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俺はいた。
病院の集中治療室に意識不明で横たわっていた。
俺は家族がいないらしく、相棒の今村刑事が俺の枕元に座り、俺の死に水を取ろうと死ぬのを待っていたらしい。
「ふざけんな!俺はお前が目を覚ますのを待っているんだよ!」
涙目になった相棒は大柄なくせに小さくしか見えず、俺はそんな相棒を抱き締めていた。
「なんか、お前が小さく感じるな。」
「お前が勝手に奪ったその達樹君がデカいんだよ。お前は小柄なくせに前に出るから、こんな、こんな状態なんじゃねえか!」
「平均身長よりも五センチ高いよ。」
「嘘つけ!三センチだ!」
俺は相棒だった男の背中をポンポンと叩き、彼を抱えているその体勢を利用して、彼をパイプ椅子に座らせ直した。
自分の身体を目にして俺に記憶は戻った。
六年前に潰れた居酒屋に指名手配犯がいるらしいと今村と監視している最中に、そこで違法取引をしていた半グレの集団に間違って襲われたという情けない記憶だったが、なつきはそれを聞くなり大きく泣き出した。
泣き出しただけでなく、彼女は病室も飛び出してしまっている。
泣きたいのは俺の方なのに、ねえ。
包帯でグルグル巻きになった顔は暴力の痕で膨れ上がって人間の顔にも見えず、俺はこのまま死んでいくんだろうなと、いや、死んでしまったからこそ魂が抜けているんだな、という認めたくないが認めるしかない状態なのだ。
「あのさ、最後に君の娘にチューしていい?」
「加賀美!」
「約束なんだ。俺が君よりも若かったらキスしてもらえるって奴。ここでお別れならね、俺に幸せを頂戴。」
「ばかやろう、ばかやろうが!」
俺は俺のこれからの不在を泣いてくれる男をぎゅうっと抱きしめ、そして、俺の為に泣いてくれる可愛い女子高生の元へ行こうと一歩踏み出した。