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1配信目 じゃあまず年齢を教えてくれるかな?

Vtuberにハマりすぎて書いてしまった産物です。

よろしくお願いいたします。


※次話以降、主人公の挿絵的な画像が載っている話もあるので、挿絵が苦手な方は挿絵非表示にしてくだざい。





「じゃあまず年齢を教えてくれるかな?」



 少し広めの会議室でスーツを着た男性が静かに問いかける。

 手を組み、肘を机につき、メガネを光らせ問いかけるその様は、さながら尋問。

 最近急成長中のVtuber企業『キラキライブ』の第4期生の最終面接が今まさに行われていた。


 問いかけるスーツの男性の他、左右に二人。

 いずれもスーツに身を包み、自分の机の上に置かれた採用候補生の資料を眉間にシワを寄せてパラパラとめくり、撫でるように見る。


 そんな怖い(・・)雰囲気を醸し出す三人に相対(あいたい)するは一人の少女。


 肩まで有る、まるで濡烏(ぬれがらす)のように綺麗な黒髪に、どこまでも見据えていそうな真紅の瞳。身長は低く、胸も控えめだが、それはむしろ彼女にとっては長所でも有るだろう。

 スーツの三人に臨むにはあまりにも幼く見えるその少女は、まるでどこ吹く風といった感じで三人を一瞥(いちべつ)するだけ。


 目を見て話せ、とは古くから言われる言説だ。

 一見すれば失礼とも取れるこの行動は、しかし彼女のその豪胆さを表しているのかもしれない。


「に……」


 少女の可愛く小さな唇が動き始める。

 資料を読んで彼女の情報を知っている三人は、これから彼女の口が(つむ)ぎ出す言葉を聞き逃さまいと傾聴する。










「に↑、22しゃい…! っ…! え、と…あの…… 22歳………です…」







 これまで応募してきた候補生の誰よりも(うわ)ずった声で、そして、盛大に噛んだ少女は、それはそれは赤くなり、頬に紅葉(もみじ)を散らしまくっていた。




******



「に↑、22しゃい…! っ…! え、と…あの…… 22歳………です…」




 ウォォぉぉおおおおおおい!

 

 ああ、終わった。

 我の完膚(かんぷ)なきまでに完璧な社会性更生プログラムがあっけなく散った。


 ふぇぇぇえ……

 やっぱり人間怖い(・・・・)よ。目を見て話すとか無理だよ……


 もうまじ無理。ケルベロスの三首()で回して落ち着きたいよぉおぉお。この世界にはいないけど……


 マジでまずいんじゃが?

 案外行けるかなって思ってた我が馬鹿でした。どう考えても無謀でしたね、対戦ありがとうございました。


 引きこもりニート生活5年はここまで我の対人性能を破壊していたのか……

 勇者打倒の決起集会演説とかもう二度とできない気がするわ…… あんな大勢の前で演説とか気絶してしまうな。まあ今世でする必要まったくないわけじゃが。



「緊張するのも無理ないですが落ち着いてください。我々はあなたのありのままの姿を見たいのです。

 別に噛んでしまったことや、声が上ずったことなどでは採用の合否には全く影響しません。ゆっくりで大丈夫です。私の質問に焦らず答えてくださいね」



 3人のスーツの真ん中の人が柔和(にゅうわ)な笑顔で優しくしゃべる。


 確か…… メガネを掛けた初老のナイスガイだったと思う。入室してほんの一瞬見ただけなのであまり確かではないが、メガネをしていたのは間違いない。


 いやてか聖人かよ。優しいかよ。

 小汚い手を使う教会の人間にその優しさ見せてやりたかったよ。


「は、はい……」


「で、えっと、ご年齢は22歳ですね。

 すみません、書類にはもちろん記載されているのですが、その…… 随分とお若く見えたので一応確認のために」


「し、身長は、ちゅ、中学生くらいから伸びなくて、ず、ずっと149センチで…… む、おっぱいもあまりないですし…… へへっ……」


「なるほど」


 なにが『へへっ……』だよ、気色悪ぅ! 我、自分の事これほどまでに自己紹介できないのびっくりなんじゃけど!


 我はきっと未成年が間違って応募してきてないかって思われてるんじゃな。いやまあ、その感想は間違いではないと思うぞ。前世と違って今世の我は完全にロリじゃからな。

 中1のときにピチピチお肌を守ろうとして肌だけに不老魔法かけたつもりじゃったけど、もしかして我ミスってたか? 魔法かけるときにクシャミしちゃったのがあかんかったかもしれん…… うーむ、解呪しようにも今世の我ではまだできんからなぁ… ああ、前世のナイスバディの我が恋しいのう……


「では続いて。高校を卒業されたあとは特に進学や就職はされていないようですが、その間は何を?」


「えっと、その、株とか、あとヒットコインみたいな仮想通貨で投資を…… あ、あの!なので!結構お金、あります! で、でしゅので!お賃金は低くても問題ないです! むしろ無くても大丈夫です!」


「いえ、そういうわけには参りません。ライバーの皆さんにはしっかりと賃金をお支払いせねばなりません。仕事に対価を払うのは当たり前です。

 それにしても株や仮想通貨ですか。私はやったことがないのでいまいちどういったものか把握しておりませんが、かなり勉強をしていないと難しいものだと聞いています。きっと勉強家なのですね」


「た、多少は勉強したけど、水晶でおおよその運命は見られるから……」


 前世で勇者に敗れて気がついたらこの世界に転生していた我じゃが、この世界の生活が楽しくて普通に人間の生を謳歌(おうか)していた。サブカル文化最高じゃよね。ビバ日本。


 で、小学校中学校高校と普通に進学。

 じゃが、高校を卒業したあとは進学も就職もしなかった。というより必要なかった。

 ラノベやアニメでよく舞台になる高校生活を体験するのは我的には必須だったが、別に大学には興味なかったし、お金もちょーっと運命を覗いて投資すれば面白いように金が手に入るんじゃからな。

 ポチッとボタン押して大金が手に入るとか、我ってばまっこと天才!



 まあ、そのお金で自堕落な生活して部屋の外に5年間出てない結果、今の我が出来上がったわけじゃがな……



「これは単純に疑問なのですが、十二分なお金が有るのに当社の採用に応募した理由は何でしょうか?」


「お、お金があるから、生活には、困らないけど、そのせいでホントに外に出なくて、いわゆるひ、引きこもりで、ニートで、社会性皆無で、会社員になれば多少は、強制的に良くなるかなって……

 でも、普通の会社員でOLは、もう、無理ってやる前から分かるから、会社員と引きこもり、の間みたいなVtuberならいいかなって……」


「そうですか。ですが、ライバーになったあとはもちろんリスナーに向かって配信をしていただくことになりますが、大丈夫でしょうか?」


「そ、それはダイジョブです! じ、実際に声で話すのは無理だけど、リスナーは文字だから、そんなのレッサーゴブリンみたいなものですし!

 あ、あと!5ちゃんねるでレスバとかもしょっちゅうしてるのであ、アンチにも動じないです!」



 我が今回の採用に応募した理由は単純だ。変わるため。


 引きニートの我が社会性を取り戻すには会社員になるのが手だと思った。まあただ、普通の会社でOLやるのはハードルがエベレストなの自明の理。

 うーんと悩みながら、お気にのVtuberである『白月(しらつき)ノゾミ』ちゃんの配信を見ていたらノゾミちゃんが4期生募集のことをちらっと言っていてコレだ!と思ったわけじゃ。


 自堕落な引きニート生活に幕を引くにはコレしかない。


 それに、我には結構Vtuber適正があると思う。前世での力を使うこともできるし、人間にはなかなかできぬ芸当も何のそのじゃ。


「オフコラボ等をやられるライバーの方もいますが、そのあたりはどうですか?」


「お、オフコラボはできれば、い1年後くらいで……」



 うん、オフは無理じゃな!


「では通話をしながら一緒に企画をやるとか、そういったことは大丈夫ですか?」


「いや、あの、その、コラボ的なのはもうちょっとなれてからで……」



 オンラインでもコラボはハードル高いのじゃ……

 チャットで仲良くなってからならまあ、頑張れると思う。

 なんてったって、今でこそコミュ障の我だが、前世では勇者(ひき)いる人間軍と立ち向かう魔王軍の最高司令官その人じゃったのだからな! 感覚を取り戻せばコラボなぞ余裕ぞ! 今は無理じゃけど、いずれな。いずれ。



「ライバーは見た目をいくらでも『(つく)る』ことができます。だからこそ、創る事ができない『魂』が魅力的であることが必要です。リスナーは『心』を見ます。

 何かアピールしておきたいことなどはありますか?」


「あ、えと、我!水晶で運命見たり得意です! ああと、ゲーム得意で、レーペックスのプレデターです!」


「なるほどなるほど、レーペックスですか。FPSゲームがお得意なんですね」


「他にも魔法、じゃなくて、マジックもできるし、魔獣、でもなくて動物と心通わせるのとか得意!です! 他にも気配消すのとか!握力500kgとか! それとか、声真似とかアニメ声みたいなのとか出せるし、あ、そうなんですよアニメとか結構好きで、なのでサブカル系の話にもついていけますね! 好きなジャンルとかはまあ王道を征く勧善懲悪もいいんですけど、悪役側、ヴィラン側を描いてくれるのが好きですね! やっぱり正義の反対は悪じゃなくて正義みたいな? 正直我魔王だから悪側の気持ちわかりまくりングなんですよね。一口に悪って言ってもその悪にも人間関係や他の人には打ち明けられないくらい過去があったりするわけで、そのあたり、描写をうまくやっている作品は名作の割合が高いですね打率8割はあります。あぁもちろん気に入った作品はBD(ブルーレイディスク)を買うのはもちろん原作も買いますし何なら観賞用保存用布教用の3つは基本買いますね。まあ布教する相手があんまりいないのでSNSで主に布教でプレゼントしたり。ああSNSっていっても主に使うのはトゥウィッターですね。フェイセブックとかはちょっと。タッケトックとかもありえないですね。やっぱり民度というか、ああもちろんトゥウィッターも低レベルなのはいくらでもいますけどなんていうかSNSもそれぞれ空気感があってやっぱり我にはトゥウィッターがあってるみたいな――」


「なるほどなるほど。独特な世界観もありますね」



…………

………

……




「終わったのじゃ…… 我はヒキニートから脱出なぞできぬのじゃ…… なぜ世界はこんな試練を我に与えるんじゃ……」



 自分の家に帰ってきて我はすぐベッドにダイブした。


 あああああああああああああ恥ずかしい! ヒートデーモン並に顔真っ赤になってしまうわ!


 上がってしまって声は上ずるし、かみまくるし、終始気持ちの悪い笑みを浮かべてしまうし…… 挙句の果てには得意なこと聞かれて余計なことまでしゃべるし。もうあれはアピールとかじゃなかったしね…… 気持ち悪い自分語り。隙を見せた面接官が悪いと責任転嫁してもこのもやもやした気持ちは決して晴れることはない。


 ていうか今にして思えばダボダボなTシャツ着て面接受けたのは完全に失敗じゃなかろうか? お金はあるのだからスーツ買うべきだったような……


「まあ今日は我頑張ったほうじゃろう…… 久しぶりに昼間に外に出たし、面接もブッチせずに受けたし…… 及第点どころか100億点くらいじゃ……

 はぁ…… ノゾミちゃんの配信見よ…」



 そう言って我は去年組んだ自作PCをいつもどおり起動する。

 すると1件メールが届いていた。


 どうせいつものクレジットカードの利用通知かソシャゲのイベント案内じゃろうな。あー、もしかしたら同人ショップのクーポン券とかかもしれん。久々になにか買おうかな。





――――――――――――――――――――――

▽今日    

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キラキライブ 16:09

キラキライブ第4期生最終面接結果のご案内 









1配信目お読みいただきありがとうございました!

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[良い点] 最後ちょっとオタク出てて草
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