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第3話 ”7年前”【剣聖】旅立ち

「では、儂が責任をもってこの二人をお守りいたしますじゃ。」

「ゴードンも、それでいいわね?」


村長とユフィナの最後の確認に、ゴードンも頷く。


「ああ、よろしく頼みます……。」


ソリドール公爵嬢で連合軍幹部の一人のマリィ・フォン・ソリドールの『めんどい書状』事件から落ち着きを取り戻し、話もいよいよ大詰めとなった。


身寄りのないゴードンの妹アデルと弟ディールについては、このようになった。


1 村長及びその家族が保護者となり、成人までの間、責任をもって世話をする。


2 そのための育成費等は連合軍から村長に毎年支払われる。


3 アデルとディールの専属家庭教師役としてオーウェンが就く(これは、村長やその家族がアデルとディールの教育放棄を防止するための監視としての役目もある)


4 ゴードン自身も年1回程度は、家族に会いにスタビア村へ戻る。


これらを条件に、ゴードンは『連合軍』へ赴くことを了承したのだ。


当初、アデルとディールも一緒に連合軍本部の巨大市街地「フォーミッド」へ移り住む前提でゴードンも話をしていたのだが…。


「ゴードンは成人したばかりで知らぬのも無理はないが、成人前の子供は生まれたところで育ち、成人を迎える決まりがあるのじゃ。」

「村長、そんな決まりがこの村にはあるのか!?」


村長の説明に、ゴードンは思わず叫ぶ。


「この村だけではないわ。世界共通の決まり、というか義務になるわね。」


ユフィナも肯定し、チラリとエリスを見る。

「あぁ、説明しろということですね」と呟き、エリスはゴードンやアデル、ディールの方を向いて(と言っても両眼は閉じたまま)説明を始めた。


「いくつか理由がありますが……。”邪神ルシア”が世界中に置いたという魔法陣を”女神ロゼッタ”が浄化したことで、私たち人類が加護という莫大な恩恵を授かれるのですが、なぜか、生まれた土地の魔法陣でなければ、加護を授かることができないのです。」

「それなら、成人の前までに村へ戻ってくれば良いのでは?」


エリスは首を横に振る。


「リスクが高いのです。短期間の旅行程度なら大丈夫なのですが、これもなぜか、別の地に移り住んでしまうと、もともと生まれた場所の魔法陣でも、移り住んだ地の魔法陣でも、加護を授かることができない。すなわち、その者は【加護無し】となるのです。」


ゴードンは、ゴクリと唾を飲みこみ、呟いた。


「【加護無し】……。」

「そう。【加護無し】を生み出した魔法陣がある地では、何やら良くないことが起こるという伝承も耳にしますし、グレバディス教の一部司祭は、魔神の眷属と宣い処刑すらするとも聞きます。ですので、村や町、大きな市街地でも、生まれた子は成人するまで、違う地へ移り住むことを禁じているのです。」


エリスからの説明に"村の危機に繋がる可能性" と納得し、ゴードンはアデルとディールを村に残し、連合軍へ入ることとした。


「話し合いは以上です。私たちは明日の朝9の刻にこの村を発ちますので、それまでに準備を整えてください。何も今生の別れになるものではありませんが……家族水入らず、過ごしてください。」


エリスがそう言い、席を立つ。


「ついでにあんたもこの村に御厄介になるんだから、そういう意味でしっかり準備しなさいねー。」


とユフィナも立ったついでにオーウェンに言い放つ。


「かー、マジで決定事項なんスねー。んじゃ、この瞬間からオレは連合軍第2軍団副団長補佐でなく、一介の村人兼この子らの先生ってことで溶け込みますねー。」


と、まるで肩の任が解かれたと言わんばかりに、オーウェンはおどける。が『ゴチン!』と、オーウェンの頭に副団長の鉄拳制裁が下った。


「あいたっ!! 痛いっすよバゼット副団長! 今のマジ殴りじゃないっすか!」

「バカモノ! 何が一介の村人だ! その肩書のままでの派遣に決まっているだろうが! お前もゴードン殿の里帰りに合わせて本部に帰還すること! あと有事の際は呼び寄せるからそのつもりでおれ!」


額に青筋を立て、副団長がそう怒鳴る。


「わーかってますって! ちょっと冗談言っただけじゃないっすかー。」

「お前は冗談が冗談に聞こえないから性質が悪い! いいか、いい加減な仕事をして村人にそっぽ向かれて見ろ、即刻別の人材を派遣し、お前は降格のうえ連合軍に強制帰還だからな!」


頭をさすりながら「うぃーっす」と軽返事をするオーウェン。その態度に青筋がさらに深くなり、もう一発……


「ちょっと。下らないことしていると二人とも降格よ? そんなことより、そろそろ宿行くわよ」


冷たい目で二人を見るユフィナ。クスクス笑うエリス。


「ハッ! 大変失礼いたしました。……お前も頭を下げろ、オーウェン!」

「ヘイヘイ。頭の固い副団長が大変失礼しましたー。」


なおもおどけるオーウェン。


「おまっ……!」

「いいから、行くよー。」



----



その日の夜。


明日の出立の準備をするゴードン。

と言っても必要なものは、手に馴染んだ愛剣と、服や非常食、水を積み込んだストレージバック(高価な物だが、村長が餞別にと渡してくれた)くらいであった。


「父さん、母さん。どうか兄さんをお守りください……。」


亡き父と母の墓標に祈るアデル。

その隣には、同じように「兄さんを守ってください」と真似をするディール。


「アデル。明日から村長の家でお世話になるんだ。村長や、村長の家族のみんなは笑顔で迎えてくれるだろうが、失礼のないようにな。」


祈るアデルとディールの隣に、準備を済ませたゴードンが並ぶ。


「父さん、母さん。オレ、精一杯やってくるよ。剣聖として、でなく、父さんと母さんの息子として、それにアデルやディールの兄として、恥じることの無い男になって帰ってくるよ。」


そう言い、ゴードンも祈りを捧げた。


「え、兄さん帰ってくるの?」


確かに年1回は里帰りが許されているとは言え、帰ってくるとなると……。


「あぁ。何年掛かるかわからないが、オレはきっと十二将になってみせる。十二将になったら、スタビア村含めた領全体の護衛担当に名乗りを挙げるよ。十二将や連合軍の10軍団は、それぞれ四大公爵国の護衛範囲が決まっているみたいだし……十二将まで上り詰めれば、何も本部にずっと務める必要なないみたいなんだ。この村を拠点とし、領全体の護衛や国の有事に働ければ良いみたいなんだ。」


と、ゴードンは決意した。


「……その話、誰から?」

「オーウェンさんから。」


ああー、とアデルは納得した。

話し合いの主導権を握っていた公爵令嬢の二人も凄かったが、飄々としながらも場の雰囲気に一役買っていたあのオーウェンさんも只者ではないな、と思っていたが、あっさりと兄を焚き付けるところを見ると、とんでもない人が(アデル)やディールの先生役になったんだなぁ、と唖然とした。


「まあ、兄さんは元々村一番の剣士なんだし、剣聖の加護まであるんだから、割とあっさり十二将にまでなれるんじゃない?私が成人するまでには帰ってきそうだね!」


嬉しそうにアデルは言う。

ディールも「兄さん、早くかえってこれるの!?」と目を輝かせて言う。

しかし、当のゴードンの表情は険しい。


「それはわからないな。オーウェンさんに副団長さん、それに、あの二人の公爵令嬢はとんでもない化物って感じだったからな。そんな人たちですら、十二将じゃないんだ。どんな化物揃いかわかったもんじゃない。」


ゴクリと唾を飲みこみながらも、どこか楽し気なゴードン。

まだ見ぬライバルも多数いるかもしれない。


決して【剣聖】という加護を鼻にかけず、自ら真摯に打ち込み、いつかその "頂点" をつかみ取ってやる。

そんな気概も感じられる。


「うん。兄さんなら大丈夫よ。私もディールも待っているからね。」

「ああ。アデル。今日からオレの代わりに、ディールのことを頼むな。」

「うん……。う、ん。任せ、て……。」


堪えきれず、大粒の涙を流し、アデルはゴードンに飛びつく。


「兄さん……兄さんっ!!」

「姉さん、泣かないで……。兄さん、兄さん!!」


わんわん泣くアデルと一緒に、ディールもゴードンに飛びつく。


「ディール、お前も姉さんや村長達の言うこと聞いて、立派な男になれよ。」


ゴードンはディールの頭をわしわしと撫でて言う。


「うん、まかせて!!兄さんも”じゅうにしょう” 目指してがんばってね!」


涙で声の出ないアデルに代わり、満面の笑みで答えるディール。

三人は、眠りにつくまで抱き合い、別れを惜しんだ。



そして翌日、村人全員に見送られ、ゴードンは旅立つのであった。


「兄さん、オレ、頑張るよ!」


その日を境に、ディールは自らを鍛え始めるのであった。

偉大な加護を持つ、兄の背中に追いつくように。

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