105学校にて
少し起きるのが遅れた様で妹は急いでいた。
下の洗面所に連れて行かれ、俺はまだ眼の覚めない顔を洗い、歯を磨き、リビングで朝食を食べだしている。
そして、段々と昨日の出来事を思い出すと、頭が覚醒し、気が引き締まった。
「さっきはありがとう、朋くん」
「眼が覚めた? 穂美香」
「うん。昨日は大変だったよ」
そう話し昨日の出来事を俺の姿の穂美香に有る程度話し、おばちゃんにはもう隠さなくても良いという事も伝えた。
「そっかー。怖いね。流石あおちゃんマジ大魔王だなぁー」
穂美香はもうおばちゃんに隠す必要が無い、ということに対してとても嬉しそうにしていた。
あれはとても疲れるからな…………相手が悪い。
「そうだねー、でも学校では上手くやろうね」
「あぁ、大丈夫だよ。おにいちゃんになりきって皆を騙すんだ」
穂美香は何故か、やる気満々の様子だった。
やはり、混じってきている影響も有るのだろうか。
心の声は表に余り出さないで欲しいなと、少しだけ思った。
「本当は自重して欲しいけど、この際だからその調子で頑張ってね、朋くん」
「うん。そこは気を付ける。一緒に頑張ろう、っと、そろそろ行こう。少し早めに行かないと」
「よし、行こうか」
俺たちは最寄の駅まで歩き、そこから電車で二駅先の学校がある駅に辿り着き、そこから更にバスに乗り、学校を目指す。
時間にすると家から約五十分程。俺たちは学校へ辿り着く。
校舎に入るとお互いの教室に向かう為に別れた。
「帰りは一緒に帰ろう。穂美香」
「そうだね朋くん。頑張って」
教室に入ると数人のクラスメート達が話したり、席に座って授業の用意をしていたりする。
俺は穂美香の席に辿り着き席に座る。
ここで間違いないか、穂美香に聞いていた机の中のものを確認しほっとする。
うん、ここで良いみたいだ。
数分も経たない内に、前の席の子が登校してきて、俺に声を掛ける。
「おはよー穂美香。学校休んでたけど、大丈夫だった?」
……市ノ瀬明海、穂美香のクラスメート。
まだ幼く、結構活発そうなイメージだな。
ふむ、聞いていた話通りだ。上手く合わせて見るか……。
「うん。おはようー。もう大丈夫だよ。明海」
「穂美香がいないからつまらなかったよー」
「あはは。あたしの休み中に何か、変わったことは無かった?」
「うーん。特に何も無いかな。今日は数Ⅰで小テストがあるとか、ぐらいじゃないかなー」
「そっかー。テストかぁ……」
その程度なら大丈夫だろう。
うっかりして名前とかは間違えないようにしないとな。
筆記を確認とかされたらアレだけどまぁ、無いだろう。
「小テストだし、穂美香なら大丈夫だよ。……そういえば今、家の人いないんだよね? 一人で大変だったんじゃない?」
「それが、おにいちゃん。……朋くんも一緒に休んでてね」
「朋くんって言うんだ、穂美香のお兄さんは。よし、ちょっと見に行かないと……」
「それはやめてよ~明海。でも、もしかしたら、朋くんがこっちに来るかもしれないから……来たら紹介するからさぁー」
「……ふーん。お休み中にお兄さんとラブラブな関係が芽生えたとか?」
あぁ、とっても濃厚な時間を堪能したぞ、他にも色々有り過ぎて、お陰で疲れまくっているがな。
「ラブラブって、もう、そんなんじゃないよー」
「あはは。あ、そろそろ授業だね。では用意しますか~」
「うん。そうだねー」
授業が始まり俺は、あーそうか、こんなこと習ってたなぁーという、懐かしい授業を受けた。
先生同じだし……。
授業が終わり、間の休憩になると明海と話し、他のクラスの女子とかもやってきて、一緒にさわりのないお喋りを俺は楽しんだ。
穂美香は上手くやっているだろうか? 気になるが、そこは任せよう。
穂美香なら出来るだろうし。
……明海に誘われ生まれて初めて入る女子トイレの光景に少したじろいだが、何とか複雑な気持ちを抑えた。
「さって、お昼だね~」
前の席の明海はこちらに身体を向け、お弁当を開きだす。
俺も持ってきたお弁当を出し、たのだが……。
おい妹よ、これはわざとだな……。
俺の弁当箱は朋の弁当箱だった。
「………………」
「………………」
「あれ、穂美香。それって、何時もと違くない?」
「う、うん間違えたみたい。ということは朋くんが多分……来るね」
かなり混じってきているのか? もしかして俺よりも進行が早い……かもしれないな。
穂美香自身の成長かもしれないが、うーん。
判断つかないな。
「流石、穂美香。抑える所は押さえてるねー。攻めるなぁー」
「えー、そんなんじゃないんだってば」
噂をしていたら程なくして、俺の姿をした妹はやって来た。
「穂美香。お弁当間違ってたぞー」
と言い目の前にやってきて、お弁当の交換をする。
ノリノリだな妹よ。
「う、うん、ごめんねー朋くん。ありがとう」
俺だけに見える様に顔を向け、ペロッと下を一瞬出した。
俺の顔でそういうことされてもなぁ……。
うん? あれ? 何か今…………。
「あ、穂美香のお兄さんですか?」
「あぁ、そうだよ。穂美香の友達だね?」
「私、明海って言います。穂美香の友達の一之瀬明海と言います。よろしくおねがいします」
「俺は蜂月朋。明海ちゃん。穂美香と仲良くしてあげてね。よろしく」
俺は少しドキドキしながら穂美香を見つめてしまう…………いや、気のせいだよな? 俺は気持ちを切り替えるように軽く頭を振ると、微かに何かを捉える。え?
「はーい。私は穂美香と仲良しですよー」
明美が俺の姿の穂美香に話しているが俺の耳には入らない。
なぜならは拍車掛ける様に、教室の入口には大魔王ことおばちゃん。
青葉が佇んで、こちらを見ていた――――。
すぐに誰かが気が付いたのか、クラスはざわついた雰囲気に囲まれている。
「あら、朋もいたんだ。私も来ちゃった。お昼一緒しよー」
「「…………」」
俺と妹は対応に困っていたが、もう仕方が無いだろうな、合わせるしかない。
大魔王は止められない。
明海はぼーっとしておばちゃんを見つめていた。
「あ、穂美香ちゃんの友達もいるのね、私は柚葉青葉。ここの二年生で、穂美ちゃんと、朋の幼馴染。よろしくね」
「はははい、こちらこそ、よろしくお願いします、です。あ、わたしは一之瀬明海って言いますう。穂美香の友達です」
んん? 明海は何か様子がおかしい。
まぁ、大魔王は学校でも有名だからな……。
噂でも聞いていたのだろう。
「こんにちは、あおちゃん。心配して来てくれたんだよね? あたしは大丈夫だよー」
「そう、良かったわ。ちょっとお邪魔するわね。朋も大丈夫?」
「あっ、あぁ、大丈夫だよ、あおちゃん。心配かけたね」
結局穂美香は、大魔王の事をあおちゃんと呼ぶ事にした様だ。
まぁ、それはそれで良いが。
「ちょっと4人だと、もう一つ机が欲しいわね。一之瀬さん、机良いかしら?」
「は、はい、大丈夫です。今並べますね」
明海はかなり萎縮している様子。
もう大魔王は誰にも止められないだろう。
……この世界に勇者っていないのかな?
「「「「いただきまーす」」」」
机を2つ並べて四人で囲みお昼を取る。
勿論会話は終始、大魔王のペースで。結局明海は相槌のみ、ろくに話をしていない。
「あ、そのハンペン美味しそうね、交換しましょ」
と、俺のお弁当箱から、ハンペンを奪い、代わりに、よくわからない物体Xを俺の弁当箱に入れた。
「うん。美味しいわね。それも美味しいから食べてみてね。私の手作りなんだから」
――――俺は戦慄した。
毎週家にお裾分けをしてくれる大魔王は料理が苦手だ。
というか、何でも美味しく感じる味覚らしく、味に煩くない。
何でも美味しいと思うが故か、料理だけは上手く作れない。
しかし、大魔王はそれを知っていても、直そうとはしない。
家に持ってくる物に対してだけは、頼むから止めてくれと拝み倒し、納得させていたのだが。
その時は殴られたけど、やったかいはあった。全く後悔はしていない。
胃袋を守る為だ。
「…………わーい。あおちゃんの手作り…………久々だなー」
棒読みの後に俺は諦めてその得体の知れない物体Xを、箸で恐る恐る口に入れる。
俺の姿をした穂美香はあ゛ーという表情をしている。
「う!?…………うん。おぅっ美味しいよ、あおちゃん」
なんだろう。これは、これ、本当に食べ物なのか? 大魔王の作る料理は当たりも中には存在するのだが、この物体Xは俺が口にした食べ物と言える物の中では、ワースト記録を塗り替えるほどの味だった。
これは食材への冒涜だろう。
SAN値直葬物じゃないのか? 何の食材かも解らないが。
甘さと苦々しさ、触感んん?
え、下が麻痺してないか? おい。
……すまない妹よ、俺は今日腹を壊す可能性がある。
味の深淵を覗いてしまったからにはトイレを占拠してしまうかもしれない。
食中毒だけは止めて欲しい所だ……。
後で保健室で胃腸薬貰うか……。
俺はかかったことないが、上から下からと、酷いらしいからな。食中毒は。
「そう、良かった」
終始大魔王のペースで会話は進み。
皆お昼ご飯を食べ終わり次の授業の時間が近づいてきた。
「あら、もう良い時間ね、そろそろ行きましょう、朋も一緒に」
「そうだな、そろそろ戻るか。穂美香、また後でな。明海ちゃんもまたね」
「うん。後で~」
「は、はいー。またですー」
「じゃあねェ~」
お開きになり大魔王とそれに引きずられるように妹は去っていった。
きっとおばちゃんなりに気を遣っているんだろうな……色々と。
「ふわー。凄かったね~何か、台風? 柚葉先輩。……穂美香、幼馴染だったんだ……」
「うん。やさしいおねえちゃんなんだけど、ねぇ……。朋くんは大魔王って呼んでいるよ」
「あはは……。それわかるわぁー。……な、なんか、すっごいオーラ? みたいな何かを感じた。有名な人だけど、意味が解ったよ。そして、お兄さんを見ている余裕が無かった」
「そう、人を圧倒する力が凄すぎて、初めて会う人は大概やられちゃう。明海が何を知っているのか知らないけれど……でもあたしには優しいおねえさんなんだ。そして、朋くんの事は忘れてね」
「あー解るわ~。何か、変な汗かいた気がするよー穂美香~癒してー。心が疲れたよー」
「ふふ、おつかれさま、明海」
「さてと、授業も終わったわね、穂美香は部活行くの?」
「あ、うん、ちょっと、これから忙しくなりそうで、部活に出れないから、ちょっと顧問の先生に挨拶しにいってから朋くんと帰る感じかなー」
明美は確か部活には入っていないって事を穂美香から聞いている。
当面は一緒に帰る事をアピールしておくかな。
「そっかー。もうラブラブ街道まっくじらだね。猫も食わなそうな関係なのね」
くじらやなくてしぐらやねんー。
……で犬に、夫婦喧嘩や~……と突っ込みたい思いをグッと抑え、もしかして新語なのか?
解らんから誤魔化すことにした。
「もう、勘違いしないでよねー明海。そしてそんなんじゃないんだからねっ」
「あはは、穂美香がツンデレ入ってる。デレた穂美香も可愛いだろうなぁーきっと最高気温も大幅上昇じゃないの?」
「もうまたー、もう。……そういえば今日、雨降りそうだね。なんか雲行きが怪しい気がする」
「そろそろ梅雨に入るんじゃないかな?」
「明海はこれから帰るの?」
「うん。あたしはもう帰るよー」
「じゃあまた明日だね。明海」
「そだねーまた明日~。じゃあね穂美香お幸せに~」
……とりあえず、保健室で胃腸薬を貰い。
顧問の所に行って、挨拶を終わらせる。それから穂美香の所に行くかな。




