思ひ出
ある夕焼けの日
1人でぼーっと散歩をしていた
子どもの頃の自分を思い出して。
唐突に小さい子どもが僕にぶつかってきた。
思いっきり急所。
思わずその場で跳ねる。
子どもは涙目で僕を見ている。
落ち着いた僕は子どもに話しかけてみた。
「お母さんは?」
子どもは上を指さす
「おそら。」
その目を見て、幼き日の自分と重ねる。
「お父さんは?」
「おそら。」
「今日は誰と来たの?」
「お父さん先生。」
「住んでるところの名前は?」
「愛の園」
「一緒に行こうか。」
園の前は騒然としている。
年配の先生が泣きながらこちらを向いた。
「流星くん!!!!」
「先生ー!」
子どもはかけていく。
「本当にありがとうございます。ありがとうございます。」
先生が、僕を見上げた。
「一夜くん…?」
懐かしい顔を向け先生は言う。
「はい。お兄さん先生。」
先生の顔が綻ぶ。
「お兄さん先生?お父さん先生だよ!
お兄さん先生はいないよ!」
流星が困惑した様子で話した。
「お兄さんがここに居た時、お父さん先生はまだ、お兄さん先生だったんだよ。」
流星はまだ納得いかない顔だ。
「一夜くん、元気でいたかい?ご飯食べてるかい?」
「はい。大丈夫ですよ。」
「おおきくなって。立派になって。
今日は泊まっていっておいで。」
僕は少し悩んだが、了承した。
その晩流星が僕に話しかけてきた。
「お兄ちゃん」
「なに?」
「お兄ちゃんのパパとママは?」
「お空。」
「寂しかった?」
「とてもね。」
「流星ね、パパとママのところに行きたい。」
「ぼくもだよ。
ただ、考えてみて。パパとママはきっと遠くから大きくなった流星を見たいんだ。
だから、まだ行けない。向こうに行くと歳をとれないからね。」
「なんで大きくなれないの?」
「知り合いや家族が来た時に、自分だって分かってもらえないと辛いだろう?」
「でも、パパとママが僕の事わかんないよ?」
「パパとママは、絶対流星を分かっているよ。
大丈夫。愛していた子を忘れる人なんていないから。」
僕は、自分にも言い聞かせるように話した。
その様子を見て先生が僕にほほ笑みかける。
「大きくなった君を見て喜ぶのは君のご両親だけでは無いよ。」
そう言って、少しシワが増えた目を細くした先生を見て何かが込み上げた。
その日の夜、昔よりも古ぼけた天井をみて僕も園も歳をとったことに少し感慨深いものを感じた。
朝、先生が僕を送り出す。
あの日のように。
「辛くなったら園の近くまで散歩しにおいで。
君が僕を必要としてくれる限り絶対また会えるから。」
大きく手を振り僕は家路に着く。
途中で、縄と手紙の入った封筒を入れたボストンバッグを捨ててから。