9
「隣、いいかな。」
「いいよ、ずっと座っていても。」
「うわあ、優しい。はい、缶コーヒーでいいかな。おじさんは若い子の好みがわからないからさ、自分の好みで買ってきました。」
大昔からある缶コーヒーをなつきに手渡すと、彼女は眉根に皺を寄せた泣きそうな表情でもあるが、俺に微笑んでくれた。
「君の言う通り、俺はおじさんだったねぇ。」
「おじさんじゃないよ。若いって。まだ三十一でしょう?」
「もう三十一だよ。」
「ナオ君は高校はどんな感じだったの?」
俺は病院の非常階段から見える景色、いや、そこから空を見上げていただけだが、淡い色の青という秋空を眺めながら、高校時代は何もなかったと思い出した。
「なあんも。好きな子もいなかったし、部活動もそんなにやっていなかった。今思い返せば、詰まんない高校時代だったかもね。」
「じゃ、じゃあさ、達樹先輩の身体でもう一回高校生するのはどうなの?」
「出て行って、じゃ、無くなったんだ?」
なつきは顔をくしゃっと歪めて、俺が渡した缶コーヒーを抱き締めながら泣き出した。
彼女はきっとこの缶を開けることなく持ち続ける気がして、俺は彼女から缶を取り上げると、その缶をプシュッと開けた。
「ナオ君。」
「飲んじゃって、そして、俺の事は缶コーヒーを奢ってくれたおじさんとして覚えておこう。」
「――忘れちゃって、じゃないんだ。」
「うん。女子高生とエッチできる夢を見せてくれた君だからね、しつこく俺の事を覚えていてもらおうかなって、さ。」
「残念ね、二十代じゃなくて。」
「いや、いいよ。出来る予定で出来ないで死ぬって、それこそ不幸じゃ無いの。夢の国に誘って奢ってホテルまで取ったのに、私生理なのって言われる不幸そのものじゃないのさ。」
「ナオ君て、さいてい。最低なのに、私はナオ君が好きなの。好きになっちゃったの。どこにも行かないで欲しいの!」
「ありがとう。」