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仕事帰りに呼び止められた。
普段だったら立ち止まることも無いが、俺に声をかけたのはもっさりとした制服姿の女子だった。
言い訳をさせてもらえるならば、助平心から俺が立ち止まったのではない。
会社員が飲みに行く19時前の普通に繁華街という場所には場違いすぎて、これは罰ゲームかあるいは迷子になった修学旅行生だと考えただけだ。
まだまだ素面な俺だからこそ、心細い少女が話しかけてきたのだと考えただけだ。
立ち止まった俺の頭の中では、一番近い交番への道筋をどうやって説明してやるか、面倒くせぇな!と考えながらも周辺の地図を頭に浮かべようとしていた。
「あれ?」
俺は改めて周囲を見回し、そこが自分が知っている風景では無かったと気が付いた。
「先輩?何をしているんですか?」
「え?」
「あの、そっちは駅じゃないですよね?」
「ああ、そうだね。俺はこれから同僚と飲みに行くんだし?」
「え?」
少女はあからさまに驚いた声を出して、俺をまじまじと見つめた。
もっさりとした制服姿だが、ニキビの赤い所もない白い肌に素朴な目鼻立ちの彼女は一般的には可愛らしい部類だと俺は見つめ返し、また、もっさりした制服姿の為に逆にアダルトビデオかブルセラショップのイメージさえ湧いていた。
お小遣いの為に脱いじゃいました、でも、こんなの初めて!系のポップが商品に貼られているところまで俺は想像してしまったのである。
「そうか。そのまんまのギャル女子高生にせずに、敢えて地味系もっさりな子に仕立てるのは、男心が清純を求めるそこを突いていたのか。」
「あの、先輩?」
自分を先輩と何度も呼びかけるもっさり系可愛い子は、きっとイメクラの呼び子に違いない。
「悪いが興味ないんだ。」
「興味ないって、先輩!こんな所で補導されたら、先輩は大学受験どころじゃ無くなりますよ!」
「わあ!ものすっごく設定を作り込んでいるね、君。」
俺は自分のスーツを掴んで来た少女の手を振りほどこうと彼女の手を掴み、そこで、自分も彼女と同じような制服のブレザーを着ていたのだと気が付いた。