第63話 灰被
キャラバン隊の一行。
国境町サウスセナまで、残り1日という地点。
『見事に、囲まれているわね。』
キャラバンの幌の上からスッと降りてきた半透明のホムラが伝える。
「まだ、私の“探知”には引っかからないのですが……」
汗を垂らしながら探知に優れる魔導士リサーナが呟く。
『何か動きがおかしいな~、と思っていたけど、これ、私たちを囲むためだったみたいね。中心になっている奴、何か、変な魔力を帯びている感じね。』
そのホムラの言葉に、“青の飛翔”と“オレ達に明日は無い”の面々が愕然とする。
「それって……!!」
「不味いぞ!『灰被』だ!!」
グレートフォックスという、尾が複数ある狐の魔物。
魔力が高く、魔物にしては珍しく魔法を発動させる危険度Aの魔物である。
その尾が多ければ多い程、魔力が高く、扱う魔法が多彩であるという。
通常は、3~4本。5本ともなれば危険度S相当にもなる。
そして“二つ名持ち”『灰被』は、尾が9本もある。
「ホムラさん! 何とか抜ける道はありませんか!?」
クザンが叫ぶ。
フルフルと首を横に振るホムラ。
『たぶん無駄だねー。ここから右のほうに、ワザとらしい “穴” が開けられているけど、どうも罠ね。ある程度感知が出来たところで誘導して、一気に囲むって戦略だろうね。そうでなくても、こっちの動きは補足されているっぽいし、ぶつかるなら正面から行ってもいいんじゃない?』
無慈悲な宣言。
唖然とするハンター達。
だが、平然としている若者が二人いる。
ホムラの持ち主、ディールと、その恋人ユウネだ。
「ユウネ、どうだ?」
「うん。囲んでいるのもグレートフォックスって魔物だと思うけど、あのワイバーンみたいな数じゃないね。ホムラさん程正確には無理だけど、30匹くらいかな。その後方にいるのが、たぶん『灰被』だと思う。」
ユウネは固有技能“気配探知(大)”によって、ホムラ級の探知が可能であった。
そのユウネの言葉に、勝ち誇ったような表情をするホムラ。
『まだまだね、ユウネ。いい線行っているけど、敵は32匹。』
その言葉にムッとするユウネ。
「ホムラさんが異常なんです! 私はそんな人外級じゃありません!」
『誰が化け物よ、この乳お「ホムラさん?」ごめんなさいっ!』
そんな二人のやり取りをにこやかに見つめるディール。
唖然とする、他のハンター達。
「まぁ、それでも魔法を使う魔物が30匹以上。面倒と言えば面倒だな。ホムラ、補足はできるか?」
ディールの質問に、無い胸を張ってホムラが答える。
『もっちろん!』
「じゃあ、ダメ元で出迎える前に数を減らしてみるか。」
そう言い、ディールはキャラバンの幌の幕を開け、外縁に足を掛けた。
同時に姿を消す、ホムラ。
「ディ、ディールさん、どうするの?」
ラーナが怯えながら尋ねる。
ディールは微笑む。
「まぁ、任せてください。」
その言葉に、“青の飛翔”の3人娘が顔を真っ赤にさせる。
ムッとする、ユウネ。
ディールはそのまま、キャラバンの幌の上によじ登る。
「ユウネさん、ディールさんは、一体……?」
「ディールが任せて、と言ったので任せてみましょう。」
ユウネも笑顔。
その表情に“オレ達に明日は無い”のオッサン3人も顔を赤らめる。
幌の上。
「さて、頼むぜホムラ。」
―まっかせてー!―
ディールはホムラに炎を迸らせる。
斬撃を飛ばす、“炎斬”だ。
―ある程度は私が誘導するから、ディールは感覚で放って―
「了解!」
ディールは意識を集中させる。
すると、平原の向こう側に、悪意を持った魔物の存在を感じた。
「ここだっ!!」
ディールは、ホムラを横薙ぎ、縦薙ぎと振るう。
“炎斬”が3本、飛び交う。
「まだまだ!!」
さらにホムラを振るう。
“炎斬”が、複数飛び交う。
「……これ、凄い光景ですね。」
「凄い攻撃だが……ディールさんは一体何を?」
馬車内。
ハンター達は幌の上から炎の斬撃を飛ばすディールに驚嘆するも、何の意味があるか分からず怪訝となる。
「まさかぁ……グレートフォックス目がけて斬撃を飛ばしているわけじゃ……。」
「そんなの、あり得るのか??」
しばらくして。
「はぁ、ダメだ。」
そう言ってディールは馬車内に戻ってきた。
「おかえりディール。だいぶ数を減らしたね!」
笑顔で迎えるユウネ。
その言葉にギョッとする面々。
「え、マジで、グレートフォックスを攻撃していたんですか?」
外を見るラーナ。
平原の向こう側。
あちらこちらから何やら煙が立ち上っているようにも見える。
だが、ディールは不満顔。
「たぶん『灰被』って奴と、その取り巻きの数匹だけど、こっちの攻撃を避けやがった。あれは正面から当たらないとダメだな。」
同時にホムラが姿を現した。
『それでも残りはデカ物合わせて6匹。何か立ち止まっているからビビっているんじゃない?』
全員、顎が外れるほど口を大きく開いて唖然とする。
本当に、姿すら見えないグレートフォックスに攻撃していたというのだ。
「……信じられる?」
「いや、あり得ないでござるな……。」
しばらく馬車が進む。
徐々に煙が立ち上る場所へ近づいてきた。
そして見える。
胴体、首などが千切れ、炭と化した躰から煙を上げる、グレートフォックスの死骸が。
ハンター、それに商人達も驚愕するのであった。
「ホムラ、どうだ?」
『いるね。あそこに。隠れているけど。』
ディールは再度ホムラを抜く。
「馬車を止めてくれ。迎え撃つ。」
そう言い、ディールは馬車から降りる。
そして、ホムラが指し示した場所に “炎斬” を放つ。
『パキィィン!』
少し競りあがった土の手前で、“炎斬” が何かを割った。
そこから現れたのは。
「で、出たぁ!! 『灰被』だ!!」
一際大きい、グレートフォックス。
灰色に輝く毛並みに、巨大な9つの尾を持つ狐の魔物。
苦々しい表情をさせた『灰被』がそこに居た。
『なんなんじゃ……。貴様は一体なんなんじゃ。妾の下僕を、どのようにして屠ったのじゃ!?』
『灰被』が甲高い声で叫ぶ。
元々、この平原のとある場所を縄張りとしていた。
だが、“下僕” の報告で、多くの馬と積み荷と、旨そうなニンゲンが大勢通りかかることを知った。
久々の、狩りだ。
目障りな『牙王』も今は遥か遠くをうろついている。
チャンスであった。
そして、自身の探知魔法を駆使し、ニンゲンの群れを包囲した。
逆に探知されても、“罠”の抜け穴を通れば一網打尽。
“罠”を抜けなくても、後ろから前から、包囲を詰めて一網打尽。
すでに網に掛かった獲物であった。
しかし、遥か遠くからの炎の斬撃。
確実に、下僕を切り裂くその無慈悲な刃で、あっと言う間にその数が減った。
全く、理解不能の現実。
恐らく、目の前の真っ赤な剣を握るニンゲンの仕業だ!!
「大人しく住処で引きこもっていれば良いものを。オレ達を狙ったのがお前の運の尽きだ。」
ディールは睨みながら答える。
睨み返す『灰被』
『抜かせっ!!』
『灰被』の9本の尾が怪しく動き、その背後に小さな陣が3つ浮かび上がった。
『散れ、ニンゲンがぁ!!』
その叫びと共に、氷の刃が無数、ディールや馬車に向かって飛び交う。
その数、凡そ500。
「無駄だ。“熱鎧”」
ディールが紡ぐと同時に、周囲に真っ赤なオーラが立ち上る。
そのオーラがまるで鎧のように、ディール、そして後ろの馬車諸共、盾となり氷の刃を一気に溶かす。
だが、それは罠だった。
『やれ、お主ら!!』
『灰被』の叫びとともに、周囲の空気が揺らいだ。
馬車の周りから、5匹の巨大なグレートフォックスが姿を現し、馬車へ襲いかかる。
「うわぁ!!」
馬車の周囲を守り、警戒していた“青の飛翔” と “オレ達に明日は無い”の面々が驚愕する。
すでに囲まれていたのだ。
しかも相手は危険度Aのグレートフォックス。
1匹なら、それぞれのパーティーでも辛うじて撃破できる。
だが、それが5匹同時。
ほぼ、一人1匹の相対。
形勢は一気に逆転してしまった!
「“地爆星”」
ユウネが紡ぐと、馬車の周囲から光る礫飛び出し、襲いかかるグレートフォックスの足元から爆発するように弾けた。
“青の飛翔”と“オレ達に明日は無い”の面々にその牙が届く前。
5匹のグレートフォックスは弾かれ、血を噴き出して倒れた。
『バカなぁ!!』
叫ぶ『灰被』
完全にニンゲン達の寝首を掻けると思い込んでいたが、下僕は返り討ちにあってしまった。
ユウネの“探知”
馬車を止めた時にはすでに、5匹が魔法で姿を暗ませ、潜んでいると察知した。
気付かれていないという、驕り。
それを、逆手にとった。
時限式爆発魔法 “地爆星”
設置は、地面でも、敵の身体でも、どこでも出来る。
ただし、設置後に動かれたりすると消えてしまう。
あまり使い勝手の良くない魔法ではあった。
ユウネは、姿を隠すグレートフォックスと馬車の丁度中間点、円を描くように“地爆星”を設置した。
そして姿を現し、ハンター達を狙う間際に発動させたのだ。
「ひと思いに、倒せなかった。」
苦々しく呟くユウネ。
目の前には、苦しそうに悶える5匹のグレートフォックス。
例え、敵意をむき出しにする魔物でもあっても。
苦しませる気はなかった。
ユウネは素早く魔法を発動させる。
「“星連弾”」
丁度5つに分かれた星の礫が、悶えるグレートフォックスの額を討ちぬく。
絶命する、5匹の獣。
「さて、あとはお前だけだな。」
ディールは睨みながら『灰被』に言う。
ガクガクと震える『灰被』
『ま、待つのじゃ、待ってくだされ。妾は、もう、主らと牙を交える気は無い。』
その巨体を伏せて命乞いをする『灰被』
30を超える下僕が全て消され、自身の魔法もあっさりと弾かれた。
勝ち目は無い。
「マジかよ……“六魔” の『灰被』が、命乞いをしているぜ。」
「それよりも、これ、拙者ら必要なかったのでは?」
唖然とするハンター達。
そう、蓋を開ければディールとユウネの二人で『灰被』の襲撃をあっさり対処してしまったのだ。
『許してたもう。大人しく巣に戻る。妾は、もう、ニンゲンを襲わないと誓うのじゃ。』
『嘘だねー。』
ディールの隣に、ホムラが姿を現す。
驚愕する『灰被』
「嘘だって?」
『そうよ。油断したところでドカーンって何か魔法をぶっ放すつもりよ、この狐。雷の魔法でしょ? しかも範囲が凄く広い。』
改めて睨む、ディール。
ホムラも仁王立ちで『灰被』を睨む。
なぜ、なぜバレた!?
正面からでは、まず勝てない。
ならば、見苦しくても命を乞う振りをして、離れたところで必殺の魔法を発動させるつもりだった。
その企てすら、看破されてしまった。
『そ、そんな卑劣な真似、妾はせぬ! 誤解じゃ、誤解!』
もはや、打つ手なし。
今度こそ本当に、本気で命を乞う『灰被』だった。
「どうする、皆?」
ディールは“青の飛翔” と “オレ達に明日は無い” の面々に尋ねる。
未だ、唖然としている面々だった。
後ろを振り向いたディール。
そこにすかさず、牙を立てる『灰被』
一番強いニンゲンは、こいつだ!
こいつさえ殺せば、あとはどうとでもなる!!
驚愕するハンター達。
その叫びが響く前に、ディールの首筋を噛み砕けるだろう。
そう確信した『灰被』
「遅ぇよ。」
『チンッ』
乾いた納刀音。
『ハギャッ!』
同時に、『灰被』の巨大な図体がバッサリと斬られ、夥しい血を噴き出しながら地面に倒れ伏す。
一瞬のことで、全員硬直する。
ディールの斬撃、納刀が全く見えなかった。
ただ、1人を除いて。
「さっすがディール!」
笑顔のユウネ。
肩を軽く挙げて、ユウネを見るディール。
「オレが手を出すまでもなかったかな?」
「ううん。ディールなら紙一重だって余裕で倒せたでしょ。何も心配なかった。」
寝首を掻かれ危険に晒されたように見えたディールだったが、蓋を開ければ全く問題が無かった。
その牙が届く前に、ホムラでその首を跳ねる事くらい雑作でも無かったのだ。
全員、唖然とする。
危険度Aのグレートフォックスの集団。
それを率いる“六魔”『灰被』をあっさりと、対処してしまったのだ。
それも二人でだけ。
「……凄い。」
「……凄すぎる。」
そして、大歓声を挙げる一行。
「凄すぎるよ、お二人とも!!」
「強すぎです、強すぎますよ、ディール様にユウネ様!」
「ホムラ様も凄かった!!」
「こんなハンター、初めて見ました!! ハァハァハァ!!」
「ちょ、マイ!! 鼻血!!」
肩を落とす、ディールとユウネ。
また呼び名に『様』が付いてしまった。
年上のベテランハンター達から羨望の眼差しを受ける、ディールとユウネ。
そして、有力かつ有名な、豪商の3人。
「す、素晴らしい……。」
「ここまでとは……。」
「女神様……。感謝いたします。」
凄まじい実力を有していながら、報酬を“食糧と食材” で良いという、奇妙な二人のカップルハンター。
この実力で“Bランク” など、何の冗談か。
実力、そして佇まい。
“六魔” とその取り巻きをあっさりと屠った、偉業。
すでに、ハンターとして“頂点” に位置すると、確信する面々であった。
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「お二人は、儂の専属ハンターになる気は無いかね?」
「待たれよアキドン殿! 抜け駆けは許しませんぞ!!」
「交渉は公平に!!」
その夜、キャンプ地。
またしても3人の商人による争奪戦が勃発したのであった。
苦笑いのディール。
そのディールの隣で腕を組み、頭を肩に寄せて幸せそうな表情のユウネ。
その二人を睨む、半透明のホムラ。
「こうして見ると、ただの美男美女カップルなんだよなぁ。」
「美しい……。美しいです、ディール様とユウネ様。」
「マイ! あんた、また鼻血!!」
「そう言うリサーナ殿も、鼻血が出ているでござるよ?」
「え、キャア!!!」
興奮して止まない、ハンター達であった。
いつもご覧いただきありがとうございます。
今まで、投稿は“事前予約”のみと勘違いしておりました!
恥ずかしいばかりです。
余裕があれば投稿時間を従来の18時から、16時〜18時の間に手動で投稿してみようと考えております。
こんな抜けている作者ですが、皆さまの温かいコメントやご覧いただけていることを励みに今後も少しでも「面白い」と思っていただけるよう精進してまいります。
今後もよろしくお願いいたします。




