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2運が悪い男(後編)

南門から約一キロ先付近の小高い丘辺りで戦闘は開始されるだろうと予想され、チームアルファ、ブラボー、チャーリー、デルタからジュリエットまでの十チームが正面を受け持つ、ゴブリンのクエストは基本何故か南から開始される為、初めの戦略から戦術に至っては殆どどのクエストも同じ。


違うのは規模だけ。

挟撃を狙うため他の門からも他のチームが出発した。


そしてその運命の日、予想された小高い丘辺りで初めの戦闘が開始される筈だった。


俺は正面方向を受け持つ部隊でゴブリンの大群を迎え打つチームジュリエット七、正面から敵ゴブリンの姿を肉眼で捕らえた。


もうすぐ始まる、もう直ぐだ。戦いという名の殺し合いが。

弓や魔法の攻撃が届く所まであと僅かといった所でその出来事が始まった。


まだまだ敵ゴブリン共までは結構な距離があったのだが、爆発音や敵ゴブリンの騒がしい声が突然聞こえ出す。


俺がいる部隊の他の人々も何事かとざわついている。

俺も音がする方向を見てみたのだが遠くて良く解らなかった。


そんな時、チームジュリエット七のリーダー、ヤマダが俺に話しかけてきた。


「なぁジロー。あの爆発音がしている付近で何が起きているか知りたいんだが、斥候いけそうか?」


「んー。行けるには行けそうだけど、どうなんだろうな?」


「ん、というと?」


「あぁ、あの爆発音は恐らく魔法によるものだと思う。そして挟撃部隊が来るのには早すぎるし、考えられるのは英雄や一線級の魔法使いが飛び込んだ位なんだよな」


「ふむ…………なるほど。仮にその状態を確認する価値がお前はあると思うか? ジロー」


「価値はあるだろうな。現場でどのぐらいの魔法使いがどのぐらいの威力の魔法をぶっ放しているのかを確認出来れば、運が良ければタイミングで一番槍に近い武勲を得られるかも知れない。ローリスクで」


「そうか、しかし妙だな、今回の戦。国の中でも名のある実力者は参戦出来ないって話は聞いているんだよなぁ……」


「あぁ、その話は俺も聞いている。しかし、聞こえるだろ? あの音。あんな魔法を放っているのは相当な猛者だぞ? しかし少しだけおかしいんだよな」


「ん? 何か気になる所があるのか?」


「……そうだな。魔法で敵を攻撃している音とかでも、何の魔法を使っているのかは、この距離でも俺なら解ると思うんだが……魔法が特定出来ないんだよ」


「この距離の音で解るなんて…………相変わらず変態だな」


「褒めるなよ…………でも少し俺自身も気になりはするし……良いぜ、様子を見てこよう」


「そうか、助かる。何かゴブリン共との距離が縮まなくなったし、必ず何か起きているだろう…………そして褒めてはいないぞ」


「まぁ何でも良い。しかし最近不幸の連続でな、悪い知らせを持ってきても恨むなよ?」


「お前が戻って来ないのが一番最悪な結果だろ、無茶はしなくても良いからな」


「おう。どんなに遅くても一時間以内には戻るよ。戦線が開かれて動けなかったら一旦逃げるけどな」


「あぁ、そこは任せる……頼んだ」


「おうよ」


俺自身、あの爆発音とかはとても気になっていた。

系からするとファイアボールやサンドサイクロンといった上級四種っぽいのだが規模が大きすぎる。


別の魔法なのか、使用者の熟練度やマナの総量とかがかなり高位に値するのか。

もしかしたら見れば何か解るかも知れない。

単に俺の中の知的好奇心だった。


まぁ俺は小手先の魔法しか使えないんだけどな。


――――よし、行きますか。


同じチームのモブ壱に荷物を預けて斥候に適した装備、服装に変更し、一息付いて意識を切り替える。


チームから少し離れた所で風を意識する。

ただ吹いている風を。

その場の何処にでもある物、風や空気。その物にはなれないが、限りなく同一化することを心がける。


自然に。


その場所にあるだけ、揺蕩う様に流れるように。

行きたい方向へ流れている気流に合流しそちらへと一緒に進む。

早さも風任せに。


もし、俺の動きを観察する者がいたらこう思うだろう。

あそこで誰かふらついている…………。


ある意味酔っ払いの動きにも近いかも知れない。

そして徐々に風に馴染んできた。


「そろそろだ……」


タイミングを見計らい周囲の風と共に方向性を指し示す。

周囲の風を乗っ取り行きたい方向へ舵を取る。


すると風の道が見えた。


風に乗る。

実際乗っている訳では無いが、そう例えるのが一番近い表現で自身の身体と周囲の空気を一緒にその方向へ押し出すように進ませる。


余り力は要らない。

唯、押し出されるだけ。

この魔法、というか、技の便利な所は結構早い事と遠くから見ても距離感が掴みにくい所にある。


あそこに人がいるけれどもどの位、距離が離れているのか見た者に距離を錯覚させる。

遠くから空の雲を見ている様に。


残念なのは解除した時に全面に押し出される様に突っ伏してしまう事だろうか。

酷いときは解除と共に吹き飛ばされる。

斥候自体には使いにくい技なのだが結構俺は好んで使っている。


まぁ、スタイルって奴だな。


音がする方向へ大分近づくと周囲の状況が少しずつ解ってくる。

俺は魔法を解除してダイナミックに転がりつつ着地した。


「うわ、これは凄いな…………」


服に付いた土や埃を少し払いながら周囲を見ると相当な数のゴブリンが倒されている様に見えた。恐らくだがこちらの方向へ進んでいる所に脇にいた魔法使いと衝突したんだろうか。


倒されているゴブリン達を見るにやはり上級四種の魔法と見るのが一番しっくりする様に思われた。俺の近くにはゴブリンの屍しか無くこの攻撃をしている魔法使いは…………あそこか。

まだゴブリン相手に魔法を放っている。


俺は魔法を肉眼で捕らえた。



「あれは……ファイアボールだな」



しかし、術者と思われる魔法使いから発せられるその火球。


大きさがヤバい。

ヤバいだろあれは。

もの凄く大きい。

あれは…………俺の語彙力とか後頭部ぐらいヤバい。


基本威力などは魔法力に依存する筈なのだが、あれは根本的におかしい。


しかもあの魔法を制御しているのか……。

見ているとゴブリンの多くいる地点へその魔法は放たれて爆発している。

燃えるではない、完全に爆発だな、あれは……。


そして規模、範囲が凄いな。

恐らく百体以上を一撃で倒しているよな、あれ。

他の上級四種の魔法も時折放たれているが一番多いのはファイアボールの様だが。


……確かに、あれだけの数のゴブリンを殲滅させようとしたら一番効率が良いのだろうがゾッとする。


あの魔法力は。


緑色の集団。

ゴブリン達はその魔法使いに吸い寄せられるかの様にそちらへと進む。

そして倒されていく。その繰り返し。

魔法使いは恐らくそんなに動いていない。

もう少し近づけば術者の顔が見えるかも知れない。


「……どうするか」


と考える意味が無いな。

もう少し近づいて遠見の補助魔法を使えば行けるか?


もう俺の周りも屍の山。

そんな中を少しずつ進む。

歩きにくいとかいうレベルでは無い。


そんな最中も魔法使いはゴブリンに対し魔法を放っている。

しかしどんだけ魔力あるんだよ。


見ているともうポーン、ポーンって感覚に近い。


そんな簡単に魔法を放っている状況すら意味が解らないのだが……。


あの中心地にはもしかしたら殺戮マシーンでもいるのか? 魔王とか勇者とか賢者レベルの存在もあり得る。


せめて顔だけ見て撤収したいな。

一体どんな奴がこんな事をしているのか。


それが怖い物見たさなのだとしても。


しかも此処までのゴブリン達を駆逐していればもうサラダエクレアの街は大丈夫だろうし。


「あの中心に、どんな鬼がいることやら……」


よし、此処からなら行けるか? 俺は遠見の補助魔法を使い魔法使いがいるであろう方向を見た。


「………………うそだろ?」


見るからに女の子だ。

多分……十代の。

でも、何処かで――――。


あ、魔法、ファイアボールが構築され…………おい。

大きい。

んで…………飛んだ。


「えぇ………………」


俺は見てはいけない物を見ているのか? 普通にその辺に居るような、可愛らしい女の子に見えるのだが表情が少し笑っていて……もしかして、楽しんでいるのか? …………ギャップに恐怖を感じる。


ええと、整理すると楽しそうに大量のゴブリン達を規格外な上級魔法で倒しているかわいい女の子


……なにそれ怖い。


「もしかしてこれが世界の理…………」


あ、ヤバい。女の子、こっちを見た……。


気づかれた。


「か、風の精霊よ――――――――」


その女の子が怖かった。

俺の視覚が狂わされているのだろうか。

彼女の笑顔に危険を察知した俺は緊急脱出用の風の補助魔法で後方に飛ばされた。


もう数分眺めていたら魅入られていたかも知れない。

ゾクゾクするほどの、あの狂気の笑顔に…………。


リスクが高すぎる為、滅多に使わない緊急時の魔法を瞬時に使いその場から離れる様に高く高く、斜めに斜めに射出。俺は後方へと飛ばされる。


勿論、着地の事は考えてない。


「打ち身じゃ済まないだろうな…………まぁ、運が悪くなきゃ生きてはいるだろ」


あの可愛い女の子の顔を見る価値があったのか無かったのか、今の俺には解らなかったが、俺に斥候の相談を持ちかけたタローはやはりやり手だった。


俺の事を良く知っている。

何故アイツが俺の事を追いかけてきたのかは怖くてまだ聞いていない。


悔しいがアイツにならハナコを任せられるだろう。

そんな事を考えながら最近不幸にモテモテな俺は激しく地面にキスをした。




……あぁ――――――――最高に良い女だ。




これは、サラダエクレアという街の近くで起こった戦闘のお話。


この日――――――――僅か一日でゴブリンの逆襲というイベント自体が実質的に終了した。


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