112窮地
今更っ――――――――落ち着け、落ち着け。
この状態で自己紹介されても…………。
久遠と名乗る細身の男。
こいつも制服っぽいブレザーを着ている。
駄目だ、二人とも知らない。
時間を。
少しでも時間を作りたい。
刺激はなるべくしない、そしてどう逃げるか……。
しかしこちらは被害者というスタンスは崩さない。よし…………。
「私は妹、こっちはお兄ちゃん。以上!。で! 何がどういう事なの?」
「うーん…………どう説明するのが良いのかな。恐らくまだ掲示されていない、言わばふ化していないんだろうね」
「掲示? ふ化?」
「そそ、まぁ単純に選ばれたって事らしいですよ? それで僕等は貴方達の持っている【選ばれた力】を奪いに来たって感じかな」
…………力を奪う。
なにそれ? 入れ替わりに関係しているんだろう事は確かだろうけど、力?
何をどう奪うんだ? 奪われた後、どうなるんだ?
瞬時に色々考えるが奪われて余り良い未来が待っている気はしない。
とりあえずもう少し情報を引き出せれば……。
「……選ばれたってなんで解るの?」
「それは……僕たちにはまだ仲間がいてその方が解るんですよ」
相手はまだ何人か居るのかよ? しかも狙われてのこの状況…………。
最悪な事態なのか?
「奪うって言ったよね? どう奪って…………奪われた者はどうなるの?」
目の前の久遠は少し考える素振りをみせてこう話した。
「それを試しているんです。 実際には緋夏がやった通りの事で力を奪えている様です――――っと、これ以上は止めておきましょうか、下手に話しを長引かせてもこちらに利は無い様ですし」
…………くそっ。
解った事は出遅れたという事だろう。
もう少し考えて行動すべきだったのかも知れない。
しかし今この状況。どうすれば…………。
「――――ごめんなさい。では行きますね」
目の前の久遠は何か手や腕で動作をし、俺に理解出来ない言葉を話す。
すると久遠の手から小さい石みたいな、大きさは野球のボールぐらいの物が突然現れた。
「ストーンキャノン」
言葉が聞こえた瞬間にそのボールの様な物が俺たちに向かって放たれた。
俺は今、妹の身体。
後ろに居る穂美香は俺の身体。
俺の身体はどうなっても良いが、穂美香にその痛みを受けさせるのは抵抗しか無い。
動けずにいる俺の後ろから穂美香が俺を庇うかの様に身体を入れ替え前に出る。
「おにいちゃん、ごめん」
「穂美――――」
「ぐあっ!」
俺は理解してはいたが動けなかった。
しかし、穂美香は動いた。
野球のボール大の大きさの石が俺の身体の穂美香の肩付近に勢いよく当たる。
前を見ると敵で在る二人の姿は目の前に浮かんだ大量の石で半分ほど見えなくなっていた。
その石が再び連続で勢いよく飛んできた。
「ほ――」
穂美香は俺の方に身体の向きを変え守る様に自身の身体を抱きしめる。
「穂美香――――――――」
抱きしめられている俺には身体の温かさと振動が伝わり、状況を肌で感じ俺の心にも痛みがズキズキと激しく伝わる。
「――――――――――――――――」
音が止んだ。
どれぐらい時間が経過したのか…………時間が止まっているかの様な感覚になる。
目の前の俺を抱きしめていた身体が崩れるように落ちていく――――
俺は、その身体を支えきれずに………………
一緒に倒れた。
「ほみか……」
朦朧とする意識の中、砂埃に邪魔されながらも俺は穂美香の状態を確認した。
……脈は、ある。
恐らく、痛みにより意識を失っているだけ…………と、思いたい。
「うーん。やりすぎたかな」
「そーねぇ。意外に豪快に鬼畜よね。久遠って」
声が聞こえる。
どうする?
このままで良いのか? 彼奴らまだ何かするのか? もう俺たちは逃げられる状態ではない。
「あ、博士に電話してどれぐらいになったか聞いてみてよ。緋夏」
「うい。ちょっちまってね…………あ、もしもし博士? 今どれぐらい? そっかー。……うい。了解」
「……どうだった?」
「まだまだでましまししましまぱんつだってさー」
「そうか。…………ふぅ。後は緋夏に任せるよ。少し疲れたし」
「まぁ良いよ? 任された。私は弟思いだからねー」
「でも、このまま男の子の方をやると死んじゃうね、多分」
「…………そうだね」
「まあ私は任されたから任せなさい。業でもなんでも背負って投げるよその時ぱんつも見えちゃうよん」
「…………」
もう選択肢は限りなく少ない。
…………というか無いな。
俺は朋の身体をゆっくりと動かし、震える足に力を入れて立ち上がった。
俺は穂美香に守られたお陰もあり少し頭に受けたのと右足のかすり傷ぐらいで済んでいた。
一呼吸だけ整え腹を括る。
そして目の前の二人の相手を睨んだ。
「やってくれたね。お前達、許さないからな」
精一杯に強がった。
「あら、君は以外に元気そうじゃないー。おめでとぉ。後ぉー少しだってさっ。もう少しだよ。何かをがんばれー」
目の前の緋夏はストレッチしながら用意をしている。
もう形振り構っていられない! 俺は一歩前に出て手を握り胸を張る。
不意を突く。
この一点だけを考えていた。
「じゃあー。第二らうんどー開始っ!」
緋夏はそう言うと直ぐに突っ込んできて棒を振るう。
俺は鞄も手放してしまったので腕でガードをする。
穂美香に心の中で謝りつつ腕で受ける。
一撃一撃、棒の打ち込みは痛いが昔囓った剣道を少し思い出した。
不意を突く。
不意を突く。
何処かに隙は…………無いのか?。
「それそれそれそれー」
緋夏の攻撃はまだまだ続く。
もう腕は腫れ上がり。
ガードも遅れてきた。
不意を突く。
俺はその一点だけを考えていた。
「あー。もういいや。ちょっと痛いかもしれないけど。必殺行くよっ!」
「必殺――――あ、ちょっとまってねー」
緋夏はポケットから携帯を取り出そうとしたが、その大きな隙を俺は見逃さない。
ゆっくりとゆっくりと三歩、四歩と近づき。
目の前で丁度携帯を耳に当てていた日夏の腕を取り、足を絡める。
「あっ?」
同時にもう片方の手でポケットに入れて置いた穂美香の鞄に付いていた麻雀牌を握る。
そして緋夏の身体を前に自らの身体と同時に崩れるように押し倒し、顔を殴る。
「ちょっ、ま、ばっ、ぐへっ、ぐひっ」
体勢が余り良くないので力もそこまで入らなかったが、不意を突いて顔を殴っている事もあり緋夏は混乱していた。
しかし数回殴った所で力任せに押し返される。
そしてこんな現状だとしても女の子を殴っている自分が瞬間嫌になった。
「いっ、痛っ――たえー、あー。あー。顔ぉ殴るなんてー有り得なくない? あ、歯が折れた、ちょっと、久遠ん――――」
緋夏は距離を取り久遠に顔を診てもらっている。
俺は倒すことに失敗したが緋夏が持っていた棒を手に入れた。
「大丈夫。緋夏は可愛いよ。大分顔腫れているけどね……あっ緋夏? ちょい待ち、結界が!」
「もー怒った。あんたも同じ様にしてやるからね!」
顔を殴られて頭に血が上っている様に見える。
「必殺――――雷撃崩」
緋夏の手から光が走りその雷のような何かは俺を目掛けて素早く飛んでくる。
咄嗟に手に持っていた棒でガードしようと思ったが、壊れるだけでは無くそのまま身体に稲妻のようなものが刺さる。
「つ…………くっ」
身体が痛い。
一瞬、心臓が弾けるような感覚が全身を襲う。
更に足の感覚が麻痺している。
というか、身体全体が麻痺しているのか俺は両膝を地面に付き上半身を起き上がらせているのが精一杯だった。
「さぁーて。お楽しみの復讐だよーん、あ、たっぷり予習もしてあげるねー。わたし、家では良い子だからー」
徐々に近づいてくる緋夏。
俺が手放した棒は再び緋夏の手に有り、瞬時にデッキブラシに変化。
それをクルクルと回している。俺の頭には一瞬青葉の顔が浮かんだ。
「ふんふんふーん。さてさてー。楽しみだなァー」
もう手が届く所に緋夏の顔があり俺の顔を凄い顔で見ている――――――――。
絶体絶命。
そんな言葉が頭に浮かんだ時だった。
「そこまでよ!」
次は宣伝です。




