第58話 カボス町
“土の神殿”から飛翔し、ワイバーンの再襲来を退いた。
1時間程の空の旅。
フワリと『金眼鷲』は小さな森に降り立った。
『着いたぞ。ご希望の森だ。』
ソッと躰を地面に伏せ、ディールとユウネを降ろす。
「ああ。助かったよ『金眼鷲』」
「ありがとうございます。鷲さん!」
二人は笑顔で礼を述べる。
『いや、こちらこそ助かった。森の鼻つまみ者であったあのカラス共も数を減らし、しばらくは森も安泰だ。ガンテツ様も喜ばれるだろう。礼を言うのはこちらだ。ありがとう、ディール殿とユウネ殿。それに、ホムラ様。』
ニンゲンのように巨大な鷲の頭を下げる。
『苦しゅうない! 気楽に行こう!』
ホムラ(半透明)が現れ、薄い胸を突き出して威張る。
その姿に笑いを堪えるディールとユウネであった。
『では、我はこれで戻る。旅の無事を祈っておるよ。さらばだ。』
そう言い、『金眼鷲』は大空へと飛び立った。
手を振る、二人と一柱。
『さぁて……。今さっきなんで笑いを堪えていたのか、納得行く理由を説明してもらおうかしら?ディール君とユウネちゃん?』
笑顔のまま振り向くホムラ。
その額には、青筋が…。
「さぁ、行くか! 今なら急げば夕暮れまでにカボス町へ着くぞ!」
「了解―!」
『あ、コラ!! 待てぇ、そこのバカップルー!!!』
――――
二人(+一柱)が歩くこと、7時間。
途中、魔物とも遭遇したが…。
「オレ達の姿を見た途端、逃げる魔物って……」
「何でかなぁ?」
日が西へ傾き始めた頃、小休止を取りながら水を飲むディールの呟きに、ユウネも首を傾げて応える。
何回か魔物に遭遇した。
ゴブリン、オーク、フォレストウルフ。
特にゴブリンとオークは、人間の女を見ると見境なく襲ってくる魔物である。
それが、ディールとユウネの姿を見るや否や、一目散で逃げたのだ。
集団戦法を得意とするフォレストウルフも同様。
尻尾を丸めて一目散に逃げた。
二人は知る由も無い。
身に纏う【金剛龍ガンテツ】が造り上げた鎧。
ガンテツの魔力が籠められており、その威圧感を感じ取って脆弱な魔物は恐怖のあまり逃げの一手に徹するのであった。
そして、それを平然な顔で纏う二人のニンゲン。
“アレはやばい”
“狂っている”
本能が警鐘を鳴らし、逃げる足を速めるのであった。
「まぁ、無用な争いを避けられるのは助かるから良いけどね。」
「罠とかじゃないことを祈るよ……」
感想はそれぞれだが、あまり危機感を覚えない二人。
だが、警戒は常に失っていない。
ガンテツとの修行で、探知と危険察知の固有技能が底上げされたユウネは、ホムラ並みの索敵が可能であった。
そしてディール自身もそう。
ステータスが見えないため分からないが、恐らくユウネと同レベルの索敵が可能となった。
もっぱら、二人ともホムラの探知能力が遥かに上なので、気付く前にホムラが感じ取って二人に教えるのであったため、宝の持ち腐れ状態ではあるが。
「考えても仕方ない。地図だとあと1時間も歩けばカボス町だ。夕暮れ前に着けそうだな。」
「うん。久々の宿。ゆっくりしたいな。」
「美味しいケーキと紅茶も、ずっと我慢していたからなー。」
笑顔で言うディールの物言いに「もぉ!」と拗ねるユウネであった。
――――
「ようこそ、カボス町へ。ハンターさん。」
さらに歩くこと1時間。
ディール達はカボス町へ到着した。
ラーグ公爵国の国境付近にあるカボス町。
大きさは国境町メイスほど。
北に位置するバルバトーズ公爵国とも近いため、賑わいもある。
「オレ達、この町は初めてなんだ。出来れば宿泊施設を教えていただきたいのだが。」
ディールが門番に、銀貨1枚を差し出して尋ねる。
門番は笑顔になり「喜んで!」と言う。
「男女ハンターさんなら、あそこの小高い丘の上にある“森眺め亭”か、この大通りを真っ直ぐ行ったところにある“華の宮”がお勧めだな。“森眺め亭”は景色が良いし食事も旨く、ハンターさん達の人気も高い。だけどこんな可愛い彼女を連れているなら、“華の宮”だな。」
ユウネの右手に光る指輪を見て、“この二人はカップル”と判断する門番。
“可愛い彼女”と言われ、顔を赤くするユウネ。
「“華の宮”は、かのレリック伯爵領の情景をモチーフにした綺麗な宿だ。貴族専用ってことは無いんだが……それなりに値が張る。だけど。」
門番はディールの耳元にズイッと近づいて、小声で言う。
(彼女に、良い恰好見せたいだろ兄さん。金に余裕あるなら絶対“華の宮”だ!)
照れながら頷くディール。
宿は決まった。
「あと、ハンターギルドはどこかにあるか?」
「ああ、それならすぐそこの角を曲がったところにある。ギルド支部長は、かの英雄“S”ランク“鋼の鞭”ミラッサさんだ! 知っているだろ?ミラッサさん。」
門番が言うが、ディールもユウネも首を傾げる。
「おおい、知らないのかよ!? とんだ低ランクハンターか? すっげぇ高そうな装備持っているのに。」
あからさまにガッカリする門番。
実際知らないものは、知らないから仕方ない。
「まぁいいや……。後、町に入るには規則でステータスプレートかハンター証の提示を頼むわ。」
「ああ、ハンター証だな。」
ディールとユウネはそれぞれハンター証を取り出す。
銀色に輝くハンター証を前に、目を見開き、驚愕する門番。
「て、低ランクなんて言って悪かった! Bランクかよあんた等!!」
周囲に居た、入場審査を受けているハンターや商人達も驚愕する。
若いカップルハンターが、まさか二人ともBランクとは!
「何か失礼な事言って悪かった! 改めて、ようこそカボス町へ、ハンターさん!」
そう言い、門番は二人を通した。
「何か、注目されてしまったな。」
「仕方ないよ……」
トボトボと歩くディールとユウネ。
実際、凄く目立っている。
身に纏うのは、そこらではお目にかかれない高価そうな鎧。
しかも、お揃いだ。
さらに男の方は、真っ赤な美しい魔剣を下げ、女の方は、非常に高価そうな腕輪状の魔剣を装備している。
若いながら、その出立ち。
そして“只者では無い”という、強者特有のオーラを感じる。
絵に描いたような美男美女のカップルハンター。
だが、底知れぬ力量を醸し出しているのであった。
「ここが“華の宮”か。」
「うわぁ、綺麗……。」
白大理石で固められた、高級宿“華の宮”
かつて訪れたレリック伯爵領のような、美しい建物に色とりどりの花が植えられている。
「ここでいいか?ユウネ。」
「うん、でも、高そう……」
「まあ、金はあるからな。それに明日は換金しようと思うし、そこまで心配することも無いだろう。」
「うー……ん。わかった…。」
贅沢し過ぎでは?
ちょっと後ろめたいユウネ。
「折角だし、貴族が食べるようなケーキや紅茶も頼んでみようか。」
「賛成!!!」
後ろめたさは何処へやら。
笑顔で手を挙げるユウネであった。
「いらっしゃいませハンターさん。ご宿泊でよろしいですか?」
「ああ。とりあえず3日。部屋は……。」
どうしよう。
すでに、二人は恋人同士である。
ホムラが居るとしても、別々の部屋にする必要があるのか?
「二人一部屋で!」
悩むディールを後目に、答えるユウネ。
―ちょっと、乳女! 何勝手に…―
(ホームーラー、さぁん?)
―ひぃっ!!―
「かしこまりました! お二人一部屋、朝食と夕食付で1泊銀貨70枚です。3日で、銀貨210枚……金貨2枚と銀貨10枚ですが、おまけして、金貨2枚で結構ですよ。」
受付のおばさんがにこやかに伝える。
「助かる。これで、頼む。」
ディールは金貨2枚を取り出して渡した。
「毎度あり! じゃあ、部屋へ案内しますねー。」
『何勝手に、部屋決めているのよ! いつも別々だったじゃない!』
ディールとユウネの部屋。
ホムラ(半透明)が青筋を立ててユウネに抗議する。
「もう私たちは恋人同士です。それに、二人別々だと、高くなります。」
ベッドに腰かけたユウエが少しムスッとして答える。
その態度にますます青筋を深くするホムラ。
『私も一緒なんだよ!? イチャラブしたらマジで許さないからね!』
「言っておきますけど! 別々の部屋だと、ディールとホムラさんが同じ部屋になるってことじゃないですか!」
『あ、当たり前でしょ!?』
少したじろくホムラ。
「恋人がいるのに、他の女と一緒の部屋なんて、非常識です!」
ポカーンとするディールとホムラ。
そう、ユウネはディールと同じ部屋になる羞恥心よりも、半透明とは言え姿を現すことが出来るようになったホムラとディールが同じ部屋になることが耐えられなかったのだ。
『ほ、他の女って……私はディールのパートナーなのよ!?』
「分かっています! けど、恋人は私です!」
ギャーギャー言う二人を眺めながら、紅茶を淹れるディール。
宿の人に言って、別料金で出してもらった高級茶である。
「ディールはどうなの!?」
『この乳女に何か言ってよ、ディール!』
「落ち着け二人とも。もうすぐケーキも来るから、三人で食べよう。」
その言葉で、大人しくなるユウネとホムラであった。
ホムラは、今は半透明だが2~3分の間で日に3回程なら、実体化ができるようになった。
当然、ディールとユウネと一緒に食事が摂れるのだ。
夢にまで見た、食事を!
半透明のホムラから、涎が垂れる。
半透明なのに芸が細かい。
「ホムラさん、涎、涎が!」
『キャア!!』
さっきまで喧嘩していた二人とは思えないほど、ホンワカな雰囲気になるユウネとホムラ。
そう、女子にとってスイーツは正義なのだ!
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「美味しい~~♪」
「ああ、旨いな。」
持ってきてもらえた、高級ケーキに舌鼓を打つディールとユウネ。
その隣で…
「うう……グスッ、グスッ」
半べそでケーキを食べる、ホムラ(実体中)であった。
「……泣くほど、旨いのか。」
「だってぇ、だってぇ、こんなの、幸せ過ぎるよぉぉ~~。」
涙を流しながらケーキと紅茶を味わうホムラ。
ずっと、美味しそうな料理やデザートを、美味しそうに食べるディールやユウネをただ眺めるだけであったホムラ。
それがガンテツとの邂逅により、わずかであるが実体化が可能となった。
そして、万感の思いで憧れた食事、しかもスイーツにありつけたのだ!
「御馳走様でした!」
両手を合わせて頭を下げるホムラ。
次の瞬間、『ガラン』と椅子の上に転がるホムラ(魔剣モード)になった。
すぐさま、半透明の身体を映し出す。
『幸せ過ぎる~~~。』
涙目でお腹をさするホムラ。
その姿を笑顔で見る、ディールとユウネであった。
『決めた! 私、食事の時はこうして実体化するわ!』
「そんな事で、貴重な実体化を使うのかよ…」
呆れるディールだが、ホムラとユウネがキッと睨む。
「何を言うのディール! こんな美味しいケーキや紅茶は、女の子の幸せなのよ!?“そんな事”呼ばわりは、いくらディールでも許さないわ!」
『そうだそうだ! ユウネの言う通りだ! この幸せのためになら、私は悪魔にも魂を売り渡す!』
先ほど盛大な喧嘩をしていたとは思えないほど、結託する女性二人。
アハハ、と乾いた笑いしか浮かばないディールであった。
「わ、わかった……好きにしてくれ、ホムラ。」
『やったあ♪』
「良かったですね、ホムラさん♪」
後に知ることになるが、この食事を通してホムラの実体可能時間が少しずつ伸びるのであった。
“食欲”という、三大欲求の一つの力は、底知れないのだ。
――――
翌日。
朝食を終えたディールとユウネはカボス町を歩く。
―はぁ~。私がいるのに、よくもまぁ、あんなチュッチュ出来るよなぁ。―
呪詛のように呟くホムラ。
真っ赤になるディールとユウネ。
最近、歯止めが利かなくなってきた。
夜になると、ホムラが叫ぼうとも、二人で抱き合い、唇を重ねるのだ。
さすがに“それ以上”には発展していないが、ホムラの制止が無ければ分からない。
部屋はベッドが二つあるため、寝るのは別々となる。
だが就寝前の相瀬に、さすがのホムラも怒り心頭だ。
もし、これが一つのベッドだと……?
いくらホムラが居ようとも、叫ぼうとも、自制できる自信がディールには無い。
―やっぱり、部屋は別々にすべきだと思うのよ。私の精神衛生上、良くないわ!―
「そ、それは、ダメです!!」
周りから見ると、真っ赤に伏せる可愛い女の子が、急に叫んだように映る。
ギョッとする町行く人々。
(おいおい、落ち着けユウネ。)
(ううう~、だってぇ…。)
―はぁ~。もうちょっと自重して欲しいわ。色々と。―
恥ずかしさのあまり縮こまるユウネ。
その手を握って苦笑いのディール。
そんなやり取りをしつつ、二人(+一柱)は、ハンターギルドのカボス支部へ到着した。
大きさはラーカル支部と同じ……というか、全く造りが一緒であった。
「何か懐かしい気がするな、ギルド。」
「そうね……」
二人は呟きつつ、中に入る。
ギルド内は、ハンターが大勢いた。
入ってきた“若いカップルハンター”を睨むように見据える、他のハンター達。
ランクの低い者は
「イチャイチャしやがって!」
「なんだよあの男。あんな良い女連れて!」
「後でしめるか?」
と血の気を滾らせるのであった。
だが、高ランクハンターは違う。
(なんだ、あいつら……)
(見たことが無いが、高名なハンターに違いない)
ひそひそと、戦々恐々とする。
低ランクのハンターとパーティーを組む者は、頭に血を上らせる仲間に“関わるな!”と諫める。
二人は特に気にもせず、カウンターへ歩みよる。
「よぉよぉ小僧! すげぇ良い女連れてやがるなぁ。あと装備! 分相応って言葉、分かるかぁ!?」
頭を剃りこんだ筋肉隆々の男ハンター3人がディールとユウネに声を掛ける。
「あの、バカ!」
「やめとけよ!」
高ランクハンター達は青ざめる。
気付かないのか? あの若いカップルハンターの二人は。
化け物、だと。
「何の用だ? オレの女を褒めてくれるのは嬉しいが。」
ディールは眼光を強めて3人組に言う。
その隣で「オレの、女……」と呟いて真っ赤に俯くユウネ。
青筋を立てる、3人組。
「おいおい、余裕だな彼氏よぉ! ここがギルド内だからって余裕かましているのか!? 一歩でも外出てみろ。お前、終わったからな。」
「おい女。伏せているのも今の内だぞ? 夜にはオレ達の相手をしてもらうからな?」
下卑た言葉を吐いた。
その瞬間。
冷たい殺気が大瀑布のように降り注ぎ3人を襲う。
余りに、そして経験したことのない、強大な殺気。
全身から脂汗を噴き出し、座り込む3人の屈強な肉体を宿した男たち。
ここでようやく気が付いた。
手遅れだった。
“手を出してはいけない奴を、突いてしまった。”
ディールは冷たく言い放つ。
「確かにギルド内だ。身の安全は保障しよう。だが、金輪際オレ達の視界に入るな。理解したら去れ。」
その言葉と同時に緩む、殺気。
3人の男は「ひぎゃあああああああ!!」と情けない叫びを上げてギルドの外へ飛び出す。
その様子を見ていた、他のハンター達。
見誤っていた。
その力量を。
“化け物”なんて、生ぬるい。
その殺意、纏う空気。
醸し出される力の片鱗は、最高峰“SSS”と、遜色が無いように映るのだった。
「ディール、ありがとう。」
顔を赤らめ、彼女たるユウネはディールの腕にしがみ付く。
同じように顔を赤くして「あ、あぁ……」と照れるディール。
さっきの空気はどこへやら。
ホンワカな雰囲気を纏う、初々しいカップルハンターがそこに居た。
「何者だよ、あいつら?」
「やばいヤツ等が、来たな……」
震えるハンター達。
そこに、声が響く。
「おい、そこのバカップル!!」
ギルド内ハンター全員がビクッ! と身体を硬直させる。
目線は、声のした方。
そこに居たのは、このギルドの主。
ハンターギルド、カボス支部長“鋼の鞭”ミラッサであった。




