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閑話13 謀反

帝国軍の総攻撃決定の直前。


ソエリス帝国城塞。

皇帝私室。


そこには、ソエリス帝国皇帝オフェリアと、帝国軍大将団“十傑衆”1位ゼクト・オラトリオ、そして協力者たる4位アーシェ・ラナトリアの3人が居る。


「ありがとう、アーシェ。」


オフェリアは柔らかな笑みで、アーシェに告げる。


「勿体なきお言葉です、陛下。」


アーシェは跪き、オフェリアに頭を下げる。


いよいよ“作戦”の決行だ。

すでに皇帝名、そして1位ゼクトと2位カイゼルの名において、10万人の軍隊が進軍を開始した。

それを率いるのは、6位ゾルゲ、7位ウルフェル、8位ジャッカルである。


これで、2位カイゼルと3位であり弟のオズノートの取り巻きの中の有力者を離すことに成功した。

3日程で連合軍との戦線『霊峰の平原』に到着する。


うまく躱し、往なすようシエラ達に伝えれば“作戦”は概ね完了である。



あと、数時間後。

カイゼルとオズノートを呼び出した会議が始まる。

粛清という名の、会議。


そこで、カイゼルとオズノートを討つのだ。


「準備は抜かりない。あとはミロクを待つだけだな。」


オフェリアの正面の窓。

そこから外を眺めるゼクトが呟く。


ミロクは会議室での粛清の際、万一カイゼルとオズノートが逃げ出さないように、自身が得意とする“氷”の魔法で罠を張っているのだ。

万全に期するため、念入りに、丁寧に、罠を巡らしている。

それなりに時間が掛かるというのだ。


「……アメリアはこの作戦に加えなくてもよろしかったのですか?」


アーシェは静かに尋ねる。


「彼女は、別の役回りがありますからね。それに、仮初とは言え、婚約者であるオズノートの亡骸は見たくないでしょう。」


4位アーシェの妹”十傑衆”10位アメリア。

【風の神子】であり、そして皇帝家の長男であるオズノートの婚約者であるのだ。


だがそれは【神子の血族】になるための形ばかりの婚約。

皇帝一族が、さらにその力を増すための策略婚である。



「そうですね。」


アーシェは呟くように答え、ゆっくりと立ち上がる。

オフェリアは、ゼクトの横に並び窓の外を見る。


「これが完了したら、すぐに四大公爵国との和睦について協議します。お互い無益な血をこれ以上流さぬよう、そして、善き隣人として互いに未来へ歩むのです。今日がその一歩なのです。貴女はその使者として、培った内政のノウハウを活かし和睦への道筋を掴んでいただきます。」

「かしこまりました、陛下。」


和睦への決意。

かつて、皇女としての見聞を広げるために訪れた、ソリドール公爵国。

そこで出会った3人の四大公爵国の令嬢達と、彼女達と肩を並べる天才少女シエラ。


楽しかった日々。

喧騒の日々。


帝国は、籠ったままでは発展しないと気付いたあの日。


よき隣人と切磋琢磨することでその力も魅力も高め合える。

争いとは、血を流すことではない。

競い合うことで、素晴らしい未来が見えるのだ。


それを実現したい。

これ以上血を流したくない。


血を流すのは、今夜で最後にしたい。



あくる日出会った天才少女は溢れる才能を持て余す中、毎日言っていた。


『だーかーらー!私は戦いに埋もれたくないの!愛する旦那様と一緒に子供達に囲まれた、慎ましくも幸せな家庭を築くの!』


その信念、羨ましくも眩しく思えた。

同時に、公爵令嬢や皇女の自分たちには望めない未来だと諦めた。


しかし。

オフェリアも、今ならその言葉がわかる。

隣には、愛を誓い合った男がいる。


戦争を終えたらどうしようか。

ソエリス帝国が続ける、皇帝による独裁制にも疑問がある。


もっと、民が、国の政ごとに関わっても良いのではないだろうか。

民主制とも言うべき、国のかじ取り。


そんな国家があっても良いと思う。


既存の体制や前例踏襲を崩すのは、容易でない。

だが、試してみる価値がある。


帝国の民が、一人一人、真剣に国の事を考える。

自分事として、様々な施策に関わる。

自主的に、助け合い、国の舵取りをする。


何て素敵な考えなんだろう。


自分が皇帝なら、この皇帝制度を最後にしたい。

ラストエンペラー。

そして民が代表となる制度への移行。


成した後は、この人と慎ましくも幸せな家庭を築こう。


思わず、ゼクトの横顔を見る。

ゼクトも、その視線に気付き見つめてくる。


素敵な将来のため、今宵は最後の血を流そう。



「ホント、頭の中がお花畑って顔をしていますね~。」



その言葉、誰が?


オフェリアは胸に違和感を覚え、目線を下げる。



自分の胸から、黄金色に輝く剣が、突き刺さっていた。



その剣が抜かれる。

夥しい血が、吹き出る。



「オ、オフェリア!?」


愛する男が、自分オフェリアが地面に倒れ伏す前に抱き抱える。

オフェリアは、自分の胸を刺したであろう剣を見て、驚愕する。


それは、ゼクトの愛剣“百式”であった。


嘘…。

でも、ゼクトは、笑顔を向けて横に居た。

後ろから刺すなんて、不可能だ。


ふと見る。

何かがおかしい。


なんで、なんで…。

オフェリアを刺したはずの“百式”が、ゼクトの剣帯に、鞘に入っているの?

目の前に転がる、この剣は…!?


二本ある、ゼクトの愛剣。


あり得ない!!



「オフェリア!今、回復魔法を…」

「キャアアアアアアアアアア!!!! ゼクト様!? 貴方、今、何をなさったか、わかっているのですか!?」


突如響く、アーシェの叫び。

驚愕し、目を見開くゼクト。


頭は混乱している。


何故か、愛剣“百式”が二本ある。


一本は、自分の腰にある。

そしてもう一本。

オフェリアを突き刺した、凶刃。


何故だ!?

とにかく急いで回復魔法を!!


ゼクトが回復魔法をオフェリアに掛けようとした、その時。


「裏切り者ぉ!!!!」


アーシェがゼクトに斬りかかる。


「待てアーシェ! オレではない! それより早く回復させないと、オフェリアが…!」

「問答無用!!!!」


聞く耳持たず、アーシェが切りかかる。


”1位”と”4位”

本来の実力差は天と地ほどの差がある。

加えてゼクトは3人の“世界最強”の一角だ。

2位カイゼルすらも、足元に及ばない実力を兼ね備えている。


……はずなのに。

いくらアーシェが【剣聖】に引けを取らない剣の達人だとしても、後れを取るはずがないのに!


オフェリアに回復魔法を掛けたい一心からか、愛する女が凶刃に倒れたからか。

動揺し、剣筋も定まらいゼクトは徐々に追い詰められる。


このままでは、オフェリアは死んでしまう!

ならば!!


『ドスッ』

「ぐ…ふ…」


あえて、アーシェの剣を身体で受けるゼクト。

貫かれ剣先から、血が滴る。


それがどうした!!

構わず、回復魔法をオフェリアに掛ける。


大量に流れた血は戻らないが、今ならまだ間に合うはずだ。


口から血を流しつつ、ゼクトは全力で回復魔法を掛ける。

みるみる傷口が塞がるオフェリア。


だが。


「それじゃあ、困るのよね~」


先ほどと打って変わって、残虐な笑顔を見せるアーシェ。


「あ、アーシェ……!?」

「『“因果律操作【事象再現】”“名称【擬似百式】”“座標値固定【オフェリア・フォン・ソエリス】”』」


アーシェがその言葉を呟いた瞬間、転がるゼクトの愛剣“百式”と同じ形をしたもう1本がオフェリアの胸に再度突き刺さる。


「なん、だと!?」

「うふふ、無駄だったね~。」


アーシェは笑顔のまま呟やく。

直後、その顔を顰め焦燥したように叫ぶ。


「いやああああああああ!!裏切り者ぉ!!!」


何を言っているんだ、こいつは!?

まるで、人格が入れ替わっているような振る舞いのアーシェ。


ゼクトははっきりした。

オフェリアを刺したのは、こいつ(アーシェ)だ!!


「裏切り者は、貴様だろうが!!」


血を吐きながら、尚も回復魔法を掛けるゼクト。

しかし、その時。


「何事かぁ!」


多くの兵を引き連れて、2位カイゼルと3位オズノートが皇帝私室になだれ込んできた。


その兵の数、恰好。


これは、もしや……。


「最初、から……謀っていたのか……。」


ゼクトは口から血を吐き出しながら忌々しく呟く。


「何と! これはどういうことだ、アーシェ!」

「ゼクト様が謀反を起こしました! その剣が何よりの証拠です!」

「姉上!! ……ゼクト、貴様ぁ!!!」


なんて、なんて……。

なんて酷い茶番なんだ……。


怒り、悲しみ、絶望。

これは、最初から仕組まれていたのだと理解した。


ゼクトは、アーシェから受けた剣を強引に抜き、傷口を魔法で手早く塞ぐ。

右手に握る“百式”の魔力を解放させる。


どうせ助からないなら、せめて、こいつらを道ずれにしていやる。

伊達に“世界最強”と呼ばれていない。


万全なら20秒もあればこの場の全員の首を跳ねられるだろう。

しかし、愛する者が瀕死に伏し、自分も死に体である。

同じ十傑衆、しかも上位者3人をも相手取るは不可能である。


だが、どうでも良い。

自分の死など、どうでも良い。


願わくば、せめて来世で幸せになろう。



こいつらを、葬った後に。



「うおぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!!」


ゼクトは決死の突撃をしようとした、瞬間。



『パキン』



ゼクトの身体が巨大な氷に包まれ、凍った。


意識を失う、ゼクト。

薄れゆく意識で思ったのは、この氷の主。


そうか、お前もか……。

ミロク……。


ゼクトは絶望に心が染まり、その意識を暗闇へと落とした。




「ご無事ですか、オズノート様。」


その場に現れたミロクが頭を下げ跪く。

その様子に、オズノートもカイゼルも、アーシェも動揺し、たじろく。


「あ、あぁ。助かった。礼を言うぞミロク。」

「アーシェ殿の声で馳せ参じました。まさか、ゼクト殿が謀反を起こすなど……。陛下は……。」


大量の血を流し、すでに事切れたように微動だにしないオフェリア。

そのオフェリアを見て、顔を伏せるオズノート。


「……姉上。」

「オズノート殿、いや、オズノート様。悲しんでいる場合ではないですぞ。」


カイゼルが、オズノートに伝える。


「ゼクトは四大公爵国の間者であるとの噂であったが、これこそ動かぬ証拠というもの。陛下の無念を晴らすためにも、きゃつらを許してはなりません。」


オズノートは顔を上げて宣言する。


「聞け! 姉上は平和を望み、親愛なる帝国の民のために尽力なされた。だが見よ! 愚かな公爵国の豚共を! かつて世界を救った英雄の末裔などと宣い、我が物顔で世界を蹂躙する屑芥共だ! 姉上を弄んだだけで飽き足らず、我らに害を成そうとする! これを許せるという愚か者は居るか!?」


その場に居た兵達が叫ぶ。


「許すな!」「許すな!」「許すな!」「許すな!」


「そうだ!! 許すな! もう我らは忍耐の限界に達した! 豚共を駆逐し、姉上が望んだ真の平和を、この偉大なるソエリスより築き合おう! 同志よ!宣言する! 姉上亡き今、不肖の弟であるこのオズノートが帝国の民を導こう! その一歩だ、公爵国の豚共を、駆逐するぞ!!」

「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」


叫ぶ帝国兵。

鼓舞するオズノート。

満足そうに眺める、カイゼル。


その瞬間、ミロクは裏切り者たるゼクトの氷を粉々に砕きオフェリアの亡骸を抱えた。


「ミロク様……。ゼクトを殺したのですか?」


アーシェが怪訝そうな顔で見る。


「ええ。貴女の剣と私の氷ですでに事切れていました。軍幹部の凶行など、帝国民に知られる訳にはいきません。どのみち死んだ身です。アーシェ殿やオズノート様の手を煩わせる前に処分しました。」


ふーん、と呟くアーシェ。


「ゼクトと仲良しだった割にはドライなのですね、貴方。」

「友誼よりも、皇帝陛下への忠誠こそが我等十傑衆の本分です。」


そう言い、未だ帝国兵を鼓舞するオズノートとカイゼルを眺める。


「アーシェ殿。この場は任せました。オフェリア様のご遺体を静かな場所へ移送します。葬儀については後日……。」


ミロクはそれだけ呟き、オフェリアの亡骸と共に姿を消した。



「……まぁいいか。【魔聖】の女と目障りだった【百鬼夜行】が死んだなら良しとするか。」


アーシェは冷たく呟いた。



騒ぎ立てる帝国兵と、新たな皇帝となったオズノート。

その腹心となる、カイゼル。


騒ぐ彼らを見て、アーシェはその笑みを深める。




「精々、掌の上で楽しく踊ってなさい。馬鹿共が。」



----



皇帝私室で一人残ったアーシェは、オフェリアを刺した“もう一本の”ゼクトの魔剣“百式”に触れた。

その瞬間、魔剣“百式”が跡形も無く消える。


次いでオフェリアの通信紙を取り出し広げ、狂喜する笑顔に顔を歪めアーシェは呟く。



「準備は順調。今度こそ成功させますからね。”お母様”」

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