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<2・何で私はモブなのに、ライバルは美少女のままなわけ?>

 前回までのあらすじ。

 美貌の悪役令嬢として、正ヒロインっぽいメイドの美少女をめっちゃイビってイジめて暮らしてた私!

 どうにかこうにかして断罪イベントがあったっぽい?の後、気づいたら現代日本に転生してブサイクなモブ女子高校生になっちゃってた!

 クラスには前世でイジめてた正ヒロインとそっくりな女の子がいる!あれはもしや、あのヒロインが転生した姿なの!?

 二人の因縁は再び?

 元悪役令嬢のモブ女子高校生、一体どーなっちゃうの?


――って、少女マンガならこんな風に紹介されそー……。


 あやめはげっそりとした気持ちで教室の後ろの席の方に座っている少女を見た。

 長いゆったりとした黒髪に少し明るい茶色の眼。元々前世で遭遇したロミーも、西洋風の世界であったにも関わらずだいぶアジア系の顔立ちだったため、ここにいてもさほど違和感はない。分厚い牛乳瓶さながらの眼鏡をかけているが、忌々しいことに“前世でブリジットの次に美しかった”顔立ちは変わっていなかった。やっぱり何度見ても変わらない。あれは誰がどう見たって、前世で自分のライバルだったロミーその人である。


――これが偶然ってわきゃないわよね。ってことはあいつ、ロミーが転生した姿ってこと?いやいやいやいや意味がわかんないんですけど。なんで私はこんな、クラスにいたら悪い印象が辛うじて残るか残らないかってレベルのモブ女子の姿になっちゃってんのに、あいつはロミーの可愛い顔のまま転生してるわけ?ちょっと不公平すぎない?


 ロミーそっくりの少女の名前は、清水都しみずみやこ。どっからどう見ても本人、としか思えない外見にも関わらず、本人の転生なのかどうか思い出せない理由は二つ。

 この高校に入って数日。彼女のことをこれでもかと観察し、あいさつ程度に言葉を交わしてはいるものの、本人はまったく自分に無反応なのである。小さな声でほそぼそと挨拶を返してはくるが、ただそれだけ。驚きもなければ怒りもない。前世の記憶があったとしたら、自分が彼女の立場なら“何でお前がいんの”くらいに嫌な顔くらいしてもおかしくはないというのにそれがない。ということは前世の記憶がないか、まったく赤の他人であるかのどちらかということである。

 もう一つの根拠は、自分の記憶にあるロミーとあまりにも性格が違うということ。ロミーは元々は労働階級の夫婦の子で、工場で働いていて過労死した夫婦の一人娘を不憫に思ったブリジットの両親が、メイドとして雇い入れた娘なのだった。ノブレスオブリージュ、とでも言えばいいのか。富を持つ者は、それに応じて果たさなければならない社会的責任と義務があるとかなんとか。ようは、貴族は貴族として、社会福祉に貢献するべしみたいなよくわからない概念があったのである。孤児を養子として引き取ったり、孤児院に寄付をしたりといった行為がその代表的なものだろう。ムカつくことに、ブリジットと違って両親はそういう偽善的行為にやたらとご執心な夫婦であったのだ。

 よりにもよって、あんな鼻持ちならない、無駄に顔だけいい娘を連れて来なくても、なんて思ったのはここだけの話。

 まあ、それはともかく。そのロミーが最初から気に食わなかった上、自分が片思いしていた貴族の息子に優しくして貰ってるのを見て嫉妬を燃え上がらせた自分は、とにかくロミーがこの家から自分で出て行くようにとあれやこれやらと嫌がらせを始めるのである。代表的なのが、魔法を教えてやるという名目でひたすら手合せをしてイビること。あの世界では当然のように魔法が使えて、一部の土地にはモンスターが出ることでも有名であったのだから。


――ロミーのやつ。毎日足をひっかけたり水ぶっかけたり虫を服に入れてやったりといろいろやったつーのに、ちっともめげないで立ち向かってくるから面倒くさかったのよね。


 そう。しかしそんなロミーは、ブリジットがちょっとイビった程度じゃまったくヘコたれない、非常にタフで勝気な娘であったのである。それどころか、不利な条件で手合せを強要されたと知ってもヘコたれず、学んだ魔法で反撃してくる始末。それとなくメイド達に仲間を増やして反攻勢力を作ってる始末。ある意味、だからこそ潰しがいもあると感じていたのだが。


――……見た目はともかく、中身は別人っぽいのよなぁ。


 休み時間には、大人しく本を読んでいるかノートに何か落書きをしているか。友人達の集団と話しているのを見かけることもあるが、見たところ彼女が話題の中心になっているとは到底言えない代物であるようだった。殆ど、派手めな少女達の傍で曖昧に笑ってるか、一言二言相槌を返しているような始末。どう見ても彼女と気が合いそうな友人達ではないし、一緒にいてまったく楽しそうにも見えないのだけれど、何であのグループに入っているのだろう。

 自己主張しない。

 嫌なことを嫌だとも言わない。自分のやりたいことをはっきりやりたいとも言わない。

 自分が知るロミーなら、あり得ない態度だった。メイドという、貴族社会にあってけして強くない立場であった時でさえ、ロミーは己の言うべきことははっきり言う強かな娘であったというのに。というか、本気でブチキレた時はお嬢様のブリジット相手であっても“いい加減うっぜーんですよこのクソお嬢様!”くらいの暴言吐いてきたような気が。それがちょっと小気味よいというか、すまして可愛い子ぶっているよりは全然いいと評価している部分でもあったというのに。


――つまんね。あんな大人しくて、面白みもない“ロミー”なんて、いじめ甲斐もないわ。


 やめた、とあやめは思った。彼女を観察していても、なんら面白いことなど起きそうにもない。自分の期待する反応も返してくれそうにない。彼女がロミーの転生かどうか、なんて考えるだけ無意味なような気がしている。そもそも仮に彼女がロミーだったとして、本人が知らないフリをしているわけではなく本当に前世の記憶がないのなら。それは、赤の他人であることとなんの関係があるのだろう。

 関わるだけ無駄というもの。どうせ、向こうだってこんなチビデブでモブ顔なクラスメート、気にも留めていないに決まっているのだから。


――ちょっとだけ、面白いことが起きるかもなんて思ったけど、期待するだけ損だったつーか。


 モンスターもなければ魔法もない、戦争もない安全な世界。そのかわり、スリルもなければライバルもいない、退屈な学園生活。

 どうせこれからもそういうものが続いていくのだろう、とあやめはあっさりそう見切りをつけたのだった。

 そう、そのはずだったのだけれど。




 ***




 ・

 ・

 ・


358:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

いるよねー、そういうお高く留まってるっていうの?

私は皆さんとは世界が違うンデスーみたいな女


359:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

わかってくれるとはありがたい


360:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

ていうか、そいつイニシャルでS・Mであってる?あれ、名前先に書くんだっけイニシャルって。

なら、M・S?


361:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

エスエムって響きだけでなんかワロwww


362:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

あってるあってる、その女子


363:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

なんかサッカー部の男子にちょっとちやほやされてたっていうか?気に入られてるっぽいのがムカつくんだよね。眼鏡のジミ女のくせにさ


364:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

いっつも教室の隅で本読んだりなんかノートにラクガキしてる系女子。見てるこっちも暗い気分になりそうで、はっきりいっているだけで害なんですけど


365:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

言い過ぎ言い過ぎ


366:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

え、さすがに本読んでるだけでそういう風に言われるのきついんだけど


367:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

Sの場合はそれだけじゃないんだってば。なんていうか、空気も読めないというか?

クラスで一番盛り上がってるグループに入れてやってんのにさ、喋ってても全然話合わせてこないんだよね。なんか曖昧に頷いてるだけなのがムカつく。仕方ないので頷いてあげてますーみたいなウエメセな態度が見え見えで


368:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

この間それとなく友達が、そのサッカー部の男子と話してた件を聴いてたんだよね。そしたら、なんかサッカー部のマネージャーやらないかって誘われただけだつってさ。

はあああ?ってかんじじゃん。それ自慢?みたいな。サッカー部の女子マネやりたい奴なんかいっぱいいるのに、みんな断られてるんだっつーの。あのイケメン集団にみんなお近づきになりたいってのにさー


369:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

ああ、ようするに遠回しに「私は誘われてますけど?」みたいな自慢?それは腹立つな


370:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

サッカー部の女子マネって、そんなに人気あるんだ


371:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

>>370

うちの学校、全国区だし、顔面偏差値高いからね

マネージャーの入部試験があるんだよ冗談抜きで


372:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

なんかサッカーの知識とかやる気とか試されるんだっけ?まじでメンドクサイ。イケメンと話したいからって理由で何が駄目なんだっつーの


373:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

つかマネジやるような女なんかみんなそうだっつーのにねwww


374:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

>>373

さすがにそれはマネやってる人達に失礼では

話題の中心になってるSって女子がどうかは知らないけど


375:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

まあ、だから嫌われちゃったのか。そのクラスの中心的?な女子達に


376:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

腹立つことがあるならこんなチラシの裏になんか書き込んでないで、直接言いに行けば?

ここsage進行とはいえ検索には引っかかるんだから、そのSだって見てるかもしれないよ?

仲良くしてると思ってた女子グループの友達が、実は自分のことめっちゃ嫌ってたなんて知ったらショックでしょ


377:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

>>376

表で堂々と言ったらうちらが悪者になるじゃん。被害者ヅラされたらムカつくでしょ、悪いのはあっちなのに


378:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

むしろここ見ててくれたんなら話が早くて助かるかも。うちらのグループに無理やり入ってきて迷惑だったんだよね。

さっさと抜けてくれた方がマジ助かるんだわ


379:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

わかりやすくお荷物だし、うちらのイメージ下げかねないし


380:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

女怖すぎね……地味系だからって美人に嫉妬しすぎ


381:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

お、なんか湧いた


382:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

擁護お疲れ様でーすww

男子のふりした本人なんじゃないの?


383:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

本人が自分で自分のこと美人とか言ってんの?だとしたらドン引きwww あの程度の見た目でwww

ていうか瓶底眼鏡のくせにねwww


384:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

なんでそうなるんだ


385:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

>>380と>>384同一人物?

本人じゃないなら、変な擁護とかやめた方がいいよ。本人降臨だって騒がれて、余計その子を傷つけるだけだから


386:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

ていうか、関わらない方がいいよこういう女子たち


387:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

まじでうぜー


388:学園のロンリーガール/ロンリーボーイ@名無しのメロン

>>387

お前がな




 ***




 その掲示板を見つけてしまったのは偶然である。まだどの部活動に入るか決めていないので、参考までにそれぞれの部活の評判なんかを調べてみようとしていた矢先のことだった。ああまさか、学校の裏掲示板なんてものが、自分達が通う音藻高校にあろうとは。それも、見る限りなかなか過激で、闇が深い代物である。


――ていうか、一年生用の掲示板でしょ、これ。クラスはさすがに書いてないけど、イニシャルでS・Mって……。


 しかも、瓶底眼鏡の地味系女子、なんて来た。

 ほぼ間違いなくあのロミーそっくりの少女、清水都だろう。とすれば、彼女の悪口を散々書き込んでいるのは、都が一緒にいた派手系女子達のグループのメンバーに違いない。

 合ってないとは思っていたが、それでも都なりに彼女たちとは仲良くしているし、彼女達も都を受け入れているように見えた。それがまさか、裏ではこんな風に悪口を言われまくっていたとは。

 しかも、サッカー部のマネージャーにスカウトされたことが原因なんて。そんなの、本人にはまったく非なんてないではないか。サッカー部の男子に声をかけられてた理由を話したのも、本人が言おうと思って言ったことではなく、グループの女子に尋ねられて仕方なく答えただけであろうに。


――コワすぎ。……あいつ、なんでそんなグループに入ってんのよ。自分でも空気合ってないってわかってそうなもんなのに。


 ロミーなら、絶対言いなりになんかならないし、そんな連中なんかさっさと見切りをつけるだろうに。そんな風に考えたらもう、腹の底からまたムカムカが湧きあがってきてしまう。


――ふ、ふん。好きにすればいいわ。私にはどーせ関係ないし。


 胸糞悪いとは思うが、自分は何も都と仲良しなわけでもなんでもない。気にかけてやる必要も何もないだろう。

 そう、あやめは思っていたのだった。その時は、確かに。

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