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白い月の影  作者: ふじしろ
5/30

5.関係

青磁と黒鷹は共に村一番の武芸者であった雪虎(せっこ)を父に持っていた。雪虎ももちろん先代のミコを警護するクロコの一人であったが四年前の戦いの傷が原因で数年後その命を落としていた。四年前NC七七九年のことである。アメリカの特殊部隊がミコの能力の情報を入手しヤマトの村に夜襲をかけてきたのだった。ヤマトの暮らす村は焼き討ちに合い多くの民が命を失った。翁とその当時のクロコである雪虎が当時のミコの子供である緑尽と紫音を避難させた。また家の納谷に隠れていた赤羽と白虎も幸運にも助かりこの時から雪虎の家へ引き取られ青磁と黒鷹と兄弟として育てられることとなったのである。赤羽十四歳白虎が九歳の時のことであった。


クロコの子孫がクロコになると言う掟は無かったが村から尊敬される誇らしい自分たちの父親を見て子供がそうなりたいと望むのは自然の流れというものでありまた長男の青磁と次男の黒鷹は父親似の風貌と雪虎のクロコとしての才能を受け継いでいた。

黒鷹にとって兄の青磁は幼い頃からの憧れであり目標であった。六つ年上のこの兄は寡黙な落ち着きの中に秘めた闘志を持っている数少ない武芸者と幼い頃から評判が高かった。

青磁が長剣を使うのでまだ持てもしないくらい幼いころから黒鷹も長剣を選んで稽古に励んできた。青磁も自分とよく似た面差しの黒鷹をことの他かわいがり何かにつけ面倒をよく見てきたのだった。物事に枠をつけることなくまっすぐに挑む弟・黒鷹は青磁にとって多分自分より大器になると踏んでいたのでその分日々の稽古にも十分気合を入れ臨んでいた。


幼い頃少し体の弱かった白虎は青磁と黒鷹の稽古に加われないことがよくありそんな時は一人姉の赤羽の膝に顔をうずめていて泣いていた。青磁が自分より黒鷹を買っていることは白虎にとっては何かにつけ幼い頃から感じられることだった。白虎は何時の頃からか(黒兄より自分は劣っているんだ。)と心のどこかで思うようになっていた。またそんな白虎を何かにつけ面倒を見てきたのは他ならない黒鷹だった。白虎が同じ年の友達にいじめられ泣きながら帰ってくると仕返しのためまっさきに家を飛び出していくのは黒鷹だった。黒鷹が青磁に憧れるように白虎もまた黒鷹に憧れを抱いていた。上の義兄二人と見てくれの違う自分にコンプレックスを抱きながら日々の鍛錬にいそしんできたのは白虎が上の二人に何とか仲間に入れてもらおうとする一心であった。


白虎の容姿は当然のことながら姉の赤羽に似ていた。

(白い髪と銀色の眼はクロコというよりミコ側に近い容姿ではないか。)

白虎のコンプレックスの一番の要因はこの兄たちと違う自分の容姿からも生じていた。そんな弟の気持ちを一番理解しいつも甘えさせてくれるのが姉の赤羽であった。白虎よりも少し黒い色が入ったグレーの髪と真っ赤な瞳を持つこの少女は女性としてはただ一人クロコの試験に合格し、しかもその抜きん出た腕前で兄の青磁とともに第一継承者であるミコの緑尽の警護に選ばれた優秀なクロコであった。赤羽は泣いている白虎の頭を撫でながら「黒い髪と黒い瞳が正統なものと考えることはないのよ。私たちヤマトの民の中には色んな髪の色目の色の人々が暮らしているじゃないの。」と教え諭していた。しかし思い込んでいる白虎にはその言葉すら裏目に聞こえてくるのだった。

両親が亡くなった後は優秀な長男青磁が父親役優しい赤羽が母親役で下の二人と共に成長してきたのであった。


そんな二人の成長をずっと見てきた翁はかわるがわる目前の二人を見つめると声を低くして告げた。

「お前たちも覚えておろう。四年前の戦で証明されたようにアメリカの軍にミコの能力の情報が一部漏れておるようじゃ。アメリカの特殊部隊が緑尽様の母君碧卯(せきう)様をねらい夜襲をかけ、われらの村を焼き討ちにし碧卯様を連れ去ろうとしたあの夜あの戦を境にわれらは定住をあきらめた。表向きは各地での祭りごとの際歌と踊りと祈りをささげる流浪の民と振舞いながら年毎の移住を余儀なくされておるのじゃ。それに我らヤマトの民は手先が器用じゃ。副業として一部職人たちはお前たちが今身に着けている小型イヤホンと腕につけておる携帯レシーバーなどをジャンク品から再改良し各地で販売しておる。そういったものも営みの一部となっておるがの。」

翁は自分の白いあごひげを上から下になでおろしながらゆっくりと微笑みながら言った。

「緑尽様と紫音様の追尾は年を追うごとに厳しくなっておるようじゃ。向こうも色々探索の方法を編み出しておるようじゃし。お前たちの責務も重くなる一方じゃの。おっとずいぶん時間をとってしまったわ。それでは今日の話はここまでとしようか。」

というと翁はゆっくりとため息をついた。黒鷹は道場の入り口から見える五月のすっきりとした青空に目をやった。深い翁のため息は新緑の風に乗って雲ひとつ無いその空へ吸い込まれていくようだった


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