表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/211

第42話 レリック侯爵領

国境町メイスに滞在して二日が経過し、今回の最終目的地であるサスマン市へ向かうディールとユウネ達。


ソマリが伝えた“褒章”の話は、レリック家より連合軍本部フォーミッドまでの馬車を用意してもらえる事、水の神殿・土の神殿への寄り道までも快く了承された。

このため、ディールとユウネはサスマン市に到着後、すぐレリック侯爵領へ向かうこととなる。


同様に、サスマン市までの道中の護衛を受けていた“銀の絆”の面々も、褒章が得られるため、喜んで同行を受け入れた。

さらにレリック侯爵領までの間だが、多少護衛任務が長引くため追加報酬も貰えるとの事。

まさに万々歳である。


加えて馬車の御者であるメジック家に仕えるベッツとサティは、御者であるため褒章は無いが、遠回りするための追加報酬に、レリック家から任務延長の報告をメジック家へ通知してもらえるとのことで了承するのだった。

ベッツは、メジック家に残したパティシエの妻に怒られるかも…と怯えていたが、報酬に色を付けます、というバゼットの提案で快く了承したのであった。


「レリック侯爵領から水の神殿に向かい、そこからラーグ公爵国の北にある土の神殿に行ってからフォーミッドに入るのか…。結構な長旅になるな。」


ウェルターが、ディールとユウネの条件を聞いて呟いた。


「行程的には、そこまで期間は必要としないはずです。サスマン市からレリック侯爵領までは2日程度。レリック侯爵領から水の神殿までは5日くらいで着きます。そこから土の神殿へ向かうですが…途中、ランバルト子爵領へ立ち寄ってからまたラーグ公爵国へ入り、そこから7日程で土の神殿です。土の神殿からフォーミッドまでの間、2つの町を中継するので、2週間ほどでフォーミッドに到着します。」


地図を見ながら一生懸命説明するソマリ。

それに呆れ顔でつっこむウェルター。


「…ソマリお嬢さん。全部でどれくらいの行程か計算出来ているか?」

「えっと…。あ…。」

「な、結構な長旅だろ?」


最低でも1月は必要とする旅路となる。


「でも、ラーカル町からレリック侯爵領までの間とほぼ同じくらいですから、慣れっこですよ!」


明るく言うユウネ。

今回、初めて長旅を経験したが存外楽しかったのが彼女の感想である。

それがまた続くことで、心を弾ませているのだ。


何より…


「そりゃあ、ディールと一緒だからなー。」

「そ、そ、そういう意味じゃありません!」


否定はしても、実はその通りだったりする。

ディールと一緒なら、どこへ行こうと構わない。

そう考えるユウネであった。


当のディールはユウネの隣で熟睡しているが。


相変わらず茶化すウェルターに「ごほん!」と一つ咳払いをして注意を促すバゼット。

若干引きつって、大人しく座るウェルターであった。


「ディール様とユウネ様にはレリック侯爵家より責任もってフォーミッド、また途中に寄る二つの神殿へご案内します。他に道中、お二人の行きたい場所があればある程度は対応が可能かと。」


ただ…、と続けるバゼット。


「さすがにレリック侯爵領以降は、“銀の絆” の皆様とベッツ殿とサティ殿に頼るという訳には行きません。」


そう、長かったこのメンバーとの旅路も間もなく終わるのだ。

名残惜しく、寂しそうな表情をするユウネ。


「ディール達の旅だが、護衛の当てはあるのか、バゼットさん。」


ウェルターがバゼットに尋ねる。

「ふむ…」と少し考えるバゼット。


「護衛は必要であるなら、レリック伯爵家の騎士団から選りすぐりをお付けします。ただ “銀の絆” の皆様の力量を考えると、いささか戦力が落ちますがな。」

「またまた、遜る必要なないですよバゼットさん。」

「事実、ですな。残念ながら。」


レリック侯爵領から連合軍本部フォーミッドまでの道のりは厳しい。

整備された街道、平原や森であっても、屈強な魔物が跋扈するのだ。

出来れば、その道中に精通したハンターに護衛を依頼したいところだ。

だが、戦時中である現在。

馬車自体の本数も少なければ、強く信頼できるハンターも人気が殺到するため、双方の条件が合うのは非常に難しい。


「出来れば “銀の絆” の皆さんにお願いしたいくらいですが……。」


名残惜しさか、ユウネが呟く。

その言葉にウェルターも恥ずかしそうに頭を掻きながら答える。


「嬉しい事言ってくれるじゃねぇか。……実は、オレ達ももし、二人の護衛が決まらなければフォーミッドまで同行してもどうか、って話し合ったんだ。だが、中々意見がまとまらなくてな。」

「ふむ。何か問題でもありましたかな?」

「オレとメイリはOKだ。だがセイリーンはそろそろ身を固めたいらしい。ピピンはサティと付き合い始めたばかりだからな。一緒になら喜んでOKなんだろうが、サティはメジック家の御者だ。サスマン市より遠いところの御者としての同行は流石に許可が下りないだろう。」


頭を掻きむしりながらウェルターは続ける。


「ガザンは……ここずっとオレ達と旅をしていたからな。出来ればしばらく奥さんの傍に居たいらしい。全員の状況や希望を考えると、サスマン市まで行ったらメイスに戻って、しばらくメイスのギルドに腰を据えて活動するのが一番なんだ。」


そのウェルターの言葉に、ユウネははっきりと言う。


「わかりました。少し残念ですが、皆さんのお考えを尊重すべきだと思います。」

「いいのか?」

「ええ。むしろ、ウェルターさんはセイリーンさんを早くお嫁さんにしてあげるべきです!」


ユウネの言葉に、ウェルターは「ブホッ」と噴き出す。


「いや、そのっ!」

「うふふ、いつもの仕返しです。」


ニヤニヤ笑うユウネに、してやられたウェルター。

実はウェルターも考えていないわけではない。

高級宿で久々に二人きりの時間をたっぷり取れた。

幸せそうなセイリーンの顔を見て、そろそろ、ともウェルターも思っていたところである。


「ははは、一本取られましたな、ウェルター殿。ただ、老婆心ながら忠告すると、パーティーを組んだ経緯や貴方達の関係性を考えれば、ここで無理をする道理は無いはずです。身の丈にあった活動をせねば、自らだけでなく大事な者も失うかもしれませんぞ。」


バゼットの言葉に神妙に頷くウェルター。


「ちなみに。この二人の護衛でフォーミッドまで付いて行くとなると、相場はどのくらいだ?」

「そうですな。金貨30枚というところでしょうか。」


事実ではあるが、バゼットの提示した額に揺れるウェルター。

今回の旅路の6倍の金額である。

その分、危険であるのは変わりないのだが…。


「護衛依頼としては凄く旨味があるし、護衛対象も気心知れたディールとユウネだから受けたいが……うーん。」

「お金ではありませんぞ。無理は禁物です。」


改めて、バゼットに窘められるウェルターであった。



――――



メイスを出発して2日。

ガルランド公爵国で第2位の人口規模を誇るサスマン市へ到着した。

本来であれば、ここで今回の旅は終わりなのだが…。


「明日には、レリック侯爵領へ向かうです。」


サスマン市の貴族専用高級宿。

またまたレリック侯爵が用意した高級宿で一晩過ごすのであった。


「毎回毎回、こんな素敵なところで過ごして良いのかなぁ。」


辺りをキョロキョロしながら落ち着かないユウネ。


「安心するです。私が付いているです。」


無い胸を張って言う、ソマリ。

“銀の絆”の面々はすっかり順応し、各々寛いでいた。

落ち着かないのはディールとユウネだけであった。


「本当なら、サスマン市でフォーミッドまでの旅路の準備をするんだがな。」

「それはレリック侯爵領にお越しいただいた後、また寄りますので、その時まで我慢するです。」


ストレージバックとアーカイブリングの中にある食糧や食材はまだまだ余裕はある。

だが、ここからさらに1月は掛かる旅路だ。

前もって揃えておきたいと思うのがディールの性格である。


「本来ならここが最終目的地なんだが…まさかの素通りとはね。」


ウェルターも呆れて呟く。


「まぁ、その分まだしばらくこのメンバーで一緒に旅が楽しめるんだ。幸運と考えよう。」


ガザンが果実酒を飲みながら嬉しそうに呟く。

その言葉にメイリもセイリーンも頷く。


「アッシも今回の旅は本当に良い道中だったッスよ。まだまだ皆さんとご一緒出来て嬉しいっス。」

「そうだな。ピピンは念願の彼女が出来たし、本当に良い旅だったよな!」

「ちょ!リーダー!茶化すのは無しっスよ!」


顔を真っ赤にして噛みつくピピンと、同じく顔を真っ赤にして伏せるサティ。



サスマン市に付いて、再度“銀の絆”は話し合った。

その結果、今回の護衛はレリック侯爵領までということで決めたのだ。

褒章を得たあと、“銀の絆”は国境町メイスへ戻り、しばらくそこを拠点とするとのこと。


ディール含め男メンバーには告げられたが、ウェルターは戻ったらセイリーンと身を固める決意をしたとのこと。

同様に、サティもメジック家を退職し、ピピンの元にやってくる事となったので、ピピンも近いうちに身を固める予定とのことだ。


その夜、盛大に酒盛りをしてバゼットに諫められる、面々であった…。



――――



「さぁ、見えてきました!あれがレリック侯爵領です!」


御者ベッツの声で、全員が外を見る。


「凄い…綺麗な町…」

「そうです!ようこそ!“花の都”レリック侯爵領へです!」


この世界では、領主を務める貴族が住む町や市を「爵領」と呼んでいる。

ラーグ公爵国の都市の中で最も美しいと呼び名の高い“花の都”レリック侯爵領に、一行は到着したのであった。



「おかえりなさいませ、ソマリお嬢様!」


領門に着くや否や、数多くの兵やメイドが出迎えた。

その中心から、恰幅の良い白髪の男性と、若く美しい女性、そしてソマリに顔立ちが似ている女性が近づいてきた。


「お父様!お母様!それに、ターナお姉様!」


ソマリは思わず笑顔で叫ぶ。


「おかえり、ソマリ。沢山見聞を広げることが出来たかな?」


恰幅の良い白髪の男性こそ、レリック侯爵であった。

その隣の若く美しい女性が、ソマリの母親であるレリック夫人である。

そして、ソマリに似た女性は、姉のターナである。


「はい。ガルランド公爵国とラーグ公爵国の流通や生産形態など、幅広く見聞きしてきたです。」

「うむ。積もる話もあるが…まずは賓客を持て成そう。バゼット、そちらの御人方々が、娘の命を救ってくださった勇者達だな?」


レリック侯爵は、馬車から降りて並ぶディール達を見て言った。

バゼットは恭しく頭を下げて首肯する。


「はっ。この方々が、かの『黒獣王』を打ち破り、ソマリお嬢様の命を守った勇者であります。」

「うむ。この度の働き、大儀であった。本来ならラーグ公爵国王ゲイル様より褒章を授けるところだが、そなた等は旅の身。救われた娘の父であるこのレリックからの粗末な褒章にてご寛容いただきたい。」


レリック侯爵の言葉に、代表してウェルターが答える。


「は、は、はい!我ら民草には身に余る光栄であります!謹んでお受けいたします!」

「ご寛容いただき感謝する。では、今夜授与させていただく。まずは我が屋敷にて長旅の疲れをゆるりと癒すが良い。」


レリック侯爵はそう言うと、近くのメイドに目配せをした。

そのメイドがウェルターの前に立ち、カーテシーで挨拶をする。


「ようこそ、勇者様達。私はレリック侯爵家に仕えるメイド長です。まずはお屋敷へご案内します。」



――――



レリック侯爵の宮。

真っ白の大理石で造り上げた豪邸の中心部にはある噴水から潤沢な水が流れ出し、そこから放射状に繋がる水路を通って多くの花壇に水を行き渡す。

花壇はそれぞれ種類・色別けがされた花々が咲き誇り、見る者の心を奪うのであった。


そんなレリック侯爵の宮の一室。

ディールの部屋。

ディールから「相談がある」とユウネは告げられたため、部屋に訪れたのだが…


「え、褒章を辞退したい…?」

「ああ。正直不味い事になった。」


ディールは少し顔を曇らせながら伝える。


「…どうして?」

「ウェルターがさっき言っていたんだが…褒章の授与履歴はステータスプレートに刻まれるそうなんだ。色んなところでステータスを開示する時、どの貴族から褒章を貰ったかというのが、一種のステータスにもなるし、様々な恩恵が得られるんだってさ。」


驚愕するユウネ。

二人が全く知らなかった、ステータスプレートの機能。

そして、ディールは【加護無し】であるため、ステータスを開くことが出来ない。

あの【覚醒の儀】以来、触れるのも恐ろしくストレージバックの奥底に眠ったままであった。


「だけど…ここまで来て褒章を受け取らないって言うのは問題があると思うよ。相手は侯爵様だし。」

「ああ。まさかそんな決まりがあるなんて知らなかったからな。下手すると不敬罪だ。」


静まり返る二人。


意を決して、ユウネはディールに伝える。


「分かった。私も辞退する。」

「え、おい!ユウネまでオレに付き合う必要はない!」

「…ステータスに刻まれるということは、加護が何か分かっちゃうってことだと思う。そうなると私も良くないかなって思うの。」


ユウネの加護は、前代未聞の【星】という名を冠するもの。

しかも最高位の加護である【神子】だ。


【星の神子】


この未知の加護が知れ渡った際、どのような影響があるのか。

最悪、ディールとの旅が終わってしまうかもしれない!

そこまで危惧するユウネであった。


「こうなったら、仕方ない。」


ディールは、決意した。


「どうするの?」



「これから、レリック侯爵に会おう。そして正直に伝えよう。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ