22とっておきの、おまじない。
……………………私の目の前には見たことの無い景色が広がっている。
あれ? 魔女の住処は?
私は知らない場所に唯一人。座り込んでいる。そこは、丘の上。風が気持ちい。
柔らかな日差し。ほのぼのとした風景。此処は楽園か何かだろうか。
こんなにゆったりした場所見るの私、初めて…………。
――――――――ふと、そんな中、鼻を突く様な嫌な臭いがした、一瞬だった。
影が差した。
見上げると、魔物。ゴブリンの大群が不秩序に動き。数十匹が私の方を見ている。
そして、嗤った。
「来るぞー」
「防衛体制。構えろー」
「『ゴブリンキングの逆襲』始めるぞ! 皆、気合いを入れろ! 負けたら帰る家が無くなるぞ! 戦力差が何だ! 全てをたたき倒せ!」
人々の叫ぶ声が遠くで聞こえる。でも私は動けない。あ、ゴブリンと目が合った。
こちらに来る。逃げなきゃ。動いて、私の足。咄嗟に腕を見る。
あれ、ミサンガが無い。
――――――――。こ、殺される、私。
「…………でも、もう良いや。…………姉さんもいないし。もうどうしたら良いか解らないよ。もう、良いんだ」
私は全てに於いて諦めた。私の心は弱かった。
あの村での惨劇から、私は何も学ばなかったのだ。
弱い私でごめんなさい。もう、駄目みたい。
「――――あきらめないで!」
「……だれ?」
「私よ、カナ。いや、九官蝶カナメ。あなたの姉さんの使い魔よ! 立ちなさい。朋」
「なん――――――で。私、無理だよ」
目の前の鳥の翼を持つ人は私を庇う動きでゴブリンを倒している。
「良いから、とりあえず戦いなさい。あなたなら出来る。姉さんに何を教わったのよ!」
「でも…………」
「姉さんからの伝言よ。朋、『あなたは私の希望。諦めないで、頑張って! 私に夢を見せてね』その後に丸を作っていたわよ」
あ。
…………姉さんは、何て言ってたっけ? 私に。魔女の住処に来た私に。
朋ちゃん。つらいときは、泣いて、泣いて、たくさん泣いて。その後で少しでも、元気に笑ってね。
そう。そんな事を言ってた。
そんな言葉をくれた。そういえば、何時も私を励まして、丸を作って、そして受け止めてくれた。
この丸はね…………怪我無く、元気で此処へ帰ってきてねって、とっておきのおまじないなの。
「早く! 早く! 立ちなさい。朋」
だから、大丈夫。私が守っているんだもん。私の思いを込めているの。
だから。朋ちゃんは大丈夫。
何があっても、あなたなら大丈夫。世界が、運命があなたに味方する。
そりゃあたまには変なのが突っかかってくるかもしれないけど。
でも大丈夫。あなたの、あなたの笑顔があれば。
そう。それは全てを吹き飛ばすわ。それぐらい、あなたには力があるの。
お願い。信じて。私の大好きな――――朋ちゃん!
そんな、声が、姉さんの、声が、聞こえた気がした――――――――
「ははっ…………」
私も本能で嗤った。
目の前に、カナメが、そして大量のゴブリンがいる。私のお腹は腹ぺこだ。もう、負けてなんてやるもんか。姉さんの思い。
これを踏みにじろうだなんて。巫山戯んな!
私はホントに強いんだよ? 姉さんの特訓を受けたのだから、私は。誰にも負けないんだからね!
「準備完了! 覚悟は決めた。うん。もう逃げない。逃げてやらない。私は姉さんの――――――意志を継ぐ」
一息吸い込み敵ゴブリン群に狙いを付けて、私はマナを練る。
私の使える魔法は下級魔術の基礎のみ。基本四種『ファイア、ウインド、アイス、サンド』
その魔術をイメージする。このイメージとマナのリンク度により更に強さが上がる。
ファイア。私はカナメの隣に立ち、みゃー子先生人形に当てるように魔術を放つ。ファイア。
私の魔術は直線的に放出される。近い敵との距離は七メートル前後。炎で周囲のゴブリンも燃えている。
私の火の魔術でほぼ致命傷クラスのダメージを受けるゴブリン数体。
焦げる臭いが私の鼻に付く。別のゴブリンに向かいウインド。風の初期の魔術。
イメージにより私の放つ風はゴブリンの身体を切り裂く。
風の魔法は先に放ったファイアを煽り更に周辺のゴブリンを燃やしていく。
風の魔法は火の魔術よりも少し範囲が広く、狙った地点の周囲のゴブリンも火の魔術ほどでは無いが切り裂かれてダメージを受けている様に見える。
私の攻撃はまだ止まらない。
見える範囲の敵に同じく別の魔術、アイスの氷やサンドの土魔術を放り込む。
下級魔術とはいえ魔女。魔女のスープによる底上げされている魔術はとても強い。
私とカナメの範囲に敵は寄って来られない。
これが自分を魔女と自覚し始めた私の初戦闘となった。
『ふーん。今がチャンスだな。俺も試すか…………』
『えーと、メインコンソールでこの最大アイコンをポチッと』
『行け。ファイアボール』
――――――――空気が、震えた。
その何処からともなく具現されし魔法は途轍もない程に大きすぎた。そんな物が私の目の前で構築されている。これ、あっちに飛ぶよね? ね?
「なっ…………と、朋、何の魔術を使っているのです?」
「え、いや、私じゃないんだけど…………」
「いやいや、朋から放出されようとしているってその大きい炎の塊」
カナメの言葉が終わる間際にその炎はゴブリンの群れに放出された。
威力、大きさ。恐らく上級四種の一つ。
ファイアボールの何倍もの威力と大きさを持つそれは私の目の前の敵を全て焼き尽くした。
「――――おい。何か、あの辺燃えてね?」
「誰かが大きい魔法を放ったんだろう」
「いやいや、大きすぎるだろ、何だよあの魔法は、大魔法クラス以上の威力とか大きさじゃね?」
「そんな魔法使い今回いたか?」
「いや、大魔法を使える魔術師はいたが、あんな魔法使えるとは思えない。何が起きているんだ、あそこで…………」
『へェーなるほどね。そんな感じか。良い所に打ち込めれば一発で数百体ぐらいは巻き込めているな』
『次はコレかな。タップして……っと』
『エアーカッター』
形成されていく高密度の風が私の前に発現した。その風は意志を持ち見えないはずの空間に無数の風の刃を作っている。
それは形取った瞬間に放出され、先ほどの炎の向こう。敵ゴブリンの群れの方へと放たれる。
「今度は何だよ、風か? 竜巻でも起きたのか?」
「結構あそこから距離は離れているのに凄まじい風を感じるぞ」
「誰があそこで戦っているんだ?」
「あんなん使えるのは二つ名のある魔道士とかだろ、魔法剣士とかかもしれないな」
「どっちにせよ今回生き残れる確率が上がったのは万歳だろ。今回は敵が多すぎる。『ゴブリンキングの逆襲』八千体は伊達じゃ無い。この数、俺らを殺しに来てるだろ」
「っぷはー。一体、全体何なのよーコレ。私じゃ無いわよ、でも私から放出されたでしょ。どういう事? 一体」
「朋、残念ながら私の身体は維持するのがそろそろ限界です。この身体は羽根の分身で形成した疑似体なので、それに私の意志を乗っけた身体なのです」
「え? どういうこと?」
「私の本体とは別の人形みたいなもんです。今の私は本体とのリンクも切れている。でももう大丈夫ね。強く、強く生きてね。此処が何処だか解らないけれど、彼女と探しに行くから、後は一人で、頑張って、ね」
「そ、そんなぁ…………」
頑張ってねと言い放った彼女、カナメは消えた。何故かカラスの羽根を残して。
んん? しかも彼女って誰?
『ふむふむ。威力調整とかはどうだろう。幾つか試すかね…………』
『この辺一帯でどれぐらいのゴブいるかね。一万いないぐらいか? あの辺から――――この辺まで叩いておくか、人もいなさそうだし』
『つぎは、んーと水か氷か、両方か…………イメージ的にはやっぱコレか』
『フリーズアロー』
今度はその場の空気も凍る程の冷気を持つ水と氷が透明の矢を作るとゴブリンめがけて飛んでいく。
カナメは消えてしまった。
この場には大量のゴブリンの死体と私から発せられているであろう攻撃魔法の数々。
勿論、私自身も敵が見えると同時に魔術を放ってはいるのだが、解らない理由で私から発動されている魔法のようなものは威力が強すぎた。
圧倒的な力による攻撃は永遠に続いた。現実味の無い魔法の攻撃により周囲は焼け野原。そうなのだ。此処が震源地。
どれぐらいのゴブリンを倒したんだろう。臭いが酷い。死屍累々。一方的な殺戮だろうか。
誰かと目が合う。私は無意識に嗤っているんだ。
そして、その光景を見ながら、自分のしている事の意味を考え。
それから、意識が遠のいた。
逃げないと…………決めたのに。
『うぇっ! あちゃー。やり過ぎたか? 俺のマナの量とは別物の筈なんだが、当てられたって所か? 今、気を失っているな。敵ゴブリンはもう近くにはいないが、気を失っているのも事実だ』
『どうするか…………今回やり過ぎたな。水を差した気分だ。俺も初めての魔法に嬉しくて楽しくてなぁ。ずっと此処で訓練してたし。寝てないし、必要ないけど』
『まー。少し自重しながらか、お、様子を見に来ている人間がいるな』
『多分見つけてくれるはず、うん。大丈夫そうだな。ちょっともう少し考えないとな、色々と、あれはルカニーっぽいし、確か、運命を共にする者だったか?』
『俺のこの状態はそう簡単にはどうにもならない気もする。まだ先だな。よし、じっくりと行こうか』
ご拝読頂きありがとうございました!
やっと繋がりました。次以降の展開も楽しんでいただけたら嬉しいです。
新たなる仲間と共にクエストや戦い。様々な出来事が続く予定です。
中身も結構な感じで混ざってきているので、序盤とは性格がかなり変化してきています。
もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、
差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。
★高評価ありがとうございました。これで○○○○ポイントも増えます。???(※25話予定)
これからもどうぞよろしくお願いします。




