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「お父さん、お留守だねぇ。」
なつきの父親の部屋の前で何度も呼び鈴を鳴らしたが、中からはうんともすんとも聞こえず、また、三階建てハイツのエントランスの郵便受けにはチラシなどが一週間分ほど詰め込まれていた。
俺の横に立つなつきはぎゅうと歯を喰いしばった。
父親に謝りたいと、彼女はきっと数か月間思い悩んでいたのだろう。
彼女の服装は茶色の男泣かせのニットにニットジャンパースカートという、清楚でいながら男好きのする可愛い格好をしていやがった。
ちなみに、なぜニットトップが男泣かせなのかというと、ニットは体の線をはっきりとなぞってくれるものであり、なつきの胸のデカさと腰の細さを強調してくれるという余計な演出をしているからである。
「親父いねぇし、夢の国でも行こうか?」
「今から?それでどうして夢の国なのよ。」
「あんまり会話の弾まねぇカップルはな、夢の国に行くのが正解なんだよ。会話が弾まなくともそれなりに楽しめるだろ?」
「会話が弾まないんだったら、別れればいいじゃないの。」
「ははは。男と女にはねぇ、会話の先のいけない事も必要なんだよ。」
ドンっと、横っ腹に肘鉄を喰らった。
「いてぇ。君は凶暴だね。」
「お、お父さんが失礼な男にはって。」
なつきはとうとう泣き出し、俺は彼女の頭を抱えるようにして腕で彼女を抱き寄せ、上を見上げて溜息を吐いた。
「親父の会社に行くぞ。休日出勤ならさ、どこも緩いから会えるだろ。」
「無理。」
「勤務先もわからない?」
「だって、警察官だもの。」
「――やべえな。」
警察官の娘とふらふら歩いていたら、俺はしてもいない罪で牢屋にいれられそうだな、と乾いた笑い声をあげていた。