18深淵から覗く者と誰も気づかない色一回ずつ(無理げー)
「………………」
「へぇーほぇーほよよー」
目の前のリセルさんは私の顔を下からのぞき込むように興味津々のご様子に私は少しでも見られまいと謎の攻防をしている。
「ちょっとかあちゃんー。今日私、おわりでー」
「何言ってんだい。アンタ今日来たばっかりでしょ」
「推しが目の前にいるんだよ。リアルに。これはのほほんと働いている場合では無い。しかもよく見るとかなり可愛い。愛でないと、愛でないと。今日のこの日をしっかりと目に焼き付けて。一週間かぁ、うーん、ハイド…………ストーカーしても良いよね? よね? うん。大丈夫。推しには手を出さない。これは鉄則。鉄の掟。遠くから見守るだけb」
「――――すこし付くのは良いけど終わりは駄目だし犯罪禁止よ。リセル」
何か私を挟んでなのか、何かやり取りがされているけど私には意味がいまいち良く解らない。少し顔を上げてみるとニコーっとしたリセルさんと目が合う。
「今日はゆっくりしていってねー」「あ、かーちゃん。今日のおすすめひとつよろー」
リセルさんの動きは何か機敏に見える。キレが凄い。きっとこの人全方向見えている気がする。
「へぇーそっかー。良いねー朋ちゃんは何年ぐらいメンバーなの?」
「…………は、え? メンバー?」
「あ、んとどれぐらいの年月、魔女の住処にいるの?」
「あぁ。それ昨日聞いた。四年と二十九日だったかなぁ。一日足すと確か」
「ふんふん。て言う事は、朋ちゃんは今年齢はお幾つ?」
「私は…………十四歳です」
「おっし。四年で一歳だから今現実では朋ちゃんは十一歳になります。あ、混乱させちゃうかな」
「はぁ、え? どういうことですか?」
「魔女の住処では時が流れる時間が違うのよ。だから、朋ちゃんは四年そこで暮らしたら一年しか現実では経過していないの」
「えーそうなんですか?」
「そうらしいわよ。あ、でも、現実のこちらとの行き来を毎日の様に行っていたらその間はそんな事は起きないらしいけどね」
「ふーむ。やっぱ私より魔女の住処に詳しい人ばっかりだ…………私ももっと勉強しないと」
「あー。ごめんごめん。歴史みたいな物だからさ。詳しい人は凄く詳しいのよ。だから大丈夫だよ」
その流れで私、年齢十一歳なのですか。と聞いたら、実質的には十四歳だから得したと考えていれば良いのよ。と答えてくれた。
「はい。お待たせー。メラッピ鳥とカナギル豚の香草風ビーフシチュー出来たよー。はい、リセルよろしく」
「きたきた。いっぱい食べてね」「かーちゃんサービスで特製デザートもよろしくー」
「あ、ありがとうございます。いただきます」
目の前に凄く美味しそうな料理が来た。良いにおい。おいしそう。スプーンで掬って一口。うーんおいしい。へぇー。こんなお料理もあるんだー。
「…………おいしそう」
「え、あっ。…………少し、食べます?」
「えっ。あ、いや、違うの。いや食べたいのは違くてんーと。兎に角違うから、大丈夫だよ、気にしないで食べて食べて、私はちょっと独り言も言うけど気にしないで」
「…………わかりました」
その後も私は美味しく美味しくご飯を食べた。目の前のリセルさんは私を見ながら永遠に何か話している。えーと、いえすろりーたのーたっちだったかな?
呪文だなうん。嫌、呪いか? とか言ってた気がする。
「……そうだなー。お店に来たときだけは良いよね! うん。方針固まった。人生って捨てたもんじゃ無かった。けど私は人としての何かを捨てている。解っているけど人は性には抗えないのだよ、諸君。えー。やばー。写真、欲しい。念写魔法prz…………」
じっと見られながらご飯を食べるのも大変だけど美味しさが勝った。うん。お腹いっぱい。いつの間にか来たデザートも美味しかったよー。
「ごちそうさまでした」
「いえいえいえいえ。こちらこそご馳走様でお粗末様でした」
では、お腹も一杯になったので、そろそろ戻りますねとリセルさんへ話すと、うん。今日は来てくれてありがとう。朋ちゃん。これは絶対的な運命だよ。
また、明日も来てね。と手を握られた。別に嫌では無かったんだけど思いが重い。「握手会、握手会」と謎の言葉と共に中々離してくれなかった。
宿へ戻ると受付にはファーナさんがいて、どうだったー? と聞かれた。私は素直に料理はとっても美味しかったです。と伝える。リセルはいた? との問いに。
「えーあー、はい。あれがオタなのですね」と話すと。そうあれがそうなのよ。ごめんね。売ったわけでは無いのよと良く解らない謝り方をしていた。
うーん。お料理美味しかったなぁ。部屋へ戻り、まだまだお腹が一杯な状態の余韻を楽しみながら夜の時を少し過ごした。
『まだ見ぬ強敵手がおるもんよのう。へっへっへ』
『かなりレベルが高い。おなごじゃ。人間力侮れし。ぐへへぐへへ。しっかしワシのスペース段々狭まってるよの。やっぱり。そればかりは仕方が無いのぅ』
『でもこうやって見れるだけでも良いものよ。後は朋ちゃんのエロい展開だけ所望。でもでも今日も中々のお姉さんいたねえ。良き良きぐへへ』
『よぉ。煩悩さん、やっと会えたね』
『お前は……何で此処にいるのよ? 本体』
『仕方ないんだよ、鍵開かねーし。まぁ、良いや。まず知っていること全て教えろ!』
『えー。情緒も何も無いなぁ。俺ちゃんは。その鍵開けば殆どの事は解るって。ワシから締め上げるのは道理が違うよ』
『じゃあ質問を変える。他の煩悩さんは何処へいった?』
『それはワシも知らない。というか探してる…………訳でも無いかへっへっへ』
『お前は、色欲か?』
『ちゃうねん。あいつはもっとエグいねん。ワシは愚痴だよ』
『統括はいないのか?』
『欲望は恐らく朋ちゃんと混じっちゃったね。なんて裏山けしからん。まぁ、近すぎたんだろうね』
『そうか。俺も混じれば良いのか。うーん』
『あぁ、そういえばそこに余りの二個あるからどっちか選べば? 一つしか選べないと思うけど……』
『うーん何々…………へぇー。そうか、俺としてはこっちだな。これは良い暇つぶしを貰った………って、もう一つは誰のだよ! おい!』
『さぁ? まだ具現されてないんじゃないの? ワシは知らんよ』
『マジか。一体何人いるんだよってもう一人なのか? …………おい。定期的に会議を開くぞ』
『えー。やだー。ワシは好きなことだけしかしたくないんお。そんな事より朋ちゃんウォッチしてよーぜ。本体よ。その方が良いと思うんだがのーワシ』
『…………一理はあるか。解った。どんだけエロ可愛いか見ててやんよ』
『お主もエロよのう…………へっへっへ』
『そりゃーお前、俺だからな。へっへっへ。此処は間違いなく深淵だな。まったく(隙を見て取り込んでやる)』
「…………むぅ」
朝だ。おはよう私。何か最近もの凄くうなされている気がする。夢見が悪い。頭の中で誰かと誰かがお話ししているし、誰かに見られてる。ヘンだなぁ。でも昨日のお料理は美味しかった。まぁ、良しとしよう
ってそうか、此処は宿だった。うん。そうだ。前向き前向き。今日も頑張ろう。むむむん。
宿屋の一階へ降りて行くとパセリちゃんにあった。
「あ、お姉さんおはよう! 昨日はよく眠れた?」
「ああー。うん。そうだね。パセリちゃんは朝早いね」
「うん。朝は元気。もう何時もおなか空いたーって起きるもん。あ、朝ご飯そこにあるよ、良かったら食べてね」
見ると軽食らしきパンとかサラダ、目玉焼きなどが並んでいる。朝はこれ食べて良いのかな。確か朝ご飯も付いてるって言ってたし。
他にも数人、冒険者と思われる人達が各自取りそろえて朝ご飯を食べている。
「じゃあ、頂こうかな」
「うんうん。食べていってね。朝ご飯は元気の源だよ」
と言ってパセリちゃんは奥の厨房の方へ行ってしまった。朝ご飯の所作が気になったので他の人を見ているとそこへファーナさんがやってきて朝はフリーなので、簡単な物しか無いけど自由に食べてね。と話してくれた。ふーん。なるほどー。私はまた一つかしこくなった。
「いただきます」
誰に言うでも無く私はいただきますを言い朝ご飯を食べる。勿論歌は歌わないよ。バイキング形式って言うみたいで好きに食べられる分だけお皿に乗せて食べて良いみたい。でも常識内でねという事も教わった。
お皿にはパンと目玉焼き。ウインナー二本とスープを取り揃えた私は美味しく召し上がる。あ、スープも優しい味してる。美味しい。
「ふぅー」
私は一仕事終えた様な有様で、お腹も少しだけ出ている。少しだけだよ。すぐに引っ込むよ。
少しだけお部屋で休み身体を整えて収納して持ってきたポーチを持ってお出かけ。ミサンガとお守りと四角いのは片時も離さない大事な物。
何時もならミサンガだけでも良いんだけど今は魔女の住処では無い。これらは離さないでおかないと。無くしても大変だ。ミサンガは何時もの様に腕に。お守りと四角いのは首からぶら下げる。これでおっけ。
さて、行ってきます。
受付でお仕事しているファーナさんに行ってきますーと声を掛け私は外に出て通りを目指した。いつ売りに出されるか解らないって姉さん言っていたからなぁ、どうやって探すのが良いのだろう。
うー。こんな時にリーアさんがいれば直ぐに解るのになぁ、そしたら直ぐに帰れる。あれ、いまふと思った。何故か帰りたくなってきた。まぁ、気のせいだろうけど。あれれ、何か有ったかなぁ? うーん。何だろ? この気持ち。
あ、これあれだ、聞いていたえっと、ホームシックかなぁ?
えー。こんな感じなのかぁ。ふむー。まぁ一週間なんて直ぐだよ。あっという間。折角ダイラックに来たんだから楽しまないと。
私は赤鯉通りというお店が並ぶ通り、通称『クロシマメノウ通り』入り口に辿り着く。此処から通りが幾つかあってお店も並んでるんだよねー。順番にぐるぐると見て回ってみようかな。
通りを全て回ると優に三時間を超えるらしいからなぁ。これがリーアさんでと考えると私では何時間掛かるんだろう? まぁ、できる限りで、リミットの時間も決めて、うーんと。鐘が鳴るまでか、お腹が空いたらにしよう。そしたらまた今日も『豊穣なる宴枷』に行こうかな。
はー。やっぱり此処は凄いなー。人が多い。多すぎるよ。毎日こんなに賑わっているのかなぁ。時間帯で更に人増えている気がするし。
人だらけの時間には人とぶつからないように、とか他の人の足を踏まないように歩くのが精一杯になっちゃう。後は足を踏まれない様に歩くのも大変。
何かこう、呼吸を合わせる感じ。溶け込む、かなぁ。
色々と見て回ってるんだけどやっぱ中々見つかりそうも無いかなぁ。骨と爪。えっと、メモメモ。
あぁ、水母の骨っていう骨とハーストイーグルの爪だね。あると良いなぁ。
それらしき物は見つからない。骨か爪が置いてあるお店には一応売り物の名前を聞いてみてこういうのありますか? って聞いて回っているんだけど何処も答えはほぼ同じ「うちには無いよ。他をあたってね」との事。でも仕方ない。次は隣のパプリカ橙大通り。いってみよー。
『赤鯉通り』同様に置いていてもって雰囲気のお店には聞いているんだけど見つからない。んー。まだ何処にも入荷されていないのかなぁ。
姉さんは何時入荷されるか解らないって言ってたし、直ぐに売れちゃうかもって感じだったからなぁ。
その隣の『パプリカ橙大通り』そして『青眼通り』と『白藍通り』、『黄桜通り』のお店でも他のお店同様の答えしか返ってこない。
これはまだ何処にも無いのかなぁ、もう結構良い時間。通りは後二つほどあるんだけれど、今日はこの辺で終わりかなぁ。
見て回って思ったけどやっぱり毎日見ていたらしいリーアさんは流石だったね。今日は此処までかなぁ。残念ながら収穫はなし。
また明日探してみよう。あ、鐘が鳴ってる。あー、今日は七時間近く見て回ってたみたい。此処は歩くのも大変だった。
リーアさんと歩いていた時はそこまで感じなかったんだけどなぁ…………。うん、一旦戻ろう。
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