120時代のしもべ
使い魔のメテムルが穂美香に近づいている。
動きは以外に素早く跳ねる様な動きに見える。
右斜め、左斜めと繰り返し飛び、数回飛ぶとおっさんの方を振り返り「ケヒャッ グヘヘ……」
と言葉を発し再び跳ねる。
動きを察してか穂美香は俺から距離を取り敵からの攻撃に備えている様だ。
俺は正面。おっさんの方を見ると瞬時に目が合う。
「さて、こちらはどうします?」
俺は昔貰った竹刀を手にしてはいるが、この竹刀がどれだけ相手に通用するのか疑問がある。
まぁ、何も無いよりはマシかと手に取ったが、見た目おっさんでもこの状況化、勝てる気はしない。
俺が出来るのは穂美香の荷物にならない。
そこをベースとして動くと決めていた。いなすか躱すか受ける。おっさんはどう来る?
「…………来いよ!」
挑発してみた。先ずは相手の攻撃を見極めよう。
「そうですか。……どうしようかな」
おっさんは少し考えるポーズを取りながら穂美香とメテムルの方を見ている。
俺も見ると穂美香は腰に差していた付属の短剣を手にしメテムルと戦っていた。
俺のイメージでは雑魚キャラなんだがメテムルはやはり素早く穂美香をあざ笑うかの様に爪で攻撃しては動く。を繰り返している。一方穂美香の短剣による攻撃はメテムルには全然当たらなく何度も何度も空を切る。その度に穂美香の身体が爪による攻撃によって傷ついている。
「……正直に話しますが、実は使いやすい攻撃手段が無いんですよ」
「いや、有るにはあるんだけど、使わなくて済むなら使いたくないのでね。でもここが正念場なんだよなぁ……」
おっさんは話の語尾をボソボソ言いつつ横目で穂美香とメテムルの戦いをニヤニヤしながら見ている。
…………どう見るか? ブラフか? 誘ってるのか? でも何もしない、と言うのも……。
穂美香とメテムルの戦いはどうやら長く掛かりそうな雰囲気を醸し出していた。
メテムルの攻撃力はかなり小さい様で、穂美香の肌は傷付けるのだが、穂美香自身の守りと治癒の力か何かのお陰で修復が間に合っている様に見える。
そして穂美香の攻撃はメテムルに当たらない。
当然有ってはならないグヘヘな展開も有り得なく。
言わば千日手の様に見える。
「うーん…………駄目か」
おっさんはつぶやき、こちらを見ると「トレース」ぼそぼそと何か唱えると手には俺が手にしている竹刀と同じ様な物が現れる。
その手にした竹刀を振り心地を試すかの様に斜めに数回振っている。
「くそ。俺はこんな物握った事無いんだよ、はぁ。使えないスキルだ」
おっさんはそんな事を言いながら俺に近づき間合いに入ると竹刀を斜め上から右袈裟斬りの様なモーションで振るってきた。
そんな動きに合わせ半歩横に動いてから左に躱しつつおっさんの無防備な竹刀を持つ手を狙って竹刀を振った。
「ぎっ!」
俺の持つ竹刀は上手くおっさんの手に当たりおっさんは何かうめき声の様な擬音を口にし俺から距離を取る。
「痛って、痛ってえ。なんだよそれ、話が違うぞこのスキル。糞っ、あの野郎」
何かぶつくさ言いながら竹刀を捨てる様に投げ手を摩っている。
「あー痛かった。残念ですがそんなに時間も無いので最後の手段です。本当に本当に時間が無いのですよ」
言葉からは焦りが見えるが、表情や動きなどからはそんな様子は見えない。
奴はどう来る? 恐らくそんなには嘘は付いていないと見たが果たして。
「……バーサーク」
おっさんの雰囲気が変わる。雰囲気だけじゃ無く腕や足、身体全体がひと回りもふた回りも大きくなった様に見え着ている洋服も所々はち切れだしている。
「捕まえたら終わりだよ」
どす黒くも紫色っぽいオーラを纏いつつ、まるでアメフトの選手か何かがこれから突っ込んでいくよとばかりなポーズから勢いよくこちらに向かってくる。
「フッ……フッ……」
前傾姿勢で両手を前に出した妙な姿勢で向かってくるおっさん。
早さはそんなでもない、と思ったが突然、加速するおっさんに俺は辛うじて躱す。
「あっ、ぶねー」
おっさんは勢い止まらず俺の位置から今度は大分離れた場所から突っ込んでくるポーズを再び取る。
「フッ……フッ……もう一度」
突っ込んで来た。
初速はどちらかというと遅いのに、勢いが付いてからなのか、あのスピードでしかも物量のタックルを食らったら、と考えたが勢いが付いたと同時に横に移動してみた。
すると、やはり移動する前の地点目掛けて突っ込んでいった。
そりゃそうだ、おっさん、前を見て走ってない。
「フッ……フッ……二度も躱すとは」
「脳筋かよ!」
「フッ……フッ……ふぅー。少し身体が慣れてきた。馴染む。待たせたね、ここからが本番だ!」
本番だと言いつつも同じ行動を繰り返すおっさん。
俺は闘牛士か何かになった気分でおっさんの全身のタックルを躱す。
俺はどのみち何も出来ない。
手にした竹刀であの身体を突いても恐らくはね飛ばされるだけだろう。
でも、こんな単調な攻撃を続ける理由が何処かに有ると見ていたのだが、それを見抜けない。
穂美香は俺が気になるのか使い魔と戦いながらこちらを気にしてくれている。
「フッ……フッ……クソッ。かすりもしない。……逃げてないでかかってこいよ! 俺の気持ちを受け止めろよ!」
美少女に言われるならまだしも、なんでおっさんの気持ちを身体で受け止めなきゃいけないんだよ。
おっさんの動きに慣れたのか俺はちょくちょく穂美香の様子を目で追う。
「えいっ!」
かけ声と共にレイピアからの剣技を繰り出している穂美香。
穂美香と使い魔メテムルの戦いは千日手に見える事も有ったが、少しずつ穂美香のレイピアがメテムルの身体に傷を付けている様子が見えた。
このまま行けば穂美香が勝てるだろうなと俺は予測する。
『おにいちゃん。もう少し待っててね』
突然、頭の中に穂美香からの声が聞こえた。意思的疎通だ。
『あぁ、気を付けろ。穂美香』
俺も穂美香に返事を返す。
おっさんを見ると額に青筋が見える。
「糞っ。どいつもこいつも俺より先に行きやがって! 畜生。もう良い。俺は、俺は敢えて奥に行ってやる。深淵の景色って奴を見てやるよ」
言葉尻から察するとおっさんかなりキレている。
もうおこなんてレベルでは無いな。
「もう良いだろ! おい。アーノルドよ。力を貸せ!」
おっさんは大声を上げた。
すると奴の上部の何も無い空間が突如切り裂かれ中から細長い何かが出てくる……剣?
いや、棒のような……。
その禍々しい棒の上部分は旗の様な布が付いている。
その剣だか棒の真ん中付近を手にするとおっさんはゆっくりと自らの背中にその棒を刺した。
「ぐ、ぐ、ぐはっ! ぬおおおおおおおお」
な、何が起きているんだ?
精神注入よろしく背中にめり込む様に刺している。
「も、もう少し…………だ!」
そこで正面のおっさんの腹部分から切っ先が血と共に出た。
結構痛そうで流れ出る血の量も半端ない。
ドバドバと腹汁が出ている。
「お、おい? それ大丈夫か?」
「大 丈 夫、だっ、問題っない」
何処かで聞いたようなセリフを脂汗ダラダラ、血もドバドバのおっさんは辛うじて話す。
「よし。漲る滾る溢れ出る。終わりを始めようか」
スローモーションの様な動きから入り、自信に満ちている雰囲気のおっさんは動く。
俺へと一直線に。
そして加速。更に加速した。
今回も既の所で俺は躱し走っているおっさんの背中を見る。
やはり背中には何か旗の様な物が背中にめり込んでいる。
血の落ちる量も凄い。
ソレを見た瞬間身体がターンし加速の勢いで俺に迫る。
「…………っ」
「おしい。次で決めてやる」
何とか体を外す事に成功した俺だったが、おっさんの動きは明らかに変わった。
獲物を追尾する動き、背中から生えた棒で舵を取り自らの大きな体を修正し動いている。
突然に曲がるんだ。
物理法則的にあり得ない動きをしていた。
あれを躱し続けるのは無理だと判断した俺は次の一手を考える。
こんな時こそはっちゃけよってあれ?
駄目だ、煩悩さんが俺の変な性癖に反応している。
何か自分でも理解出来ない物事に考えのリソースを奪われている感覚がある。
何に反応したんだよ煩悩さん。
これは不味い。
頭の片隅で煩悩三賢者様が作業している。
「この展開は捗りますな」「エロ同人みたいに……」「お前が○○になるんだよ!」とか騒いでいる。
くっそ、俺の一部に足を引っ張られている。
ヤンチャにも程がある。
頭の中で勝手に処理を必死にしている最中だが目の前の脅威は取り除かれていない。
おっさんは足を地面に擦らせる様に後ろに払いながら、スタートを切るタイミングを計っている。
「やっぱりこのクソみたいな世界でも、楽しめる物は一杯あった。最後にはありがとうが筋だろうか………………行くぞ!」
おっさんは動き出した。
その動きを俺は感覚でしか捉えていない。
俺を形成してきた今までの積み重ね。
長年の経験。
これはこういう物だろうという己の中の摂理。
煩悩さんに奪われているリソース以外で対処すると覚悟を持つ。
動きが跳ねる。
跳躍しているかの様に線は点を辿る。
俺はおっさんの動きを見切れていない。
もう目の前にいる。
体が勝手に動いた。
手を大きく回し半歩左にずれる。
俺の得意だったドッチボールのボールを躱す動きが自然に体を動かした。
「ぐっ…………」
躱したつもりでいたが少し強めに肩に擦ってしまった。
痛みを感じた所で思考にノイズが走る。
『システムメッセージ 規定ポイントを全損しました九十秒後に移行シークエンスに移ります。エラーコードER65535N 【時代のしもべ】使用可能です。※不完全なため発動後。数秒動けなくなります』
「こ、これは………………」
『おにいちゃん、大丈夫?』
『お、おい。穂美香、後ろ!』
「あっ!」
穂美香を見るとメテムルに背を向けこちらを見ていた。
俺の目にはメテムルの鋭い爪が穂美香の首筋を狙う動きがスローで見え、俺の方もまたおっさんが突進してくる動きが見える。
「――――――――時代のしもべ 発動しろ!」




