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第62話 向かう者と、迎える者

21時に閑話(短いサイドストーリー)を掲載します。

あの子が出てきます。

「さて、あと2日程で国境町サウスセナに着きますが…。」

「いよいよ最大の難関に着きましたな。」


商人チョビヒゲと色黒が呟く。

眼前には、広大な大地。


『赤の平原』に、一行は着いたのだ。


「御存じの通り、この平原はかつて“5大英雄”が【赤き悪魔】と3日3晩対峙し、葬り去ったと謂れのある最終決戦場でございます。隠れる木々も岩も無い、ただの、平野です。」


チョビヒゲの説明。

続けて豪商アキドンが同行するハンター達に伝える。


「この平原に出るのは、強靭凶悪な魔物ばかり。中でも凶悪なのが、“二つ名持ち”の2体だ。」

「知っている。“六魔”だろ?」


“オレ達に明日は無い”リーダーのクザンが呟く。


「私も知っているわ。タイラントドラゴンの『牙王』、そしてグレートフォックスの『灰被』ね。」


“青の飛翔”リーダーのラーナも続く。

強靭凶悪な、“二つ名持ち”の中でも強力な6体の魔物“六魔”

その内、2体がこの平原を根城にしているのだ。


「加えて、ワイバーン共が悍ましい数で飛翔し、南の方へ向かったという話しもあります。その中にかの『毒羽』もいたとか。」

「それがこの平原に留まっていなければ良いのだが。」


商人、色黒とアキドンが呟くように言う。

彼らのやり取りを聞き、ユウネがディールに耳打ちをする。


(ねぇ、それってもしかして……。)

(ああ、オレ達が倒したあのデカいワイバーンのことだろうな。)


“土の神殿”からカボス町への道中、400以上を超えるワイバーンの襲撃の中、“そいつ”はいた。

ユウネの【星天魔法】“彗星”を喰らっても息があったが、最終的にディールとホムラの“炎斬”で切り裂かれた。

大半のワイバーンを倒し、『毒羽』もすでに切り伏せた。

心配は無い。


「バルバトーズ公爵国の西山に住む『毒羽』が、『牙王』と『灰被』が跋扈するこの平原に来る可能性は極めて低い。やはり気を付けるべきは『牙王』と『灰被』だ。『灰被』は縄張りがはっきりしているので、そちらを避ければ……”狩りの時期”でなければ大凡は問題は無い。」


色黒の説明に、豪商アキドンも続く。


「問題は、この平原を動き回っている『牙王』だ。遭遇すると非常に不味い。しかし、奴の動きはそこまで早くないから周回範囲に入ってしまわないよう索敵を絶えず行えば問題はなかろう。」


豪商アキドンが方針を伝える。

頷くハンター達。


「“六魔”の中でも最強談議に上がる2匹のうちの1匹、『牙王』ね。ソリドール公爵国の”死の森”に住む『霊獣』と、どっちが強いかしら。」


ラーナが呟くように言う。

それに反応する、剣士イエガー。


「二足竜種最強タイラントドラゴンの“二つ名持ち”『牙王』と、狼獣種最強フェンリルの“二つ名持ち”『霊獣』の最強談議でござるな、ラーナ殿。胸が熱くなるでござる。」

「懸賞金で言えば『霊獣』の方が上、殺したハンター数で言えば『牙王』が上って話だ。どっちも危険な魔物には変わらんな。」


魔導士バーボンが呆れるように言う。

頷く“青の飛翔”の魔導士二人。


「さぁ、暗くならないうちにキャンプポイントまでたどり着きたい。皆さん、馬車へお乗りください。」


チョビヒゲの言葉を受け、3組のハンターは、先頭を行く一番大きい豪商アキドンの馬車に乗り込んだ。



――――



「そう言えば、ディールさんとユウネさんは“グレバディス教国”を目指しているんですよね。」


魔導士マイが二人に尋ねる。


「ああ、そうだ。」


ユウネがぴったりくっつき、その反対側には姿を現したホムラがイライラした表情で睨む、という並びがスタンダードになっているディールが答えた。


「なるほどー……だからフォーミッド中心部へ向かわれるのですね。」


グレバディス教国への行き方はいくつかあるが、一番オーソドックスなのが、連合軍本部フォーミッド中心部にあるグレバディス教国の聖騎士団詰所から出る定期便に便乗する方法だ。


フォーミッドから、多くの物資や任務を終えた司祭がグレバディス教国へ戻り、逆にグレバディス教国から新たな司祭や聖騎士が送られ、四大公爵国へ送致されるのだ。

グレバディス教国は、ちょうどフォーミッド(厳密に言うとバルバトーズ公爵国の領地)と帝国の間にあり、両者の調停や【覚醒の儀】や様々な儀式を執り行う司祭や神官の派遣を行っている。


このため、グレバディス教国へ向かう便が多く、確実な路線がフォーミッド経由なのだ。

もちろん、四大公爵国の公爵領からも直接グレバディス教国へ向かう便もあるにはあるが、バルバトーズ公爵国以外はフォーミッドを必ず経由するため、あまり変わらないのであった。


「グレバディス教国へは、巡礼ですか?」

「そんなところだが、フォーミッドでも用事がある。」


フォーミッドでの用事。

それは、【銀翔龍フウガ】に会うこと。


そもそも【銀翔龍フウガ】は、ソリドール公爵国にある“風の神殿”には、居ない。

【聖王】ラグレス・ソリドールが手にしたという“深淵”こそ【銀翔龍フウガ】であり、聖王ラグレスとの約束で、代々ソリドール公爵国の優秀な血族に“魔剣”として今も仕えているとのことだ。


今、魔剣“フウガ”は、連合軍十二将第1席マリィ・フォン・ソリドールの手にあるとのこと。


このため、ディールとユウネはマリィとフウガに会う必要があるのだった。

だが相手はソリドール公爵国の次代トップの公爵令嬢。

加えて連合軍十二将の第1席という大幹部である。


単なる旅人ハンターが、会える人物ではない。


そこで、師匠ガンテツがフウガに連絡し、マリィとフウガ自らディールに会いに行くよう進言してくれたとのことだ。

ただそれも、いつ・どこで、という約束をしたものではない。

【銀翔龍フウガ】の力、ホムラを超える探知力であちらから探してもらうというのだった。


それでも相手は多忙を極める連合軍の大幹部。

もし、会いに来てもらえないなら、こちらから会いに行けば良いと考えるディール。


何故なら、フォーミッドには頼れる人物が一人いるからだ。


ディールにとって、フォーミッドに寄るもう一つの理由。

兄ゴードン・スカイハートだ。


7年前、【剣聖】の加護を得てから連合軍入りを果たした。

3年前から始まった帝国との戦争のため里帰りが叶わず、2年程会っていない。


ラーカル町で出会ったハンターギルドのラーカル支部長ガライオンから聞かされた『【剣聖】ゴードンは、十二将第5席となった』という話し。


尊敬する兄は、連合軍で最高幹部の一人に名を連ね、立派になった。

その反面、自分は【加護無し】

この世界の落ちこぼれだ。


しかし【紅灼龍ホムラ】を抜き、【金剛龍ガンテツ】の修行を終え、【加護無し】とは言えそれなりに強くなった自負がある。

まだまだ兄の足元にも及ばないだろうが、自信を持って会えると、ディールは考える。


優しい兄だ。

例え【加護無し】でも、受け入れてくれるはずだ。


例の“災い”の話を聞き、自暴自棄になりかけた。

それを、最愛の人(ユウネ)が、叱咤してくれた。

心は、また奮い立った。


いや、今もまだ、心の片隅にその“恐怖”が燻っている。

それでも、この愛するユウネの気持ちに応えるべく、強くあろうとした。



そんな、強く、優しく、美しい恋人を、尊敬する兄ゴードンに紹介したい。


“いつか、家族になりたい”


その気持ちを、兄に報告したいディールであった。


「フォーミッドと言えば、トップが変わったから十二将も再編されたみたいですね。」


“青の飛翔”魔導士リサーナが思い出したように言った。


「そうそう! ソリドール公爵国国王で連合軍総統だったマルゼン公爵が、倒れたとか。それで、娘で十二将第1席だった”SS”ハンターのマリィ様が次の“総統”になったんだよな。」


“オレ達に明日は無い”リーダーのクザンもその話しに加わる。


目を見開き、驚愕するディール。

会うべき【銀翔龍フウガ】の持ち主、マリィが、連合軍トップの総統!?


「あと、噂によると……。十二将のトップだった“SSS”ハンターのシエラ様、行方不明らしいよ。」

「ああ、聞いた聞いた。あと、あの“死神”も消えたんだよな?」


魔導士マイと、魔導士バーボン。


シエラの名は、兄ゴードンから聞かされていた。

あの兄が、逆立ちしたって敵わないと嬉しそうに語っていた、最強の上司の名だ。


「それで、十二将の主席がここラーグ公爵国のユフィナ様が抜擢されたということだ。加えて末席がバルバトーズ公爵国のエリス様。歴代でも最強って噂される【加護】を持ったお二人が十二将を率いるんだ、胸が熱くなるよな~。」

「あと、“SS”ハンターのロイ・シェラザード様も十二将入りしたんだって!」

「嘘! ロイ様が!?」


ガヤガヤと騒ぐハンター達。

それを後目に、ディールは俯く。


「ディール……?」

「ああ、大丈夫だユウネ。」


まさか、総統とは。

会いに、来てくれるのか??


それよりも、兄ゴードンに頼めば、何とかなるものなのか??



――――



同時刻。

連合軍本部フォーミッド中心 総統官邸 総統執務室。


―なぁ、マリィちゃん。 ホムラだけど、今、『赤の平原』にいるよ。ここまでまだまだ遠いけど、会うなら今から準備を……。―


「聞いていますか、総統閣下!」


青筋を立てる、十二将末席エリス。

隣には、白と水色のローブとグラバディス教国の神官職のみが身に付ける白銀の胸当て、白い絹布に金糸で描かれた教国の紋章の外套を纏う、長い黒髪の可憐な女性。

胸元には、グレバディス教国の最高位神官“四天王”を示す、黄金の胸章。


(……この状況、無理よ。)


マリィは心の中で、フウガに伝える。


「……聞いている。十二将第5席、【剣聖】ゴードンの治療をグレバディス教国で行いたいとの申し出、ね。」


マリィは感情の起伏が薄い。

それが分かっているが、頭にくるエリスであった。


隣の女性は必死でマリィに頭を下げる。


「お願いします、総統閣下。兄の……、【剣聖】ゴードンの治療を、グレバディス教国で行わせてください。」

「……頭をお上げください。アデル様。」



懇願するのは、グレバディス教国の最高位神官“四天王”の一人。

【剣聖】 ゴードンの実の妹、アデル・スカイハートであった。



先代総統、そしてソリドール公爵国国王のマルゼンの葬儀で、アナタシス教皇がソリドール公爵国へ訪れた。

その随行者として訪れた、二人の“四天王”

【雷の神子】 レナ・シャーマイン。

そして、【水の神子】 アデル・スカイハート


すでに教皇と【雷の神子】は、フォーミッド経由でグレバディス教国に戻ったが、アデルは無理を押し通しフォーミッドに残った。

先の戦争で致命傷を受け、未だ目を覚まさない、兄ゴードンのためだ。


フォーミッドの高ランクの治癒士による治癒を受け続けているが、一向に回復しない。

それならば、グレバディス教国に居る“世界最高の治癒士”である、同じ“四天王”の【土の神子】 サリア・オレガノットに診てもらおうと考えた上での申し出であった。


その目から、涙。


「私は、7年前に貴女達の申し出を受け、兄の連合軍行きを了承しました。その結果、兄は瀕死の重傷を負い、未だ目が醒めません。加えて……貴女方がお約束した、弟のこと。」


震えるアデル。


「弟が、【加護無し】で村から処分されたという件。これは、貴女方の約束が反故にされたことではありませんか!?」


首を横に振る、マリィ。


「……酷な事を申し上げますが、私たちがお約束したのは“成人するまで”です。【覚醒の儀】を経た後、【加護無し】と判明したのは“結果”であり、“結果”云々抜きで考えれば、弟さんはすでに成人を迎えたこととなります。私たち公爵令嬢が、と申すより、これはガルランド公爵国内で、有望な若者を“噂話”だけで排除した、という事実に基づいてどのような制裁を下すか、という話しになります。そもそも、論点が違います。」


あまりの物言いに、アデルは涙を流しながら怒りに震える。


「……加えて、【加護無し】を排除するような教義を流布し始めたのは、あなた方グレバディス教徒ではありませんか? 最高位神官であらせられるアデル様が、この“結果”に異を唱えるとならば、申し出る相手は私たちでなく、アナタシス教皇猊下ではございませんか?」


正論である。

だが、感情は納得できない。


「それが……四大公爵国や連合軍のお考えですか。」

「……どのように受け止めていただいても結構です。ご納得いただけなければ、この話し合いは御仕舞。お引き取り願います。」


総統マリィの冷酷な言葉。

つまり、“弟の件を不問にしなければ、ゴードンの話しも聞かなかったことにする” と言っているようなものだ。


しかし、相手は若いとは言えグレバディス教国の最高位神官。

一歩間違えれば、大きな“国際問題”に発展する。


それにも関わらず、一歩も引かないマリィ。

隣で平然と二人のやり取りを聞いている様なエリスだが、内心は汗だくである。


唇を噛みしめ、涙で顔を濡らすアデル。


「わた、しは……、家族が、兄と弟しか、いません。弟を、失い、そして、兄まで失ったら……私は、一人、です……。」


ボロボロと涙を流すアデル。

ふうっ、と息を一つ吐いてマリィが伝える。


「……私も、去年の戦争で弟を失いました。そして、先日、父を失い、ソリドール公爵国で【聖王】ラグレスの正統な血を引く者が、私だけになりました。」


1年前の連合軍と帝国軍の衝突。

十二将3人のうち、2人が死亡し、1人が再起不能となった。


死亡した十二将、元第5席マクベス・フォン・ソリドールは、マリィの弟だった。

その後釜が、ゴードンであったのだ。


その言葉に、目を見開くアデル。

“貴女だけでは、無い” そう言われたのだ。


「……条件があります。」

「条件?」


涙を吹き、尋ねるアデル。

マリィはその様子を待ち、伝える。


「……御存知のとおり、ゴードンにはすでに“妻”が居ます。」

「は、い……。」


フォーミッドに着いて、もう一つ驚いたこと。

それは、兄ゴードンに伴侶が居たことだ。


テレジ・スカイハート

飲食店を営む、美しい女性。

お腹には、敬愛する兄の子を宿している。


未だ目を覚まさない兄を、毎日、献身的に世話をする彼女。

私の、義姉。


「……貴女の義姉にあたり、ゴードンの妻であるテレジ・スカイハートから了承を得てください。彼女が“いいよ”と言えば、私たちが全力を以てゴードンのグレバディス教国への移送を、サポートいたします。」


伏せる、アデル。


「それも……なんだかんだ言って反故にするのでは?」

「……そのような真似はしません。約束は約束。言ったことは必ずお守りします。連合軍最高指導者“総統”マリィ・フォン・ソリドールの名に懸けて、貴女と貴女のお兄さんが無事にグレバディス教国に辿り着けるよう、手配いたしましょう。」


その言葉を受け、頭を下げるアデル。


「ご寛容、感謝します総統閣下。」

「……テレジから了承を得てからです。許可するか否は、それ次第。」


涙を拭き、クスリと笑うアデル。


「兄を連合軍に迎える時、ユフィナ様とエリス様に全てを丸投げして『めんどい』って書状に書かれた方とは、思えませんわ。」


ブッと噴き出すエリス。

そんなエリスをジト目で睨むマリィ。


「……よく、そんな昔の事を覚えていますね。」

「覚えていますよ。あの日のことは、一生、忘れません。」


理由はなんであれ、家族を引き裂かれた。

幼かったディールはどう思ったか分からないが、自分アデルはあの日のことを、忘れた事はない。


“目的のためなら手段を選ばない”


四大公爵に対する、強い不信感。

そして、家族を引き裂いた憎しみ。


このやり取りで、より一層、不信感を募らせたのだ。



マリィは、それを肌で感じ取っていた。

だからこそ、自然と次の言葉を紡いでしまった。


「……アデル様。貴女の弟、ディールは、生きている可能性が高いです。」


驚愕する、アデル。


「それ、は、どうしてです、か?」

「ちょっと、マリィさん……!?」


思わず制止するエリス。

相手は“四天王”

【加護無し】として村から排除された最愛の弟の生死を、気休めに“生きているかも”などと、連合軍トップが口にするなど前代未聞である。

それが単なる“気休め”なら、それこそ国際問題に発展する。


最悪、グレバディス教国から【覚醒の儀】を執り行う司祭の派遣停止もあり得る。

その場合は“ソリドール公爵国の代表が言ったこと。我々は関係ない”と、マリィやソリドール公爵国を切り捨てることすら、エリスの脳裏に浮かんだ。


“ユフィナさんがガルランド公爵国の端っこまで旅立ったという矢先に、これは無いでしょ!?”


そう、今、ユフィナは居ない。

それなのに! この状況って!


新体制の連合軍に訪れた最初の危機に、戦々恐々とするのであった。

そんなエリスを押しのけ、前に出るアデル。


「納得いく理由が無ければ、私は、貴女を、絶対に許さない。」


弟は、スタビア村の横を轟々と流れる“魔窟大河”に突き落とされたと聞いた。

あの大河に流れた者は、一直線に遠い彼方の海へ流される。

どんなに泳ぎの得意な者でも助からないだろう。


マリィは、チラッとエリスを見る。


「エリス、席を外して。」


感情の無い能面のようなマリィの顔が、人間味を帯びた。

驚くエリス。

そんなマリィ、1年に1度見られるかどうか。


「畏まりました。」


エリスは頭を下げ、執務室を出た。




「一体、どういう訳ですか!?」


アデルは憮然として尋ねる。

マリィは、答えない。


「総統閣下!?」

「少し黙れ。」

「なっ……!?」


余りの身勝手な物言いに、青筋を立てるアデル。

だが、当のマリィは何かをブツブツ言っているだけだ。


「……よし、エリスは離れたみたいね。ありがとう、フウガ。」


マリィは、アデルを見ながら椅子から立ち上がる。


「貴女は、口は堅いかしら?」

「は?? ……まぁ、“四天王”ですから。」


グレバディス教国の内政。

一般人には公開できない“危険な伝承”

当然、口が堅くなければ最高位神官など務まるはずがない。


頷くマリィ。

そして、剣帯に下げていた、美しい銀色の魔剣をテーブルに置いた。


この魔剣は知っている。

ソリドール公爵国に伝わる国宝、魔剣“フウガ”だ。


だから、何?


疑心の目を向けるアデル。


「……一体、何を?」

「これから見せるもの、そして語るもの、ご内密に。……もし誰かに話そうものなら。」


マリィから湧き上がる殺気。


アデルの全身という全身から、汗が噴き出る。


「貴女を、殺さなければならなくなるわよ?」


凄惨な笑み。

能面のように、感情の抜け落ちた表情ばかり見せるマリィとは思えないほどの、邪悪な笑み。


アデルは一瞬で理解した。

これこそが、マリィ・フォン・ソリドールの“本性”なのだと。


自分は最高位の【水の神子】

それも、歴代最高と呼び名の高い、水魔法の使い手。


そんな自分を、一瞬でその首を跳ねることも可能だろう。

目の前に居るのは、兄である【剣聖】をも凌駕する、化け物だ。


頷くことしかできない、アデル。

その殺気が、収まる。


「よろしい。約束よ?」

「は、はい。」


改めて確認したマリィは、机に置いた魔剣“フウガ”に声をかける。



「出てきて、フウガ。」




――――



「アデル様、おかえりなさいませ。」


フォーミッド中心部の聖騎士詰所。

グレバディス教国へ向かう馬車の出立を待つ聖騎士団が頭を下げた。


「どうされました? そろそろ教国へお戻りになられますか?」


聖騎士団の隊長が、アデルに尋ねる。

首を横に振る、アデル。


「アナタシス教皇猊下、それにレナ様へのご報告をお願いいたします。」

「は! どのような?」


アデルは、目を輝かせてはっきりと伝える。


「ご迷惑をおかけしますが、フォーミッド滞在を1カ月程伸ばします。加えて、“ドラテッタ侯爵領”方面へ向かいますので、ご心配なく、と。」


唖然とする、聖騎士団たち。


「お、お待ちください! 一体、どうして??」


アデルは、天使のような笑顔で答える。




「弟を、ディールを、迎えに行きます。」

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