閑話10 シエラとアゼイド
「…」
「…」
真っ赤になってアゼイドの隣を歩くシエラ。
チラッと見ると、アゼイドもシエラを見て、にこりと微笑む。
その笑顔に、心臓が飛び跳ねる。
出会いは【加護】を得て、連合軍入りし、すぐさまその力が認められ歴代最年少十二将となった時だ。
シエラの加護は、前代未聞だった。
その名も【天衣無縫】
長い歴史上、初めて発現が確認された未知の加護だ。
その能力は“破壊”と“再生”
どんな属性であろうと、固有技能であろうと。
効果と能力を理解すれば、模倣でき、なおかつオリジナルに発展できるという万能加護であった。
そして同時に、どんな攻撃だろうと魔法だろうと、打ち砕く技能まで兼ね備えていた。
連合軍入りし、同時にハンター証を得た。
連合軍の兵としても、ハンターとしても八面六臂の活躍をするシエラ。
いつしか、ハンター界で初となる“SSS”ランクに認定された。
連合軍でもその類まれなる才能と戦闘力で、歴代最年少十二将に選ばれた。
十二将となり、わずか3年。
18歳という若さで先代主席レオンから、十二将主席の座を譲り受けた。
だが、そんな彼女は幼い頃から夢を見る。
“いつか、素敵な男性と出会って花嫁になる”
“その男性と子供に恵まれ、幸せな家庭を築く”
兵としても、ハンターとしても、大成した彼女。
だが、希望はそこにはない。
あるのは、愛する人と共にする慎ましい生活。
儚い幼き夢かと、絶望することすらあった。
そして、出会った。
一目惚れだった。
彼女のあまりに突出した能力に魔剣が耐え切れず、1~2回振るっただけで粉々に砕けていた。
そんな彼女の力に耐えうる武器を生み出せるのは、フォーミッドで“若き天才”と称される鍛冶職人ただ一人であると謂われた。
半信半疑かつ軽い気持ちで専用武器を頼もうと、その小さな工房へ訪れた。
全身に、電撃が走った。
汗を垂れ流しながら、真っ赤に燃え盛る金属を打ち続ける姿。
薄汚れながらも、気高さと信念を宿す、その姿。
はた目から見て、名器と感じる、壁に掛けられた武器の数々。
工房に訪れたシエラを見るや否や、屈託の無い笑顔を向ける青年。
彼女の心は、その一瞬で全てを奪われた。
思わず、その日は逃げるように工房を出て行ってしまった。
出会った。
出会ってしまった。
これが、運命!!
妹に、親友たちに、はしゃいで報告するシエラ。
そして、その日からシエラの工房通いが始まった。
始めは声すら出なく、逃げかえる日々が続いたが、少しずつ会話ができ、彼の名がアゼイドだと知り、何とか武器が壊れるという悩みを打ち明け、自分専用の武器を作ってもらえた。
それが、未だ彼女が愛用している魔剣“シヴァ”である。
「ところで“シヴァ”の様子はどうです?そろそろメンテナンスしましょうか?」
不意に声を掛けられ「ふぁい!?」と変な返事をしてしまうシエラ。
「う、うん!絶好調!教えてもらったお手入れ、毎日続けてるよ!」
真っ赤になって答えるシエラであった。
出会ったあの日から今日まで、何とかここまで会話が出来るようになった自分を褒めたい。
「じゃあメンテナンスはまだよろしいでしょうか?」
「ううん!明日持ってくるからお願いします!」
またアゼイドに会える口実が出来た!
口実が無くても、毎日健気に工房へ訪れるシエラであるのだが…。
「ところでシエラ様…」
少し、恐る恐る尋ねるアゼイド。
「な、なぁに?」
「この後、少しお時間よろしいでしょうか…。」
心臓が飛び跳ねる!
「もちろん!」
「ありがとうございます。ボクの工房に、少し寄っていただきたいのですが…」
心臓が!心臓が!破裂する!!
「も、も、もちろん!!」
「あ、ありがとうございます。」
しばらく歩き、アゼイドの工房に着いた。
灯りを付け、シエラを中へ促すアゼイド。
工房には、先ほどまで打っていた金剛天鋼の剣が、作りかけの状態で置かれていた。
「凄い…もうここまで出来たんだね。」
「ええ。本当は今日中に仕上げてしまおうと思っていたのですが、少し用事が出来てしまって。」
アゼイドは金剛天鋼の剣を、掲げてシエラに見せる。
白みを持つ黄金の輝きを放つ。
「うん、良い剣になるね。」
「完成しましたら、シエラ様に受け取っていただきたいのですが…」
真っ直ぐシエラを見るアゼイド。
心臓がバクバクと音を立てる。
「い、いいの?こんな凄い剣…」
「ええ。元はシエラ様がお譲りくださった金剛天鋼で打っている剣です。ゴードンには…女性に剣を譲るなんて変だぞと笑われましたが。」
苦笑いするアゼイド。
その言葉に笑顔で振り向くシエラ。
だが心の中で、
(アゼイド君になんちゅー事言っているんだ、あの野郎!)
と怒りを燃やすのであった。
「私は気にしないわ。むしろ、こんな素晴らしい剣を受け取る資格があるかしら?」
「シエラ様に資格が無いとなると、世界中どの誰も、この剣を受け取れませんよ。」
アゼイドは金剛天鋼の剣を台に置き、徐に白い小さな箱を取り出した。
「それは?」
「…まだ剣は出来ていませんが、よろしければこちらを受け取っていただけないかと…。」
ゴードンの言っていた“アレ”である。
シエラはアゼイドから小箱を受け取り、開けてみた。
そこには、白く黄金色に輝きを放ち、虹色に光る宝石を付けたネックレスがあった。
宝石の部分は、黄金が華のような形作っており、意匠を凝らした逸品であると分かる。
シエラは呆然とし、そして顔を真っ赤にしてアゼイドを見る。
「こ、これ…私…に?」
「は、はい…。ご迷惑でなければ。」
アゼイドも顔を真っ赤にして俯き、答える。
シエラは、ネックレスをまじまじと見る。
「綺麗…。これも、金剛天鋼ね…。この宝石は…嘘、レインボーダイヤ!?」
虹色に輝く、魔力を帯びたダイヤモンド。
金剛天鋼以上の希少鉱石で、例え小さな欠片でも入手困難な物である。
「たまたま手持ちでありまして…。武具に付けるようなものでありませんし、アクセサリーなら、と取っておいたのですが…やっと使い道が出来て良かったと思っています。」
アゼイドは、意を決してもう一度言う。
「シエラ様、よろしければお受け取りいただけると幸いです。」
その言葉に、シエラはぽつりと呟く。
「シエラ。」
「え?」
アゼイドは呆然とする。
真っ赤になったシエラが、再度アゼイドを見つめて伝える。
「私のこと、シエラって呼んで。敬語も、禁止。」
「し、しかし…」
相手は、連合軍のトップ。
自分は、ただの鍛冶職人。
立場も、役職も、経歴も、天と地ほどの差がある。
「…お願い。そうじゃなきゃ…これは受け取れない…。」
目を潤ませ、懇願するシエラ。
アゼイドは俯き、そして答える。
「わかり…、いえ。分かったよ、その、シエ…ラ…」
シエラは満足そうに頷くと、ネックレスをアゼイドに掲げた。
「もう一つお願い。今、私に付けて。」
顔を真っ赤にし、目を潤ませて、シエラは言う。
アゼイドも顔は真っ赤だ。
「わかりま…いや、分かったよ、シエラ。後ろを向いて。」
「うう、ん。このまま、付けて。」
ゴクリ、とアゼイドは唾を飲み込む。
アゼイドはシエラからネックレスを受け取り、金具を外す。
両手でネックレスの先端を摘み、腕を回してシエラのうなじに手を付ける。
震える両手。
目の前には、目を潤まして自分を見つめる、シエラ。
お互いの息遣いも感じる、顔と顔の距離。
『カチッ』
震える手で、何とかネックレスを付けることに成功したアゼイド。
傍からみると、ふわりと抱き合っているようだ。
不意に、シエラは両目を閉じた。
そして、顔を上げ、閉じた口を差し出した。
頬を赤らめ、少し震えるシエラ。
シエラの両手が、アゼイドの腰を回し、背中を掴む。
つまり、これは。
そういう事だ。
アゼイドも、シエラの上腕から背中へと手を回す。
「シエラ…」
「アゼイド…」
お互い、名前を呼び合い、顔を近づける。
あと、数センチ。
「うおおお~~い、アゼイド居るかぁ~~~!?」
ドカッとアゼイドの工房の入口が開き、顔を真っ赤にして入って来たのはオーウェン。
その背中には、酔いつぶれて背負われるマイスター。
さらに後ろには困り顔のアスランが立っていた。
飲み明かし、案の定酔いつぶれたマイスターを休ませようとしたところ、そう言えば近くにアゼイドの工房が合った!灯りもついている、よし、行こう!とオーウェンが勝手に決定し、何となく嫌な予感がして徐々にフェードアウトしていたアスラン。
そしてアゼイドの工房に文字通りなだれ込んだら…。
目に映ったのは、まさにキス寸前で停止する、抱き合うシエラとアゼイドであった。
固まるシエラとアゼイド。
同じように固まる、オーウェン。
一瞬の隙を見て、シュバッと消えるアスラン。
「あ、あはははははは…大変、失礼、しまし、た~」
ソーッとドアを閉めるオーウェン。
「ごめんね、アゼイド君。」
それだけ呟き、アゼイドから身体を離したシエラが、消えた。
次の瞬間、閉まり切るドアの隙間からシエラは飛び出し、オーウェンに飛び蹴りをかました。
「ウギャアアアアアアアアアアアア!!!!」
オーウェンの絶叫。
同じように弾き飛ばされるマイスター。
蹴り飛ばされる二人の後ろに即座に回りこみ、首筋を掴み、地面に座りこませるシエラ。
マイスターは目を回しグッタリしているが、オーウェンは違う。
ブルブル震えながら、シエラを見上げる。
にっこりと笑っているが、額には盛大な青筋が刻まれている。
「オ~ウェ~ン、くぅ~ん?」
「あは、あは、あはは…。シエ、ラ、様…本当に、本当に申し訳ありま…」
「許すかボケェェェエエエエ!!!!!」
「ギィヤアアアアアアアアアアアア!ゴメンナサイイイイイアアアアアアアアアア!!!!!」
5分後、ボコボコにされたオーウェンと酔いが醒めたマイスター。
そして、逃げたのが無駄に終わった(シエラに捕まった)アスランが夜のフォーミッドで土下座させられるのであった。




