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第51話 目覚め

「…おはよう、ディール。」

「ああ、おはよう…ユウネ。」


高級宿の、見晴らしの良い部屋。


大き目のベッドの中、目が覚めた二人は微笑みながら声を掛け合う。

そして、一つ、口づけをした。


「いつの間にか、寝ちゃった。」

「…そうだな。」


ユウネはディールにもう一度キスをして、身体を寄せる。

ディールはそれを受け入れ、優しく抱きしめる。


「…夢、みたい。」


二人きりの夜。

何度も何度も、唇を重ね合わせ、一つのベッドの中で夜を明かした。

眠りにつくまで、ずっと、キスを繰り返していた。


鼓動が、ずっと高鳴っている。

お互い、気持ちを、想いを、伝えることが出来た。


“大切な人”


二人はもう一度顔を見合わせ、キスをする。


「そろそろ朝食の時間だな。…起きるか?」


ディールが尋ねる。

その胸に、ユウネは顔を埋める。


「ずっと、こうしていたい。」

「…オレもだよ。」


顔を赤くし、ユウネの希望に応えるディール。

特に今日は予定が無い。

御者に出立の予定を伝えるのも、今日でなく明日でも良い。

まだ、自由に過ごせる時間は二日もあるのだ。


ユウネの柔らかな髪を撫で、ディールは微笑む。

ゆっくりと顔を上げ、両腕をディールの首に回して抱きつこうとするユウネ。


「うっ!?」


突然、ディールは顔を真っ赤に染める。


「どうしたの、ディー…!!!」


ユウネも気付いた。

浴衣が少し肌けて、ユウネの豊満な胸が零れ落ちそうになっていた。


「キャア!!」


ベットの中で、慌てて胸元を隠すユウネ。

顔を真っ赤に染め、ユウネは呟くように言う。


「…見た?」


ディールはそんなユウネをもう一度、ギュッと抱きしめて呟く。


「見て…ない。」

「…嘘つき。」


嘘である。

思いきり、見てしまった。

溢れるたわわな胸の、全部を。


頬を真っ赤に染め、ユウネは意を決して言う。



「…ディールなら、いいんだよ?…その、私のこと、好きに、しても…。」



一晩で、どのくらい唇を重ねたのだろうか。

想いを伝え、貪るように唇と唇を合わせた。


今更だ。

例え“それ以上”に発展しても、自然な流れだ。


寝不足と、スイテンとの邂逅。

一度に色んな事が起きた日の夜。

お互いの気持ちに触れ、何度も何度も唇を重ねたが“それ以上”には発展しなかった。


いつの間にか寝息を立てるユウネ。

その可愛らしい寝顔を傍で見つめられる幸せ。


ディールは、ユウネの寝顔を優しい気持ちで眺めていたところ、気が付いたら自分も寝入ってしまったのだ。


そして、目覚めた今。


肌ける浴衣を押さえる手を少し緩め、顔を赤らめて伝えるユウネ。

その表情と仕草。


一瞬で理性の糸は焼き切れた。


ディールはもう一度ユウネに口づけをする。

唇は舌を絡めながら、震える手で胸元の浴衣を押さえるユウネの手を優しく触れる。


するりと、抵抗なく胸から外れるユウネの手。


ディールはそのまま、ユウネの手と浴衣の隙間から豊かな胸に優しく触れる。

漏れる、ユウネの甘い吐息。


唇を離す。


潤んだ目と、蕩けたような表情。

静かな息遣いが、荒くなっていた。


ディールも自然と息遣いが荒くなる。

あるのは、人間の雄としての、本能。

もう一度、ユウネの唇を本能の赴くまま、貪ろうとした、その時。


『な、な、な、なに、しているのよ…!!』

「ちょっと!ホムラ!いいところなんだから黙って!!」


その声に心臓が止まりそうなほど大きく跳ね上がる、ディールとユウネ。


声のした方を振り向くと、そこには、大事なところをギリギリ隠すように身体に大きなタオルを巻いたスイテンと、燃えるような紅い剣からうっすらと上半身だけ映し出す、ホムラ(人間モード)が居た。


「あ、あ、あ、ホム…ラ…」

「ス、ス、ス、スイテン…さん…」


全身を真っ赤にさせて震えながらその名を呼ぶ、ディールとユウネ。

そんな二人を見て、青筋を立てホムラは叫ぶ。


『何やっているのよ、あんた達はーー!!!!』



----



「結局、ダメだったわぁ。」


深緑の髪を掻きわけてスイテンは告げる。


『封印、74番まで解けたんだけど。残りがねちっこいと言うか、解ける気がしないんだよね。』


剣からうっすらと半透明な姿を見せるホムラがイライラしながら伝える。


「やっぱ、あの根暗野郎に会わないとダメかもしれないわね。」

『はぁ~、めんどくさっ。』


そんな二人の報告を、普段着に着替えたディールとユウネは顔を伏せながら聞く。

非常に、気まずい上、申し訳ない気持ちでいっぱいなのだ。


『そんなわけでさっさと行くわよ。ガンテツのところに。』

「ま、待て。御者の皆には出立の前の日に声を掛ける約束だ。せめて明日にしてくれ。」


慌ててディールが懇願する。


『どうしようかなー?私がこの性悪乳女の罵声やら嫌味やらに耐えている間、よろしくやっていたディール君とユウネちゃんは、どう思うのかなー?』


明らかに機嫌が悪い。

顔を真っ赤にして伏せる、ディールとユウネ。


「いやその…別にオレ達はやましいことは…」

『ふぅ~ん?一つのベットで寝て、あんなにチュッチュッして、あまつさえ、そこの巨乳ちゃんの胸に手を突っ込んでいたディール君が、どの口で言うのかなぁ??』


ぐぅの音も出ない、ディール。

そんなディールの隣で、立ち上がるユウネ。


「ホ、ホムラさん!」

『なによ?』


たじろくユウネ。

ま、負けるものか!


「わ、私とディールは、正式にお付き合いします!!」


ポカーンとするホムラとスイテン。

真っ赤になって頭を抱えるディール。


「私とディールは!もう!恋人同士です!!何をしても、許される、はず、ですっ!!」


そのユウネの宣言に、


「あはははははははははははははは!!!!最高っ!ユウネさん、最高っ!!」


タオルが肌けるのもお構いなしに笑い転げるスイテン。

ムッス~~と頬を膨らませるホムラ。


『あー!スイテンなんかに付いていくんじゃなかった!!二人きりにさせたら、絶対にくっ付くって思っていたのよ…。』

「いいじゃない、ホムラ。」


涙を流しながら笑い転げていたスイテンの言葉に『よくないっ!』と叫ぶホムラ。


『私、これからもこの二人に着いていくんだよ!?私のいる前とかで無遠慮にイチャイチャされるんだよ?…実体化が成功したら、私、怒りに身を委ねて二人を刺しちゃうかも…』


ワナワナ震えながら拳を作るホムラ。

そんなホムラにゾ~~ッと血の気の引く、ディールとユウネ。


『いい?私の目の黒いうちは、イチャイチャ禁止だからね!チューくらいはいいけど、裸で抱き合うとか、その、ウェルター達みたいなことするのはマジでやめて!』


ボンッ!と頭から湯気を出して真っ赤になるディールとユウネ。


「す、す、するかよ!」

「するとしても、ホムラさんが居ないところでします!!」


爆弾発言を投下するユウネ。

言外に、それは“する”と言っているようなものだ!

隣で真っ赤になったディールがプルプルと震える。


「あ…」


自分が何を言ってしまったか気付いた、ユウネ。

そして。


「きゅう…」


真っ赤になって倒れるのであった。


「ユウネ!?おい、ユウネ!!」

「最高!!本当に最高だわユウネさん!!!」

『あ~~、むかつくー!!!』



――――



「さて、私はやる事やったから神殿に帰るねー。」


スイテンは手をひらひらさせてディール達に別れを告げる。

やっとユウネが目を覚まし、落ち着いたところであった。


『ったく!あんたの所為で…。こっちは良い迷惑よ!』


ブツブツと文句を言うホムラ。


「まぁまぁ、遅かれ早かれディール君達はくっ付いていたと思うから、いいじゃない。それより、問題はあんた自身だからね、ホムラ。」


スイテンが真面目な顔で告げる。


「あんたの場合は“遅かれ早かれ”という言葉は無いからね。次はガンテツのところに行って、最後はシロナ達に会う。そうすることで最終的にあんたやディール君達が知りたがっていたことを、思い出すはずよ。」

『今、それを全部教えてくれれば早いと思うんだけどねー。』


ホムラが呆れた声をあげるが、スイテンは真っ直ぐ、真剣な目でホムラを見つめる。

『うっ』とたじろくホムラ。


「…それをしてしまうと、あんたを封じた“意味”が無くなるわ。“資格者”と一緒に私たちのところへ訪れ、一つ一つ、ゆっくりと知る必要があるのよ…」


スイテンは俯いて呟くように言う。


震えている。

その目から、涙が零れ落ちた。


『ス、スイテン…?』

「この前も言ったけど。私、待っているから。またいっぱい喧嘩して笑おうね。ホムラ。」


涙を流しつつ、笑顔で伝えるスイテン。

つられて涙を零すホムラ。


『もぉー!そういうのホントにズルいわよ、スイテン!な、泣かないで、よお…』


まだ完全な実体でないホムラだが、ボロボロと涙を流す。

そのホムラをチラッと見て、スイテンは聞こえないような小さな声で呟いた。


「…もし、ダメだったら、私も一緒に泣いてあげるから。」

『え、何?何よ、スイテン!』


スイテンはベーッと舌を出して笑う。


「相変わらず涙腺が弱くて揶揄い甲斐があるよね、ホムラって!」

『な、な、なんだとー!また謀ったなぁ!!』


スイテンはにこやかに笑い、ディール達の部屋にある木の箱から流れるかけ流し湯に手を触れた。


「あはは、またねホムラ。ディール君、ユウネさんもまた会おうね!」


シュンッ、という音と共に、スイテンは消えた。


『ま、ま、待ちやがれ凶悪性悪乳女ぁーー!!!』



憤慨するホムラを後目に、ディールはスイテンの呟きを反芻する。


(“もしダメだったら”…?一体、何がダメなんだ。封印が全て解けないとか…いや、それは無さそうだ。解けない封印なら、最初からそのようにすればいいだけだ。)


だが、考えても分からない。

今は、無事戻ってきたホムラを迎え、ユウネとの一件をとりあえずは謝ろうとするディールであった。





“それ”を知った日。

ディールは思い知るのだ。


スイテンが、他の龍神たちが、どんな想いでホムラを封じたのかを。


その理由を。

その意味を。



----



―やっぱり、この体勢と馬車の揺れが一番落ち着くわ―


二日後。

レリック家の馬車に揺られディールの剣帯に収まるホムラが呟く。

温泉郷ヒルーガでの思わぬ骨休みを終えた後、予定通り出発した。


「ディール様、ユウネ様。順調ならば2日程でランバルト子爵領へ入ります。その後またラーグ公爵国内へ入ります。子爵領からは凡そ7日程で“土の神殿”に着くかと思われます。」


馬車を扱う御者の男が伝える。


「ああ、よろしく頼む。索敵はこちらに任せてくれ。」

「ありがとうございます!」


ホムラは基本となる封印は全て解除された。

残りは、出会う龍神次第となる。


解除された能力によって、基本的なスペックが跳ね上がったのだ。


まず、探知能力。

以前は誰が、何をしているのかは大体半径100mほど、敵意や害意を持つ者であれば半径300mほど探知が可能であった。

それが、敵意や害意を持つ者であれば、半径5kmは索敵可能となった。

加えて「それがどんな敵で、だいたいどんな力量なのか」も把握できる状態である。


スイテン曰く『龍神の眼』とのこと。



次に剣刃の切れ味。

今までも“熱纏”を発動させていない、ただの剣の状態でも相当な切れ味を誇ったホムラ。

だが、その力はまさに“龍神”と評されるほどになった。

ディールが振るえば、“熱纏”無しで、ハンター試験にも使われた世界第2位の硬度を持つグランツ鋼の銅像をなますのように切り裂けるのだ。


スイテン曰く『龍神の爪』とのこと。



そして、ホムラ固有の“火”の力。

“熱纏”、“炎刃”、そして攻撃範囲を広げる“延伸”

これらの能力も段違いとなった。

現状でも、水の神殿でスイテンが試練にと生み出した、30m級水のゴーレムも、数度斬りつけるだけで蒸発するほどだ。


さらにディール自身を強化する“熱錬”

その発動威力が高すぎてディールの身体を酷使していたが、逆に弱くも調節できるようになった。

その分、威力は落ちるが発動時間と発動後のデメリットが改善されたのだ。


もちろん、発動威力を爆上げすることも出来る。

だが、現状ではディールの身体能力が付いてこれないため、使う機会は無さそうだ。


それだけでなく、新たな力にも目覚めた。

“炎斬”という、炎の刃を放つ技。

“炎爆”という、触れた部分を爆発するように燃え広がらせる技。

“熱鎧”という、“熱纏延伸”のように無理矢理広げることなく発動される熱の防壁。


新たな力の目覚めは、攻撃レパートリーの増加となる。

ホムラの魔力増加も相まって非常に強力だ。



加えて目覚めた力が、ホムラの具現化(半透明・一部分)である。

いつでもどこでも、自分の意思で発動することが出来る。


今まではディールが装備していなければユウネにホムラの声は聞こえなかった。

またディールも、手を離していても近くにいる状態ならホムラと会話が出来たが、限度があった。


具現化すると、きちんと言葉で会話が出来るのだ。

それも、ディールやホムラだけでなく、誰とでもだ。



「…と、言うわけで内密にしてほしい。」


発端は馬車で揺られる中、ホムラも自分の目で景色が見たい!ディールやユウネとおしゃべりしたい!と騒いだ事だ。


具現化する=御者にバレる


長旅になるし、いつか、何かの拍子にバレるだろう。

だったら最初からバラしてしまおう!


と、言うことで、温泉郷ヒルーガから出た最初の夜、野宿ポイントで御者二人を呼び寄せてホムラを紹介するディールであった。



目を見開き、顎が外れるくらい大口を開けて驚愕する御者二人。



「オレの強さの秘密でもあるが、危険な魔剣には変わりない。秘密を守ってもらえれば無害な剣だから、レリック侯爵にも黙っていて欲しい。」

『よろしくねぇ、御者の皆さん!』


「か、か、かかしこ、まり、ました…」




心配したが、次の日には、すっかり順応している御者二人であった。

さすが有力貴族のレリック侯爵家に仕える者達である。


ちなみに、そのホムラから『こいつら、温泉行ったら付き合い始めやがった』とディールとユウネの進展をさっそく告げられ、大いに喜ぶ御者達であった。


「いやあ良かった良かった!旦那様とバゼット様から“出来れば二人をくっ付けて、レリックの宮で結婚式を挙げてもらうぞ”と密命を受けていましたからなー。これで我々も安心ですよ!」


そんな命令受けていたの!?

驚愕するディールとユウネ、ついでにホムラ。


「早速、旦那様とバゼット様にご連絡差し上げてもよろしいですか?」

「やめて…くれ…」


いずれバレることではあるが、頭を抱えるディールであった。

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