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第61話 災い

「な、な、なるほど。“これ”がもう一つの条件、“内緒にして欲しいこと”ですか……。」

『何が“これ”よ! 私の名前、言ってごらんなさい!』


「「「「「「ホムラさん」」」」」」


カボス町のハンターギルドで出会った3人の商人が組んだキャラバン隊。

その道中の初日の夜のキャンプでのこと。


旅の馬車内。

気まぐれに剣のまま落ち着いていると思いきや、急に思い立って半透明の実体を現しウロウロするホムラである。

1カ月の旅。

いつか絶対バレる。


それならば最初からバラしてしまおうと、ディールは旅のメンバー全員にホムラの事を紹介したのであった。



3人の商人。

チョビヒゲ(あだ名)、色黒(あだ名)、豪商アキドン(本名)がそれぞれディールとユウネに直接依頼しようとしたところ、支部長ミラッサの助言によって3人の商人合同によるキャラバン隊が組まれた。

3人の商人に、それぞれの仲間を含め計10人。


その護衛に名乗りを上げたのが、3つのハンターパーティー。


一つは、ディールとユウネ。

Bランクだが、ハンターの英雄“鋼の鞭”Sランクハンターのミラッサ曰く『私より遥かに強い二人』と絶大な評価を得て、なおかつ、キャラバンを組むこととなった3人の商人がこぞって直接依頼を掛けようとした将来有望の若者二人。

非常に仲睦まじい恋人同士でもある。


二つ目は、Bランクパーティー“青の飛翔”

ラーナという女性剣士を筆頭とした、魔導士リサーナと魔導士マイの女性3人組。

全員がBランクであり、ラーグ公爵国とバルバトーズ公爵国ではそれなりに名の通ったハンター達であった。


三つ目は、同じくBランクパーティー“オレ達に明日は無い”

クザンという武闘士を筆頭とした、剣士イエガー、魔導士バーボンの男性3人組。

こちらも全員Bランクで、ラーグ公爵国とバルバトーズ公爵国で名の通ったハンター達である。

むさいオッサンによる、悲しいパーティーではあるが。


彼らが手を挙げたのには理由がある。

まず、“青の飛翔”

目当てはディールであった。


ミラッサに『私より強い』と称されたディール。

加えてあまりのイケメンっぷりにハートを射抜かれ、彼女が居てもいい! と同行することを決意したのだ。

同時に恋人であるユウネの、同じ女性とは思えない程の可憐さにも心を打たれ、すでにこんな感じなのだ。


「兄貴! 姉御! ホムラさんって凄いっすね!」

「本当ですわ! さすがディール様です。そのディール様の恋人であらせられるユウネ様も、素敵……。」

「ユウネ様とホムラ様、美しすぎるううぅ~。」


すっかり、ディールとユウネ、そして今紹介されたホムラに心酔するのであった。


続いて“オレ達に明日は無い”のメンバー。

そのパーティーネームが示す通り、“今日死んでも構わない”がモットーの彼ら。

そう思いつつ自由にやってきた結果、実力と実績を重ねBランクパーティーとなった。

間もなくAランクにも届くだろうという凄腕である。


彼らが手を挙げた理由。

“青の飛翔”と同じように、こちらはユウネが目当てだった。


ディール同様、ミラッサに『私より強い』と称されたユウネ。

その可憐な表情、豪勢な装備品の上からも分かる豊満な胸。

完璧すぎる美少女の前に、全員、心を打ちぬかれた。


だが、彼女は超絶ラブラブっぷりを発揮する、ディールという恋人がいる。


それでも良い。

むしろ、それで良い。


“オレ達に明日は無い”

この素晴らしく完成された可憐な少女が、その愛を一心に捧げる、超絶イケンメンの彼氏。

しかも凄く強く、彼女に対してめちゃくちゃ優しい。


「くぅ~~~!! ユウネ殿が居ながらこんな美少女魔剣を持つなんて、さすがディール殿!」

「素晴らしいです! 拙者、このシチュエーションで飯がおかず無しで3杯食えるでござる!」

「オレもディールさんの事、兄貴って呼ばせてください!!」


彼らも、ディールとユウネ、そしてホムラに心酔するのだ。


何だかアブナイ2組。


「兄貴はやめてください。」

「姉御って言わないでくださいっ!」


頭を抱えるディールに、顔を真っ赤にさせて叫ぶユウネであった。




「ところで、バルバトーズ公爵国の“国境町サウスセナ”経由でフォーミッド入りするなんて、何かあったんですか?」


合計18人という大所帯での食事を終え、“オレ達に明日は無い”リーダーのクザンが豪商アキドンに尋ねる。

アキドンは秘書の女性にワインを注いでもらっているところだった。


「うむ……。これは言うべきかどうか。」


何か悩んでいる様子。

同じように、商人のチョビヒゲと色黒も何やら思案顔。


「……あの“噂”って本当なの?」


そのやり取りを見ていた“青の飛翔”リーダーのラーナが尋ねる。

ギョッとする3人の商人と、何人かの商人のお伴達。


「ラーナ殿は、情報通ですな。」


チョビヒゲが感心したように呟く。

「?」の他のハンター達。


「どういう事だ?」


ディールも話しに加わる。

その隣にはユウネがピタッとディールにくっ付き、反対側にはその様子をイライラしながら睨む半透明実体化中のホムラだ。


「何かね~~。“出る”って話しなのよ~~。」


ラーナは両手を胸のあたりに出し、手首を折る。

所謂 “お化け” ポーズだ。


「ひぃっ!」


震え声をあげてユウネはディールの腕にしがみ付く。

この手の話しが、大嫌いなのだ!


『出るって、お化け~? まさかそんなぁ!』


まさに今、お化けのような姿のホムラが笑って言う。

だが、ラーナは真剣な表情であり、3人の商人も手を顎に当てて思案顔だ。


『……え、マジ??』

「って言っても私も“出る”とか“何かあった”くらいしか耳にしたことが無いんだけどね。通称“マレニア村の金髪パメラ”の話し。」


3人の商人が、ハァ、とため息をついた。


「儂が話そう。」



豪商アキドンの話しは、こうだ。


本来、カボス町からフォーミッドへ入るにはラーグ公爵国とバルバトーズ公爵国の間にある“国境町サウスセナ”をわざわざ経由せず、持ち歩く物資等に余裕があるなら直接フォーミッド最西端の“ドラテッタ侯爵領”を目指せばよい。

そちらの方が、若干だが、3日程早くフォーミッド中心へ到着する。


しかし、それを避ける理由。

カボス町とドラテッタ侯爵領の丁度中心にある中継点となる“マレニア村”に、よからぬ噂があるとのこと。


最近、村人の大半が“殺された”とのことだ。


普通、そんな状況は盗賊の襲撃、それも後先を考えないレベルでの襲撃が予想される。

しかし、マレニア村はドラテッタ侯爵の領地であり、ラーグ公爵国、バルバトーズ公爵国、さらに少し離れてはいるがガルランド公爵国で豪傑揃いと有名の“ランバルト子爵領”までも近い。

周辺に大きな中継となる町が存在する中、村としては相当栄えており、“町”と称しても問題が無いほど大きい場所であるとのこと。


そんな要所を、襲撃するような強力かつ凶悪な盗賊の話は、一切無いとのこと。

ならば、誰が?


「その村には……6年前の【覚醒の儀】で、【加護無し】になった“パメラ”っていう女が住んでいたんだよ。」


息を飲む、ディールとユウネ。

ホムラも驚愕する。


初めて聞く、ディール以外の【加護無し】

それもスイテン曰く『【加護無し】は、女しか生まれない』のとおり、女、だ。


血の気の引く、ディール。

震えながら、その手を握るユウネ。


「グレバディス教の最近の主流は【加護無し】は災いを齎すから処分しろ、という話しだ。だが、実際に災いが起きたっていうケースが見られなくて司祭の間もその話しを疑問視する層が相当多いんだ。」

「実際、儂が子供の頃はそんな話しは無かった。」


商人の色黒の補足に、付け足すアキドン。

話しは続く。


パメラはそれは美しい娘で、なおかつ司祭が【加護無し】が災いを齎すという話しに懐疑的であったため、村人たちも特に何もせず、パメラも今まで通り村で過ごしてきた。

そして思ったとおりというか、特段 “災い” など無かった、とのこと。


「それが去年。つまり【加護無し】になって5年経った日。……村人の大半が、虐殺されたんだ。パメラの手によって。」


ある日、いつも通り過ごすパメラ。

突然、半狂乱のように叫び、笑い、村人たちを襲いかかった。


村には、屈強な連合軍の駐屯兵や強靭な【加護】を持つ若者も沢山いたとのこと。

それが全員、パメラの手によって虐殺されたとのこと。


突然の、発狂。

そして、村人に対する暴虐。


「パメラの髪は、本来美しい赤髪だったという。それが狂った時、眩しい程の金髪に変貌したとのことだ。何かを叫びながら、狂ったように笑いながら、村人たちを襲撃した。そして……。」


姿を、消した。


まるでそこに存在していなかったように、忽然と姿を消したとのこと。


「殺された中には、パメラの両親に恋人、さらに大恩ある司祭まで含まれるとのこと。この事態に公爵国や連合軍、さらにはグレバディス教国まで絡み、情報統制を行っているとのことだ。」


呟くように言うアキドン。


「……今、マレニア村に行くと以前のような活気が無いどころか、まるで廃墟のようです。住んでいるのは【覚醒の儀】を待つ子供のいる家族のみ。子供の居ない大人や、成人した者、中には自分の子供を見捨てて出て行った親もいるって話しですよ。」


チョビヒゲも目を伏せながら呟く。


「まぁ、事実はわかりませんが、かつての活気が無いためこの噂が本当である、というのが儂ら商人の中での通説だ。もともと活気の無い村に寄ったところで商売あがったりだし、わざわざそんな不吉な村を寄るまでないということで、今、カボス町からフォーミッドのルートは国境町サウスセナを通るのが主流だ。」


全員、静まり返る。


「な、なるほど。それなら仕方ないでござるな……。」

「ですわね。もしそんな “亡霊” みたいなのに遭遇してしまったら……恐ろしいですわ。」


剣士イエガーと魔導士リサーナが震えながら呟く。


「ディール……。大丈夫?」


震えるユウネだが、その隣のディールは尋常無い程、青ざめて震えている。

冷や汗を流し、動悸も激しい。


「ディール、もう今日は休もう。……皆さんすみません、ディールの体調が優れないので。」


ユウネは頭を下げ、全員に告げる。

その健気な姿に、他ハンター6人全員『ズギューン!』となる。


「ま、任せてください姉御!」

「オレ達が見張りを交代でやるから、ディール殿を休ませてください!」

「ハァハァ……ユウネ様、私たちにお任せを!」

「ちょ!? マイ、貴女、鼻血鼻血!」


大騒ぎの“青の飛翔”と“オレ達に明日は無い”のメンバーに再度会釈し、ディールとユウネは二人のテントへ入る。


この旅に合わせ、別々だったテントを一新した。


少し大きめで、厚い布に覆われた“超”高級テント。

冷暖房の魔石が組み込まれているため室内空間は快適に過ごせる。

また外側も魔石が組み込まれており、魔力を通すと保護膜が張られ、ある程度の防御に加え、防音効果もある。


中は広々で快適であり、簡易ベッドも付属。

収納機能があるため、片付けしやすく、ストレージバックの容量も見た目以上に圧迫しないのがポイントである。


二人でこのテントに寝泊まりする。

この事についてホムラが憤慨したのは言うまでもない。



「ディール、大丈夫?」

『顔、真っ青だよ!?』


ユウネとホムラに心配されつつ、ベッドに腰を掛けて水を飲むディール。


「すまない……二人共。」


だが、その身体は震えている。

顔も強張らせ、青白くなっている。


理由は、先ほど聞いた【加護無し】の件だ。

【覚醒の儀】を終えて、問題なく暮らしていたというパメラという女性。


豹変し、自ら村人を手に掛けた。

家族、恋人、そして司祭。


これが “災い” なのか?


もし、あのままスタビア村で過ごしていたら?

司祭に追われず、この場に居なかったら?

いつか自分も豹変し、大恩ある村長やその家族、ナル、司祭、そして村人たち。


自分が、この手で?


そうじゃない。

今、もし、この旅の途中で?


ユウネ、を?



「うっ!!」


吐き気が込み上げ、嘔吐くディール。


「ディール!? ディール!!」


大慌てでその背中をさするユウネ。

こんなディールを、初めて見た。


「はぁ……、はぁ……、ありが、とう。ユウネ。」


水をもう一度飲み込み、息を整える。

その目には、涙。


ディールは、決心する。


「ユウネ。頼みがある。」

「な、なぁに?」


嫌な予感しかしない、ユウネ。



「……もしオレが、パメラのように豹変したら、迷わず、殺してくれ。」



硬直する、ユウネ。

ホムラも両手で口を押さえ、震える。


「オレは、【加護無し】だ。今まで“災い”って何だろうって、思っていたが……。【加護無し】自身、つまりオレ自身が、災いの元凶なのかもしれない。」


震えるディール。

目から、涙。


何より怖いのは、この旅の途中でパメラのように狂ったら。

愛する者さえも区別がつかず、手に掛けてしまったら。


それこそ、気が狂いそうになる。

もし、この手でユウネを殺めてしまったら?


その考えが過った瞬間、ディールは悍ましい感情と共に嘔吐しそうになった。


愛するユウネを、この手で?


そんなの、許せない。

信じられない。



だが、もしパメラのようになったら?



それならば、いっそ。


愛する者の手でこの生を終えよう。



「頼む、ユウネ。オレがもしパメラのように狂ったら、」



バチンッッ!!



何が起こったか分からないディール。

ジンジンと痛みのある、左の頬。


目から大粒の涙をボロボロ零すユウネ。

その右手は、今、ディールの頬を叩いたのだ。


「……言わないで。」

「ユウ、ネ。」


「馬鹿なこと、言わないでぇ!!」


泣きじゃくるユウネ。



オレを、殺してくれ?

誰が、誰を、殺すの?


私が、愛する、ディールを殺すの!?



「そんなの、信じない! 私は、信じない!! ディールは、ディールなんだよ!?」


叫ぶ。

この声が、届くように。


「何が【加護無し】よ!! 何が豹変するよ! 私は信じない。ディールは、変わらない!!」

「だが、ユウネ!」

「私は、諦めない!!」


ボロボロと涙を流しながらも、ディールの目を見つめ、ユウネははっきりと告げる。


「私は、絶対に諦めない。貴方が変わることも信じないし、もし変わったとしても、私は絶対に諦めない!!」

「だけど! もしオレが自分を失い、もしユウネを……」


ユウネはディールを抱きしめる。


「私は絶対に諦めない。貴方は誰も傷付けないし、誰からも傷付けさせない。私が、絶対に、守るから。」


この声。

この想いが、貴方の“心”に届きますように。


「だけどっ! オレはっ! ユウネを……」

「大丈夫。……それでも、ダメなら……。」


ユウネは、ディールの耳に“覚悟”を告げる。

その声が、言葉が、ディールの胸を穿つ。


「ば、馬鹿なことを言うな、ユウネ!!」


抱き着くユウネを離し、叫ぶディール。

ユウネもキッとディールを睨み、叫ぶ。


「ディールの方が馬鹿よ! 見くびらないで!? 私は、もう、とっくに貴方に命を懸けられるの!」


ユウネは、ディールの両肩を掴み、叫ぶ。


「私は、もう、貴方無しでは、生きられないの!!」


初めて、好きになった。

初めて、唇を重ねた。

初めて、心を通わせた。


そして、共に “地獄” を乗り越えてきた。


瓜二つの装備を纏い、同じ目的を持ち、運命を共にする。

例えどんな障害があろうと、二人なら乗り越えられる。

二人を引き裂くのは、例えこの命尽きようとも、例え神でさえも、敵わない。


ユウネは、すでにその覚悟が出来ている。

ディールと共に生きる、覚悟が。

生も死も共にする、覚悟が。


「ユウ……ネ……」



ディールの目からも、大粒の涙。



そうだ、覚悟が足りなかったのはオレ(ディール)の方だ。


どこか、ユウネにも感じていた後ろめたさ。

自分が【加護無し】であることを。

それにも関わらず【神子】のユウネと共にすることを。


ホムラを携える者として、本当の意味での“資格者”となるため、師匠ガンテツの元で半年もの間、地獄を見たのだ。


その目的は何か?

半年前、殺されそうになったユウネを目の当たりにして、真の意味でユウネを守るため、強くなろうと決意したのではなかったのか?

だから、あの地獄をユウネと共に乗り越えられたのではないか?


それが【加護無し】の女の惨状を耳にしただけで、揺らぐものだったのか?

そんなに安い、覚悟だったのか?


違う!

そんな安っぽい決意や覚悟ではない!


この女を、愛するユウネを、守れる男になる。


【加護無し】がなんだ!?

オレは“資格者”だろ!!


違う!

”資格者”がどうか、ではない!


オレは、ユウネを、愛している。

それ以上の理由は無い!


豹変し、自分を見失ってしまうほど“自分”が無いのか!?

この命を、ユウネに捧げる覚悟は無いのか!?


違う!!

オレは “災い” なんかに、負けない!!



ユウネを強く抱きしめるディール。


「ユウネ……。悪かった。オレが悪かった。オレは、負けない。絶対、負けない!!」

「ディール……。大丈夫、私が、ずっと傍に、いるから。」



二人の涙が響く、夜。


その二人を見守り、涙を流すホムラ。



そうだ。

もしディールが狂っても、私が止めてやる。

私で、”大好きなユウネ” を手にかけるなんて、私が絶対に許さないんだから!!



【ホムラの封印78を解除しました。残り、32。】



すすり泣く2人と、1柱の龍神。




後に、知る。


【加護無し】がこの世界でどういう “存在” なのかを。

【加護無し】が何故 “存在” するのかを。

【加護無し】で豹変した “女” の正体を。



【加護】とは、何かを。



歪な“ 理” に覆われる、この世界の、真実を知る。

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