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第60話 争奪戦

ハンターギルド・カボス支部のミラッサ支部長室から出たディールとユウネ。

そのままギルドのロビーへ足を運ぶ。


「まだ何か用事があるの? ディール。」


すでに換金を終え、それぞれのストレージバック内には金貨5,000枚分という超大金が収められている。

なるべく顔に出さないように、気配を漏らさないように……!

と、ユウネは“未だかつて持ったことが無い”大金を抱える高揚感やら恐怖心やらで一杯の自分に喝を入れ、表情に出さないように努めているが……。


イマイチだった。


自然と周囲をキョロキョロし、背中に背負うストレージバックが“ちゃんと背負えているか?”と気にしまくりであるのだ。


明らかに挙動不審。


その美貌とスタイルの良さ、さらに装備品の良さから、物凄く目立っているユウネ。

そんな彼女がソワソワと挙動不審である様子は、奇妙に映るのであった。


「あ、あぁ。フォーミッドまでの連絡便や定期便、商人とかの護衛依頼があれば受けようかと。」


ユウネに答えるディールも、内心バクバクだ。

ずっと田舎暮らしで兄と姉の3人で慎ましい暮らしをしていた。

兄ゴードンが連合軍入りをしてからは村長の家に居候という形で入居したが、特段贅沢になった訳ではない。


ホムラに出会い、師匠たる【金剛龍ガンテツ】が仕掛けたエビルブル・ジェネラルの黄金装備や魔窟で得た魔石を売り、初めて大量の金貨を手にした。

その上で、ユウネの笑顔が見たいという独りよがりな理由で高級宿に宿泊するなど、ここに来て贅沢の味を覚えたのであった。


“土の神殿” での半年にも及ぶ、地獄のような修行の日々を終えた今。

久々に訪れた町で、贅沢な宿に泊まって心身共に穏やかに過ごせたが。


それでも、どこか修行の日々が抜けておらず、そして見た事の無い大金を得たことで、彼も挙動不審になるのであった。


「そ、そっか! 馬車に乗せてもらわないとだからね!」

「そ、そうだ!」


ギルドのロビーにある依頼書が沢山貼られている掲示板の前で、ソワソワするディールとユウネ。

挙動不審の、立派な装備を纏う若いカップルハンター。


傍から見れば、

「イチャイチャしやがって!」

「末永く爆発しろ!」

と、怨嗟の声も聞こえてくる状況ではあったが。


“状況”は、違う。

見る者が見れば、それは千載一遇のチャンスに映るのだ。


「あ、あのぉ……。お二方はもしやフォーミッドまでの馬車の護衛依頼を探していらっしゃいますか?」


チョビヒゲをはやした、小太りの男が恐る恐る手もみをしてディールとユウネに声を掛ける。


「? そうだが。」


男に答えるディール。

男は顔をパァッと輝かせ、


「ぜひ! よろしければぜひ! 私の商団の護衛をお受けいただけないでしょうか、ハンター様!」


驚くディールとユウネ。

まさか“直接依頼”の声が掛かるとは!



通常、依頼主はギルドに『こんな内容を、どのくらいの力量を持つハンターに、幾らで、いつまでに』といった内容を盛り込んだ依頼を行う。


そしてハンターは自分の力量や得手に沿った依頼書を探し、ギルドから受注書を受け取って依頼主の元へ赴き正式に依頼契約を交わす。


依頼と受注、そして報酬。


これらをギルドが仲介することで、依頼主とハンター双方に起こりうるトラブルを回避出来るのだ。

具体的には、依頼主による虚偽依頼や報酬詐欺といった契約不履行の防止、依頼内容に応じた適切なランクのハンター派遣といった信用の担保などである。


もちろん、ギルドは慈善団体ではない。

双方から、依頼金や受注金といったマージンを徴発する。

特にランクの高いハンターを希望すればするほど、また成功報酬が高ければ高いほど、この二つのマージンは比例して高くなる。



これに対し、依頼主がハンターに直接依頼をするパターンもある。


ギルドを介さず、双方が納得すれば直接契約をしても良いというものだ。


依頼主は、ギルドに対して依頼金を納める必要が無く、また自分の目で見てハンターを選べるメリットがある。

そしてハンターは、ギルドに対して受注金を納める必要が無く、依頼主も依頼金を納めない手前、より多くの報酬を払ってもらえるチャンスがある。


ただし、その行為はお互いにギルドの様々な保障を放棄することを意味する。

双方による直接契約は、ギルドは一切関与しない。


“それでも良ければ、ご自由に” が、ギルドのスタンスだ。


ハンターは“信頼と実績”が全てだと考えるギルドは、直接依頼も信頼と実績の上で成り立つと考えているのだ。

直接依頼で、依頼主とハンターが、どこまでお互いを信じられるか。

それに懸かっている。


だが、ハンター側にとって直接依頼は、一種のステータスのようなものである。

自分や自分の仲間が信頼され、実績が認められなければ依頼主から直接依頼など絶対声が掛からないからだ。


“実力が認められている”


その証拠ともなるのであった。




「オレ達と、直接契約を?」

「そうです。」


嬉しい反面、警戒心を露わにするディール。


当然だ。

初対面の商人から、どう見ても“成人したての若者”であるディールやユウネに直接依頼をするなど、何か裏があって然るべきと考えるのだ。


もちろん、それを分かっているのが商人である。


「端的に申し上げます。今この場で、あなた達以上の実力者が居ないからです。カボス町に滞在している数多くのハンターで、間違いなくお二人は最高のハンターでしょう。」


笑顔だが、目は真剣そのもの。


「受ける、受けないは細かな内容と条件をお聞きになってからで構いません。とことん、納得いった上でお受けください。」

「話しを聞いてから、断っても良いということか?」


正直、あり得ない話しだ。


本来、商人は“依頼主” としてハンターを下に見る傾向が高い。

しかも、仕入れや売上など、様々な取引相手を持ち、村から町、市へと行ったり来たりして忙しいのだ。

そんな商人が、わざわざ説明のために時間を割き、しかも“納得できなければ断って構わない” と言うのだ。


もしディール達が断れば、その説明の時間は全て無駄になる。

それでも構わないという、判断。


「……それほどの実績があるわけじゃないんだがな、オレ達は。」


さらに怪訝そうにディールが言う。


確かに、ディールとユウネは強くなった。

その実力は、もはや計り知れない。


だがハンターに必要なもう一つの重要な要素。

“実績”

ディールとユウネはこれが乏しい。


一時、レリック伯爵から褒章で勲章を授与されるチャンスも得たが、【加護無し】と【星の神子】を理由に断ったため、あの偉業は実績としてカウントされていない。


商人は笑顔のまま、首を横に振る。


「いや、私の商人としての勘が言っています。お二人は恐らく放っておいても実績はどんどん積みあがって行く逸材でしょう。今、この時点で実績があるとか無いとか、関係ありません。」

「……そういうもんか?」


ディールは呆れるが、商人はニコリと笑い、頷く。


「そういうもんです、よ。商人たる者、先見の明が無ければ商売あがったりですからね。ささ、よろしければギルド内のカフェで依頼内容をお話しさせてください。お茶を御馳走しましょう。」


そう言い、チョビヒゲ商人はディールとユウネを促す。

すると。


「ちょっと待った!」


声が上がる。

別の商人だ。


「まだ細かな依頼内容と条件を聞いていないですよね、お二人は。」


別の商人がツカツカ歩いてディールとユウネ、チョビヒゲ商人の元に来る。

笑顔だったチョビヒゲは、顔を顰める。


「確かに……まだ聞いていないが?」

「それなら! ぜひ私のお話しから聞いていただけませんか? 私もフォーミッドまでの護衛依頼をお願いしたかったのですよ。」


背の高い色黒の商人が笑顔で言う。


「ちょっと待て。この方々は私が先に声を掛けたんだぞ?」

「直接依頼ルール“その2”。」


チョビヒゲが制止すると、色黒がドヤ顔ではっきりと言う。

グッ……と言葉を詰まらせるチョビヒゲ。


「なんだ、その直接依頼ルールって? その2って何だ??」


ディールとユウネがポカーンとしていると、色黒はドヤ顔のまま説明する。


「ああ、ハンターさん。商人や色んな業種の者が直接ハンターさんに依頼を掛ける場合も、何でもアリって事は無いんだ。暗黙の了解みたいな話しだが、ルールが存在する。」


色黒は、指を前に出す。


「まず一つ! 直接依頼は、雇用主本人が、直接ハンターに声を掛けること! 代理などご法度!」


そんなルールがあるのか…。

感心して聞き入るディールとユウネ。

続いてもう一本指を上げる。


「問題の二つ目! 直接依頼は、その内容と条件を口にする前に別の直接依頼が舞い込んできた場合、誰と最初に交渉するかはハンター側に決定権がある! もちろん、全員の話しを聞いてから決めても問題なし!」


なるほど、と頷くディール。

だからこの色黒は『まだ依頼内容を聞いていないですよね、お二人は。』と言って割り込んできたのか。


“割り込みは良くない”


これはディールが兄や姉から散々言われて学んだ事だ。

割り込んできた色黒に少し嫌悪感を覚えたが、商人同士の共通ルールとなると割り込みとは違うのかな? と思うのだ。


このルールは、どちらかと言うと“ハンター側の機会の保障”である。


複数、直接依頼が舞い込んだ場合は“依頼主によるハンターの奪い合い”になるが、内容や条件が提示されていない状況で“早い物勝ち”にしてしまうと、逆にハンターが損をする場合もある。

同じ条件の依頼で、後者の報酬が良かったという話しもあるからだ。


ただし、依頼内容や条件を提示した後に割り込む事、またハンター側も同条件の依頼を望む別の依頼主に掛け合い、報酬を釣り上げは行為はご法度である。


これこそ、ディールが嫌悪している“割り込み”に該当する。

直接依頼ルールでも、これは禁じられている。

それがルールその3、だという。


「以上! よってまだ交渉は成立していないため、お二人は両方の依頼内容を聞いてから判断しても良いし、どちらか片方と交渉しても良い!」


色黒はドヤ顔のまま伝える。

その顔に、ユウネはちょっと引いているが。


「くっ…」


チョビヒゲは悔しそうに俯く。

だが、またしても声があがった。


「その話し! 儂も混ぜろ!」


白髪の、ずんぐりむっくりな商人。

傍には美人秘書が佇んでいる。


「あ、あんたは!!」

「豪商アキドン!!」


チョビヒゲと色黒は同時に叫ぶ。

どうやら、有名な商人のようだ。


「そのお二人との交渉、儂も混ぜてもらおうか! その佇まい、装備品、そして見たことも無い魔剣と魔道具。未だ無名でも、世界にその名を轟かせる逸材と見た!」


アキドンはガツガツと4人の元に速足でやってきた。

そして、ディールとユウネを見定めるように見る。


「……素晴らしい。どんな【加護】を有しているか分からぬが、もはや実力はかの十二将や十傑衆と同等と申しても遜色は無かろう。素晴らしいハンターだ。」


アキドンの言葉に、周囲に居たハンター全員がギョッとする。


「マジかよ!?」

「あのカップルハンター、只者じゃないと思っていたが……」

「豪商アキドンがそう見立てたってことは、ガチだな。」


どうやら、見る目は確かなようだ。

だがそれは、前の二人の商人も同じこと。


「お待ちくだされアキドン殿! いくら貴方とは言えルールはルールですぞ?」

「交渉は平等。そして選ぶのはハンターさんですぞ!」


チョビヒゲと色黒が食って掛かる。


いくら相手が豪商だとしても、商人たる者、儲け話や先行きの良い話を譲ったら負けなのである。

「わかっとる! わかっとる!」と頷くアキドン。


その様子に、ユウネはキョトンとし、首を傾げて呟くように言う。


「皆さん、目的地が同じなら……。一緒に行くってわけにはいかないのかなぁ?」


3人の商人が、硬直する。

ギギギギ、と音を立てるようにユウネを見る商人達。


「お、お嬢さん……それは……」

「わ、我々商人にも、プライドというものが……」

「それは、その、何と言うか……」


何かを躊躇うというよりも、その方法はまるで“避けたい” ような3人の商人。


「何か問題があるのか?」


ユウネの提案に同意しつつ、ディールが尋ねる。

それについて答えたのは……。


「複数の依頼人が共同して護衛依頼する場合は、直接依頼でなくキャラバン隊としてきちんとギルドに申請するのも、ルールだからね。」


支部長である、ミラッサだった。

ディールとユウネを見据え、ふぅ、とため息をついて尋ねる。


「あんた達、まだ居たのかい? ……って、そうか。馬車に便乗できる依頼を受けているのか。」

「ああ。旅は続けるからな。ところで、キャラバン隊はギルドへの依頼になるんだな。」


ディールが答えると、ミラッサが近づいてきた。

明らかに怯えるような雰囲気になる、3人の商人。


「そうさ。キャラバン隊となると、それだけ護衛規模も大きくなる。支部や町のハンターが大勢その依頼を受けて手薄になると、他の依頼を受けられなかったりと色々不都合が生じるんだ。それでも黙ってキャラバン隊を組んで大勢ハンターを引き連れて行っちまう商人も居るにはいるが……。」


ギロリ、とミラッサは商人達を睨む。


「そんな真似をした奴等は金輪際、ハンターギルドが利用できなくなる。いわゆる“出禁”ってやつだ。もちろん該当支部だけでなく、世界中のギルドネットワークにその情報が回るからどこ行っても抓み出されるがな。」


ハンターギルドの利用禁止。

商人にとって“死ね”と言われているようなものである。

もちろん、そんな商人からの直接依頼は御免だと、ハンター達からもそっぽを向かれるのだ。


出禁になった商人の末路は、当然、この3人の商人は知っている。

全身を震わせ、縋るようにミラッサへ言う。


「ミラッサ支部長! も、もちろん分かっておりますよ!」

「ギルドを通さずキャラバンを組むなど、自殺行為甚だしいですぞ!」

「我らは全うな商人! 個別に直接依頼はしても、徒党でギルドに背く真似などせぬ!」


その3人の言葉に、ミラッサは頷いて言う。


「よぉし、よぉし。分かっているじゃないか。ちなみにこの二人は、私より強い。遥かにな。」


ミラッサの評価に、商人だけでなくギルド内の全員が驚愕する。

ハンターの英雄“鋼の鞭” ミラッサが“自分より強い”などという評価をするなど、あり得ないのだ。


それも、新人と言っても過言でない成人したてのような若いハンター二人。


「どういう経緯でこんなになったか知る由もない。所持している【加護】が凄いのか、鍛錬が凄いのか、とにかく“Bランク” っていうの過小評価が信じられないわ。」


二人はBランクだった。

そういう意味で、3人の商人は目利きであった。


だがハンター内で十分上位である“B”ランクすら、過小評価だという。


「そういう訳で、ギルド支部長という立場じゃなく1人のハンターとしてあんた等にアドバイスしておくぜ? 大人しくキャラバン組んで仲良くフォーミッドまで行きな。この二人はそれだけの価値があるさ。」


それだけ言い、ミラッサは手をヒラヒラさせてその場を離れた。



唸る3人の商人。

ミラッサの言葉に信じられないという顔をする、ハンター達。


しばし、ディールとユウネを放ったらかしにして話し込む3人の商人。

そして3人でお互いの肩に手を回し、円陣を組み始めた。


「……オレ達はどうしたらいいんだ?」

「私は、ディールと一緒なら何でもいいよ。こうしている間も……幸せだから。」


顔を赤らめてディールの腕に絡みつくユウネ。

ディールも顔を赤くして頬を掻く。

それを見て、悔しそうに震えるハンター達。

―コラーッ!― と、叫ぶホムラ。



円陣を組んだ3人の商人は「それで行こう!」と叫んだ。


豪商アキドンが、ディールとユウネに向かって言う。


「儂らは合同でキャラバン隊を組み、正式にギルドへ依頼することとした。お二人には、ぜひ受注していただきたいため、今この場で、依頼条件を申しますが良いでしょうか?」


ミラッサの言葉を受けたからか、その先見の明がそうしろと言うのか。

3人の商人は、合同でキャラバンを組むこととしたのだ。

頷く、ディール。


「まず、儂らは明日の正午にカボス町を出立する。ルートはここラーグ公爵国から、北のバルバトーズ公爵国の“国境町サウスセナ“を経由し、連合軍本部フォーミッドの最西端であるドラテッタ侯爵領からフォーミッドへ入る。最終地点は、フォーミッド中心。順調なら1カ月程の旅となる。」


豪商アキドンが、まずルートを説明する。


「お二人、というより受注いただけたハンターの皆様には、その行程の護衛として同乗していただく。本来、直接依頼の場合は食事は依頼主が出すのがルールだが、今回キャラバンで複数ハンターを募る関係上、食事はそれぞれとなる。ただし食材はこちらである程度用意するので、使ってもらって構わないとする。」


その言葉に、周りのハンターが色めき立つ。


食材の確保、用意。

護衛依頼の場合の最初の壁が、食材である。


ストレージバックのような、保存の効く異空間収納のマジックアイテムがほぼ必須となるが、それなりに高価なアイテムであるため、手にしていないハンターはここで脱落する。


もちろん、途中立ち寄った町で保存食を仕入れる方法や、護衛する商人から買い付けるといった方法もある。

だが中には、法外な値段を提示される場合もあり、あまり好まれないのだ。


「次に報酬だが、これはお二人を特別扱いすることはできなくなる。ハンターは1パーティーにつき、金貨21枚を提供しよう。」


再びざわつくハンター達。

1カ月の護衛行程で、1パーティー金貨21枚は破格なのである。


これは、3人の商人が折半という形で合意された。

だが、正直金に全く困っていないディールとユウネは、魅力を感じなかった。

それに気付いてか気付かないのか、アキドンは二人に話しを続ける。


所謂 “本題” だ。


「お二人はもともと儂らが直接依頼をしようとしたハンターだ。このまま他のハンターと同様にキャラバン護衛依頼を受けていただけるとは考えない。だが、金銭を多く渡すのは、他のハンターと不公平になるため、お二人は特別に現物での特別報酬を約束しよう。」


“金” は色々と揉める原因になる。

だが現物報酬は、あまり揉めないのだ。


何故なら、それぞれのハンターやパーティーで“欲しい物”が異なるからだ。

さらに、パーティー内であれば意見が分かれるため、現物報酬はよほど特殊な状況でなければあまり受け入れられない。

それこそ、目の前の2人のような少人数パーティでなければ。


現物提供は豪商アキドンの提案だった。

彼の、豪商としての勘が囁く。


『この二人は、金銭では動かない。別に何か、だ。』



「ちょっと、待ってもらっていいか?」


ディールが伝えると、3人の商人は頷く。

ディールは、腕にくっ付くユウネの耳に何かを囁く。


一瞬、目を丸くするユウネだが、「ディールのアイディアに、賛成!」と笑顔で言った。

頷き、ディールは3人の商人へ向く。


「現物報酬を受けよう。」


笑顔になる商人達。

“さすが名高い豪商だ” と絶賛する空気が流れる。


「どういう物で、受け取りに何か希望はあるかな?」


アキドンはニコニコしながら尋ねる。

他の二人の商人もニコニコだ。


「まず現物報酬だが、オレ達は食材と食糧を希望する。ある程度、と言ったが、全てそちらで用意してもらいたい。加えて、このストレージバック二つに入るだけの食材を、明日の出立までに用意して、オレ達の滞在先である“華の宮” へ届けて欲しい。」


その条件に、目を丸くする商人達。


「え……? それだけで良いのですか??」

「さらに。」


ディールは続ける。


「フォーミッド中心に着いたら、報酬の金貨21枚は不要だ。全て食材と食糧にして、ストレージボックスで届けて欲しい。もちろん、ボックスは返却する。」


その言葉に、ギルド内全体がザワザワとざわ着いた。


「……全て、食材と食糧で良いのですか!?」


驚愕する、商人達。

平然とディールとユウネは頷く。


「オレ達の旅に今最も必要なのが、食材と食糧だならな。」


犯人は、師匠たる【金剛龍ガンテツ】

食い尽くされた食材と食糧を、手間をかけず補充したいのだ!


この提案は、ディールとユウネが普段行っていた買い出し → ストレージバックからの出し入れ → アーカイブリングへの収納の手間が無くなる。


まさに僥倖!

千載一遇のチャンス!


「了承しました……。本当に、それで、いいの??」

「「はい!」」


笑顔で声を揃えるディールとユウネ。



見た目は若い。

だが、にじみ出る強者のオーラと、業物という言葉すら生ぬるい装備品の数々を装備し、ハンターの英雄である支部長ミラッサから“私より遥かに強い” というお墨付きのある凄腕ハンターカップル。


その要望は、何と食べ物であった。

笑顔の二人を前に、3人の商人は、一抹の不安を覚えるのであった。



だが数日後、この時に声を掛けて心の底から良かったと思う日が来る。


報酬が全て食材や食糧だなんて、何て謙虚で欲が無いのだろう!

女神様よ、この出会いと奇跡に、感謝します!!


そんな出来事が、このキャラバン隊に起こるのであった。

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