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第6話 ”3年前”【神子】兄と姉

「アデル!」

「姉さん!」

「アデルちゃん!」


全員、アデルに声をかける。

そして、


「司祭様は?」


村長が聞く。

アデルは困惑した顔で、答えた。


「…儀式の間で、気を失っちゃってる…」

「え?」


気を失う?そんなこと、過去に一度もない。


覚醒の儀における司祭の役割は、


1 ステータスプレートの授与

2 説法(覚醒の魔法陣の生い立ちや由来)

3 覚醒の儀の呪文詠唱


このわずか3点である。

気を失う要素はない。


あるとすると…、急病か、それとも…。


「ディール、ナルちゃんはここで待っていて。成人前の者が覚醒の魔法陣に立ち寄ってはならない。」

「は、はい。」


ゴードンとオーウェンはディールとナルに言い聞かせ、覚醒の魔法陣へ足を運ぶ。



しばらくして、ゴードンとオーウェンの肩を借りてヨタヨタと司祭がやってきた。

どうやら意識を取り戻したらしい。


司祭に水を持ってくるナル。


「あぁ…ありがとう、ナル。落ち着いたよ。」


水を一口飲み、司祭が答える。


「どうなさったのですか、司祭様」


村長が恐る恐る尋ねる。

司祭は村長の顔を見た後、アデルの方を向く。

アデルは一瞬、ビクッとした。


「…アデル…、いや、アデル様…。お伝えしてもよろしいでしょうかな?」


司祭は、まるで敬うよう、アデルに伺い立てた。


「…アデル、様?」


全員が首を傾げる中、アデルは静かに頷いた。


「…アデル様が授かった加護は、【水の神子】であった。」


ヒュッと息を飲む音がした。

全員、硬直した。

【剣聖】ゴードンですら、驚愕に身体を固まらせた。


「み、み、み、み、水の…【神子】…じゃと…!?」

「【神子】って…冗談、だろ…」

「ス、ス、スタビア村から…【神子】が誕生…した…」


驚愕のあまり震える大人たち。

それに怪訝そうな顔をするディールとナル。


「なぁ、姉さんが授かった、その【水の神子】って凄い加護なのか?」


ディールが言うと、唯一冷静そうだったオーウェンが答える。


「凄いも何も…7属性系の加護の中では、ぶっちぎりで最高位の加護だ。7属性系の加護は同一時代に被って誕生することもあるんだが【神子】は一次代に一人ずつ、それも、時折にしか誕生しない凄く貴重な加護だ。…そうだな、剣聖と同等、いや、グレバディス教国では【聖】より位が高いとされている加護だ。」

「最高位…って、オーウェン先生の【覇王】よりも?」


ナルも恐る恐る尋ねる。

それにオーウェンは少し呆れたような顔で答える。


「【覇王】なんて、【神子】に比べれば足元にも及ばない。最下級の“水弾”で言えば、同じ感じで魔力練っても、威力はたぶん10倍は違うんじゃないかな。」


それに…とオーウェンは続ける。


「アデルちゃんは、最初から水の魔法が得意だった。こりゃあ…とんでもない使い手、もしかすると過去最強の水属性の使い手になるんじゃないか?」

「ってことは…姉さんも、兄さんと一緒に連合軍へ?」


そう呟いたディールに、司祭が首を横に振る。


「いや、アデル様はグレバディス教国へ向かっていただきたい。」

「え、何でグレバディス教国へ…?」


ディールの問いに、ゴードンが答える。


「中立国であり、覚醒の魔法陣の管理や各地司祭を派遣しているグレバディス教国は、何も善意でそれをやっているわけではない。司祭の役割の一つに【神子】をはじめとるす教義の伝承でしか伝わらない貴重な加護を持つ者が誕生した暁にはグレバディス教国へ向かわせるというものもある。【神子】は、必ずグレバディス教国へ赴き、祈りを捧げ、そして修行する習わしがあると聞く。」


「そうですじゃ。アデル様は、まずそこでアナタシス教皇猊下にお会いいただき【神子】の力について学んでいただきたい。【神子】その奇跡と絶大な力で民衆を導く存在でもあるが、その力の使い方を誤れば、世界に混乱を招きかねません。それほど【神子】はとてつもない存在なのであります。」


落ち着きを取り戻した司祭も続いて答えた。


「世界を…」

「アデル様、色々と思うことがあろうかと思います。しかし、我らからすると、【神子】を無事に教国へお連れすることが最上の栄誉でもあります。まずは教皇猊下の元で学んでいただき、多くの民を導いてくだされ。」


この司祭の言葉に対し、震えながらアデルが答える。


「…わかり、ました。私の身に使い方を誤れば取返しのつかない力が宿ったことが理解できまし、た…。司祭様と、グレバディス教国へ、行きます。」


それは、絞り出すような声だった。


「おお、それなら早速…!」

「ですが、一晩、準備をさせてください。弟や、お世話になった村長たちに、お別れを伝えたいので…」


震えるアデル。目には溢れんばかりの涙。


「あい分かった。では明日の朝8の刻に発ちましょう。私は、護衛の者や公爵領(公爵国の首都を指す)に常駐している聖騎士団に報告しつつ準備いたします。」


「その護衛は、オレが請け負うよ。」


そう言ったのはゴードン。


「兄さん…!」

「グレバディス教国は、連合軍本部フォーミッドの北側のバルバトーズ公爵国を過ぎたさらに北。いずれにしても途中までは一緒に行ける。そのままフォーミッドで正式に護衛任務に就くことを団長に許可取ればグレバディス教国まで一緒に行けるからな。」


ゴードンはアデルを見て、微笑んだ。


「なに、【神子】の教皇猊下謁見の長旅だ。当然許可が出る。しかもオレは【剣聖】。断る理由がグレバディス教国側にも無いだろ司祭様。」

「もちろんですじゃ!剣聖ゴードン様の護衛など、断るどころかどんなに頭を下げたって依頼ができぬもの。ぜひ教国までご同行を…いや、せめてフォーミッド常駐の聖騎士団と合流できるまでの間、頼みます…」


ゴードンの申し出に、二つ返事で答える司祭。



こうして、兄ゴードンに続き、姉アデルの旅立ちが決まった。

その日の夜、兄に続き姉の授かった【神子】を祝う宴が、夜通し村で行われた。

その中…。


「ディール。」


一人、日課の素振りをするディールに声を掛けるゴードン。


「兄さん…」

「こうなることは、予想していたか?」

「うん。姉さんも凄い人だから。村には留まらないって思っていたよ。」


素振りをやめ、ディールが答える。


「そうか…。」


ゴードンは、背負っているストレージバック…あの日、村長から譲り受けた異空間収納バックから、一本の剣を取り出した。


「ディール、お前に餞別だ。」

「これは…?」

「白銀の剣。オレがフォーミッドで信頼している鍛冶職人が打った逸品だ。軽く、丈夫で切れ味も保証する。」


鞘から抜くと、月明りを反射しギラリと白く輝く。

柄や鞘はシンプルだが、一目で名剣と分かる。


「こんな…凄い剣を、オレに?」

「あぁ。オーウェンから一本取ったって言うしな。本当はお前が成人した日に渡そうと考えていたんだが…」


サァッと風がなびく。


「兄さん…?」

「いや、なんとなく、今渡しておいたほうが良いような気がしたしな。お前は十分、それを使いこなせるだろうし、手にする資格はある。お前は魔法が全然だめだったよな?」


ゴードンの問いに、ディールは頷く。


「白銀は、金属の中でも魔力伝導率が非常に高い。本来は付与魔法で魔剣化するのが常識なんだが、そのままなら発動した魔法すら切ることが出来る。もちろん、それはとんでもない才能と剣技が必要になる神業だがな。」


ニカッと笑ってゴードンは言う。


「魔法を切る…よし、オレ、やってみるよ!」


ディールもニカッと笑って答える。それを見てゴードンは空を見上げる。


「お前やアデルを見ていると、オレももっと頑張らなくちゃいけないって思うんだ。」

「兄さんは…兄さんは十分頑張っていると思う。だって、もう連合軍の副団長なんでしょ?」

「あぁ、立場的にはオーウェンと並んだよ。だけど、まだまだ上には上がいるからな!4年前、オレをスカウトに来た綺麗なお姉さん達、覚えているか?」

「もちろんだよ。綺麗だったけど面白い人達だったね。」

「あの二人、今じゃ十二将だぜ?洒落にならないくらい強いわ。」


それを聞いて驚くディール。さらに続けるゴードン。


「それだけじゃない。あの二人以上の本格的な化物みたいな人が、今、十二将のトップをやっている。剣聖のオレが、どんだけ強くなっても届かないって思うくらい、とんでもねー人だよ。」

「そんな人がいるの!?もしかしてソリドール公爵令嬢?」


かつて、兄以上の剣の使い手と聞いたソリドール公爵令嬢。

だが、ゴードンは首を横に振る。


「それが違うんだよなー。四公爵国の御令嬢が3人とこの国の王様が十二将に居るんだけど、トップは別の人。”シエラ・マーキュリー”っていうお姉さんなんだけど…聞くか、この話?」

「聞かせてよ、兄さん。」

「よっしゃ。聞いて驚くなよ。このシエラって人、オレより一つ上なんだけど…加護を得た後間もなく十二将入りした歴代最年少記録保持者のとんでもない天才で………」


「兄さん、ディール、こんなところで二人して何話しているの?」


ディールとゴードンが話し込んでいたら、宴を抜け出してきたアデルが来た。


「姉さん…。」

「ディール。兄さんの言葉じゃないけど、あんたは大丈夫よ。」


そう言って、ディールを包み込むアデル。


「ずっと分かっていたよ。きっと私が加護を授かったら、この村を出て行ってしまうって…あんたが思っていたことくらいは。」

「…うん。姉さんはきっと凄い加護を授かるって思っていたからね。」


アデルの腕と胸に挟まれ、ディールが答える。


「ディール…。私はきっと、すぐには帰ってこれない。」


アデルの言葉に、ディールはバッと顔を上げる。

「なんで…?」と如実に物語っている。


「グレバディス教国での修業期間中は、外に出ることが出来ないみたいなの。だから私は兄さんみたいに帰ってこれない。」


アデルの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。


「そんな…」

「でも大丈夫。教皇様が【神子】としてお認めになれば自由が利くみたい。そこまで何年かかるか分からないけど、姉ちゃん、頑張るね。」


涙をこぼしながら、しっかり答えるアデル。

そんな二人をまとめて、太い腕で包み込むゴードン。


「アデル、お前も大丈夫だ。昔から頑張り家だったからな。お前の力は村長もオーウェンも認めている。きっとすぐに最高位の神官になって、立派にこの村に帰ってこれるよ。」


涙を流し、すする音を立てるアデル。


「ディール、お前も大丈夫だ。さっきも言ったが、お前はオレやアデルが居なくてもやっていける。オーウェンも居れば、村長たちもいる。何より、オレがお前の力を認めている。だから…」


そんなゴードンの言葉を遮り、ディールは宣言する。


「兄さん、姉さん。オレは大丈夫だ。心配なんかしなくていい。もっと、もっと腕を磨いて、兄さんや姉さんに負けない加護を得て、二人に追いついてやる!だから…」


だから、心配しないで。そう言いたいが…ディールも目の前が滲んで、言葉が出ない。

それを察したゴードンとアデルは、より一層力をこめてディールを抱きしめる。


「あぁ…」

「えぇ…」


ゴードンとアデルは、意図していなかったが、声が揃った。



「「ディールなら、オレ(私)たちを超える。」」




翌日。

アデルとゴードンは、村人たち総出に見送られ一路グレバディス教国へ向かうのであった。


そう。

この日を境にスタビア村は「勇者を生み出す村」として名を馳せた。


また同時に【剣聖】と【神子】を輩出した「スカイハート家の奇跡」もその名を轟かすのであった。

そしてディールには、剣聖と神子という偉大な加護を得た兄と姉を超える逸材”神童”として、村や周辺の町村から、期待を一身に受けた。


ディール自身も、それに応えるよう一層己を磨いた。



それが、まさかあのような事態に発展するとは、誰も夢にすら思わなかった。

過去のお話しはこれで終わります。

いよいよ本編となります。

長いお話しになりそうですが、よろしくお願いします。

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