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103挑むもの(無理げー)

翌日、時間はお昼時。俺たちはお昼ご飯を食べていた。



とりあえず朝忘れずに学校に連絡を入れ、午前中に商店街に行きクリーニングを受け取り、軽く買い物も済ませていたら、結局時間は良い時間になり、朝からやる筈だったおばちゃん対策はなんだかんだで遅れに遅れて、これからすることになった。


「では、そろそろ始めるか」

「そうだね。自信無いけど、頑張る」


穂美香は少し不安そうにしている。俺も不安で一杯だがな……。


「大丈夫、俺も自信は無い。俺たちは勇者じゃ無いからな。武器もない、チートなスキルも持っていない。恐らく蹂躙されて終わるだろうが、まぁ単に…………」


「単に?」

「…………心構えだよ」

「そっかぁ、もう負けは確定してるのね。やっぱ、そんななんだ……」


俺は少なくない本音を穂美香に話すか悩んだ。

大魔王なんてあだ名を俺自身が付けている通りなんだが、穂美香はそこまで気づいてはいないだろう。


そしてこれからという時に怯えさせるのもどうかと思う……。

よし、これ以上は触れないでおくか。


「あぁ、だが、こちらからばらす必要はない」

「うん、出切れば巻き込みたくないよね」


「…………そうだ。たまたま、今回は上手く行くかも知れないし、運命には抗ってこそ風はこちらに来る……かもしれない」


「うん……うん」


「もしも穂美香が、おばちゃんと二人っきりになる様な状況になったら、そこで両手を挙げよう」

「うーん、やっぱり難しいかな? わたしも頑張れるけど、正直自信はないかなぁ~」

「その状況を作られた時点で、恐らくおばちゃんは察しているはずだ。もう意味はない、蹂躙の時間だ」


幾つかの行動パターンは考えられるが、不確定な要素が多すぎる。

俺と穂美香がお互いをフォローすらしきれない状況は好ましくない展開だろう。


俺は敗北のラインを引くことにした。


「なるほど~。というと、それ以外のパターンなら、可能性があるってことなの?」

「そういうことだ。俺が部屋や外とかに連れ出される場合はまだ望みはある。とりあえず俺に任せてくれ」


「おにいちゃんと二人っきりにする場合は、わたしはここで待ってれば良いんだね」

「そうだな、それが無難だ。あいつの拳は鉄の拳だし、穂美香を殴らせる訳にはいかないしな」


「そっかー。って殴られちゃうの? わたし……ど、ど、どうしようおにいちゃん」


「大丈夫だ、変な展開にならなければ、問題ない。何時もの俺の様に行動してくれ、……恐らくあいつは俺の部屋までは来ない筈。……だが、穂美香の部屋には来る可能性はあるよな?」


「うん、そうだねー。結構あおちゃんはわたしの部屋でくつろぐことも多いね」


「まぁ、実際どうなるかは読めない。穂美香は二人っきりにならない限りは安心していろ」

「わかったよーおにいちゃん」


「そんな所だろうか……まぁ、今考えていない予想もつかない様な行動に、出てくる可能性もあるから、その時は……」


「……その時は?」

「流れに身を任せ投げやりになる…………行雲流水、自暴自棄。ん~降参しよう」


良い手など無いとばかりに両手を挙げるポーズを取り穂美香に伝えた。


「……了解。が、頑張ろうね……。おにいちゃん」


穂美香は両手をグーにして頑張るポーズをとっている。

何処まで勝負になるかは解らないが俺も心を決めた。


「あぁ、俺も最善を尽くすよ、ではおばちゃんが家に入って来た時点で、話し方も気をつけよう」

「うん。準備出来ていれば、わたしは大丈夫」



――――そして、大魔王はやってきた。



玄関のチャイムが鳴り、『柚葉青葉』はやってきた。


「こんちはー。来たよ~」

「いらっしゃい、おばちゃん」

「今日も色々持って来たよ~よっと、上がらせてもらうわよ」


おばちゃんは靴を脱ぎ揃えて、家に上がって来た様だ……。

俺はキッチンでその動向に聞き耳を立てる。


「何時もすまないな」

「良いって、私作ってないしね。ご飯にしよう。なんか今日お腹結構減っててさー」


「……あぁ、時間だからもう、用意は終わってる。おばちゃんが持ってきたものを並べれば、すぐ食べれるよ」

「流石、解ってるね」


「こんばんは、穂美ちゃん。今日も色々持ってきたわよー」

「こんばんはー。わー何時もありがとう。あおちゃん。今、ご飯とお味噌汁注ぐね~」


エコバッグと、他にも小さなバックを持って、おばちゃんは来た……。


「じゃあ食べようか」


穂美香は上手くやっている様子だ。

さて、鬼が出るか蛇が出るか……まぁ大魔王なんだけどね。



「「「いただきまーす」」」



三人で楽しいお食事という名の試練。


今日の料理は我が家で作った肉じゃがに厚揚げ、豚しゃぶサラダと漬物。

おばちゃんが持ってきた、卵焼き、から揚げ、豆腐ハンバーグ、マカロニサラダ、キンピラ、アジの塩焼きなどであった。


俺たちは軽く会話をしながら、ご飯を食べていた。


「そういえば、二人とも具合はどうだい? もぐもぐ」

「あぁ、俺はもう大丈夫だよ。穂美香も、な? ぱくぱく」


「うんうん。あたしももう大丈夫、明日からまた学校に行く予定。一応、運動はまだ控えたいから、部活はもう少しお休みするつもりなんだ」


俺は当面、部活動はお休みするつもりでいた。

確かにあのテニスウェアーは着てみたい気はしたが……仕方ないね。


「そっかー穂美ちゃんテニス部だと、少し大変だよね」

「うん。日によっては……だけどね。もぐもぐ」


勿論俺は知らないんだがね。


あ、この卵焼き、妹ちゃん(小5ロリ)の味付けがする。

それだけでうまうまー。


「朋は、帰宅部だもんね。……今度稽古つけようか?」

「……いや、空手は止めておくよ、そういえばおばちゃんこそ……今は何してるの?」


そうしてくれ、俺でも穂美香でも1日持たないぞ、きっと……。


「私は今、期間限定でバイトしていてさ。……ちょっと頼まれてね」

「あおちゃん、何のバイトしてるの?」


用心棒的な……何かじゃね? 勇者を倒しに行くバイトとか……。

あえてお花屋さんとかだったら、それはそれでギャップ萌えになるな、俺の中では……。


「……昔の知り合いに頼まれて、ウェイトレスの定員なのよ、制服が結構ふりっふりでスカートも結構短くてさ。ちょっと……参ってるわよー」


更におばちゃんは、お店の和風ハンバーグやパイがとっても美味しい事や店員同士では下の名前で呼び合う決まりが有ること、お客さんの誕生日にはハッピーバースディを歌わなければいけない事とか、様々なお店のしきたりや常識を俺たちに話す。



ふーん、ウェイトレスか……。

ちょっと怖いもの見たさって……あるよね~。

戦うウェイトレス……格ゲーキャラだな、間違いなく。


攻撃は全て強攻撃の……。


「…………是非今度行かないとなぁ、穂美香」

「そうだねー。それは記念に写真も撮っておかないと」


「いやーそれは勘弁。結構スカート丈も短いし、そりゃ動きやすいけど、なんかねー」


それは是非欲しい一枚だ。魔除けとか、印籠の代わりにも最適な一品に。


「そうなんだぁー。あたしも機会があったら着てみたいなー」

「……なんだったら、バイトする?」


「うーん、それは遠慮しておくよー。あおちゃん」


確か穂美香もバイトはする気ないって俺に言ってたしな……。


「なんだ残念。穂美ちゃんなら私よりも似合うのに……あ、そういえば穂美ちゃん朋と何かあったの?」

「んー何かって? 何かあったかな?」

「いや、この前呼び方が変わってたから、……とかさ。……ん?」


あ、おわた? 俺、何か失敗したっけ……。


「えっとね、最近結構、朋くんに助けられてて、仲良くなってね。あたしも高校生になったし、ちょっと変化が欲しかったんだー」


「そっかー。流石、おにいちゃんだな朋。あ、今日風呂も入っていって良いかな?」


……これは、あ、元々その気でいたのか?

あの小さなバックはお風呂セットか……。


「あぁ、食べ終わったら沸かしておくよ、先入っていってよ」


もうおばちゃんのペースだな……。


まだいけるか……。


「いや、朋が先に入ってよ。出たら穂美ちゃんの部屋に一緒に居るから、その後穂美ちゃんが入って、……最後に私で良いよ。ノックしてくれれば入りに行くから」


「……そうか、じゃあ、先に入らせてもらうよ」


「それで良いかな? 穂美ちゃんも?」

「う、うん。良いよー」



何処で気づいたんだろう、本当に……。

いや、まだなのか? それすら俺には判断できないが……。


「さて、私はもういいや、ごちそうさまー」

「俺もごちそうさまかな」

「ごちそうさまでしたー」


俺たちは後片付けして、少しくつろぐ。

俺と穂美香は被告人みたいな状況下なのだが。


「じゃあ、そろそろ穂美ちゃんの部屋に行ってるね、朋。あぁついでに…………」

「……今日、泊まってくわ。よろしく」

「あ、あぁ、解った」

「…………」


詰んでいる気がしてしょうがない……。


「明日も私、ちょっと、朝は早くて勝手に出て行くからさ、鍵は何時もの所に置いておくよ」

「……そうか、了解した」


「じゃあ穂美ちゃんの部屋。行こうよ」

「うん。いこっかー」


俺と幼馴染のおばちゃんは穂美香の部屋に向かった。

もう俺は蛇に睨まれたカエルだった。

穂美香がカエルだったら、きっと可愛いカエルになるだろう。

おばちゃんもあおガエルになってくれれば……。いや、止めよう。もう思考がおかしい気がする。


「前泊まったのが、一ヶ月ぐらい前だったかな? 穂美ちゃん」


確か……そんなもんだろ。


「そうだねー。まだお母さんとお父さんいたから、それぐらいじゃないかなー」

「そうだったね。そういえば、その時お勧めしてた、本。面白かったわよー」


げ、何の本だ? やっぱいせちゃーか?。


「…………うん、あたし何の本お勧めしてたっけ?」

「えと、戦うやつだよー」


「あぁ、『いせちゃー』だったね、確か。あれ面白いよね~」

「久々に面白い本読んだよ。今度またお勧めあったら、教えてね。穂美ちゃん」


ギリセーフか? もう解らん。

降参したくなってきた俺はやっぱりチキンだった。


「うん。解った。お風呂から出たら教える。参考にしてね」

「よろしくー。それと、この前、穂美ちゃんが欲しがってたイヤリング。持って来たから、後で渡すわね」


「あー、あれね。本当に良いの?」


そんなものは解らない。

もう自棄だ。合わせるだけ合わせてみるか。


「……良いよー。その為に持ってきたんだから……」

「穂美香おまたせー。お風呂、出たから次良いよー」


「――あ、朋くんだ。今開けるねー」

「朋。おやすみ。また来週にでも来るからさ。その時はよろしくね」


「あぁ、解った。おやすみおばちゃん。穂美香もおやすみ」

「朋くんおやすみー。明日は早く起きようね」

「じゃあ、あおちゃん。あたし……、次、入って来るね」


 もう心が折れる寸前。今すぐ逃げたいよー。


「穂美ちゃんごゆっくりー」


こりゃもうバレてるかなー。

風呂から出たら、打ち明けるか? ここまで騙しておいて……。


優柔不断な俺はまだ悩んでいた。


ふぅ、精神的にもう大分やられてるな。

俺は脱衣所で服を脱ぎ始める。


もう二階で寝巻きに着替えてきていたから、そのままでまた着て戻るつもりだ。


しっかし、今晩はおばちゃんと寝なきゃいけないのか。そして明日は学校。

ハードだな。精神的に……。


俺は全て脱いで、鏡も見る気力もなく……。

勿論、タオルは浴槽に持っていかない。で、風呂場に入ろうとする時。



鍵を閉め忘れた扉が勢い良く開き――――



『……やっぱ私も来ちゃった。一緒に入ろう』





 ――――どうする俺?

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