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俺の鼓膜は破れそうだった。
なつきの父はなつきが凶暴なのがわかるぐらいに、大声でない普通の音量だが、凶悪すぎる殺気の籠った低い声を、俺の鼓膜にぶちまけて来たのである。
「てめえ、娘に何かしたら殺すぞ?」
恐怖で鼓膜と背筋がぶるぶるだよ~。
おかしなものだが、俺はなつきの父、今村彰吾の脅し声を聞くなり、ふわっと気が軽くなったのである。
「警察官が一般人に安っすい恐喝行為をしてどうするの?で、娘さんに代わる?お前のパンツが臭いって言ってごめんなさいって、何もかんも親父臭くて我慢できなくてごめんなさいって君のお嬢ちゃんが泣いているのよ。」
「私はそんなの言っていなーい!」
達樹のスマートフォンはなつきに奪われ、なつきは恐らく勢いでしかなかったのだろうが、電話の向こうの父親に対して泣きながら謝りだした。
「ごめんなさい。お父さんの事ホントは大好きなの。あんなひどい事ばっかり言っててごめんなさい。うん、うん。大丈夫。うん、学校の先輩。うん。スマートフォン壊した原因だからって、私を助けてくれているの……え?うそ。」
俺についてさらっと上手に誤魔化して伝えられるところは女だなあと俺が感心していると、彼女は俺に通話状態のスマートフォンを差し出して来た。
物凄く、脅えたような目つきで窺うように、だ。
俺は何だと思いながらなつきからスマートフォンを受け取り、それをそのまま耳に当てた。
「もし?」
「どうして加賀美の事を知っている?」
「知っているも何も、俺は加賀美なんで。真面目に自己紹介しただけですよ。」
「君は芦田達樹君だよね。娘の学校の三年生の。」
「ああ、携帯番号はそうですね。でも今は加賀美なんです。ご存じならば教えていただけますか?教えていただけたら俺は成仏できるらしいから。」
「――に来い。」
スマートフォンはそこで切れた。
俺は簡単に自分を見つけられたらしい事に、喜ぶべきなのにいささかがっかりもしていた。
女子高生と楽しく笑いあうって、もうないんじゃないかって思うからだ。