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第31話 二つ名持ち

本日、3話掲載します。

「さて食事の途中だが夜の見張りについて説明しておく。」


たき火を囲み、料理に舌鼓を打ちながらウェルターが伝える。


「基本的に御者の二人とお前さんたち二人、あとソマリお嬢様とバゼットさんは見張りは不要だ。心配なら、ディールとユウネも見張りに入って構わない。」

「ああ。まぁ、今日一日付き合ってみてあんた達“銀の絆”は信頼できるからその必要はないと思うが。」


と言いつつ、いつものようにホムラに見張り役を任せる気満々なディールである。

それを知っているので、申し訳ないような表情をするユウネ。


「信頼してくれるのは構わないが、ハンター同士、なれ合いは極力避けるべきだ。対象によっては、同じ釜の飯を食ったパーティー同士が敵対する場合もあるからな。ただオレもお前さん達とそんな状況になるのはゴメンだけどな。」


笑いながら伝えるウェルター。


「ま、見張りは私や兄貴、それピピンも交代で加わるからそこまで心配はしないからね。たぶん、バゼットさんも強力な探知スキルがあると思うし、異常があれば対応はできるでしょ。」

「ふむ。確かに。ただこの老いぼれがしゃしゃり出るよりも護衛の君らの判断と対応に任せた方が動きも良いでしょう。私やディール様、ユウネ様は本当にいざという時の戦力に含める程度で考えてください。ただ、私自身には遠慮は不要なので何かあれば声を掛けてくだされ。」


メイリの言葉に、バゼットが続く。


「このあたりは強力な魔物がいる話を聞かないし、当分は大丈夫だろう。問題はラーグ公爵国に入ってからだ。例の“森街道”は、昔に比べれば遥かに安全になったとは言え、未だ強力な魔物が蔓延っているからな。」


神妙に呟くウェルター。

その言葉に首肯するバゼット。


「滅多に出ないが“二つ名持ち”の魔物もいる。仮に出くわした時は貴方達“銀の絆”が問題なく連携が取られるなら何とか撤退は可能でしょう。その時は私も微力ながら助太刀いたします。」

「それは助かる。」


ウェルターとバゼットのやり取りに、ユウネは「二つ名持ち?」と呟く。


「ユウネ様はBランクとはいえ、ハンターになったばかりだから知らぬのも無理はない。だが、ハンターならば知るべきでしょう。」


そうバゼットが呟き、ウェルターが続く。


「“二つ名持ち”とは、特殊な魔物に付けられる通り名ってやつだ。通常、魔物は同種ならばその力量に大差は無いが、稀に吐出した実力や異能を持つ魔物ヤツが居る。“進化”の過程なのかどうかは分からないが、そういうヤツに限って凶悪なのが多く、さらにセオリーが通じなかったりと厄介だったりする。それが駆逐されず、未だ健在で人類の脅威になっているのが…“二つ名持ち”だ。」


ゴクリ、と唾を飲み込んで聞き入るユウネ。


「で、その“森街道”に居るという“二つ名持ち”ってどんなんだ?」


ディールが尋ねる。


「有名なのは、危険度Bの魔物、キマイラの“二つ名持ち”の『黒獣王』、あと危険度Dのマーダーベアの『任侠道』の、この二体だ。」

「『黒獣王』と『任侠道』か…。」

「『任侠道は』通常のマーダーベアよりもはるかにでかくて目立つ。気を付ければ避けられる相手だ。加えてこいつは何故か魔物ばかり狙い、あまり人間を襲わない変わり者で有名なんだ。仮に人間と相対しても、殺しまでせず見逃すこともある。それで付いた名が『任侠道』だ。」



あまり人間を襲わない魔物とは。

そんなヤツもいるとは…と感心するディール。


「問題は『黒獣王』さ。あまり数も多くなく滅多に遭遇しない普通のキマイラも強敵っちゃ強敵なんだが…こいつは格が違う。噂では人語も使えるくらい知恵があるそうなんだが、とにかく好戦的で狡猾らしい。遭遇したら最後。今のオレ達…“銀の絆”では全く歯が立たないだろう。」


その言葉に、全員静まり返る。

眉間に皺を寄せ、バゼットが呟くように言う。


「…『黒獣王』は、ラーグ公爵国の騎士団、一個師団でさえ歯が立たなかった。奴の駆逐は私の最大の役目とも言っても過言ではない。」


比較的に治安が良くなったラーグ公爵国内であるが、ガルランド公爵国の一部街道が大雨による土砂災害で通行が出来なくなった今、あまり使われていなかった“森街道”の重要性が高くなった。

そこを根城にする、危険な魔物。

滅多に遭遇しないと言えど“二つ名持ち”がいるとなると、街道として使うことを許可しているラーグ公爵国、強いて言えば治安維持を担うレリック侯爵の沽券に関わる。


本来なら屈強な連合軍の精鋭による駆逐も視野に入れるべき案件ではあるが、今や戦争の真っ只中。

一介の地方の街道に、その戦力を割く余裕がないのである。


「いずれにせよ、そいつらに遭遇することは滅多にない。そうじゃなければ候爵令嬢の行脚が許可されるわけないし、そもそもオレ達も死ぬようなリスクを負ってまで護衛は請け負わない。」


ウェルターが、相変わらず空気を一掃しようとおどけて言う。


「うむ。かく言う私も“二つ名持ち”は、長い間の連合軍生活でも二度しか相対したことが無い。」

「お、さすが勇者!その話、興味あるな!」

「私にも聞かせてください!“二つ名持ち”を退治するのはハンターの憧れですし!」


バゼットの言葉に食い入るように、ウェルターとメイリが目を向ける。


―ま、そんなのが出てきても、私とディールの最強タッグで瞬殺だけどね!―


話を聞いていたホムラが明るく言う。


(おいおい、さすがに“二つ名持ち”は危険すぎるぞ…。あの黄金野郎とか魔窟の魔物とは訳が違う。)


心の中でホムラに突っ込むディール。

黄金野郎とは、ホムラが封印されていた部屋に出てきた、あのミノタウロスである。

人ならば簡単に切り裂けるホムラでも“熱纏”を発動させなければ掠り傷さえ追わせられなかった屈強なミノタウロスだが、それでも“熱纏”にあっけなく倒れたのだ。

生ける伝説にもなって伝え聞く“二つ名持ち”もいる程だ。

さすがのディールとホムラでも出会えば命の保証はない、そう考えるディールである。


「色んな“二つ名持ち”が居るが、今まで聞いた中で最強と思わしきは、ガルランド公爵国と帝国の間にそびえる“紫電霊峰”に住むと言われる、危険度S『エンシェントドラゴン』の“赤鬼”、あとここガルランド公爵国の地下水脈こと“魔窟”に住むと言われる、ミノタウロスの進化種、同じく危険度S『エビルブル』の“銀斧”、そしてグレバディス教国の北、かの“黒白の神殿”に繋がる凍てつく大地に住むと言われる、危険度S『ラージウルフ』の“針王”の、3体だな。」


温かなスープを飲みながら魔導士ガザンが呟く。

その言葉にメイリが笑う。


「ああー、その3体ねー。実在するかどうか分からないんでしょ?どこも殆ど未踏の地だし。」

「噂が尾ひれを付けている可能性もあるが、ハンターなら一度はお目にかかりたいという夢もあるからな。」


ガザンも否定せず、笑顔で答える。

ただ…と続ける。


「火の無いところに煙は立たず。人があまり立ち寄らない地だからこそ、想像を絶する魔物が進化の果て、住み着いていることもあるのだ。」


(魔窟に住む“銀斧”…。まさか、あの野郎のことか…?)


それは、ディールが魔窟に流れ着き、一番最初に襲い掛かってきた凶悪なミノタウロス。

ホムラと出会い、再度魔窟で出会った時はあの時の脅威は感じず、一瞬にして屠った相手だった、が。


(そもそも最初に会った奴とは限らないし、何よりあんな弱い奴が“二つ名持ち”な訳ないな。)


しかも話からすると『最強の3体』に数えられる凶悪な魔物。

もしかすると、最初に会った相手がそうなのかもしれない。

それなら納得だが…そんな“二つ名持ち”には会いたくないな、そう思うディール。


そんなディールの脳裏に、突然あの“声”響いた。



【ホムラの封印10から封印13までを解除しました。残り、86。】



「ブッ!」と飲んでいた水を噴き出すディール。


「おいおい汚ぇな!どうした少年!」

「“二つ名持ち”談義で怖くなったの?」


ガザンとセイリーンが半笑いで言う。

口元を拭いながら「す、すまん…」と謝るディール。


「全く、せっかくの良い殿方が台無しです。」


引きつりながらソマリも言う。

その言葉に頷くバゼット。


「大丈夫?ディール。」


一人だけ、ユウネは心配して甲斐甲斐しく布巾をディールに差し出す。


「ああ、悪い…ユウネ。」

「いや~、いいっすね!若いカップルって!羨ましいでやんすよ!」


ゲラゲラ笑いながらピピンが茶化す。

その言葉にディールもユウネも真っ赤になって「違うから!」と否定する。



――――



食事とその片付けが終わり、各々時間を過ごす。

たき火の前の丸太に隣り合って座るディールとユウネ。


「さっきだけど…もしかしてホムラさんに何かあった?」


察しの良いユウネ。

一つ頷き、周囲を見渡すディール。


「ああ。また封印が解けた。」

「…やっぱり。」


小声で話す二人。


―全く。一体全体どういうタイミングで封印って解かれるか知りたいわ―


当のホムラは呆れた声で告げる。


「全くだ。今回は何がきっかけだったのか。」


思い出されるのは“二つ名持ち”の話題。

何か因縁でもあるのだろうか?


「で、今回思い出したこととか、能力解除とか、どうなんだ?」


―うん、思い出したのは…。私、『碧』って呼ばれている何かに会う必要があるみたいなの。―


「…『碧』??それは、人か、それともホムラみたいな魔剣か?」


ホムラは美しい赤い魔剣。

ならば、その『碧』も魔剣なのか?


―それが分からないんだよ。“『碧』に会う”としか思い出せないの。―


「封印が解除されていけば…それも思い出すのかな?」


ユウネも呟くように言う。


―たぶん、ね。あと、他にも合わなくちゃいけないのがあるっぽいけど…全然思い出せないー!―


イラ立ちを隠そうとせず、叫ぶホムラ。


「それもグレバディス教国へ行けば何か思い出すのかな。いずれにせよ、旅を続けるしかないな。あと、他に思い出したこととか、能力はどうだ?」


―思い出したことは『碧』に会うってことだけ。開放された能力は…無い!―


その言葉に、ディールもユウネも思わずガクッとなる。


「一気に4つも封印解けたのに?」


怪訝そうな顔で尋ねるディール。

その言葉に以前と同じく『チッチッチッ』と舌打ちの真似をするホムラ。

非常に人間臭い。


―解除されたのは、私自身の力。例えば、切れ味とか、熱纏の力とか、ね。―


「ホムラ自身の力…」

「それって…ただでさえ凄いホムラさんが、さらに凄くなったってこと!?」


驚く二人。


―そう!なんか、私に纏う魔力も上がったぽい。切れ味は…そうだなー、“熱纏”無しで黄金牛くんの装備に傷付けられるくらいかな。―


“熱纏”無しでは、一切傷を付けられなかった金剛天鋼に傷を付けられるというのだ。

その言葉に、試したくなるディールだが…。


「ここではやめておこう。誰が見ているかわからないしな。」


自制するのであった。


「何はともあれ、こうして少しずつ封印が解ければ、それだけホムラの正体が何なのか分かるし、オレの力にも繋がって来るから良いことではあるな。」

「凄いな、ディールもホムラさんも。私も鍛えよう。」


このままディールに引き離される気がして、決意するユウネ。

その言葉に、ハンター試験でのユウネの力を思い出すディール。


「いや、ユウネはそのままでも十分だと思うが…」


--――


夜。

一向のテントは6つに分かれている。

一つはディール。もう一つはユウネ。

三つ目は御者であるベッツと、執事バゼット。

四つ目は侯爵令嬢ソマリと、御者サティ。

五つ目と六つ目は“銀の絆”の面々のテントだ。


今の見張りは、ウェルターとセイリーン、あとディールも付き合っている。

一応、ホムラがいるためディールが見張りに出る必要はないのだが、“銀の絆”の面々の手前、最初の夜でもあるため、姿勢を示すために出ているのであった。


「と言っても、オレは探知持ちでもあるからしばらくしたら休ませてもらいます。」

「そうだな。初日から張り切ると後が続かない。」


ディールの言葉に、ウェルターが小声で返す。


「ところで、ディール君はユウネちゃんの事どう思っているの?」


セイリーンがうふふ、と笑いながら尋ねてくる。


「ど、どうって…」

「あの指輪、ディール君がプレゼントしたんでしょ?ユウネちゃんに凄く似合っていたし、センス良いよね!」


目ざといセイリーン。

顔を赤くして言い淀むディールに「初心だなぁ」と呟くのであった。


「そんな指輪していたのか?」

「ウェルターは、もう少し色々気付いた方がいいわよ。私も指が軽くて飛んでいっちゃいそうだなー。」


ウェルターの問いに、嫌らしい笑顔で伝えるセイリーン。

実はこの二人、恋人同士である。

“銀の絆”の相関係として、ウェルターとセイリーンが恋人同士。ウェルターとメイリが兄妹。ピピンはメイリに恋心を抱いているが、脈無し。

ちなみに、若干頭髪が寂しいガザンには、この先にある国境町メイスに最近になって結婚した妻がいるのだ。


「確かにアレはオレが渡した物だが…オレとユウネはそんな関係じゃない。」


―そうだそうだ!そんなの私が許すわけないじゃない!―


ウェルターとセイリーンには聞こえないが、ディールのテントに立て掛けられたホムラが叫ぶ。


「そうなのー?どう見てもユウネちゃんはディール君のこと…」

「まぁまぁ、そう若者を虐めなさるな。」


そこに一人の初老の男。

バゼットだった。


「バゼットさん。」

「お二人とも、ちょっとディール様をお借りしても良いですかな?」

「それは、構わない。もともとオレ達“銀の絆”だけで見張りをするつもりだ。ディール、バゼットさんの用事が済んだらもう休めよ。ハンターの極意は『食べられる時に食べ、寝られる時に寝る』だからな。」

笑顔でディールを送りだすウェルター。

セイリーンも頷く。


「わかった。バゼットさん、行くよ。」



ディールはバゼットの後に付いて行った。

キャンプ地から少し離れたところで、バゼットは向き合い神妙な面持ちで告げる。




「ディール様。もしや貴方は、ゴードン殿の弟の、ディール・スカイハートでは無いかな?」

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