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1運が悪い男(前編)

 その日、サラダエクレアの街はゴブリンの大群に覆われようとしていた。



西方から来たりしその大群。


イベント『ゴブリンキングの逆襲』数年から、数十年に一回の割合で起こるゴブリンイベントの内、難易度は上から三番目。


街の大きさで言うと国の中ではサラダエクレアの街も中々の大きさであり、それを守る衛士から戦士、冒険者ギルドに登録されているフリーの冒険者などをかき集めれば、戦える者は二千から三千人になるかもしれない。


しかし、この『ゴブリンキングの逆襲』は今までは少なく見積もっても六千体以上のゴブリンが現れている。実質二倍以上の敵が此処、サラダエクレアの街へやって来る事がほぼ確定されてしまった。


俺の名前はジロー、自分で言うのも何だが結構腕も立つし情報を手に入れる斥候とかも結構得意だ。

まぁしかし、良くも悪くも器用貧乏な戦士と偶に言われる。


そんな俺は此処の所、本当に運が無かった。ちょっとした、まぁ、大したことないクエストを受けても上手くこなせず、武器や防具が簡単に壊れたり、泥棒に間違われたり、人によくぶつかったり、美人局にあったり。


昨日なんか躓いて手を地面に突いたら犬のうんこが手に付いた。


勢い余って、うわぁと手を振ったら運悪く、いかつい通行人の服を汚してしまい袋だたきにあった。


軽い何時もの気持ちで「おおっとごめんよー」と言葉を投げたのがカンに障ったらしい。

勘弁してくれ、俺にも言い分があるんだよぉ、そりゃ俺が悪いかもしれんが酷すぎる。


なんなら神が悪い!


おい、運命よ、俺にもっと優しくしてくれ。

神に祈る俺は最近後頭部が禿げだしている。


まだ二十代半ばなのに……。


これでは誰も嫁に来てくれなくなる。

ああ、不幸ついでに思い出してしまった。

そもそも此処、サラダエクレアの街に来たのは幼なじみのハナコに振られたからだった。


傷心ついでに逃げ出した。

皆のかわいそうな人を見る目が耐えられなかった。

もうあの状態ではダイラックの街に居られなかった、負け犬だった。

くそっ、タローの奴め、上手いことやりやがって!


でも仕方ない、本当は戻りたくもないが一度、運気をリセットさせる為にも実家のあるダイラックの街へ一旦は戻ろうと思っていた矢先にこのイベント、ゴブ逆に出くわしてしまった。


前向きに出稼ぎの最中だったと考えればそれは良いのだが規模が大きすぎる。


ゴブリンのイベントの中では難易度は三番目だが、このイベントの難易度を上げている原因が速度と数による所が大きく、ゴブリンが集結しているんじゃ無いかと情報、第一報がもたらされたのが五日前。


それからが早かった。

あれよあれよという間にゴブリンの数は増えに増え。


数千単位にと膨れ上がった。

冒険者ギルドの詳しい者の調査によるとイベントが『ゴブリンキングの逆襲』である事と敵数は多くても六千体から八千体であろう事が街の冒険者ギルドから報告された。


この国、自由都市エスタリアス国の上層部までも早急に連絡は行われたものの圧倒的に時間が足りなかった。


この国にも英雄と呼ばれる者達や、魔法に長けた魔法使い、二つ名のある者達も少なからずいるのだが、今回のイベントに関しては実力が秀でた者が加わる事は無かった。


それはタイミングが悪いの一言であった。

多分俺も悪い。

運が今とても無いからな、きっと俺のせいまであるかも知れない。


あ、枝毛が…………。


……無論、この街から逃げる事は出来る。

出来るのだが、今後逃げたという現実が冒険者ギルドを通して付いて回る。


ランクD以上の冒険者はそれなりの責任が生じてくる。

開き直ればそこまでの不具合は無いがまぁ、そこはソレだ。

とりあえず稼げる事は間違いない、命があればの話だが…………。


いっその事、酒でも飲んで戦うか? そんな話をギルドで話す冒険者は多かった。

酔狂じゃないとやってられない。

今回、そんな戦力差の戦いだった。


俺はギルド内で簡易的に組まれたパーティーで、チームジュリエット七として正面からゴブリン達と戦う事が決まった。


幸いにも簡易的とは言え、何度かこのサラダエクレアでパーティを組んだことのある人達しかいなかったので、そういう意味では少しでも安心できる状態で戦えるというのは現在不幸をまき散らしている俺にとっては希少過ぎる幸運だったのかも知れない。


今回の報酬は参加だけで一万C。

そして活躍したチーム全員へ五万Cという破格。

これは命の値段と考えればとても安い事になってしまうが、財政を考えれば仕方の無い事かも知れない。


参加人数は恐らく三千人ぐらい。

通常は一つのパーティーで四人が最小人数となり、パーティーが二つになるとダブルパーティーとなる。しかし今回は人数が多い為、一つのパーティーが十名でそのパーティーが十個でチームという決まりにしたらしい。


俺が所属になったパーティーはジュリエット七。


ジュリエットだけでも十チームあるので単純計算では百名。

此処までの人数で戦うのは国と国とかの戦争とかならあり得るが、対モンスターとなると本当に稀らしい。


そして危機は刻々と迫っていた。


傭兵やギルドに所属している者は日常においても少なからず命のやり取りをする事も多く、何処か狂っているぐらいの方が正常に思えたり、見えたりもする。


しかし、一般の人々の恐怖心は凄いらしく、もう明日にでも此処が無くなるんではないかなど、噂話だけでも尾ひれが付き魔王とか、とんでもない魔物が此処へ攻めてくるとまで話す人もいた。


戦いをする者達は明るく振る舞っている者が多く見られ、豪勢に散財し飲み食いや、娼館へ足を運ぶ者達も多かった。サラダエクレアの殆どの人々が覚悟を決めた日。


ゴブリンの大群はサラダエクレアへ向かってやってきた。

その足取りは大群という事もありゆっくりとしたものだったが、確実にその距離を縮めていく。


迎え撃つはサラダエクレアの戦える者全て。


年齢が十代ちょっとに思われる少年、少女達の姿も僅かながら見られたが、基本あくまでも後方支援という形を取られた。


しかし、ゴブリン相手に降伏をするという選択肢は無い。

敗北イコールお終いなのだから。

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