表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/211

第25話 試験終了

「準備はいいか?制限時間は1分だ。よぉい…始めっ!」


5番と6番は各々“最大”の攻撃を銅像に繰り出す。


ユウネは…。

(こんな硬い銅像だから…思い切りやってみよう!)

そう思い、ロッドに魔力をためた。


「ほお。無詠唱か。」


関心するメア。

魔法の発動はいくつか方法がある。


発現させる魔法のイメージを強く持たせるために唱える”詠唱”

魔力と魔素を留めやすくさせる”ロッド”

そして、どんな魔法を発現させるか隠す”無詠唱”


基本的には、ロッドに魔力と魔素を溜め、詠唱して発動させるのが主流である。

それをロッド無しで無詠唱となれば相当の実力者であるか、ただの格好付けか、である。


ユウネは村で貰ったロッドに魔力と魔素を溜めこみ、そして銅像目がけて魔法を放つ。

それは、大木をなぎ倒した『星弾』

詠唱してしまうと、正体不明の魔法だと気付かれてしまうことを危惧し、無詠唱にしたのだ。

これだと多少威力は落ちるが、ロッド経由。相当な威力が見込まれる。


ロッドの先端から放たれる淡い光を放つ石礫のような『星弾』は、真っ直ぐ銅像を目がけて突き進む。

そして、銅像に触れた瞬間。


『ドギャシャアアアアアアアアア!!』


轟音。

メア含め、全員、ユウネとユウネが星弾を放った銅像を見る。


銅像は、胸元がひしゃげ、クレーターのように大きな穴をあけていた。


「うそ…でしょ…」


唖然とし、顎が外れるんじゃないかというくらい口を開くメア。

すると、メアの持っている時計がジリリと告げる。


「1分…そこまで…」


5番と6番も唖然としている。

静寂の中。メアは計測を終える。


「…5番2%。6番9%。お、6番頑張ったな。」


そしていよいよユウネの結果発表だ。


「この試験だが…受講者が出せた数値はこのラーカル支部で最高でも12%だ。それでも、熟練のハンターでも20%にたどり着くまで相当の鍛錬と期間が必要となる。かという私も、1分で40%損傷できるかどうかだ。」


メアが淡々と説明する。


「9番…ユウネ。結果は、69%の損傷だ。」


先ほどの結果も相まって、全員が絶句する。


「詮索はタブーだが…ユウネ、お前は一体何者だ?第3試験をするまでもなく、いきなりランクBを授与してもおかしくない実力だ。」


メアの言葉に、さらに全員が驚愕する。

A~Gまでのハンターランクで、通常、新人はGか、実力があれば一つ上のFからスタートする。

その中でも飛びぬけた実力があれば、その上のEやDからという者も、稀にいる。


それがいきなりのランクBから、という前代未聞の評価。


「え、いや、私は…その…」


慌てふためくユウネ。


「…すまない。詮索は禁物だというのに私としたことが。とりあえず、ユウネは合格だ。第3試験は免除する。下手すると死人が出かねない。」


メアがフッと笑う。

そして振り向き、さてと、と言う。


「いよいよ、お待ちかねのお二人さんの番だ。ユウネが壊したやつ以外で、好きなのを選べ。」

「ククク…あの程度で破壊されるんだ。オレ様はさらに上を目指してやる!」


ユウネの実力を目の当たりにしたというのに、自分に過剰までの自信があるカーマセ。


「おい貴様!オレはこの端のにする!貴様は一番離れている向こう側の端にしろ!」


カーマセは、向かって右端を選択した。


「まぁ、どれ選んでも同じか。」


そう言い、カーマセの言う通りにディールは左端とした。


「よし、準備はいいな?よぉい、始めっ!」


メアの合図と共に、カーマセは全身に電撃を走らせながら、剣を抜いた。


「雷の加護か。それもかなりの上位だな。」


メアは呟く。

実際、カーマセが授かった加護は【雷の王】

【神子】【覇王】よりは劣るが、7属性系で見れば上位の加護である。


「うおらああああああああ!!!!」


カーマセは自分の魔剣の属性“雷”も発動させ、銅像を無数に斬りつける。

強力な剣戟に呼応するように、銅像に傷が出来つつある。


「ほぉ。」


関心するメア。

口も品も悪いカーマセだが、実力は十二分だ。


一方、ディールは…。

腰の赤い剣を抜き、その刀身に指を添え、何かを呟いた。

すると、剣が淡く、赤く、光を放った。


「ん?火属性…にしては、赤く光っているだけだな。あれで傷が付くとは…」


メアは、ユウネほどではなくても脅威の数値を出したディールにしては期待外れな技だな、と評価した。だが、次の瞬間、その考えは霧散した。


『ズバンッ!』


一閃。

銅像を袈裟切りで斬りつけるディール。


世界第2位の強度を誇る金属で出来た銅像は、胸元から斜めにズルッと滑り、ゆっくりと、上半分が地面に倒れ、土埃を巻き上げた。


ホムラの『熱纏』

あの強靭なミノタウロスが纏っていた黄金の装備をも切り裂いた力である。


ディールは「斬れるか?」とホムラに尋ねたところ ―余裕!― と答えが返ってきた。

その言葉通り、余裕で銅像を切り裂いてしまったのだ。


それを見ていた全員、先ほどのユウネのと同様に絶句した。

ただ、ユウネ一人を除いて。


『ジリリ』

「そ、そこまで…」


メアは呟くように時間切れを伝えた。


「はぁはぁ…どう、だ、オレ様のほうが、傷を……!?」


確かに、カーマセの銅像にはユウネを除く他の受講者よりも傷が無数についていた。

一発切り付けたところ、ユウネのような破壊は不可能と察したが、諦めず全力で切り付けた。


当然、ディールより上だろうと確信していた。

そのディールの方を見たら…銅像の上半分が無くなっていたのだ!


「これは、測定するまでもないな。8番、ディールの勝ちだ。」


宣言するメア。


「バカなバカなバカな!こんな硬い金属で出来た銅像だぞ!?ぶった切れるはずがない!」


半狂乱のように叫ぶカーマセ。


「だが、実際私たちの目の前で切り裂いた。9番も大概だが、8番も恐ろしいな。」


メアは心底関心したように、ディールとユウネを褒める。


「ちなみに、この銅像を切り裂いたのはハンターギルド全体で過去に2人だけだ。さっき紹介した“疾風戦姫”マリィ様と、その翌年にハンターになり現在同じく“SS”の“剣聖”ゴードン様だ。」


その言葉にディールは驚愕する。

自分の兄も、この銅像を切り裂いたのだった。


「そういう意味で、8番ディールも将来もの凄いハンターになれる。もちろん、9番ユウネもな。お前たちはパーティーなんだよな?いずれハンター界にその名を轟かすだろう。私が保障するし、そんな二人がハンターになる瞬間に立ち会えた幸運を、女神様に感謝しているよ。」


確実に私より強くなるだろう-そう思うメアであった。


だが、それが面白くない人物が1名。


「信じられるかこんな結果!オレ様は天才なんだぞ!?それをこんな田舎者が!?」


半狂乱で喚き散らすカーマセ。


「…まぁ、お前はその性格さえ何とかなればハンターとして大成するかもしれないが、な。」


メアは呆れて言う。


「メア試験官!次の試験に勝った方が真の勝者だ!次の試験は…」

「いや、8番と9番は免除だ。二人には私の責任においてBランクを授与する。むしろ、3番目の試験は危険すぎるから、この二人は参加させたくない。」

「危険…ですと!?」


目を見開き叫ぶカーマセ。


「3番目、最後の試験は実践形式だ。受講者同士、もしくはこの私相手に実践する。当然獲物は木刀だが、加護や能力次第で相手を死なせる可能性がある。だから、2番目までの試験結果で、試験官権限で参加させずにハンター証を授与することが出来る。」


メアの言葉にカーマセは青ざめる。


「では…勝負は…」

「お前の負けだ。完膚なきまでにな。あとでこいつらがいつ出発するか聞いておけ。いくら領主とはいえ、馬車を用意するのは簡単な話ではないからな。」


それとな、とメアが続ける。


「この約束を反故にすることは私が許さない。もちろん、この二人を町中で襲撃することもだ。この試験を利用して勝敗を決するという個人的なことに付き合ったんだ。お前らだけの口約束ではもう済まされない。確実に履行しろ。もし、約束を違えるなら…」


メアは目にも止まらぬ速さで背中の大剣を抜いた。


「私や“善良なハンター”が地獄の底まで、貴様を追いやる。領主だなんだは関係ない。ちなみに私は“やる”と言ったら、絶対“やる”。」


背丈ほどある巨大な大剣を軽々と片手で振り回し、背中の鞘にスルッと収めて宣言する。

顔を真っ青にさせ、カーマセは尻もちを付く。


だが、彼のプライドがそれを認めない。

震えながら立ち上がり、叫ぶ。


「いや!勝負はまだ決していない!メア試験官!危険だなんだ関係ない!こいつとオレ様、直接勝負をさせてください!そこで勝敗を決する!異論はないな、貴様も!」


言っていることは無茶苦茶だ。

青筋を立てて「いい加減に…」と怒鳴ろうとしたメアを、スッとディールが手を出して制する。


「そこまで言うなら、勝負してやろう。」


ディールが言う。


「そうだ!そうでなければ馬車は…」


先ほどのメアの宣言を聞いていなかったのか、何か言いかけたが。


「ただし、馬車は用意してもらう。それが条件だ。」


先にディールが制した。


「クッ…それでは勝負は成り立たないが…」

「あるだろ?この剣と、ユウネが。」


そう、仮にカーマセが勝てば、ホムラとユウネがカーマセのものになるという、もう一つの条件。

「は…??? くくく…はははは!!撤回はできないぞ!?」


カーマセは先ほどのやり取りが嘘のように、傲慢に笑う。


「ディール…!」

―ちょっと、ディール!?―


心配そうにユウネとホムラが言う。

ディールは少しほほ笑み、


「大丈夫だ。オレを信じろ。」


と言った。

その言葉に、ユウネもホムラも、

「もちろん!」―もちろん!―


と答えるのであった。


----


「お前らの我儘に私だけじゃなく、他の受講者も付き合うんだ。さっさとやってさっさと終わらせろ。」


心底うんざりしてメアが吐き捨てる。

ディールとカーマセはそれぞれ木刀を握り、互いに睨み合う。


いよいよ最後の勝負。

それぞれ持つ能力は制限なく使っても良し。

相手に降参を宣言させるか、戦闘不能に陥らせたら勝ち。


「もし、命が危ないと思ったら私が介入する。その時は…そうだな、お前らと9番ユウネ以外の受講者にジャッジしてもらうか。」


メアがそう言い、にらみ合う二人の間から離れ、振り向き、叫ぶ。


「はじめっ!!!」


その言葉と同時にカーマセは全身に雷を迸らせ、一瞬でディールに肉薄する!


「もらっったあ!!!」


木刀とはいえ、雷の魔力を纏わせた一撃。

触れれば感電し、良くて行動不能、悪くて卒倒、最悪は死である。


カーマセは“死んでも構わない。むしろ、殺す”という勢いでディールに斬りかかるのであった。


だが、ディールは冷静に、カーマセの動きを見る。


「…遅すぎる。」


大河に流され、魔窟で屈強な魔物に襲われた日々。

あの凶悪な魔物と比べると、カーマセの動きは欠伸が出るほど緩慢なものだ。


そういえば、ユウネの村を襲ってきた盗賊たちも動きが鈍かった。


…自分が速さに慣れたのか、どうか。


ディールは木刀を振りぬき、カーマセの手首を狙う。

狙い通り、カーマセの手首に剣を当て、木刀を弾く。


「がっ!」


驚きと痛み。

それが同時に訪れた次の瞬間、目の前のディールが消えるように見えた。


「消えた!?」

と脳が反応する前に、カーマセは足に痛みを感じ、盛大に尻もちを付くよう倒れる。

消えたように見えたディールは、カーマセの手から武器を弾いた瞬間に身を屈め、カーマセを足払いして倒したのだ。


そして、倒れるカーマセの目に映るのは、信じられない速度で斬りつけようとするディールの姿。


その動き。

その殺気。

その気迫。


走馬灯のように脳裏に浮かぶ、ギルドに付いてからの彼らに投げかけた暴言と傲慢の数々。

自分は、手を出してはならない男の逆鱗に触れたのだ、そう理解した。

許しを乞おうとしても、口が動かない。目には涙が浮かぶ。


ああ、自分は、ここで、死ぬ。


この動き、殺気、気迫。

それに合わせるような凶刃。

いくら木刀とはいえ、先ほど、あの強固な銅像を一閃で切り裂く技量を持つ剣士の一撃。

自分の首を断つのは造作でもないはずだ。


口から泡を吐き、股間から暖かい液体が漏れる。

ああ、死ぬ!死ぬ!死ぬ!!


この間、わずかゼロコンマ数秒。


静寂。

ディールの剣戟は、カーマセの首のわずか数ミリのところで止まった。


ガクガクと震え、股間は放尿で濡れ、大きく開かれた目と口からは涙と涎が垂れ滴る。

もはや、男としても貴族としても威厳は皆無。

完全に心を折られ、屈する哀れな負け犬が、そこにいるだけだった。


「勝負あり!8番ディールの圧勝だ!」


メアは宣言する。

そう、最初の試験から最後の試験まで、ディールの圧勝であった。

固唾を飲んで見守っていた他の受講者も一斉に歓声を上げる。


「すっげええええ!!カーマセの動きも凄かったけど、ディールの動きは別次元だった!」

「こんなとんでもない化け物がこの世にいるのかよ!!」

「能力も高く銅像もぶった切るだけじゃなく、剣技も半端いないってどんなチート野郎だよ!!」

「か、勝てる気がしねぇ…。オレ男だけど…惚れそうだ…」

「素敵…」

「素敵…」


様々な声が上がる中「ディール!!」と叫び、ユウネが走ってディールのもとに。

そして。


「!!ユウネっ!?」


ユウネはディールに飛びついた。


「凄い凄い!!本当にディールって凄い!」


満面の笑みで子供のようにはしゃぐユウネ。

だが、次には自分が何をしているか気が付き…


「あ!ごごごごゴメン!!!」


顔を真っ赤にしてディールから離れるのであった。


「いや…。ユウネ、心配かけて悪かったな。何とかなったよ。」


ディールも照れながら答えるのだった。


「い、いいなぁ…。あんな可愛い彼女がいて…。」

「あいつ、すっげーイケメンだけじゃなくて実力も半端ないからな…」

「いいなぁ…ユウネさん。」


周囲が羨望の眼差しで見守る。

その空気を一掃するように、メアが『パンパン』と手を叩いた。


「さて!茶番はここまでだよ。最後の試験を始める。とりあえず8番ディールと9番ユウネは見学ね。お前らはさっき言ったとおり、Bランクだ。あと、そこのクズ。」


メアは蔑むようにカーマセを睨む。


「お前は失格だ。言動も態度もだが、ハンターとしての気概がない。引くべき事は引く。その引際を見極められない奴は早死にするだけだ。残念だが、今日のところはハンター証を渡せない。姉貴のしごきでも受けてちゃちゃっと更生するんだな。」


目を見開き、半分気を失うカーマセを蹴り上げ、他の受講者へ振り向く。



「さあ!最後の試験をはじめるよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ