20.追跡
どこまでも続く赤土のまっすぐに伸びた南アメリカの道路の上を赤い土煙を上げながら真っ黒な四輪駆動のジープが5台列を成して南下していく。ジープの後部にはそれぞれ二台づつバイカーが載せられている。ホロでかくしてはあるものの軍部の仕様になっているバイカーと一目で解るそれは風であおられるホロに時々チラリと姿を見せている。車内には三~四名づつの屈強そうな男たちが乗り合わせている。民間人と同じような服装はしているもののどの目も鋭く中には顔面に大きく傷を描いているものも見受けられ、また屈強な肉体から明らかに訓練を積んだ兵士達だと解る。車内に会話は無く後部座席では通信機器でどこかと連絡を取り合っている様子が伺える。
先頭の車両の助手席に中でも一番体格のいい軍の少尉自由人が座っていた。白く長い髪と黒い切れ長の瞳黄色い肌は明らかに他の白人種の兵士とは一人だけ異なる人種だということは誰の目にも明らかだった。
後部座席の部下が携帯の機器から情報を取り出し自由人に伝える。
「ジュード少尉次の地もヤマトはすでに出発したもようです。」
自由人は聞き飽きた顔で後部座席へ半身振り返るとだるそうにたずねた。
「“すでに”って何時のことだ?」
「はっ!」
と部下があせって手元の情報機器を操作する。暑さも加わり自由人はさらに苛立ちを見せながらはき捨てるように言う。
「それ見て解んのかよ!また次の所へ行って聞き出すしかねえんだろうが!」
「はっ!」
部下が流れるような汗をかきながら手元の機械を操作し続ける。
「一生やってろ!」
自由人は前を向き直るとシートをおもいっきり後ろに下げ自分の両足をフロントガラスの方へ投げ出した。両手を頭の後ろで組み上を向いてまぶたを閉じた自由人の頭の中には赤羽の面影が浮かんでいた。微笑む赤羽の顔少し困ったときの表情そして自由人が一番好きな遠くを見つめている赤い瞳・・・ぱっと目を見開いた自由人は一人心の中でつぶやいた。
(待ってろよ赤羽。もうすぐ会える。距離は確実に縮まってる。)
自由人の黒い瞳はどこまでも続く前方の赤い道をまっすぐに見据えていた。
ヤマトの民が二手に分かれ北と南の両極に移動し続けていることはアメリカの軍にはすでに情報として入っていた。自由人はヤマトのミコ「緑尽」を生け捕りにする命をサイモンからじきじきに受けていた。アメリカの軍部の中でもこのヤマトのミコに対する研究、ひいてはその力の軍事利用にいたることは機密事項であった。そのため自由人率いる軍のラインは通常の軍のものとは一線を画していた。つまりはこの捕獲作戦のためだけに作られた海賊部隊のようなものだった。その自由人の部隊によりヤマトの追跡は続けられていた。アメリカの軍も公に動けない弱さは持ちつつしかしその必要性は軍部中枢の中だけで日増しに大きくなっていった。
それまでもヤマトの民の存続について例えばあまりに早くに天変地異を察知し避難する習性などが軍の中で取りざたされてはいたものの単なる噂の域を出ず確固たる証拠も掴めぬままヤマトの民は移民としての存続をアメリカの国家の中で許されていた時代があった。その頃自由人はヤマトからの亡命を求めミコの能力を確実に情報としてアメリカへもたらした最初の人物だった。当時軍部の中ではこの情報について賛否両論あったものの真偽を確かめるためにも特殊部隊をヤマトに派遣し最初の生け捕り作戦を行ったのがNC七七九年のことだった。あの双子の姉妹碧卯と白酉の片方が生け捕りにされた戦いである。
現在はサイモンの巨大権力の後ろ盾の下、ヤマトのミコ探しの為その地位を与えられてはいるものの軍の中にはこの自由人を二重スパイなのではないかといった怪しむ声も現存していることは確かだった。
(ヤマトの民を迫害されし者として政治的に利用して軍部の力の弱小化をねらっているハト派のおっさん達がわざと俺たちの追跡情報を流してやがる。そろそろ俺がヤマトの情報を売った張本人だと言うことはあの翁のじじいにも届いてる頃だろうさ。)
自由人は不敵に微笑みながら考えていた。