119兄妹対博士
「おにいちゃん、来たよ」
深夜を廻ってから大分時間が過ぎた頃。
予測された来訪者はやってきた。
穂美香は気配を感知する力により、直ぐに俺の部屋に来た。
俺はカーテンの隙間から外を見ると、電信柱の付近に何かを感じた。
「居るな。間違いなく」
「大丈夫、レベルも上がったし。私が護るよ! 絶対に!」
どう出てくる? 前の二人は直線的だったが。
……だからこそこいつは影に回るタイプかも知れない。
あの場にいない時点で……。
「ケヒャッ」
……ん? 何か獣の様な声が聞こえた気がする。
「……カチャリ パタン」
あ、今、家の鍵開いたか? やけに小さい音だったが。
「ススススス……ソロリ、ソロリ」
これ、絶対に隠密してる気でいる。
音を立てないように動いているが、どうだろう。
大概こういうのってこちらから打って出た方が良いんだけど。
……あえて待つか。
「来るよ!」
「あぁ」
穂美香も準備は良い様だ。
さて、何が出てくるんだ? もう扉を挟んでるだけで目の前にいる。
そして…………。
「カチャリ……」
ゆっくりと扉が開きそこには。
「ケヒャッ」
「おにいちゃん……これ…………」
「こいつ、メテムルだ……」
目の前にはトミエクマに出てくるモンスターのメテムルがいた。
これって確か、あっちではレベル二桁もいかない程度の雑魚の筈だが。
「ケヒャッ」
「あっ」
「え? 逃げた……」
部屋の扉を開け、俺たちの顔を見るやいなや廊下に逃げた……。
しかし、別の来訪者が次に現れた。
「……………………」
そこには幾つぐらいだろう? おっさん一歩手前、ぐらいの眼鏡を掛けた人がスッと、現れ俺たちを見てこう言った。
「やっぱりばれてたか……ハァー」
「……お前は、あの二人の仲間だな?」
俺は目の前のおっさんに話しかけた。
おっさんの足下には隠れるようにメテムルがいる。
「あぁ、そうだよ。すまないが、こちらにも事情が有ってね。ポイントが欲しいんだ、というより資格がね」
「資格……?」
「そう。僕には異世界へ行く資格が無いんだ。でも君たち二人からポイントを奪えば撃破ボーナスが付いて余裕を持って足りるらしいんだ」
少し陰気そうなおっさんは手をグーパーと握ったり開いたり少し落ちつきがなさそうに話している。
「そんな簡単に撃破されてたまるか」
「ケヒャッ」
「…………そう言わずにさ、人助けだと思って倒されてくれよ」
「お前みたいな知らない人を助ける義理はない。しかも突然襲ってきたんだ。いわば敵だろ?」
「それはそうだが世の中には仕方の無い事は沢山あるんだよ。無理を通すから道理は引っ込んでくれても良いと思わないかい?」
とかなんとか言っている。
勝手過ぎるな。
「だからと言って何故俺たちがお前の経験値にならなければいけないんだ?」
「それがお得なんだって! 今、俺に倒されればなんと君たちにも特典が付くんだ!」
「は? 特典って何だよ?」
何だか良くわからない事を言っているおっさんの目が一瞬光り、徐々に饒舌になりだした。
「今回俺を手伝ってくれたお礼として、あちらに行った時に初期ボーナスとして最高級の装備をあげるよ。しかも+αの装備! でオマケに剣や盾もつけちゃおう」
「…………へー。それは凄いな……」
「だろう? もー仕方ない。君たちだけに今なら1000万Cも付けちゃおう!」
「い……1000万Cかよ! おい。おっさん! 本当なのか?」
あれ? もの凄くお得だぞ、この取引は…………もしかしてこのおっさん良い奴なのか?
俺にはおっさんが凄い善人で昔からの親友の様に思えてきた。
「あぁ。本当だ! 解ってくれたかい?」
「おう! お前良いおっさんだな! さっきまであんなに胡散臭かったのに」
こんな良い人、世の中にいるんだ。
何故俺はこんなに敵対していたんだろう? うーん。わからん。
「そうかい? こんなに気の良いおっさんに向かって非道い言い方だな。まぁいいよ。では今から俺の攻撃を受けてくれ!」
「よし、解っ――――」
「そんなの知らない! 帰ってよ!」
「……穂美香? どうしたんだ?」
「おにいちゃん。これ、騙されてるんだよ」
「へ? 何でそんな事…………」
「真実のトーチ」
穂美香は何かを口ずさみその後に叫ぶ。
何かの呪文を使った様だ……ってあれれ?
――何かがおかしい……俺。
今ヘンじゃなかったか?
「おにいちゃん、どう? 大丈夫?」
「…………穂美香、もう大丈夫。ありがとう」
どうにも胡散臭い技を使われた……らしい。
俺の頭の中では先ほどの会話を今の理性的な思考で考えてゾッとした。
「あらら、もう少しだったのになあ……残念。では正攻法で!」
おっさんが何か呟くと部屋の空気? が震えバチン! と大きめの音が鳴った。
「…………えー。結界済みなんだ、此処。解らなかったよ、よく見りゃ広いわこの部屋」
「そりゃー待ち構えているんだから、それぐらいは学習したよ」
俺は目の前のおっさんに話すが、結界を張ったのは勿論、穂美香だった。
穂美香の使った結界は部屋の中に空間を敷いた様な物で結界の外側に部屋がある。
という認識らしい。
結界の内側はある程度の広さをしていて六畳ぐらいある部屋が倍以上の空間に見える。
広くなったのは良いんだが机とベッドが異様に離れて見えるのが見慣れない所為か違和感しかない。
しかしその結界のお陰で内で幾ら戦おうが俺の部屋は壊れない。
更には結界を唱えた者の能力を少し底上げするとか。
便利だね、結界。
俺は穂美香を見ると穂美香もニコッと笑いこちらを見た。
穂美香の掛けた結界のお陰でおっさんのペースで進んでいた戦いがリセットされた様な空気に変化した。
「うーんと……情報からすると、女の子の方が厄介らしいなってか、おほほー。可愛いなぁ~」
穂美香の顔を見ておっさんはニヤニヤしている。
途轍もなくいやらしい顔だ。
煽っているのだろうが、俺の妹をそんな嫌らしい目で見るなよおっさん!
「よし! 使い魔先生! ここはぐへへな展開おなしゃっス!」
「ケヒャッ グヘヘ…………」
「な……。負けないよ!」
…………グヘヘな展開。
うっ、これはおなしゃっす! って、いかんいかん。
おっさんめ……中々だな。




