婚約破棄イベントのドレスコード。
突然だけど、アタシは身体の性と心の性が一致していない。身体は男性、心は女性。
世間一般では、オネエと呼ばれるのかしら。まぁ他人からの呼び方に興味などないけれど。
アタシは昔から化粧が好きだった。母がおめかしするのを横でじっと見つめて、化粧を重ねることで顔立ちが魔法のように変わっていく工程に心奪われた。
スカートも好きだった。ヒラヒラしていて、ついつい視線で追ってしまう。ハイヒールも。少しだけ目線が高くなっただけなのに、気持ちが前向きになる。不思議よね。
子供の時から母の真似事をした。化粧をしたり、子供用のハイヒールは流石になかったから、スカートに可愛いブーツをはいたりしていた。
両親はアタシの好きなようにしていいと言ってくれた。
だけど、ある日言われたの。
「男のくせに、なんで女の格好してんだよ」
近所の男の子だった。サッカーボールを持っていて、公園から帰る途中だったのだろう、服は泥だらけだった。足には青あざや傷があって、絆創膏がはられている。髪は短くてボサボサ。
日焼け止めを毎日塗って、ハンドクリームで保湿している、傷一つなくて白いアタシの肌。サッカーよりも家で料理をしている方が楽しい。髪は肩くらいまでしか伸ばしていないけれど、ちゃんと手入れしているからサラサラだ。
何もかも。アタシと彼は真逆だった。
「お前男なんだろ。サッカーやろうぜって誘っても断るしさ。付き合い悪ぃ。しかも、その格好なんなの?だっせー」
そう言って、彼はケラケラと腹を抱えて笑った。
この時にアタシは知った。世間の"普通"とアタシの"普通"は違うんだと。男の子は化粧をしない。傷を気にしない。目の前の彼が、世間では"普通"の男の子。違っているのはアタシの方なんだと。
隣にいた母がアタシを気遣うように視線を向けてくる。震えていた肩にそっ…と手を置かれる。「いいの。気にしなくていいのよ。貴方は貴方。私の愛しい子供よ」そう言ってくれた。
アタシが泣きそうになっていると思ったのだろう。
…ありがとう。でもアタシ、そんなに弱くないのよ、お母さん。
私は男の子の前まで、しっかりとした足取りで歩いた。前に立つと、彼は笑うことを止めてアタシを不思議そうに見つめてくる。
パチン。軽く、彼の頬をぶった。そして、ぽかんと呆ける彼を鼻で笑ってやった。
「だから何?アタシはアタシが好きなことをやっているの。貴方がどうこう言う権利はないのよ」
にっこりと笑いかけてやると、彼は顔を真っ赤にさせた。はくはく…と口を開くばかりで、餌を求める魚みたい。
ほら、ちょっと言い返してやればもう反論できないんでしょう。そんな大した覚悟もない、軽い言葉でアタシを批判しようなんて。いい度胸じゃない。
ハンカチを取り出して、彼に手渡す。「これを水で塗らして、頬を冷やせばいいわ。叩いてごめんなさいね」と言い残し、驚いて固まっている母と手を繋いで、家へと帰ろうとする。
あ、そうだわ。言い忘れていた。彼を振り返った。
「その阿呆面。貴方の方が格好悪いわよ」
残念だったわね。アタシ、結構強いの。心がね。
◆◆
月日は流れて。アタシは高校生になった。
校則で化粧はできないけれど、アタシはアタシらしく過ごしている。男友達も女友達もいる。勿論、アタシの個性をそのまま受け入れて、そっちの方がいいとまで言ってくれる人たち。
友達以外の関係の人もいるのだけど…。こっちはなんて言えばいいのかしらね。
「姐御、カバンお持ちします!」
「きゃあ、こっち向いてください!女王様!」
「お願いします。一生のお願いです。俺を踏んでください…!!」
…本当、なんて言えばいいのかしらね。姐御も、女王様も、アタシが強制した呼び名ではないのだけれど。
目立つから止めてと言ったら、死刑宣告を受けたみたいな顔をされたし。
結局、害はないので放っておくことにした。
少し変わった生活ではあったけれど、楽しく学校生活を過ごしていた。だけど、ある日の下校中。スクールバッグを持って、家に帰る途中だったアタシの足元が急に輝きだした。
眩しくて目をつぶる。次に目を開けた時には、アタシは見知らぬ場所に立っていた。
「ここは…どこなのかしら?」
知らない屋敷だった。まるで中世の貴族のお屋敷みたい。おそらく日本ではないわね。
未知の状況に驚きはしたけれど、ここで狼狽えるなんてアタシらしくない。アタシの美意識が許さない。ふぅ…と溜め息をついて、自分を落ち着かせる。
いいわ。やってやろうじゃない。予想外のことなんて、いくつも経験してきた。大したことないわ。
取り敢えず、今、アタシがしなくちゃいけないことは状況を把握すること。どこかに人は…と辺りを見回した時。
誰かの泣き声が聞こえてきた。あら、探す手間がはぶけたわ。
泣いているのは、アタシと同じくらいの女の子だった。
外国人ね。あまり手入れはされていないようだけど、金髪が染めたものじゃなくて自然で綺麗な色をしているから。彼女は緑色の…はっきり言って、全然似合っていないドレスを着ていた。
普通はドレスを着ていることに驚くべきなのだけど、センスの悪さに先に引いてしまった。布地は悪くないからいいものなんでしょう。値は張るドレスね。きっと。だけど、色。色が駄目。彼女の髪色に全く似合っていない。若いのに、しわしわのおばあちゃんが着る服装をしているものだから、アンバランスだわ。
「似合ってないわね、その服」
だから、アタシは思わずそう声をかけた。彼女はビクッと肩を揺らして、アタシを見上げる。彼女のセルリアンブルーの瞳と目があった。長い間泣いていたのか、目は充血していた。それでも澄んでいて綺麗な瞳。
勘が鋭いアタシはピンときた。この泣き方、もしかして失恋かしら。
「貴方は、どなた…?」
「小さな声では聞こえないわ。もっとはっきりと喋って」
「え?」
「はっきりと。口を大きく開けて。ハキハキと。分かったわね」
「はい…?」
それがアタシとオリビアの出会いだった。アタシは泣いている彼女にハンカチを差し出し、話を聞いてあげた。泣いている子を放ってはおけないもの。
オリビアは困惑しながらも、殿下から婚約破棄されそうなのだと言った。
「異世界から来た女性が好きになったと…」
「ふぅん。異世界ね。ちょっと信じられないけど、アタシも異世界の人間ということになるのかしら」
「えっと、あ、もしかして。貴方も?」
「おそらくね。話を遮ったわね。続けて」
「…私との婚約を破棄したいと言われまして。異世界の方ならば、平民や貴族という身分はありませんし…。珍しい知識がある彼女をこの国に引き留めるためにも、殿下との結婚はよい案だと、陛下も」
「貴方の意見は、全く聞いてもらえなかったわけね」
「はい…でも、ずっとずっと好きだったんです。あの方に相応しい婚約者になろうと、努力もしてきて」
そう、とアタシは相槌を打つ。努力、ねぇ…。
「嫌いな勉強も頑張ったんです。次期王妃になるなら、ちゃんとできるようにならないとって。でも、全部、水の泡になっちゃったんです。私って、今まで何やってたんだろうって。何のために頑張ってきたんだろうって、思ってしまって」
「…」
「あの方を愛する気持ちなら誰にも負けません。こんな私でも頑張ってれば、いつか彼に見てもらえると思ってたのに…」
はぁ…とアタシは深い溜め息をついた。大人しく聞いてはいたけど、ちょっとイライラしてきたわね。「ねぇ、オリビア」名前を呼ばれてこちらを見る彼女に、アタシはデコピンした。
「いたっ…!」
「一つ訊くわ。貴方のその努力は、誰のため?」
「誰の…ため?」
「勉強やマナーを頑張った。そう。よかったわね。でも、努力はただの過程でしょう。努力したら必ず報われるなんてことあり得ないわよ。努力をしたからといって、貴方の努力を見ていない王子にとっては、結果が全て。努力していたのに選んでくれないなんてと駄々をこねるのは見苦しいわ」
「見苦し…?!」
「アタシも努力する人は好きよ。だけどね、アタシが美しいと思う努力は、貴方の努力とは違うわ」
目を丸くしているオリビアに、ふふんと不敵に笑ってやる。
「アタシが美しいと思うのは、自分のための努力。他人のためじゃない。他人に認められるための努力じゃなくて、自分が自分であるための努力。努力したから見て!と叫ぶ人なんて、見苦しくて見てられない。大事なのはね、自分なのよ。他から認められなくてもいいの。自分が満足してるならね」
「自分のための努力…」
「そういう生き方が美しいと、アタシは思うの」
もう一度訊くわ、とアタシは先ほどの言葉を繰り返す。
「ねぇ、オリビア。貴方の努力は誰のため?」
彼女は数秒口をつぐみ、そして、迷いながら話し始めた。
「私は…私の努力は彼のため"でした"。あの人に見てほしい。認められたい。貴方の言う綺麗な努力ではなかったと思います」
「そう」
「でも!」
ぱっとオリビアは顔を上げる。
「これからは!自分のために、努力したいです。貴方の話を聞いてそう思いました。貴方みたいに強くなりたい。…強く、なれますか?私も」
アタシは満足して頷いた。ぐしゃぐしゃと、彼女の頭を撫でてあげる。ちょっと乱暴だけど、アタシの癖なのよね。百点満点の回答を言いのけた子を褒める時は、いつもこうしてしまう。
「勿論よ」
だってね、失恋を乗り越えた時点で。一つ、貴方はもう強くなっているんだから。なれるわよ。強く。貴方なら。
◆◆
正式な婚約破棄の発表は、一週間後のパーティーでされるらしい。それを聞いたアタシは喜んだ。
「あら。じゃあ最後に、盛大な嫌がらせをしましょうよ」
「嫌がらせ?」
「そう!一週間後のパーティーで、とても綺麗になって、王子にこんな美しい女を手放したなんて、と後悔させてやりましょう」
「後悔、してくれるでしょうか?」
「できるかどうかじゃないわ。やるのよ。手放した女が蛹から蝶に変わってしまって、でも自分は去っていく背中を見ていることしかできない。ええ、傑作だわ。最高ね。まるで映画のよう」
「エイガ?」
「こちらには映画がないのね。演劇みたい、と言えば分かる?」
「あ!演劇なら分かります」
「ふふ。貴方は女優になるの。アタシは映画監督のポジションかしら。最高の光景を見せてちょうだい」
「…貴方って、結構性格が悪いですね?」
「あら、ご不満?」
「いいえ!最高です!」
アタシたちは長年の悪友みたいに笑いあった。
そこから一週間はあっという間だった。
アタシはオリビアの屋敷に客人として引き取られ、彼女の指導者になった。
まずオリビアのファッションセンスを指導した。しわしわのおばあちゃんスタイルは今日でお仕舞い。彼女に似合う服を教えて、パーティー用に肩を出した綺麗な青のドレスを選んだ。彼女のセルリアンブルーの瞳にとてもよく似合った。
次に髪をどうにかした。毎日オイルを塗って、丁寧にブラシでとく。長めの前髪を切って、毛先を整える。
オリビアは肌が元々綺麗だったし、マナーも姿勢も完璧だったから、たった一週間で完璧に仕上げることができた。
そして、いよいよパーティーの日。アタシもついていくことにした。だってせっかくアタシたちが作り上げた映画なのだから、監督が見なかったら駄目じゃない。
漆黒のタキシードを着て、化粧は控えめに。今日の主人公はあくまでもオリビア。今日だけは彼女の引き立て役に回ってあげる。自分の支度が終わったら、オリビアの部屋に行く。
「オリビア。入るわよ」
ドアをノックして、部屋へと入る。綺麗に着飾った彼女が立っていた。オリビアはアタシを見て、目を丸くする。
「いつもよりも…格好いい感じです。男性っぽい格好ですね」
「ふふ。今日はね。ちょっと監督も脇役をやってあげようと思って」
「脇役?」
「あとで分かるわ。さ、仕上げに化粧をしてあげる。座って」
素直に椅子に座ったオリビアに、化粧を施していく。瞳を強調する青のアイシャドーと、愛らしい桜色の口紅。肌は元々綺麗だからほとんど手を加えない。濃い化粧はしなくていい。そちらの方が彼女の魅力が引き出せる。
仕上がった彼女は、青に飾られた、月の妖精のようだ。いい仕事をしたわ、とアタシも仕上がりに満足する。
「わぁ…別人みたいです」
「これからが本番よ。準備はいい?女優さん」
「ええ、勿論です。監督」
アタシたちはパーティー会場へと急いだ。会場は王族の住む城だった。馬車が止まると、アタシがエスコートしてあげた。
「貴方がしてくださるのですか?」
「だって、王子が他の子をエスコートするなら、貴方は一人じゃない。レディを一人で行かせるわけにはいかないわ」
「まぁ…脇役とはこのことなのですね。ではお言葉に甘えて」
アタシは貴族の生まれでも何でもないから、パーティーには参加したことはない。
けれど、努力するオリビアの隣で、アタシも同様にこの国のエスコートの仕方は本を読んで学んだ。彼女に恥はかかせない。
彼女が会場に入ったら、一瞬、しんっ…と静かになった。
お喋りをしていた令嬢たちも、他にパートナーがいる紳士たちも、皆、オリビアに釘付けになったのだ。
えぇ、素敵でしょう?アタシが育てたお姫様は。
目を見開いて驚いている、綺麗な身なりの男子がいる。この人が王子ね。その隣が異世界の人間。ふぅん。ま、アタシが磨き上げたオリビアには劣るわね。
「オリビア?」
「お久しぶりでございます。殿下」
オリビアが優雅な所作で挨拶をする。「なんで…君は…どうして…」と顔を真っ赤にしながら、ぶつぶつと独り言を言う王子。ふふん。いい反応するわね。
「殿下。覚悟はできております。婚約の破棄を、宣言してくださいませ」
聖母のような笑みを浮かべながら、はっきりと言いきるオリビア。王子の顔が茹で蛸のようになって、ぽー…と彼女を見つめる。
あらあら。これは惚れられたわね。惚れ直された相手を手酷く突き放すなんて、最高じゃない。
オリビアもどうやらアタシと同じことを思ったようで、「さぁ、殿下?」と輝かしい笑顔で詰め寄る。さぁ、婚約の破棄を。
「あ、あの、オリビア。君がよければ、また僕と…」
「殿下が真実の愛を見つけられたと聞いて、私はとても嬉しゅうございました。何百年経てども冷めぬ愛だとか。生まれ変わっても、同じ方を好きになると仰っていましたね」
「う…あぁ…」
「真実の愛。えぇ、とても素敵!私も次に好きになった方とは、真実の愛なるものを育てて行きたいものですわ」
言うじゃない。アタシはオリビアの言葉に、笑い出しそうになるのを必死にこらえた。
もうよりなど戻すものか、と遠回しに言っていて、ついでに王子の心をえぐっている。最高…!と叫びたいのを、ぐっとこらえる。
王子は、酷く悔しそうな顔をした。そして、ようやく周りに宣言をする。
「僕とオリビアの婚約は…破棄…する!!」
なんともまぁ、格好悪い姿だこと。
顔は真っ赤で、悔しそう。破棄したくないのがバレバレだ。だけど、既に破棄するのだと言ってしまった以上は、もう戻れない。
「はい。慎んでお受けいたします。どうかお幸せに」
あっさりと破棄を受け入れるオリビア。婚約者に裏切られてこんなに堂々としてられる令嬢は他にいるだろうか。
用事は済んだとばかりに、「では、私は気分が優れないので、帰らせていただきますね」とオリビアは王子に目もくれず、アタシの元に戻ってくる。
「エスコートをお願いできますか?」
「勿論」
手を差し出すと、彼女の小さな手が添えられる。アタシは王子の方をちらりと見た。
歯軋りをしている。彼女の側にいるアタシにその場を代われとでも思っているのだろうか。
アタシは、意地の悪い笑みを浮かべて、彼女の手に顔を近付ける。
チュ。そして、オリビアの手の甲に口付けした。
王子の顔が更に赤くなった。今度は怒りでだ。でも、もう彼女は婚約者でも何でもないから、責めることもできない。
煽られるのに慣れてないのね。駄目な男。
アタシは鼻で笑って、オリビアと共にその場を後にした。
「最っ高でしたっ…!!」
「あの顔!アタシを恋人をとった盗人だとでも思っているみたいだったわ!」
「貴方が捨てたんですよ、って言いたいくらいでしたね!」
「オリビア!貴方って素晴らしいわ!アタシの期待以上よ!」
「貴方もとっても素晴らしいですよ!」
馬車に飛び乗ったアタシたちは、アハアハと笑い始めた。悪戯が成功した子供のように。
「最後の口付け。王子様ですかってくらい、格好よかったです」
「嬉しいことを言ってくれるわね」
「本当ですよ。貴方は最高です」
「アタシもオリビアは最高だと思うわ」
「ふふ。貴方に出会えてよかった。もし貴方がいなかったら、私は部屋に閉じこもってばかりで、弱いままでした」
「強くなったのは、オリビア自身の努力の成果よ。アタシは手助けをしただけ」
計画が成功して、アタシたちは口々に褒め合った。貴方のここが好き、王子の反応のここがよかった、ここが笑えた、自分のイチオシはここ、という風に。
一通り言い終えて、少し落ち着くと、オリビアは「貴方はこれからどうするんですか?」と尋ねてきた。
「帰り方を探すわ。帰りたいもの」
「…でも、まだ目処は立っていないのですよね?」
「そうね」
「あの…よければ、ですが。帰り道が見つかるまで、私の屋敷で働きませんか。執事として。給金はいいですよ。住む場所も確保できます。常識も違う異世界で生活するなら大変なことも多いと思いますし、私の屋敷なら、色々とサポートできますよ」
「いいの?」
「ええ!貴方なら大歓迎です!」
ぱっとオリビアは顔を輝かせる。この数日で結構懐いてくれたのよね、この子。アタシがいなくなるのが寂しいのかしら。
異世界にいる間、確かにアタシには居場所がない。だからオリビアのお誘いはありがたかった。
「じゃあ、お願いしようかしら」
「本当ですか?!」
「ええ」
「わぁ、嬉しいです!…あ、あと、もう一つだけ」
「…?」
「お願い…がありまして」
「どうしたの?はっきりと喋るように言ったじゃない」
「はい!お願いがあります!」
酷く緊張した様子で、オリビアは声を上げた。
「お姉様、とお呼びしてもよろしいでしょうか?!」
おねえさま?まさかそんなことを言われると思っていなかった、アタシは驚いたけど、すぐに吹き出した。そんなことを言うのに、緊張するなんて。
「ええ、いいわよ。好きに呼びなさい」
確かにアタシも妹みたいに思ってたしね。構わないわ。
そう言うと、オリビアは花が綻ぶように笑った。最初に出会った頃の、目を腫らした彼女とは別人かと思うくらい、明るくて可愛い笑顔だった。