞ぎ込んだ。
ああ、姉さん、思い出したよ姉さん。
なんでよ。
姉さんは、生きてるよね? どうすれば。
どうすればあそこへ、魔女の住処へ戻れるのだろう? あの瞬間。
私は砕けた。
感覚的にはそう、砕けた、姉さんのミサンガと共に。
でもえーとくっついた? んー違うなぁ。
作られた。
うーん、近いな、あれは何だったんだろう?
「だ、大丈夫ですか?」
「……………………あ、ごめんなさい。ちょっと思い出してて。私は魔女の住処の朋といいます。魔女見習いです」
「あぁ、良かった。この国の人でしたね。しかし、魔女の住処とは。そう。そうでしたか……」
「あ、荷物が、バッグ何処かに無くしちゃった。あ、おまもり…………あ、良かった、これと四角いのだけでもあれば良い」
「朋さん 状況はなんとなくですが少し繋がりました。貴方はダイラックにいたのですね」
「そう。そうです。そして、帰ろうとしたんだけど弾かれて、気がついたらゴブリンが。あぁ、カナメさんは……まぁ大丈夫か」
「なるほど。大体解りました。此処は安全な場所です。ゆっくりとしていてください。この部屋からはごめんなさい。色々と準備が終わるまで出られません。生活に必要なものは大体揃っているので、食べ物も各種取り揃えてあります。何か、必要な物などがあったら、私に言って下さい。私はとりあえず三時間に一回ほど日中は来ますので。そこで言ってください。少しの時、療養していて下さいね」
「あ、はい。そういえば登録書も無くしちゃった」
「あぁ、それなら、今度ギルドで再発行出来る筈ですよ。大丈夫」
「そ、そうですか、良かった」
「では、また三時間後に来ますね」
随分と遠くへ飛ばされたみたい。
何処かで地図を見ておきたいな。
そういえばカナメさんが彼女と探しに行くって言ってたなぁ…………。
リセルさんじゃ無いよね? ううーん、誰だろう。
しかもどうやって探すんだろう? はぁー。
これからどうしよう。
泊まるところもないし、お金も無い。
あ、再発行出来ればお金は当面大丈夫かな。
でも、姉さんがいない、私、一人でどうすれば良いの?
それから私はやっぱり落ち込んだ。
もっと上手く出来なかったのか。
あの時こうしていればとか、ぐるぐるぐるぐると同じ事を考えて過ごした。
「失礼します。カローラです。シグレナル様。今、大丈夫ですか?」
「ん、良いよ、カローラ、何か解ったのかい?」
「それなんですが、あの子。凄いですよ、魔女の住処の見習いさんでした」
「なっ。あーあ、そうか。そういうことか。それは、配慮が足りなかった。そういう事も十分に考えられたな、しかし、悠久がそんな事を考えない方がおかしい。これは…………そうだな。独り立ちさせたかったっていう辺りが妥当か? もしくは時間が無かったとか、なんらかのミスか。まぁ、それはどうでも良いか…………」
「あ、すまんね、色々考え事してたね。そうか、カローラ。本人の様子は?」
「えーはい。少し混乱が見られますが、大丈夫でしょう。何か、本人に聴く事はありますか?」
「そうだな。んー。いや、三日後に私が行くよ。数日のところは落ち着かせてやってくれ。カローラ」
「はい。解りました」
カローラが退出したと同時にシグレナルは再び考えた。
そんな隠し球があったなんてなぁ。
これは、下手に手を出さない方が無難だろうな。
なにせ悠久だからな。
魔女に手を出すとろくな事にならない。
これは教科書にも載っているぐらいの例えだ。
彼女たちは放っておけばそれなりの仕事をしてくれる。
あとは困った時にも役に立つ。
護衛も、要らないだろうか。
冒険者ギルドのマスターには話をしておくのが良さそうだな。
とりあえずはそんな所だろう、後は閣下次第だな。
シグレナルは上手く扱えば厄介事までにはならずに済みそうだと内心ホッとした。
ご拝読頂きありがとうございました!




