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第2話 ”7年前”【剣聖】交渉

村の中心にある村長の家の隣にある、大屋敷。


村長の家自体は、周囲の村人たちと大して変わらぬ大きさである。

しかし、それはあくまで母屋の話だ。


村長宅と隣に繋がる大屋敷がこのスタビア村で最も大きく、最も立派な建物である。

主にこの周辺を治める領主やその関係者、大公爵国の重鎮を招くためにある。


また村人の婚姻といった祝い事に使われるのであった。

つい先日、この大屋敷を使いゴードンの【剣聖】降誕祝いを行ったばかりであった。


大屋敷の中にある、いわゆる来賓室。

その中心には無垢材の円型テーブルが置かれている。

テーブルを囲むのは、柔らかな背もたれのある椅子。


そこに、来訪したユフィナとエリスの両公爵令嬢が上座に座る。

二人の後ろには連合軍で、訪問の護衛として着いてきた騎士団のリーダーらしき40代後半の男(ユフィナは「副団長」と呼んでいた)、その部下と思わしき10代後半の若い男、さらにその後ろに、騎士団6人が立つ。


反対側の下座に村長、その右隣にはゴードン。

その村長の左隣には、領主より派遣され村の財政関係を担当している文官。

さらに文官の左隣には、覚醒の儀を執り行った司祭が座る。


そしてゴードンの後ろ。

用意された椅子に座る、ディールとアデルであった。


「さて、と。」


全員にお茶が配られたところで、ユフィナが口を開く。


「御推察のとおり、私たちが今日この村に来たのは【剣聖】、いえ、ゴードンに会いに来たのと、連合軍への勧誘のためです。」


透き通る蒼い瞳と、金色の髪を輝かせながら言うユフィナの言葉に「やっぱりな」とゴードンは呟いた。


「……さっきも言ったが、オレはこの村を出る気が毛頭に無いんだが。」

「ええ、伺いました。」


呆れたように言い放つゴードンに、にこりと笑ってエリスが答える。

次いで、ユフィナが確認する。


「あなたが授かった【剣聖】の力を以て、まず『可愛い妹と弟を守ること』そして『大切な村人を守ること』の二つだったわよね?」

「あぁそうだ。……だが。それだけじゃない。穀物や動物たちの面倒も見るのもオレの仕事だ。」


憮然として答えるゴードン。


村に生きる若者として当然の役割。

特にゴードンの村の役目は大きい。


だが、その言葉に対しユフィナはまるで「予想通り」と言わんばかりと口元を緩め、右手を軽く挙げた。


「では、スタビア村をお守りすることと、穀物や家畜の世話要員として、今日よりこの彼を派遣するとしたらいかがかしら?」


挙げた右手は、彼女の後ろにたたずむ騎士団の若い男を示した。


「は…?」


村長もゴードンも、司祭も驚いた。

ユフィナは、フフッと微笑み説明する。


「彼の名はオーウェン。若いながらも……と言っても私たちよりも年上だけど、現在、連合軍の第2軍団の副団長補佐、つまり軍団のナンバー3に就いている、将来を有望視される連合軍きっての逸材です。さぁオーウェン、自己紹介をして。」


ユフィナはチラリと若い騎士団の男、オーウェンに目を配らせた。

オーウェンは面倒くさそうに頭をガシガシと掻き毟る。


「年上っても2つくらいしか変わらないじゃないっすか、団長。」


嫌味を呟いてから、ゴードン達の方へ向き直した。


「ユフィナ団長から紹介に預かりました、連合軍第2軍団の副団長補佐オーウェン・ボナパルトです。ステータスは後で見てもらえりゃわかると思うので割愛しますが、加護は【水の覇王】を授かっています。この村への派遣は【剣聖】君が連合軍に入る、入らないに関わらず、ほぼ決定事項です。そんな訳でスタビア村の皆さん、よろしくです。」


少々ダルそうに自己紹介と己の今後について伝えるオーウェン。


それを聞いた村長は驚愕のあまり顎が外れる程、口を大きく開いて驚いた。


「【水の覇王】ですと!? 【覇王】の名の加護など、英雄に次ぐ勇者の称号ではありませんか!! そのような逸材を……しかもまだお若い騎士様を、このような村に派遣なさると!?」


村長は口にはしなかったが”次代の将軍候補”という言葉が脳裏によぎった。


それほど【覇王】の加護は絶大な力を得る可能性があるのだ。

現に彼は18歳という若さで10ある軍団の一つ、第2軍団のナンバー3に抜擢されているのであった。

現時点での戦力で言えば【剣聖】ゴードンを遥かに凌ぐ実力者である。


「そんな逸材を寄越してまで、オレに連合軍入りしてもらいたいってことか?」


ゴードンは驚きと呆れと半分に、呟いた。


「それだけ【剣聖】の価値は大きいのです。いずれ私たちと共に四つの公爵国を守っていただく筆頭者として、今から連合軍でその力を磨いていただきたいのです。」


相変わらず両眼を閉じたまま、エリスが言う。

確かに、連合軍入りはゴードンにとって魅力的であり【剣聖】の力を伸ばすには最適な環境であることは間違いなかった。


さらに……。

目の前にいるオーウェンのような実力者がゴロゴロいるのだ。


今の自分では逆立ちしたって敵わないと思うオーウェン。

その隣には言葉を発せずとも威厳あるオーラを隠しきれていないオーウェンより実力が上だと感じる壮年の副団長。


それ以上に……。

目の前に座る華怜な美少女二人は、彼らすら凌駕する力を持っている。


その気になれば村人全員と、ここにいる騎士団全員を一人で相手にしても余裕で蹴散らす。

そんな底知れぬ強者のオーラを感じる。


「ちなみに、公爵嬢閣下お二人はどんな加護をお持ちで?」


様々な【加護】を判別してきた司祭が、我慢ならず尋ねてみた。

その言葉にエリスはウフフと笑い、首を横に振る。


「それは司祭様の前では申し上げられませんわ。きっと卒倒されてしまうので。」


笑顔で軽く流す。


まさか【剣聖】すら凌ぐのか!?

いてもたっても居られない司祭は「それはどんな…!?」と立ち上がり問おうとした、が。


「くどいぞ。この場では不必要な話だ。」


部屋中の空気が凍りのように冷めた。

身震いするほどの威圧感。


先ほどまで一切言葉を発しなかった第2軍団副団長から発せられたものであった。

あまりに強大な威圧感に、汗を滝のように流しながら、司祭は黙って座りこんだ。


だが、それとは別種の強烈な殺気が場に立ち込めた。


「ちょっと副団長。私たちはあくまでも平和的かつ友好的にお話合いをしているのよ? ぶち壊す気……?」


副団長は、後ろを振り向きもしないユフィナに咎められた。


「も、も、申し訳ありません……。ユフィナ団長。」


座り込みはしなかったものの、司祭同様に顔を青ざめさせ震える声で謝罪する副団長。


凍りついた空気はさらに凍てついた。

しかし。


「に、兄さん、私、怖い……」

「兄さん~~~!!」


ゴードンの後ろで体を寄せ合い、震える幼い姉弟の姿があった。


「怖がらせてごめんなさい。もう大丈夫ですよ。」


そんな幼い二人にエリスは優しく微笑み声をかける。

凍てついた空気が一気に和らぎ、温かな雰囲気に包まれた。


その天使のような笑み。

幼いディールも、同性のアデルもポワワ~と見惚けるのであった。


「話を戻しますね。」


エリスは改めてゴードンの方へ向いた。


「ゴードンさん。オーウェンさんの派遣で村人の皆さんの安全とあなたのお仕事はある程度カバーできると思います。そして、最大の懸念についても申し上げましょう。」


空気が緩くなった瞬間、エリスが話を戻す。


実はゴードンは、可愛い妹と弟を震え上がらせたことを咎めようとしたのだ。

だが、そうする間もなく、その犯人を窘める上司たるユフィナ。


そして次には怖がる妹アデルと弟ディールを安心させようと言葉を掛けるつもりだった。

それも、エリスが優しい笑みと言葉を投げかけ空気を一掃した。


次いでほんの間も逃さずに話を戻すエリス。

ゴードンは、自分が為すべきだったことを全て先手を打たれたのだ。

完全に会話の主導権は握られてしまっている。


「最大の懸念?それは……。」

「そちらの、可愛らしい妹さんと弟さんのことです。」


やはり、か。

だが、それはどんな条件でも譲れない。

そう思うゴードンであった。


「どんな提案をするか知りませんが、オレ達には親がいません。そして妹も弟もまだ幼い。せめて、妹のアデルが成人を迎えるまでは、オレが面倒を見る必要があります。」


毅然として伝える。

何がなんでも、妹と弟を守りぬく。

その信念は、誰にも譲れない。


しかし、目の前の二人の公爵令嬢はそれも想定済みであったのだろう。

頷き、エリスが答える。


「存じております。この場にあなた達の御両親がいらっしゃらない時点で、予測していました。」


続いてユフィナが答える。


「ゴードン、あなたは【剣聖】という、世界の至宝の一つになったの。そんなあなたに己を磨き、強くなってもらうために、私やエリス、それにこの場には居ないけどソリドール公爵家もガルランド公爵家も貴方の不安や悩みを、責任を持って対処するわ。」


ゴクリ、と唾を飲み込むゴードン。

全員が沈黙する中、ユフィナの言葉だけが響く。


「その一つとして、ガルランド公爵国の同盟国であるラーグ公爵国の次代筆頭こと私、ユフィナ・フォン・ラーグが貴方の妹と弟の保護について支援します。」

「同じく、私ことバルバトーズ公爵国次代筆頭エリス・フォン・バルバトーズもその名と責任において支援いたします。」


同盟国の公爵令嬢による、とてつもない宣言。

【剣聖】獲得のために、そこまでするのか……と。


「ちなみに、この書状がここガルランド公爵国の現国王であり、連合軍十二将”主席”でもあるレオン・フォン・ガルランド様からの勅命状です」


エリスが、右手の中指にはめた指輪を輝かせた。

その光の中から、一つの筒が取り出された。


異空間が広がり、時間停止・多量貯蔵を可能にさせたマジックアイテム『異空間収納バッグ』シリーズの中でも膨大な貯蔵量を誇る【アーカイブリング】であった。

価値にして、スタビア村の年間予算のおよそ100年分。

準国宝級のマジックアイテムである。


エリスは取り出した筒から一枚の書状を出し、それを村長とゴードンに差し出した。


◼️◼️◼️


ラーグ公爵嬢ユフィナと、バルバトーズ公爵嬢エリスの両名を、我が敬愛する民が一人、ゴードン・スカイハートの連合軍兵役関する全ての支援と保護について一任する。両名と剣聖が下した決定に、敬愛するスタビア村の長並びに村の民一同は、遺憾なく尊重するようされたし。


ガルランド公爵国第18代国王

レオン・フォン・ガルランド


◼️◼️◼️


アーカイブリングですら腰を抜かすほど驚いた村長であったが、まさか尊敬しやまない公爵国王からの勅命書を賜るなど!

涙を流しながら歓喜に打ち震えていた。


「あと、もう一つ。ソリドール公爵令嬢からの書状も預かっています。」


エリスは再度指輪の中から、書状の入った筒を取り出した。


四大公爵国の一つ ”ソリドール公爵国”


伝承で伝え聞く”5大英雄”

そのリーダーであり、世界で最も有名な英雄「聖王ラグレス・ソリドール」が建国した四大公爵国の筆頭国家。

それがソリドール公爵国である。


また、四大公爵国を跨り繋がる連合軍。

そのトップである”連合軍総統”は、歴代このソリドール公爵国王が担うのであった。


それほど優秀かつ有力な一族である。


「ってことは、四大公爵国の現在と次代のトップ達が、オレを認め、欲しているわけか……。」


あまりの大物達からの推薦と支援を確約する事実。

自分が連合軍に入るために懸念材料となるだろう、村の労働力と戦力は「ある程度カバーできる」どころか、過剰投入と言っても過言でない逸材の派遣で解消。


どちらも自分を獲得したいという目的のため。

そこまでするのか!?

この事実が嬉しくないわけがない。


「そういうことです。さぁ、こちらもご覧ください。」


エリスは、ソリドール公爵令嬢マリィ・フォン・ソリドールの書状を筒から取り出し、広げた。


直後、硬直した。



「??」


村長側も、後ろに控える騎士団も、頭にクエスチョンマークを浮かべる。


ただ、一人。

ユフィナだけ「あいつ…またやらかした!?」と呟いた。



書状を広げながら硬直しているエリス。

次第にプルプルと震え、顔を真っ赤にさせて叫ぶ。


「あの阿呆は!!!書状の一つも真面目に書けないのかーーー!!?」


相変わらず両眼を閉じているが、温和なエリスの叫び。


村に訪れてから一貫して、温和な笑みを浮かべ終始穏やかな口調でゆったりと語る、まさに絵に描いたような御令嬢エリス。

ずっと両眼を閉じたままというミステリアスな雰囲気も相まって、神秘ささえ伺える麗しい少女。


そんな彼女の、まさかの激高に全員ギョッとなる。


「ちょちょちょちょい待ち、エリス!マリィは何を書いたの!?」


大慌てでエリスから書状を奪うユフィナ。

そして、そのユフィナも書状に目をした瞬間、硬直した。


「あのー、ソリドール公爵令嬢閣下はなんと…。」


恐る恐る尋ねる村長。

目から色彩を無くし、引きつった表情のユフィナが、書状を机に広げた。


村長、ゴードン、文官、司祭、それに騎士団の面々、また話に付いてこれず仲間外れが嫌になったディールとアデルも隙間から覗いた。



その書状には、たった一文のみ載せられていた。



◼️◼️◼️


めんどい。ユフィナとエリスに任せる。以上。


マリィ


◼️◼️◼️



「あ、これはなんてかいてあるかわかるよ!」


ずっと難しい話を聞いて飽きていたディール。


怖いおじさん(副団長)や綺麗なお姉さんのやり取り。

何か立派な紙を掲げて涙を流す村長。

何か嬉しくて叫びたいけど我慢している自慢の兄。

そして天使さん(ディールからエリスはそう見えた)をすっごく怒らせた、この紙。


きっとすごく悪い事が書いてあるのだろう!?

そう思い覗きこんだディール。


何てことない、8歳の自分でも簡単に理解できる内容であった。


「えっと、【めんどい。ユフィナとエ「待ったディール。それ読み上げちゃダメなやつだ」



兄や姉に、止められてしまった。

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