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第26話 Bランク

ハンターの試験が終了し、いよいよハンター証の交付式へとなった。


受講者9名中失格者2名以外の7名が、ハンターギルドのロビー奥の部屋へと通され、そこで交付を受けるのであった。


「ふむ、今回は7人が新たなハンターとなったか。」


ディールとユウネ、そして他の5名が並ぶ列の前に立つ、白い髭を蓄えた老人が呟いた。


「支部長、交付をお願いします。」


メアが白鬚の老人…ハンターギルド・ラーカル支部長であるガライオンに告げた。


(おい…ここの支部長って…)

(まさか、Sランクの“大盾”ガライオンかよ…)


ヒソヒソと受講者が囁く。

支部長も高名なハンターであった。


「うむ。まず、8番と9番。ディール君とユウネ君、前へ。」


ガライオンに告げられ、ディールとユウネが前へ出る。


「君たちはここ、ラーカル支部創立以来初となるBランク交付者となる。その才能、その技量、決して人の道を外すことのないよう、上を目指して精進しなさい。」


そう言い、ガライオンはまず、ディールに、続けてユウネにハンター証を渡した。

銀色のハンター証には、それぞれの名前と交付したラーカル支部の名が記されていた。

それを見つめる二人に、ガライオンが静かに耳打ちした。


(…後で支部長室へ来なさい。君たちに話すことがある。)


ディールとユウネは驚いたが、ガライオンが放つ気配を察し、静かに頷くのであった。


「さて、あとの5人は全員“G”だな。」


そう言い、残りの5人に白色のハンター証を渡した。


「これで交付式を終える。ランクに格差はあるが、それはいずれ覆るものと思いなさい。日々鍛錬し、実力を付け、様々な依頼や討伐を繰り返し、実績と信頼を得なさい。然らば自ずと格とランクは上がる。以上。」


ガライオンはそれだけ言い、部屋から出た。


ーーーー


「これで私たちもハンターだね!」


銀色に輝くハンター証を掲げ、嬉しそうに言うユウネ。

しかし、ディールの表情は険しい。


「ディール?」

「…今朝も話したが、ランクが目的でなく、ハンター証を得ることが目的だった。それが二人していきなりBランクとは…まずい気がする…」


そう、今この時点で名を挙げることはディールにとってデメリットしか感じられないのだ。

ユウネとホムラを掛けた勝敗が絡んだため、それなりに力を見せたが、この結果は喜ばしくない。


「うーん、でも私は嬉しかったな。」


顔を赤らめ、おどけるように言うユウネ。

自分を、他の男の手に渡ることを阻止してくれたのだ。

それも圧勝という形で。

これが嬉しくないわけがない。


ユウネの言葉に顔を赤くして、頭を掻きながらディールは舌打ちをしながら言う。


「まぁ、過ぎたことは仕方がない。オレとしてもユウネもホムラも手放す事はあり得なかったし、結果的に良かったと思うよ。」

「本当、ありがとね、ディール。」


そんな二人の背後から、


「おい、バカップル!」


と声を掛けるのはメアであった。


「メ、メア試験官!」


顔を真っ赤にしてユウネが言う。


「オレ達は決して恋人同士ではないからな!」

「そうなのか?まぁいい。支部長がお呼びだ。付いてこい。」


交付式に囁かれた「支部長室へ来なさい」であった。


メアの後ろに付いていくと、立派な扉の前に着いた。

メアがノックすると「入りなさい」と中からガライオンの声がした。


「ここから先はお前たち二人で行け。私はここで待つ。」


メアはそう言い、扉を開けた。

ディールとユウネは促されるまま中に入る。


----


「すまんな、わざわざ来てもらって。」


ガライオンは満面の笑みで二人を迎えた。


「支部長、要件は何か?」


ディールが怪訝な表情で尋ねる。


「まあ、そんな警戒しなさんな。そこのソファに座りなさい。今、美味しい紅茶を淹れよう。」


笑顔で言い、ガライオンは紅茶を用意する。

仕方なくソファに座る二人。

ガライオンは紅茶を二人に差し出し、対面のソファに腰を掛ける。


「まずはハンター就任おめでとう。そして、Bランク認定という快挙、併せて祝福しよう。」

「…ありがとうございます。」


紅茶を啜り、憮然とディールが返す。


「ふむ。やはり、高ランクが目的ではないか、二人とも。」


ニヤリと笑い、ガライオンが言う。


「どうしてそう思う?」

「あの領主の小僧がチャチャを入れなければ、そこそこ手を抜いてハンター証だけ貰おうって寸法だっただろ?あの単細胞娘は誤魔化せても、儂はそうはいかん。」


くくく、と笑いながら紅茶を啜るガライオン。


「…だとしたら何だ。ハンター証をはく奪でもするか?」


睨みながら呟くディール。


「いやいや。一度交付したものは撤回できん。それはお主らの実力で掴み取った証である。」

「じゃあ何の用で呼んだ?オレもユウネもこの後の予定があるんだが…」

「お主、スカイハートの者だろ?」


まさかの発言に、ディールは硬直する。


「ふむ、正解か。」

「…だとしたら、何だ?」


あくまで冷静に、震えそうになる身体を諫めてディールが尋ねる。


「いや何。儂の友人であるお主の兄…ゴードンから聞いていた人となりと一致してなぁ。まさかスタビアから離れたここラーカルに訪れてハンター証を得るなんて夢にも思ってなかったからな。」


いたずらが成功した子供のように笑うガライオン。


「ふむ。お主の事情や背景を聞くつもりはない。ただ、君のお兄さんの現状とそれを聞いた後の君の身の振り方に興味があってな。」

「兄さんの…現状?」


ニヤリとしながら、ディールの目を見据える。


「お主の兄、【剣聖】ゴードンは今や連合軍の十二将だ。」


初耳である。まさか、軍団長からさらに昇進し、12人の将軍【十二将】に名を連ねるとは!!


「そ、それは本当か!?」


身を乗り出して叫ぶディール。


「ああ。つい先日決定したことだ。お主も知っているだろう。今、連合軍は帝国と戦火真っ最中である。その前線に立たされる十二将も死亡や脱落があってな。順当で、お主の兄が先日将軍となった。確か”第5席”だと聞いた。」


兄が、憧れの連合軍の最高戦力である“十二将”に名を連ねる日が来るとは…。

嬉しさのあまり震えるディール。


だが、ガライオンの目は悲しみを帯びた。


「お主の喜ばしい気持ちはわかるが…それはつまり、前線に立ち、自ら率いる兵を鼓舞する役目を負ったとのことだ。誰よりも、死の危険性が高い。」


その言葉に、唖然とするディール。


よく考えれば分かることだ。

入れ替えの激しい将軍席。

そこに、いよいよ兄が付いたのだ。


即ち”死”が身近である立場であるということを。


「だが、十二将を率いるのは、我らハンターギルドで唯一の“SSSトリプルエス”である“天衣無縫”シエラ様じゃ。あの方の性格を考えると、有能であるお主の兄を犬死させるとは到底思えない。他に、“SS”の“疾風戦姫”マリィ様を始め、4大公爵国の筆頭者が名を連ねる。帝国の『十傑衆』なんぞに遅れは取らぬ。」


それに…とガライオンは続ける。


「何やら、連合軍には恐ろしく強い兵がいるそうだ。十二将の“末席”。本来、主席であるシエラ様をサポートする者らしいが、あまりに逸脱した戦闘力を持っているらしく、逆に戦線から外されているとの噂じゃ。他に理由があるかもしれぬが…。」


そう言い、ディールを再度見るガライオン。


「お主はどうする?このままフォーミッドへ向かい、兄と共に戦火に身を寄せるか、それとも、その娘を庇護し、旅路に付くか。」


ディールとユウネは驚愕する。

一切他人に話したことのない“事情”をこの老人は察したのだ。


「…オレは、ユウネをグレバディス教国へ連れていく。それが約束だから。」


ディールは呟くように、しかし、力強く宣言する。

その言葉に、ガライオンは頷く。


「ふむ。ユウネ君にも事情があると踏んでいたが…グレバディス教国へ、な。」


ガライオンは一枚の紙を取り出し、何かを書きしたためた。


「ディール君、それにユウネ君。君らの旅路の役に立つかわからぬが、これを持っていけ。」


そう言い、書いた紙を丸め、封印をして机に置いた。


「支部長、これは?」

「儂からの紹介状じゃ。Bランクのハンター証があれば、基本どの町でも市でも入れるが、場合によっては拒否されることもあるかもしれぬ。その時、この書状を渡せ。儂が、お主らの身元を保証するものだ。」

「なぜ…こんなものを私たちに?」


ユウネが驚きながら訪ねる。


「お主らの事情は儂には計り知れぬ。ならば、せめて同じハンターの仲間として、友の弟の歩む道を後押しするのは道理というもの。お主らがどんな選択をしようとも、その選択の障害を排除する一助になれば良いと、老婆心ながら思った次第だ。不要なら捨てても構わない。」


紅茶を飲み干しガライオンが笑いながら言う。


「ありがたく頂戴する。助かるよ、ガライオン支部長。」


ディールはガライオンの心意気を読み取り、笑顔で書状を受け取る。


「ありがとうございます!ガライオン支部長!」


ディールと同じように、礼を伝えるユウネ。


「うむ。息災でな、二人とも。」


----


ディールとユウネはハンターギルドを後にし、町中を歩く。


「色々あったが、とりあえず目的は達成した。これから素材屋へ向かうぞ。」


ディールはユウネに言う。

ユウネも笑顔で答える。


「高く売れるといいね、素材!」



しばらく歩き、目的の素材屋にたどり着いた。

ディールとユウネは中に入る。


「らっしゃい。」


新聞を広げ、タバコを加える店主がぶっきらぼうに言う。

店の中は数人のハンターらしき男が、店の品物を見定めていた。


「素材を売りたいんだが。」


ディールは店主に告げる。

店主はギロッと睨み。


「…駆け出しって感じだが…。うちが扱うのは一級品のみだ。ただの素材なら、ハンターギルドへ行くことをお勧めするよ、坊や。」


と吐き捨てるのであった。

ディールは、鼻で「ふん」と息をし、背中のストレージバックから素材を取り出した。

それは魔窟で採取した大き目の魔石5個と、例のミノタウロスの黄金装備の欠片3枚だ。

…例のミノタウロスの魔石とその他の黄金装備の欠片は伏せた。

まずは相場を知る必要があるからだ。


チラリと見た店主は、一瞬の沈黙のあと、ガバッと身を乗り出してその素材を見た。


「あ、あ、あんた…これをどこで!?」

「入手場所を教えるハンターがいるかよ?」


そう言って、ディールは先ほど手にしたハンター証を店主に見せた。


「…Bランク。すまねぇ!まさかあんた等のような若い人がここまでの実力者とは思わなかったからな!」


急に遜る店主。


「それで、この魔石と鉱石、どれほどの値段で引き取る?」

「魔石は…こりゃあ凄え。大きさも質も一流だ。5個で大金貨1枚…金貨10枚でどうだ?」


手を揉みながら店主が尋ねる。


「妥当だな。売った!」

「よし買った!あとこの黄金なんだが…」


店主はミノタウロスの黄金装備の欠片を手に取り、見定める。


「これは…元々何かの装備だったものの欠片じゃないか?」

「ああ、そうだ。たまたまそれを拾ったに過ぎない。」


ディールは、自分で倒し、自分で切り裂いたとは言わない。

説明が面倒臭いからだ。


「お客さん…これ“金剛天鋼”ですぜ!?」


店主は震えながら呟く。


「金剛天鋼?」

「ああ。世界で一番魔力伝導率の良い素材でさぁ。かの”土の龍神様”でしか生み出せないと謂れのある超希少な鉱石だ。こういう商売していても…なかなかお目にかかれない物だ。」


興奮気味に店主が言う。

まさか、あのミノタウロスの装備がそんな希少素材だったとは。


「そうか…。で、これは幾らになる?」


店主はしばらく唸り、そして、告げる。


「この大きさなら1枚で大金貨5枚…つまり、金貨50枚。3枚で金貨150枚だ。」


信じられない高値が付いた。


「即金ならその値で構わない!」


ディールも告げる。


「よし買った!!!」


店主は即座に店の奥に引っ込み、魔石分含め金貨160枚を持ってきた。

さすがにストレージバックに金貨160枚は多すぎなので、100枚分はは大金貨10枚にしてもらった。


「いやあ、お兄さんとお姉さん、本当に素晴らしい素材を提供してくれて助かるわ。ぜひ、今後も贔屓にしてくだせぇな!」


換金が済み、店主が遜りながらディールとユウネに告げる。


「ああ、また手にしたら寄るから、よろしく頼む。」


ディールが答える。


----


「凄いね、一気に金貨160枚なんて…」


歩きながらユウネが呟く。

孤児として協会で過ごしたユウネは金貨すらあまりお目にかかったことがない。

大金貨など、今日、生まれて初めて目にしたのだった。


「これに、あと例の巨大魔石もあるし…凄いなディールは…」

「ユウネ、お前だから伝えておくが…」


ディールがユウネに耳打ちする。


「その、金剛天鋼と言っていた金属片だけど、まだ45枚以上ある。」


その発言に、目を見開き驚くユウネ。


「そ、そ、そんなに!?」

「今日のところは市場価格を把握しただけた。まさか、こんな値で売れるとは思っていなかったが…これで旅の路銀は解決だな。」


笑顔で言うディール。

顔を赤くし、顔を背けながらユウネも答える。


「本当、凄すぎだよ、ディールは…。」



一方。素材屋。


「あのガキ共…まさか金剛天鋼を持ってくるとはなぁ。しかも今日とは運が良い。」


金色に輝く金剛天鋼の欠片を手に、ニヤニヤと笑う店主。


「まぁ、あのガキ共には手頃な値だっただろうし。これを…今日出立のフォーミッドの物流便に乗せりゃあ…元は完全に取れる。早速渡すか。」


決して足元を見たわけでない。

だが、便の少ない物流便の馬車団が、今日ラーカル町から出る。

そんな状況で思わず手に出来た超希少な金属。


「1つで金貨50枚…。安い買い物だ。きっとフォーミッドのお偉いさんが飛びつくぞ。」


大儲けだ!

早速、物流便への物資搬入に忙しく準備をする店主であった。

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