3
「お帰りなさい。今日は遅かったわね、って、その頬はどうしたの?」
母親らしい女性はなつきに殴られた俺の顔をまじまじと見つめた。
「頬が赤く、どうしたの?」
「無理やりエレベーターに乗り込もうとしてドアにぶつかった。赤くなっていた?だっさい。」
「あの塾は!施設使用料なんてのをめちゃくちゃ取っている癖に!」
「違う。そこじゃないし、全然違うから。」
俺は達樹の母親を振り切ると、階段を駆け上がって達樹の部屋、扉に「TATUKI’S ROOM」と看板が飾ってあるので間違いないだろうが、そこに飛び込んだ。
達樹君が一人っ子で、甘々に育てられているらしい子で助かった。
部屋には当たり前のようにして勉強机にベッドがあるが、モニター付きのデスクトップまであるのだ。
「加賀美尚様の死亡記事。事件事故だったとしたら見つけられるかな。」
俺は熱を持っている頬に手を当てた。
女子高生は容赦ない。
駅の階段で横に座る俺を、この変態とスマートフォンで殴りつけたのである。
彼女のスマーフォンが壊れていたが、そんなことは俺が知った事ではない。
「お父さんが買ってくれたのに!」
彼女が大好きだったお父さんが離婚していなくなったなんて、俺が知るわけも無いのだ。
「離婚だったらさ、会いに行けばいいじゃ無いの。」
スマートフォンを抱き締めたなつきは、自分は父にもう会えないのだと首を横に振った。
「どうして。お父さんの浮気の離婚でお母さんに義理立てって奴?」
「違う!」
俺はその続きもどうでもいいやと、とりあえず達樹の身体を達樹の家に戻して今後の事を考えようと立ち上がると、ブレザーの裾をなつきに掴まれた。
「何?」
「聞いてくれないの?」
「人の家の事情に立ち入らないことにしていますので。」
なつきは頬をぷくっと膨らませた。
少し可愛いかも。
俺は彼女の横に座り直した。
「聞くよ。君はどうしてお父さんに会えないの?」
「お父さんが家を出ていくまで、お父さん臭いって虐めたから。お父さんは家を出ていく時、せいせいしたって笑ってた。」
「やべえな。お前サイテー。」
うわっとなつきは泣きだし、俺は悪霊でも何でもいいからこの場から逃げたいと切に切に願った羽目になったと思い出していた。
「で、明日はお父さんに会いに行こう会か。参ったな。」