101お風呂場では足を滑らせない様に
家が見えてきた。少なめの庭に二階建て一軒家。
家は俺が生まれて間もない頃、この辺が再開発の一環で区画整理されたらしく計画的に宅地として整備、分譲されたこの辺にある建物の一つで、周囲には似たような作りの家が数多く存在していた。
「「ただいまー」」
俺たち二人は何とか家に辿り着く。
しかし危なかった。あんな時間帯におばちゃんに遭遇するなんて思っても見なかったからな。
おばちゃんは結構カンが鋭いから、危惧はしていたんだが不意を付かれた。
ツンデレ穂美香を演じるのが楽しくて浮かれていたわけではない。が、明らかに気を抜いてしまったんだろうな。反省するから許してにゃん。
穂美香も危なかったが、なんとか良く堪えてくれた。
明日はおばちゃんと穂美香だけにしない様に気をつけなければいけない。
少し怖いのは、おばちゃんの家にはうちの家の鍵が存在する。何かあった時にと、お互い渡し合っているんだよなぁ……。
――――だからって小五に夜這いなんてしたくても出来るけどしないんだからねっ。
……あそこは大魔王の棲家だ。夜に忍び込んだらこっちが襲われるだろう。
昔、一緒に近くにある空手の道場に通っていたんだが、俺は直ぐに止めてしまった。
おばちゃんは中学三年生の時で全国大会準優勝の猛者だった。
高校に入ってからはあまり稽古しなくなったらしいが、俺はおばちゃんに襲われたら三秒で気絶するだろう。
いや、普通に死ぬかもしれんな。普通にね。
あいつは『可愛いが凶器』だった。
……そして今の状態で寝ている時、家に踏み込まれたら、穂美香が危ない。そこもなんとか対策をしなくては……。
…………無理かー。おばちゃんカンも鋭いからなぁ~。
昔、家に泊りに来て夜なんとなくトイレに起きて部屋に戻った時。
ろりおばちゃんの寝姿を見て、近くで邪な考えを心に思っただけで起きてきて手を握られた。
一言『いいの?』って。マジないわー。俺は硬直し『いいえ?』って答えたら手を離してくれた。
そんな大魔王だが可愛いよ? なんなら俺の事を体張って守ってくれるだろう。
……男前やん。惚れるっ!
恐らく理詰めでも負けるだろうな。
家に来たら大魔王から逃げる術は今の俺たちには皆無だ。
……最悪おばちゃんには打ち明けなければ、いけなくなるかもしれない。
…………一応考えておこう。
家に着いて、とりあえず休憩した。穂美香も大分プレッシャーにやられた様だった。
おばちゃんは穂美香に対してはとても優しかったからなぁ、ん? 俺に対しても優しいよ?
愛情の裏返したっぷりだよ!
誰かに自慢しちゃうんだからねー。しくしく……。
「ふぅーーー」
「朋くん。調子はどうかな?」
「あぁ。なんとか。今まではそんなに解らなかったけど。……おばちゃんの事、今まで以上に解った気がするよ…………うん」
穂美香はおばちゃんの勢いに大分やられたみたいだった。
「一緒に……強くなろうね」
穂美香の口からそんな言葉が出る。気付かないうちに穂美香は少しづつ強くなっていた……。
その後、俺たちは夕飯の準備に取り掛かることにした。
「「いただきます」」
二人で夕食を作り終えて、食べる事にした。
結局作ったのは、カレーピラフだった。
付け合せはサラダ。オカズにコロッケを買っておいたのも食卓に添える。
カレーピラフ、家の親父が好きなんだよな~。
俺はそこまで好物というほどの物ではないが、朝かーちゃんがカレーピラフを作る回数は多く、もれなく部屋に臭いが来るのか、それで目を覚ます事も多かった。
食事を作っている時、穂美香に今日はもう普通に話そう。
お願いおにいちゃん。と言われたので、今日は話し方を戻すことにした。
大分慣れてきたので、明日もおばちゃんが来てる時と、外出する事が無ければ普通に会話しよう。
という事で話は落ち着いた。
そして明後日の朝。起きた瞬間からまた再スタートしようと話し合った。
やっぱり疲れるんだろうな。実際に俺も疲れていた。
ノリノリではしゃぎ過ぎた訳では無いんだからっ。ほんとうなんだよっ? …………これは何とかしなければ。まだまだ問題が山積みだ。好きな時に姿が変わる魔法のステッキとか、ないかー。
『魔法少女ほみか』はっじまっるよー。うむ、夢が膨らむな! 妄想と共に!
「あ、以外に良く出来てるな。上手い」
「うん。上手く出来たね~」
「次は究極鳳凰カレーチャーハンに挑戦しようか?」
「ふふ。今度ね~。でもきっと伊勢界に行かないと失敗すると思うよー」
二人であっという間に食べてしまった。
もしゃもしゃ、ぱくぱく、ざくざく、ごっくん、がるるるる……。
「ふぅーお腹一杯だ」
「おにーちゃん、お茶入れるねー」
「あぁ、頼む」
俺たちは食後に穂美香がこの前買ってきた。
ライトノベルを読みつつ、食後のひとときをくつろいだ。
「ふぁー」
魔法騎士皇女レイの悲劇をほぼ読み終えた俺は時計を見て考える。
ふむ。そろそろ良い時間かな? うん、風呂だな……。
今日は何処まで行けるかな~ふひひひ。
いやいや、これは訓練だ! 肉体はそんな簡単に鍛えることは出来ないだろうし、俺は武芸に精通している訳ではない。精神レベルをここは鍛えるべきだ。
一緒に風呂に入り、仲良くなり、共に心を鍛えあう――――うん素晴らしい。
人間一人より二人で高め合う方が、より良い結果がもたらされる筈だ。
その効果は計り知れない。
これは修行。とても厳しく、時に険しい。そんな崇高な時間だ。
さてと…………仲が良いからおふろでもいっしょ。はじまりはじまり。
「――穂美香、そろそろ風呂入るか」
「あ、うん。もう良い時間だね。着替え持って来るね」
「あぁ、風呂にお湯貯めておくよ」
「はーい、よろしく~」
よろしくーと言いながら穂美香は二階に上がって行く。
俺は鼻歌を歌いながらお風呂場に向かっていった。
脱衣所を通り過ぎ、足を滑らせ無い様に歩き、お湯を浴槽に浸す。
お湯は浴槽に勢い良く流れて少しづつ溜まっていく。
「あっとっは~何か、有ったかなぁ~」
あ、あれも湯上りに試すか。
仲良くならないとね~。俺は思案に耽っていた。
「おにいちゃん、ここに着替え置くね~」
「ういよー。いま行く~」
さて、戻るか。俺は脱衣所に戻ると、穂美香は着替えを綺麗に畳み脱衣所に有る棚に置いていた。
「じゃあ入るか。穂美香」
「……うん。今日もよろしくね。おにいちゃん」
穂美香は恥ずかしそうに服を脱ぎだした。
俺も服に手を掛けていく。今日の俺の格好は穂美香を自分なりにコーディネートした結果。
結構短めのスカートに白系の大きいTシャツ。
俺の体型には少し小さかったんだよな、このシャツ。
…………そんな格好の俺(穂美香)がいた。
今日は昨日とは逆にスカートから脱ぎ始める。
勿論、姿が全身映る鏡からも目が離せない。かわいい。
スカートのホックを外すとそのまま下にスカートは落ち、Tシャツだけの格好になった。
うん。かわいい。
こういう何気ない仕草とかはとても大事だな。
目の保養になる。俺はかわいいを意識しながら考える。
勿論頭の片隅で三賢者も騒いでいる。でも騒ぎ過ぎていて上手く聞き取れない。
穂美香をふと見るともう脱ぎ終わり、バスタオルを巻いている所だった。あ、まずい、昨日と同じ展開だ……。
俺は急いでTシャツを脱ぎ、ブラのホックに手をかける。
「――――先に入ってるね。おにいちゃん」
「う、うん分かった。す、すぐ行くよ」
え゛これなんてエロゲー? 俺は何か選択肢を間違っているのか? な、何故昨日と同じような展開なのだ?
俺は急いでブラのホックを外そうとするが中々外れない。
ここかな? よし、外れた。
ブラを取り、下着を脱ぎ――――。
「――おにいちゃん。大丈夫?」
急いで脱ぎ風呂場に向かうとおにいちゃん。
もう、タオルを身に付けてよねー。
と、やっぱり怒られた。
……そこは譲れないらしい。
「今日もおにいちゃんはわたしが洗うから、終ったらわたしをおにいちゃんが洗ってね」
「わかった」
うーん。昨日と同じ展開だ、仕方が無いが、何か……そうだな、階段を一歩上に上がりたい。
一日一歩の精神だ。俺は思案する。
「じゃあ洗うね~」
「うい。よろしくー」
昨日と同じ様に穂美香は俺を洗いだす。
しかし、自分以外の他の人に洗ってもらうってのは結構良いもんだな。
床屋さんや美容院で頭を洗って貰っているのと同じでとても気持ちが良い。
痒い所に手が届くか届かないか――あ、そう、そこ、そこぉーってのがまたもどかしさと気持ちよさが相成って、とても気持ちよく。俺の心まで洗い、満たしてくれる。
俺はなすがままに身を任せ、穂美香に頭と身体を洗ってもらった。
勿論今日も保存した。差分は必要だ。兄妹の仲良しアルバムなのだから。
「かゆい所はないかな~?」
「うん。あ、ちょっと下」
「ここかな?」
「んと、もうちょい、そうその辺~」
「はーい」
少しづつ、変化させ、心も身体も距離を縮めていく。
じわじわと匍匐前進だ。失敗は許されない。
急がなければいけない事柄もあるには有るのだが、仕損じては穂美香の心を傷つけてしまう。
一番の問題は男性特有の整理現象とかなんだが、俺はまだ放置していた。
まぁ後一週間ぐらいは大丈夫だろう。良い案が思いつかなければ完全に放置する。
いじわるではないよ~ふふふっ。
……これはとてもデリケートな問題であった。
……ふひひひ。とっても意地悪で、ちょっぴり小悪魔な穂美香の姿を演じる中身はもちろん俺だった。
「よしっ。おっけーだよー」
「うい。おつかれさん、じゃあ交代だな」
「うん。よろしく~ねっ」
交代したので今度はもちろん俺が穂美香を洗う。
ごしごし、ごしごし、身体は俺の身体だから少し強めに擦ってあげることにした。
やっぱりあれをやりたいがまだ早い。
そう、身体で身体を……ね。だが、もう少し身体の付き合いをしてからにしておこう。
俺は自分の誘惑に打ち勝った。でも~、何か、無いかな~。俺は攻めあぐねていた。
「そういえば『いせちゃー』どうだった?」
「今回も面白かったよ~」
「究極鳳凰カレーチャーハンは出来た?」
「そこはネタバレになっちゃうから、今度読んでね~」
「師匠の決め台詞はあった?」
「うん。期待してたんだけど、今回はピラフではなかったよ。おっとこれも軽くネタバレだ~」
「そっか、楽しみだな」
「あと二巻で終わるらしいから、ついに秘奥義『海鮮天衣伊勢チャーハン』も出てくるかもしれないね」
「そうか~もう少しで終わっちゃうのか、まぁ次の巻は来年だろうけどなぁ~」
「外伝も出るらしいから、まだまだ、楽しめるよー」
「こんなもんかな、流すぞー」
「はーい」
何か、何か。
と次の一手に思考を巡らせながら、シャワーで泡や汚れをくまなく洗い流す。
「わたしは髭剃ってから湯船に入るねー」
「あいよ、俺は先に湯船、浸かってる。……よっと、……ふぃーーーー」
今日も湯船は気持ちいなぁー。
菩提さんの鋭くも暖かな一手が、俺の煩悩さんに対し手厳しく追撃する。
何か良い手はないか……俺の次の一手の持ち時間は後僅かだ、はっちゃけはっちゃけ。
俺は親父のたまに言う口癖を心の中で呟く……。
「うん、今日も綺麗に剃れた。では湯船にお邪魔するねー」
「あいよー」
穂美香が風呂に片足を入れ、もう片方の足をを上げる瞬間――――。
とても信心深い俺に神様が小粋な贈り物をくれる。
それは唐突に起こった!。
『ゴゴゴゴゴ』
「わっ、じ、地震?」
俺は何時もより、極めて冷静だった。風呂に入り煩悩さんが大分やられていたせいか、このとっさの出来事に反応する――――。
風呂場の浴槽から急いで立ち上がり、俺の姿の穂美香の腕を掴む。
「おっ。わっ。あわっ、じっ……」
「穂美香、おちつけ!」
「きゃあ――――」
「わーーーーあぶっ…………」
穂美香は風呂にもう片方の足を入れると同時に足を滑らせ俺に抱きついてくる。
瞬間二人の、水分を含んで濡れたタオルは捲れ落ちる。
『ざっぱーーーーん』
湯船の中、二人抱き付き合い顔を見合わせた。
地震は直ぐおさまり。余震が暫く続く。恐らく震度2ぐらいだろうか。
浴槽の中は静寂になり、時折、水滴が蛇口から滴り落ちる音が、小さく木霊し二人を包む。
「…………………………」
「…………………………」
「「ぶっ」」
「「あははははは――――――――」」
互いを見つめ抱き合いながら大笑いをする。しばらく余震は続いた。
「…………余震も、おさまってきたかな……大丈夫か? 穂美香」
「――――うん」
「もう少しこのままでいるか」
「うん……」
そのまま目を瞑り、のぼせるまで抱きしめ合っていた。
互いの存在を確認するかの様に。




