21さよなら
「朋ちゃんおはよう。ね、ね、今ならエスタリッセさんまだいるよ。呼んでこようか?」
「あ、うん。お願い。シーラさん」
私はまだ今日の出来事を消化、仕切れていない。何をどうすれば良いのだろう。
姉さん…………。
「朋。良く来たわね。私からは、何を言えば良いのか難しいから、メルヴィッセが私に宛てた手紙の中に貴方宛の手紙も入っているわ。これを読めば。今回の経緯など全て分かると思うわ」
私は手紙を受け取りすぐに読んだ。
――――――――――――。
「朋ちゃん!?」
手紙を読んだ時、私は勝手に走り出していた。
「急げ、急げ」
まだ、まだ間に合うかもしれない。間に合って! 姉さん。私は、姉さんとなら、姉さんと一緒なら、どんな事になったって構わないのに。
何で! 何でなの。もう理屈じゃない。感情が溢れて何時の間にか泣いていた。
泣きじゃくりながらもがむしゃらに走る。何か、方法もあったかも知れないのに。
そう、私なんかがいても、何も変わらなかったかもしれない。寧ろ足手纏いなのかもしれない。でも私に選択肢は無いの? 出来ないの?
姉さん。もう二度と、一人は嫌なのに。折角、せっかく。私の居場所も見つかったと思ったのに。私は姉さんがこんなにも大好きなのに。
これ以上もう私から何も奪わないで。何とかしてよ、誰か。
……姉さん。姉さんの…………バカ。
帰りの南門に辿り着くが私は止まらない。「と、止まれー」とか叫んでいる。衛兵の人が私を止めようと動くが私は止まる気も無い。
誰かが叫んでいる。「冒険者ギルド緊急伝令――――――合い言葉はトラトラトラ。――――――その者の行く手を塞ぐな! 通せ!」
私の勢いは止まらない。今の私の全てを賭けて走っている。もう誰にも止められない。門番と衛兵の人達は動かなかった。ごめんなさい。
少し私はホッとした。私はその勢いのまま走る。門をくぐり抜けてもなお止まらない。もう少し、もう少しだ。間に合え。間に合え。
急げ急げ急げ急げ。
お願いだから、間に合って――――「ねぇ。ちょっと君っ!」――――――――。
『うわっ』
『なんだよ、いきなり少し扉が開いたぞ、びっくりさせるなよ。扉に寄りかかる事も出来やしない』
『んー。まだ無理か、もう少し開いてくれよどうせなら、何だよ! 思わせやがって!』
『今、忙しくなってきたのにぃ。って今、もしかして…………』
朋ちゃんへ。この手紙を読んでいる時。恐らく私はこの世界にいないかもしれないわ。ごめんね。
恐らくだけど、あの朋ちゃんがダイラックへ出発してから二日後に。此処へ私の敵が来る事が少し前から解っていたの。
……でも今回の敵は何時もと違い三倍は強いらしいの。
その者は碧と朱の勇者。
歴史に名を刻む者。
そして、魔女の敵。
初めは勘違いからだったんだけど、この勇者との戦いは絶対に避けられない。
過去の私の師匠達は遠くに飛ばして追い返すのが精一杯だった。
今回もそうなら良かったんだけど、残念ながら、今回の勇者は三倍の力を練って準備を整えてやって来る事も解っていたの。
――――だから、うん。こうしたの。
うーん。良くて相打ちかな。
倒せないのは解っているから、上手くいけば……………………。
何時か、朋ちゃんが凄い魔法使いになったらさ、迎えに来てよ。首を長くして待っているから。でも、もし他にやりたい事があったら、私の事は忘れても良いのよ。時が何時か解決はするから。
……今までありがとう。私の家族になってくれて。
私にとって朋ちゃんは、家族であり、娘であり、妹であり。
掛け替えのない存在だったわ。
貴方の幸せが、私のしあわせ。
幸多き人生を。たくさんたくさん歩んでね。誰よりも、誰よりも幸せになってね。
………………最後にごめんね、お使いも邪魔したのは私。
使い魔の九官蝶かなめに頼んだり、ダイラックの権力者に協力を仰いだわ。
どうか、どうか、健やかに。あなたのお姉さん。メルヴィッセより。
涙が止まらない私はその場所に着いた。やっと辿り着いた。
上がる息も整えずにその場所へ手をかざした。形振り構ってはいられない。
『バチッ』
閉じられた空間は私を拒絶する。な、なんで。姉さん。もう一度。
『バチッ、バチッ』
入れない。私は此処に入るんだ。魔女の住処へ帰るんだ。
お願いだから開いて。瞬間、私に何かが取り付いたけど気にしていられない。
『バチッバチッバチッバチッバチッバチッ』
絶対に通る。私を拒否しないで! お願い。お願いだから入らせて。
私を拒絶しないで! 姉さん!
『バチッバチッバチッバチッバチッバチッ。パチッ、パリン』
ミサンガは千切れ。閉じられた空間が開く。招かざる者を中へと導いた。
その瞬間――――――――――――――――
空間が歪む。此処は何処。そこには平行も無く。景色も無い。何も無い。薄黒い。薄暗い空間。誰もいない、何も無い。私もいない。何も無い。
溶けて、飛ばして、作られて、形成されるよ引っ張れ引っ張れ。
一から二。二から三へ。最後に放出。さよなら。
「ばいばい。朋ちゃん」
ねえさ――――――――。
「あ、れ? こ、こ、わ、ど、こ?」
……………………私の目の前には見たことの無い景色が広がっている。
あれ? 魔女の住処は?
私は知らない場所に唯一人。座り込んでいる。そこは、丘の上。風が気持ちい。
柔らかな日差し。ほのぼのとした風景。此処は楽園か何かだろうか。
こんなにゆったりした場所見るの私、初めて…………。
――――――――ふと、そんな中、鼻を突く様な嫌な臭いがした、一瞬だった。
影が差した。見上げると、魔物。ゴブリンの大群が不秩序に動き。数十匹が私の方を見ている。
そして、嗤った。
次話で遂に一、二話に繋がります。
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