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白い月の影  作者: ふじしろ
7/30

7.能力

十畳ほどの大きさの部屋に天蓋を施した小さなベッドがひとつベッドの上には緑尽が苦しそうにあえぎながら横たわっていた。その傍らに主治医が悲しそうな眼差しで緑尽を見下ろしてたたずんでいる。赤羽が黒鷹と白虎を連れ立って入った時には緑尽の苦しそうな呼吸の音だけが部屋に響いていた。

主治医が三人に気が付くと「こちらへ」と手招きをした。三人が緑尽のベッドのそばに近寄ると天蓋の薄布越しにでも緑尽の熱で赤くなった顔を見て取ることが出来た。

「おかわいそうに・・・」

思わず口をついて出た白虎の言葉だった。

「私の力ではもうどうにも・・・」

と主治医が頭を振りながらつぶやくように言った。

その時青磁が紫音を傍らに部屋へ入ってきた。「遅くなりました。」と主治医に向けて挨拶をすると「さあ」と紫音を促しながら二人とも足早に緑尽のベッドに歩み寄った。

青磁が天蓋の麻をゆっくりと上げると紫音がその下から潜り抜けて兄の額に手をあてがった。

「お兄様・・・苦しいの?」

紫音が声をかけると緑尽がゆっくりとまぶたを開いた。苦しそうにあえぎながら紫音の顔を見定めると懸命に笑おうとする。

「無理をしないで!」

と紫音が言うと青磁の方へ振り返り

「治癒してもいいのですね。」

とそのよく見えぬ瞳で青磁をまっすぐに見つめた。

「はい。こちらに翁の許可もあります。お願いいたします。」

と青磁は紫音に向け頭をたれた。緑尽は事の次第を理解したようで紫音に向けてその細い右腕を差し出しながらか細い声で言った。

「やめなさい。あなたが・・・疲弊してしまう。」

紫音は大きく深呼吸すると跪きその緑尽の右手を両手で握り締めた。

「大丈夫お兄様。熱を取るだけです。」

そう言うと紫音はゆっくりと目を閉じ自分の右手の人差し指と親指でVの字を作りその手を自分の胸元へかざした左手は緑尽の右手をしっかりと握り締めている。数秒間紫音は目を閉じたまま祈るような姿勢をとっていたが次の瞬間二人のつないだ手の辺りがぼうっと明るく輝いた。紫音はゆっくりと手を離すと立って近くにあった洗面器の水に自分の左手を浸した。洗面器の水が小さくジュッと音を立てたように見えた。と同時に紫音がスローモーションのように倒れそうになるのを素早く黒鷹が抱きとめた。紫音を抱えたままひざまずくと黒鷹は急に不安になり青磁にたずねた。

「青兄!紫音さまは?大丈夫なのですか?」

青磁は緑尽の顔から熱の赤みが取れているのを確認すると黒鷹の方へ歩み寄った。

「いきなりでびっくりしただろう。実際に見るのが一番と思ったのでお前たちを呼んだんだ。紫音様は大丈夫だ。一晩ゆっくりお休みになれば明日の昼にはお目覚めになろう。お前と白虎で紫音様をお部屋までお連れするように。この事態の説明は明日紫音様が回復なされてからにしよう。いいな。赤羽は緑尽様のおそばにいるように。私は翁に報告してくる。」

てきぱきとした青磁らしい指示の元四人がそれぞれの役目をこなしていく。紫音の左手にそっと触って見た黒鷹はいつもの手の暖かさを感じ安心した。跪いている黒鷹を見下ろしながら心配そうな白虎の影が緑尽の部屋に長く伸びていた。黒鷹と白虎は見たことも無かった紫音の能力に驚くと同時にこの紫音を守るという自分たちに課せられた責任の重さを感じていた。五月にしては少し暑さする感じる夜。黒鷹と白虎はうっすらと額に汗を滲ませていた。


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