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閑話21 『紅』、以外

猛吹雪が吹き荒ぶ【黒白の神殿】


その大聖堂奥にある、龍神達の魔法陣。

中心は巨大な陣が描かれ、中心の台座に紅く光る宝石が置かれている。


その陣を囲むように、周囲には7つの小さな魔法陣にの上には、人が乗れるほどの円状の台座。


7つの内、2つの台座に立つ人物が二人。

一人は、白い法衣と黄金の杖を持ち、白いズケットを被る金髪金眼の少女。

【白陽龍シロナ】である。


もう一人は、シロナの弟。

全身を覆う黒甲冑に黒い外套を纏い、長い黒髪と燃えるような赤い瞳の大男。

【黒冥龍アグロ】である。


シロナが杖を掲げ、何かを紡ぐ。

すると、台座が置かれる小さな魔法陣が4つ、光る。


台座に浮かび上がる、半透明の男女4人。


一人は、深緑の長い髪を横に巻き上げ、大きな黒い瞳にはち切れんばかりの胸元を豪快に開けた着物を纏う麗しい女性。

【碧海龍スイテン】


大樽のような胴体に、長く白い髭と髪、浴衣のような服を纏う丸眼鏡をかけた老人。

【金剛龍ガンテツ】


長い銀髪をサラサラとなびかせ、胸元が開いた皺ひとつない黒スーツを身に纏う優男。

【銀翔龍フウガ】


そして。

茶色の短髪に、薄い緑色の瞳。

白い一枚布を巻いたトガのような服を纏いながら、膝を抱える端正な青年。

【紫電龍ライデン】


“龍神”のうち、6柱が揃ったのだ。


「皆さん、お忙しいところお時間をいただき感謝します。」


現れた龍神たちにシロナが会釈をする。


『ったく。これから温泉の時間なのに。』


豪快に開かれた胸元を気にもせず、スイテンが伸びながら嫌味を言う。

その胸元をジッと見ながら、フウガが少し申し訳なさそうに伝える。


『悪いねスイテン。オレッチの都合に合わせてもらって。お詫びに今度、一緒にディナーでもどう?』

『お、こ、と、わ、り! 人の胸を直視する助平はねっ!』


頭をガクッと下げるフウガ。


『それにしても、こうして全員が揃うのは何年ぶりかのぉ。』


ガンテツが頭をポリポリ掻きながら尋ねる。


「500年ぶりだ。『紅』を封印して以来だな。『金』よ。」


低い声で答えるアグロ。

その言葉に反応するようにスイテンが大声で言う。


『そうよ! 今日はその貧乳小娘の事で集まったのよね!? 今、一体どういう状況!?』

「その前に、全員で情報を整理しましょう。まずはスイテン。貴女のところにまず訪れたのですよね?」


シロナがやんわりとスイテンに尋ねる。

スイテンは腕を組み、報告をする。


『私のところへ来たのは、今から半年以上前のことよ。宣言通り“資格者”を殺す勢いで試したら……【星の神子】も一緒で、危うくこっちが殺されかけたわ。』


その言葉に、『え?』と声を挙げるライデン。


『その次は儂のところじゃ。来た時は、まぁ、見ていられんくらい弱々しくてのぉ。“資格者”の“覚醒”の手伝いと、【星の神子】を鍛えたところじゃ。それがつい先日までの話し。その後は『銀』を目指して旅だったが、どうかの?』


続いてガンテツ。

またしても『え?』と声を挙げるライデン。


申し訳なさそうに頭を掻いて告げる、フウガ。


『それがさぁ~。オレッチも宿主のマリィちゃんに相談したんだよ。“資格者”と【紅灼龍ホムラ】がやってくるから、神殿に居ないオレッチから直接会いに行きたいって、さ。』

『ふむ。儂が伝えたことを実行してくれたのか。お主にして珍しく働くな、『銀』よ。』


感心するガンテツ。

本来ならここで嫌味の一つでも言うフウガだが…。


『それが……すまねぇ、出来そうにないんだ。』


頭を下げるフウガ。


「どういう事です?」


シロナが尋ねる。

うっ、とたじろくフウガ。


『あんた等がニンゲンの世界がどういう状況か知っているか知らないかは分からないが、今、オレッチがいる“連合軍”と、お隣の“帝国軍”が壮大な戦争をおっ始めてね。2、3ヶ月前だか、すっげぇ衝突があったんだよ。』


全員、黙ってフウガの話しを聞き込む。


『そこで“連合軍”の将軍だった【剣聖】が致命傷受けてさ。何とか一命をとりとめたんだけど……未だに目が覚めないんだ。』


驚愕する全員。


『【聖】が、何と。』

『悪い報告はまだあるぞ~? 相手の帝国トップ、皇帝っていうんだけど、その皇帝がオフェリアちゃんって子で、何と【魔聖】だったんだよ。謀反にあって殺されちゃったって話しなんだ。』


さらに驚く、他の龍神たち。


『【聖】が、2人も……』

『これはアレね。』


ガンテツとスイテンが呟く。

フウガも頷く。


『この戦争といい、間違いないね。あの胸糞悪い“ディア”の屑共が絡んでいるね。絶対。』


全員、沈黙する。

しかし、場を支配する感情。


怒り、だ。


『話しを戻すぜ? その戦争の最中に連合軍トップの“総統”ってのが、病死しちゃったんだよ。』

「それは気の毒に。」


シロナの呟きに、フウガが睨む。


『ここまで言って察しないか、シロナ?』

「……貴方の宿主が次の “総統” になったとか?」

『さっすがシロナだ。ビンゴだよ、ビンゴ。』


全員、ため息をつく。


『なるほどね~。ニンゲンの社会は良く分からないけど、何となくアンタがおいそれと外に出られなくなった、というのは理解したわ。』

『だとしても困るぞ、それは。』


盛大に呆れるスイテンとガンテツ。

ウッ、と言葉を詰まらせるフウガ。


『オレッチも、まさかこんな状況になるなんて思っていなかったんだよー! おかげでマリィちゃんも忙しいったらありゃしない! 加えて連合軍の再編だろ? マジで休む暇も無い状態。ただでさえ感情の起伏の無いあの子の目が、死んでいるんだぜ?』


盛大にため息をついて告げる。

そのフウガを見ながらアグロが伝える。


「それは忌々しき状況だ。我が直接ホムラと“資格者”を主の元へ届けようか?」


全員、ギョッとする。

隣のシロナも呆れながらため息を吐き出す。


「アグロ……。それでは『紅』の封印、フウガの60番台の前に貴方の80番台が解けてしまうじゃありませんか。なまじ記憶があやふやなままで、“龍化”が出来るようになれば、それこそニンゲンの世界に混乱が生じますよ。」


その言葉に、ウッとつまるアグロ。


「も、申し訳ありません。軽率でした、姉上。」

「ただ、現状だと『紅』が『銀』と会う可能性が低いというのは理解しました。さぁ、手立てを考えましょう。」


すると、恐る恐るライデンが手を挙げる。


「どうぞ、ライデン。」

『あのぉ~。ま、全く話しが見えないのですが。……『紅』の封印が解かれ、スイテンさんとガンテツさんの処に行ったというのは、ほ、本当ですか?』


シロナは頭を抱える。


「ごめんなさいライデン。貴方に全然情報が行ってなかったみたいですね。その通りです。で、次はフウガの元なのですが……。」

『じゃ、じゃ、じゃあ、その次は、ボボボボボクの処!?』


蹲りながらも顔を赤くして震えるように呟くライデン。

全員、再度ため息。


『そもそもフウガと会えるかさえ分からぬ状況を何とかせねばだぞ? ライデンよ。』

『う、うん…。』

『そもそも、あんたの処にはホムラはやってこないかもよ?』


スイテンの冷酷な一言。


『え? ど、どうしてですか?』

『あんた、ビビッてホムラの封印を適当にしたでしょ?もうすでに78番まで解除されているわよ。』


目を見開いて驚愕するライデン。


『じ、自力で解いたのですか!?』

『そうよ。まぁ私やガンテツも手を貸したは貸したけどね。』


唖然とするライデン。


『そんな……。どうやって?【星の神子】が一緒でも無ければ、あの“共鳴封印”は解けないはずだけ、ど、あ、一緒……なのか。』

『『『「「それだ」」』』』


全員の声が揃う。

目を丸くするライデン。


『うそーー。』

『まさか、それが原因だったとは……。』


頭を抱えるスイテン。

ライデン的には“絶対あり得ない”組み合わせで施した封印であったのだ。

そのため、本丸の封印そのものは適当レベル。


それが、まさか。

あり得ないことが、あり得たのだ。


『ちなみにじゃが、“資格者”と【星の神子】は仲睦まじい恋人同士じゃぞ。即ち。』


驚愕するライデン。


『それってー。【極星】の……』

「そうです。そのためにガンテツに“資格者”を鍛えていただきました。」

「後は我らの神殿へ迎えるのみ。」


ライデンの呟きにシロナとアグロが答える。

蹲るライデン。


『え、じゃあ。ボク、必要ないんじゃ……』

「そんなことはありません。そもそも自力で封印を解くこと自体が異常ですから。どこかで貴方に確認していただく必要があります。」


シロナの言葉に、顔を上げるライデン。


『じゃ、じゃ、じゃあ、ボクのところへ!?』

『流石にその岩山まで登れないでしょ? 降りてきなさい、ライデン』


スイテンの一言に、また顔を下げるライデン。


『いやだぁ~~。怖い、怖いよ。もし会いに行って『紅』に拒絶されたら……生きていけない~。』


情けない声を挙げるライデン。

呆れ顔の、全員。


『覚悟を決めなさいよ、ライデン。いつまでもそんなウジウジしていたら、マジでホムラに嫌われるわよ!』


スイテンの喝。

だがライデンは震える一方。


『ったく、この根暗野郎がぁー!』

『まぁまぁ。どのみちまずはオレッチがホムラに会う必要がある。オレッチが握るキーは【『紅』自身と“ディア”以外の記憶】だ。それが無くちゃ、いくら“人化”しても“龍化”しても使い物にならない状態だからねぇ。オレッチは何が何でもホムラに会う準備を進める。出来るかわかんないけど。』


スイテンとライデンの言い合い(スイテンの一方的罵声)を止め、フウガが告げる。

全員頷く。


『いずれにせよフウガ次第じゃの。お二人はフォーミッドへ行くとも言っていた。お主の近くに行くこととなる。ある程度近づけば、お主も分かるじゃろ?』

『ああ。探知範囲は龍神で一番と自負している。近くに来たら……“ラグレス”との約束を一瞬反故にしちゃうけど、オレッチ自身がホムラの元に行ってもいいな。』


全員、頷く。


「では、フウガはホムラとの接触後、私に必ず連絡をしてください。」

『ガンテツのジジィと一緒にするな。オレッチは必ず連絡するよ。』


シロナとフウガがガンテツを見るが、ガンテツは横を向いて口笛を吹いている。


「あとは“ディア”の屑共の同行ですね。“4体”の内、“1体”は“奴”なので残り“3体”。確実に目覚めているのは“1体”と見て……。」

「“2体”は動いている、と見るべきですぞ、姉上。」


シロナの言葉にアグロが釘を刺す。


「……最悪なのは“3体”全てが動いている事ですね。最悪の状態を想定してこちらも準備を進めましょう。」

『前代未聞だぞ? “4体”が揃うのは。』


ガンテツが震えながら呟く。


「……2,000年前は、“2体”でしたっけ?」

『そうじゃ。“魔女” と “弟子()” だ。この話は『紅』の封印が全て解け、そして “無事” なら全員に伝えよう。』


全員、言葉を失う。


「“2体” でも、先代龍神が6柱も葬り去られたのか。」

『儂が知る限り『紅』以外は全員、今の龍神よりも実力は上だった。その上で儂らとニンゲンが総力を挙げ、裏からも手を回して、何とか駆逐することが出来た。』

「……私たちも、覚悟を決めなければなりませんね。」


全員、頷く。


「500年前とはより状況が悪化していると見ましょう。ニンゲン同士の争いも、私たち“龍神”が介入してでも止める必要があるかもしれません。策略は有りとあらゆるケースを想定しましょう。」


シロナは、手に持つ杖を強く握りしめる。


「2,000年、いえ、それ以上前からの悲願。この世界を玩具にし歪な理を弄ぶ“ディア”の屑共を駆逐し、世界の平定と安寧を私たちの代で築き上げましょう。」


『500年前、たった“1体”を駆除するのにオレッチ達全員出張って、【聖】も全揃いで、何とかなったレベルだからなぁ。ニンゲンと一番絡んでいるのがオレッチだ。仲間を多く作っておくよ。』


フウガが拳を作り、伝える。


『出来得る限り武具を揃えよう。かつて“弟子達”を屠った際、ニンゲンの数と力が物を言った。もし目覚めていたら事だぞ? 儂も準備を始めよう。』


ガンテツも拳を作る。


『私は“水”を伝って真面目に情報収集ね。この状況で温泉入ってのんびりするのは流石に、ねぇ。』


スイテンも拳を作り、掲げる。


『ボ、ボクも……。勇気を出すよ。たぶん、ボクの住んでいる山の下あたりで、フウガさんの言う戦争が起きているみたいだし。か、か、介入するなら、ボクだよ、ね。』


膝を抱え、震えながらも拳と腕を掲げるライデン。


「我と姉上は、策を巡らせる。情報があれば逐一報告を。我らが全員の共有し、必要となればこうして揃おう。我らもまた一丸となる時が来たのだ。」


アグロも拳を作り、突き上げる。


「話しは以上です。皆さん、よろしくお願いします。」


シロナが頭を下げる。

フウガ、ガンテツ、ライデンが消える。



「どうしたのですか、スイテン?」

『気になったんだけど……。』


スイテンは、巨大魔法陣の真ん中の台座の、紅く光る宝石を指さす。


『実体を映しての念話って、どんだけ魔力を浪費するかって心配していたんだけど……。媒体って、その宝石?』

「ええ、そうですよ?」


震えながらスイテンが尋ねる。


『ねぇ、まさか……』

「ご明察。『紅』、ホムラの力の“核”です。」


盛大に汗を垂れ流すスイテン。


『バレたら……。やばいわよ?』


うふふ、と笑うシロナ。


「大丈夫ですよ。あの子、何だかんだ言って優しい子ですから。」

『……やっぱり、あんたって良い性格しているよね。』


笑うシロナと、呆れるスイテン。


「お褒めに預かり恐縮ですわ。」

『褒めてないし!!』


龍神の首魁【白陽龍シロナ】

長い付き合いだが、掴みどころが無いと改めて思う、スイテンであった。




消えるスイテン。

その場には、また、シロナとアグロの二人のみ。


「姉上。」

「ええ、分かっています。時間は……有るようで、無いですね。」



刻、一刻と近づく“その日”

最悪の事態を想定しつつも、最悪の事態を回避する手立てが無いか、2柱の姉弟は模索する。




運命は、動き出した。

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