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第39話 水の龍神

ラーグ公爵国”森街道”の治安部隊が到着して2時間。

”暗闇の狼”の引渡しと『黒獣王』の死、そして『任侠道』の偉業と今後の方針が伝えられたのであった。


「確かに承りました、バゼット卿」


治安部隊の隊長がバゼットに敬礼して言う。

バゼットもにこやかに「くれぐれも頼みましたよ」と伝えるのであった。


『さて、儂は寝穴に戻る。もし訪れる際はここで匂い木を燻らせろ。迎えに来よう。』

「よろしく頼みます、『任侠道』殿!」


”『任侠道』は邪悪な魔物でなく、森の守護者にて王者である。

何人も手を出してはならぬ。”


そうした触れを、近日中に発行してまずは主に”森街道”を通る者達に伝えることで決定した。

本来はこの地を治める貴族が決定することであるが、この場に居るのは国を治める公爵を除くと最高位である侯爵の令嬢であり、ラーグ公爵国内で爵位が与えられるのも時間の問題と言われるバゼットであるから、正式決定するまでの間の仮の措置として、臨時に触れを出したのだ。


同時に『任侠道』は500年前の大英雄時代の生き証人としての価値がある。

むしろ理由としては、こちらの方が遥かに大きい。


『任侠道』が話した内容はソマリが全てメモにまとめたが、後日、寝穴にしているという“火の雨”の跡地確認と、再度、大英雄時代の話をラーグ公爵国の高官が聞きに行くということでまとまった。

これについては、自身の安全を確約することで『任侠道』は了承するのであった。

ただ、人間に害意は無くとも悠久の時を生きる”二つ名持ち”である。

仮に討伐しようとしても、一筋縄ではいかない。


「では、またな『任侠道』」

『うむ。お主らも息災でな。』


こうして別れる、ディール達と『任侠道』

『任侠道』はドスン、ドスン、と足音を響かせて棲家へと帰る。


その後ろ姿と、先程からブツブツ呟いては一人(?)で考えを巡らせるホムラを見て、ディールは駄目元で『任侠道』に尋ねたことを思い出した。



----



『なあ、『任侠道』。あんた、『碧』って聞いて何か思い当たる節はあるか?』

『ん?『碧』…?』

『いや、心当たりが無ければいいんだが…』

『ふむ…儂が知っている『碧』というと、『水の龍神』しか分からぬ。』


『水の龍神…様!?』


『今はどう呼ばれているか知らぬが、『碧』と言えば水の龍神よ。』

『それは、何て呼ばれているんだ!?』


そして『任侠道』から告げられる、水の龍神の名。



『【碧海龍スイテン】それが水の龍神の名だ。』



それと同時に、叫ぶホムラ。


-そいつだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!-



----



襲撃により、ほぼ1日を費やしてしまった一向。

治安部隊の警護の中、たっぷりと休息を取って改めて先へ進むのであった。


それからの旅は順調であり、3日後には”森街道”を抜け、それから1日後。


「さぁ皆様、そろそろ入りますよ!国境町メイスです!」


御者ベッツの声が響く。

ラーカル町を出発して18日目。

ラーグ公爵国から再度、ガルランド公爵国へ戻ってきたのだ。

その玄関口ともいえる、国境町メイスに到着したのだ。


「いやあ、長かったなー。」


馬車の中で伸びをして呟くウェルター。

ユウネはそれを見て、隣で居眠りをするディールを揺する。


「起きてディール。メイスに入るよ。」

「おいおいユウネ。そこはお姫様のキスで起こすところじゃないのか?」


ニヤニヤしながらウェルターが茶化す。

ボッと顔を赤くするユウネ。


「また…ウェルター殿は淑女の扱いがひどいですな。」

「本当です。ユウネさん可哀想です。」


バゼットとソマリの非難が続く。

そんなやり取りを知らぬまま、ディールは「んあ?」と寝ぼけながら起きる。


「お、おはよ…ディール。」

「ああ、おはよう…ってどうしたユウネ?またウェルターに何か言われたか?」


そう言ってジト目でウェルターを見るディール。

ウェルターは顔を背けて口笛を吹いてごまかす。

「はぁっ」とため息をつく、ディール。



『任侠道』に、『碧』こと【碧海龍スイテン】の名を教えられてから、ホムラは何やらブツブツと考えこむようになった。

その名を聞いた瞬間、また例の声が響いたのも原因の一つだろう。



【ホムラの封印22から封印29までを解除しました。残り、70。】



たった一日で16もの封印が解けたのだ。

それによって得られた新たな力に加え、ホムラ自身の力もかなり向上した様子だ。

だが、思い出した記憶を頼りに、ホムラは考え込むようになってしまった。


(おいホムラ。何か思い出したか?)


ディールが尋ねると、ホムラは嫌悪感たっぷりに答えるのであった。


-相変わらず歯抜けのような思い出し方だけど、どう考えても…あいつ、スイテンって奴は…-


次に出る言葉が何であるか。

何度も聞かされてさすがにうんざりするディール。


-めっちゃくちゃ、嫌なやつよ!!-



先日思い出した『碧』というものはディールの故郷であるここガルランド公爵国で奉られている”水の龍神様”のようだ。


その名も【碧海龍スイテン】


そもそも世界各地に奉られている”龍神”はガルランド公爵国だけでない。

侯爵令嬢ソマリの復習も兼ねて聞いたところ、次のとおり。

・ガルランド公爵国 ”水の龍神”

・ラーグ公爵国 ”土の龍神”

・ソリドール公爵国 ”風の龍神”

・バルバトーズ公爵国 ”光の龍神”と”闇の龍神”


この中で有名なのはバルバトーズ公爵国の”光の龍神”と”闇の龍神”である。

かの5大英雄の一人で兄ゴードンが授かった【剣聖】の初代とされる大英雄【セナ・バルバトーズ】が、成人を迎えて【剣聖】の加護を得た後に”光の龍神”と”闇の龍神”の祝福を受け、最強の魔剣とされる”深淵”の二振り【黒の魔剣】と【白の魔剣】を授かったという伝承がある。


二柱の龍神からの、魔剣授与。

その寵愛を受けし少女【黒白の剣聖セナ・バルバトーズ】


この世界の男児なら誰もが憧れる、英雄譚の一節である。


だが、あくまでも伝承でのことだ。

そもそも、龍神には伝えられている名は、無い。

”龍神”はあくまでも、”龍神”なのである。


そして世界各地に奉られている”龍神”の伝承がより強い地に、それぞれの神殿が建立されている。

敬虔なグレバディス教徒が祈りを捧げに来ることもあれば、場所によっては観光名所のようにもなっている。


ソマリ曰く「水の神殿は、まさに観光地です。」

ソマリの各国行脚道中でも立ち寄ったことがあるそうで、神殿内は他と変わらず厳かではあるが、神殿外は、屋台や宿が連なる一大観光名所となっているのだ。

水の龍神の影響か、効能の良い温泉も湧き出ているため、温泉目当てに訪れる者もいるとのこと。


ソマリの情報で、いつか行ってみたいと思うディールとユウネだったが…。


-あいつに会わなくちゃいけないって分かっているんだけど…なんだろ…本能が”やめておけ、あいつは敵だ”ってすっごく警鐘を鳴らしているの!-


【碧海龍スイテン】の名を聞いてから、ずっとこの調子だ。

だが、それが示すことは即ち。


「水の龍神様が、実在するってことでもあるんだよなぁ…」


豪華な調度品が飾られる部屋の中で、ディールが呟く。



一向は、国境町メイスの一等地にある豪勢な宿に居る。

今日から二日間、ここに泊まるのであった。


この宿は、レリック侯爵が用意したものである。


国境町メイスに入るや否や、レリック侯爵からの使いが待ち構えていたのだ。

すでに治安部隊によって『黒獣王』の撃破と、ソマリ達の無事がレリック侯爵へ伝えられており、愛する娘と信頼おける家臣の命を救った一行である、丁重にもてなせ、と伝令が入っていたのだった。


「『黒獣王』を撃破した一行です。レリック侯爵家だけでなく、ラーグ公爵国からも褒章が出るはずです。そのような英雄達を無碍に扱うわけには行きません。」


使いの者はディールやユウネ、”銀の絆”の面々に頭を下げて伝える。

そして用意された宿が、国境町メイスの中で最も高額で豪勢な宿であった。

聞くところによると、一般人は宿泊不可の貴族専用の宿泊施設とのこと。


”銀の絆”の面々は大喜びで、御者ベッツとサティは「我々はただの御者ですから!」と丁重に断ったがが、仕えているメジック家よりも、他国とは言え格上のレリック家が懇意で用意したものを無碍にできなかっため、この好意に甘えることとした。

そしてディールとユウネはというと…。


絵本や物語で伝え聞いたことが無い、豪華な宿に度肝を抜かれたのであった。

一通り驚いた後、今後の方針をと、ディールの部屋にユウネが訪れ話をしているところだ。



「水の龍神様…私のレメネーテ村から遠いところに神殿があるから良く知らないけど、ガルランド公爵国に水属性の加護持ちが多く生まれるのも、その水の龍神様の祝福のおかげって話は聞いたことがあるなぁ」


そう言い、ユウネは先ほど訪れたルームサービスが淹れていった紅茶を一つ口にした。


「!?何これ、美味しいっ!!」


初めて飲む、貴族の紅茶。

あまりの美味しさに目を丸くして驚くユウネであった。


「本当か…オレも…。」


ディールも紅茶を口にする。


「うまっ!何だこれ!」

「でしょでしょ!何この紅茶…普段飲んでいるのと全然違う…。香りも凄く良い…」


二人は紅茶のあまりの美味しさに感動していると。


-ったく!!呑気ね、あんた等は!-


ぷんぷん怒るホムラの声。

【碧海龍スイテン】の名を聞いてから、ずっと機嫌が悪いのだ。

なんとなく、申し訳ない気持ちになるユウネ。


「ごめんなさいホムラさん。でも、色んなことを思い出せて良かったじゃないですか。」


-よくなぁぁぁい!-


他に思い出したこと。

【碧海龍スイテン】に会うこと。

他の龍神にも会う必要があること。

グレバディス教国の教皇に会う必要があること。

位置にしてバルバトーズ公爵国の領土内となるがグレバディス教国の先『黒白の神殿』に向かうこと。



そして、自分を封印したのは龍神”達”であること。



だが、何故封印されたのかといった理由まではまだ思い出せないのであった。

自分を封印した元凶は分かっても、理由が分からない。

まるで理不尽にあったかのような気持ちが、ホムラをより苛立たせるのであった。


-まずはそのスイテンって奴のところね!行きたくないけど!-


「そうだな…。オレやユウネの村からは遠いが、目指しているサスマン市からなら馬車で2~3日というところだそうだ。グレバディス教国へ行く前に、まずは水の神殿へ行ってみるか。」


ディールはホムラに同意する。


「ユウネはどう思う?」

「うん、私もそれでいいよ。せっかく近くまで行くなら、ホムラさんの用事を済ませちゃおうよ。」


紅茶のおかわりを淹れながらユウネは答える。

よほど貴族の紅茶が気に入った様子だ。


すると。


『トントン』


ディールの部屋をノックする音。


-ソマリとバゼットね-


ディールとユウネに伝えるホムラ。

30もの封印が解けたホムラは、誰が来たか気配で分かるようになったのだ。


「どうぞ。」とディールは答える。


「失礼します。」


そう返事をしてからバゼットはドアを開け、ソマリを中に入れてから自分も部屋へ入る。


「お休み中のところ、申し訳ありませんディール様、ユウネ様。」

「お寛ぎです?」


バゼットとソマリは笑顔で尋ねてくる。

それにディールとユウネも頷き答える。


「ああ。こんなに凄い宿に泊まったのは初めてだ。」

「本当によろしいのでしょうか…。私なんてただの村娘なのに…」


その言葉にさらに笑顔になるソマリ。


「良かったです。本当はもっと持て成すつもりだったです。」

「いやいや、十分だよ。ところで、何か用があって来たのでは?」


ディールが尋ねると、バゼットは軽く頷いてからソマリを椅子に座らせた。


「お二人に折り入って頼みがあるのです。」

「頼みですか?」

「ええ。お二人と”銀の絆”の皆様に、褒章が出るです。なのでサスマン市に行った後、私たちと一緒にラーグ公爵国のレリック領へお越しいただきたいです。」


ソマリの言葉に、驚きを隠せないディールとユウネ。


「褒章!?なんで…」

「言ったです。皆様は『黒獣王』の討伐に、この私をお守りくださった英雄です。そして『任侠道』の一件もあるのです。本来なら公爵国挙げての功績にもなるのですが、皆様は旅を急がれる身です。なので、物足りないかもしれませんが父レリック侯爵より褒章を授与させていただくです。」


ニコニコ微笑みながら、ソマリが説明する。

それに…と続く。


「褒章はお金だけじゃないです。もし皆様に何かお困りごとがあるなら、侯爵ができる限り相談に乗るです。名誉や金銭だけでなく、何かの助けになるかと思うです。」


ラーグ公爵国内での最高位の権力者、レリック侯爵。

それならと、ディールは一つ閃いた。


「謹んでお受けしよう。」

「本当ですか!」

「ユウネ、ちょっといいか。」


ディールはユウネに耳打ちする。

ユウネは、一瞬驚いたが、コクリと頷き同意する。


「オレとユウネが望むのは、旅の馬車だ。」

「ふむ。そう言えばメジック家の馬車は元々あなた達二人との約束と聞いてはいましたからな。」


バゼットも頷く。


「ああ。定期便や物流便よりも自由が利くし、不便も無いからな。メジック家の馬車ではサスマン市までしか行けないから…」

「なるほど! 確かグレバディス教国まで行くとおっしゃっていたです。分かりました。さすがにグレバディス教国までの直通は難しいですが、せめて連合軍本部フォーミッドまで行けるよう手配するです。」


ソマリは二つ返事で了承した。

そこに、ディールは口を挟む。


「加えてだが、フォーミッドへ行く前に、寄り道を二箇所お願いしたい。」

「寄り道、です?」



意を決して、ディールは伝える。


「水の神殿と、ラーグ公爵国にある土の神殿に用事ができた。そこへ連れて行ってほしい。」

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