10冊目.怪物
ナイフ男の体がからはいくつもの刃が生え、その肉体も少しずつ巨大化していっている。
ナイフ男は原型が分からないほどの歪な姿へと変わり、まさに怪物というに相応しい姿になっていた。
「何だよ、あれ」
ズキンッ
僕はその怪物を見たとき、右目から伝染するように頭が痛くなった。
その怪物は、廊下の天井に着きそうなほど大きく二メートル以上は確実にあった。
怪物は自らの肉体に生えている刃を壁に激突して倒れている旺太君へと飛ばした。
「グハッ」
旺太君の左肩を掠り、左手に持っていた刀がカランッと地面に転がった。
そして、怪物は旺太君ごと壁を蹴り、壁に穴を開けた。
旺太君の体は宙を舞い、そのまま下へと落ちた。
怪物の体にはもう飛ばした刃が生えていた。
今僕がいる階は二階だが、旺太君は大丈夫だろうか
そう僕が思っている間、怪物がその大きな体からは考えられない程の速度で横切った。
ピシャッ
雛乃先輩の方から何かが切れた音がする。
僕は雛乃先輩の方を見る。
するとさっきまで雛乃先輩が持っていた大きなバッグが真っ二つになって、落ちていた。
雛乃先輩は、バッグで怪物の攻撃を防いだようだ。
しかし、怪物の追撃が雛乃先輩を襲う。
考えるより先に体が動いた。
僕は、ポケットの中に入っていたスマホを怪物の顔に向かって投げた。
焦って出したせいか、カメラ機能がオンになっていて、怪物の顔面に当たる寸前にフラッシュがたかれた。
一瞬だけ怪物は自らの目を抑え唸った。
「ヴヲオオオオォ」
僕はその隙を逃さず、雛乃先輩の元へ行き、二人で怪物から離れた。
僕は雛乃先輩より前に出て、少し離れた。
怪物は完全に僕をターゲティングしてくれた。
「よし、ここまで予定通り行ってる」
怪物はとてつもない速度で僕へ近づいてきた。
怪物の拳が僕の腹部に当たり、ギシギシと骨が軋む音がする。
僕は後ろへと吹き飛ぶ。
数回、天井と床が逆転した気もする。
壁に激突する。
背中に強い衝撃が当たり胸の辺りが詰まるような痛みが走った。
それでも僕は直ぐに立ち上がり、怪物へと突撃する。
怪物は、旺太君にやった時のように刃を飛ばしてくる。
不思議な感覚が起きた。
右目が温かくなり、飛んでくる刃がゆっくりに見える。
僕は刃の飛んでくる軌道を意識して半身になり、避ける。
刃は僕の目の前を通り、さっきまで僕がいた壁に深々と突き刺さった。
あぶねぇ
僕は、怪物へと再び突撃する。
怪物は走ってくる僕を殴ろうと拳を突き出してくる。
僕は拳に当たる寸前、数ミリ単位の所で避け、スライディングする。
怪物の股を通り抜け、怪物の後ろを取る。
瞬間。
僕の身体は気付いたら宙を舞っていた。
何があった。
僕には理解できなかった。
ただ怪物が此方を見ていたことだけが分かった。
速いな。
そのまま天井に体を打ち付け、地面に落ちる。
ズシッズシッ
怪物が狩りを楽しむかのように身体を内、動けなくなった僕へと近づいてきた。
怪物は僕に近づくとその大きな足を上げ、踏み潰そうとする。
「だめー!」
雛乃先輩が叫んだ。
それと同時に僕の身体は不思議な風に包まれ、後ろへと飛ぶ。
怪物の動きも止まっている。
「グハッ」
その後、雛乃先輩が倒れる。
辛うじて意識はあるようだ。
僕は無理に後ろへと下がる。
カランッ
右手に何か当たり、金属が転がる音が鳴った。
これは、旺太君が使っていた刀。
僕がその刀を取ろうとしたとき、刀がカタカタとなった。
「駄目、その刀は使い手を選ぶの選ばれてない人が使うと最悪の場合死に至る」
雛乃先輩がひねり出した声で言った。
でも、これ以外武器がない。
素手であんな棘棘の敵を倒せるわけがない。
気付いたら刀を握っていた。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……
刀が勢いよく揺れ始める。
腕が勝手に動き、僕の胸に刃先が当たっている。
カタカタ
少しでも腕を曲げれば僕の身体を貫き死に至るだろう。
カタカタ
ジリジリと腕が少しずつ動く。
右目が熱を持った。
すると、さっきまでカタカタと煩かった刀が止まった。
僕の腕もしっかりと僕の意思で動くように戻っていた。
僕は刀の刃に写った自分の右目を見て驚いた。
凄くきれいな赤色、緋色になっていた。
その目を見たら自然と力が湧いてきて、痛みを感じなくなった。
刀を握り直す。
「もう、限界」
そう言って、雛乃先輩は気絶した。
それと同時に怪物が動き出す。
「ヴヲオオオオォォ」
怪物が雄叫びを上げた。
その叫びからピリピリとした空気を感じた。
怪物が来る。
恐ろしく速い攻撃。
でも、僕にはゆっくりに見えた。
怪物の攻撃をあっさりと避ける。
もしかしたらこれが、僕の能力かも。
僕にはそう考える時間があるほど余裕が生まれている。
刀を握り、僕から仕掛ける。
怪物の腕の間を抜け腹部へと刀を走らせ、斬る。
カキンッ
金属の当たる音が響いた。
腹部にはいくつもの刃が重なったような鎧のような鱗のようなものがあった。
僕はチッと舌打ちをして、足で蹴った。
怪物はびくともしない。
「ヴヲオオオオ」
怪物は間近で雄叫びを上げた。
耳がイカれてしまいそうなった。
怪物が僕を攻撃しようと動く。
怪物の拳が僕に向かってきているのを気配で察知して、いや右目が教えてくれて後ろで刀を使い止めた。
カキンっと金属同士が当たるかのような音が鳴った。
力ずくで怪物の拳を弾く。
僕は後ろが空いたと同時に下がる。
バキッ
怪物から音がなる。
怪物の両腕から刃がメキメキと生えてきた。
生えたと同時に怪物は腕をふる。
すると、近くにあった教室の扉がきれいに真っ二つになり地面へと転がった。
切れ味スゲーな
怪物は瞬間で加速して、僕へと近づき腕をふる。
僕は刀で防ぐが、勢いが強く後ろへと飛ばされた。
後ろへと吹き飛び壁にぶつかった。
怪物は、体に生えたと刃を大量に飛ばしてくる。
僕の右目が再び熱を帯びて、目の前で飛んできた全ての刃が止まった。
カランカランと刃が地面に落ちる。
怪物はそれを見て怯えた目を僕に向けていた。
カランッ
腕から刀が落ちた。
僕はその落ちた音を聴きながら意識を失った。
……
次に目を覚ました時には、足元に動かなくなった怪物がいた。