第24話 明らかになる実力
部屋から出て数分。
試験会場へ着いた。
そこは屋内だが100m四方はある広いグラウンド。
ちょうど中心に人型の銅像が4体並び、入り口に一つ、台座に置かれた水晶がある。
「ここが試験会場だ。お前たちにはこれから3つの試験を受けてもらう。」
メアが宣言する。
「最初の試験は、この水晶を使う。」
そう言って、台座の水晶に手を触れた。
すると水晶が赤く光りだした。
「こいつは各ギルドにある魔道具の一つ、魔法計だ。自分の魔力と、大気中にある魔素を混ぜることで魔法が発動するが、こいつはステータスプレートに表示されない、その魔力と魔素の “練る力” を計るものだ。魔法力が高くても、魔力と魔素を上手く練れなければ魔法の発動は弱くなる。逆に、どんなに魔法力が乏しくても、練る力が強ければ、最小の魔力と魔法力でもより強力な魔法を発動することが出来る。」
そう説明するメア。
それに対し、一人の受講者の男が手を挙げた。
「メア試験官、それがハンターと何か関係あるのでしょうか……」
「お前は察しの悪い奴だな。」
その質問に、うんざりしながらメアが呟く。
「す、すみません!」
「いいか、魔力と魔素の練る力が高いと、それだけ威力の高い魔法を素早く発動できたり、魔剣の力をより高く引き出せたりするんだ。即ち、それがそのまま、そいつの戦闘力……つまり実力ってわけだ。」
「あ、あの……」
今度は別の女が手を挙げる。
「私、魔法力が全然低いゴテゴテの剣士タイプなんですが、不利じゃないでしょうか?」
その質問に、ハァ、とため息をつくメア。
「お前も察しが悪いな。察しが悪い奴はハンターに向かないぞ?」
そんな辛辣なメアの言葉に「すみません……」と伏せる女。
「いいか。魔法力が高い・低いじゃないんだ。練る力……引き出す力と言っても差支えがない。どんなに魔法力が低くても、魔剣を握れば、魔剣の力を使うだろ? それを引き出す力になるんだ。伝説級の魔剣だろうと、この力が低ければ、そこらへんの武器屋の粗悪品にすら負けることがある。」
なるほど、と呟く、もう一人の受講者の女。
「もちろん、この力は技術に他ならない。鍛錬でいくらでも鍛えることも出来る。さて他に質問は? 無ければ早速、受講番号1番から始める!」
まず、番号1番と呼ばれた男が、水晶に手を置く。
すると、淡く水色に光りだした。
「ほぉ、中々才能があるな。数値は……320か。」
メアは関心して言う。
「ちなみにこの数値は、ステータスと同様、100が一般人の平均と言われている。そういう意味ではこいつは一般人の3倍ってことだ!」
メアの言葉に照れくさそうにする1番の男。
「よし、次!」
次は、先ほど質問した女。
女が同じように水晶に手を置くと、今度は黄色に光りだした。
「うん、お前もなかなかだな! 数値は、480!」
先ほどよりもずっと高い数値。
ヨシッ! と嬉しそうにする2番の女。
少し悔しそうな1番の男。
こうして順番は進み、いよいよ7番カーマセの番だ。
「見ていろ愚民ども。オレ様の才能を!」
そう言って水晶に触れる。
すると、強い黄色い光が漏れ始める!
「ほほお! 大口叩くだけあって素晴らしいじゃないか! 数値は、1,820!ラーカル支部での試験記録更新だな。」
メアが関心して言う。
「ははははは! さすがオレ様だ。勝負あったな、ディールとやら!」
見下したように笑うカーマセ。
「記録更新って、こりゃあ勝負あったな。」
「あーぁ。あいつバカだなぁ……今日来なければ剣も女も失わずに済んだのに。」
他の受講者が同情したようにディールを見る。
「さて、諦めるか? 結果はまだわからんぞ。8番!」
そう、次はディールの番だ。
ゴクリ、と唾を飲み込むディール。
【加護無し】で、自身のステータスがどうなっているか全く分からない。
魔法は一切使えず、魔力も魔素も良く分からない。
だが、ここで結果が振るわなくても、あと2つある。
まだ、負けるとは決まっていない!
ちらりとユウネを見る。
ユウネは両手を胸元で握り、ジッとディールを見る。
“ディールなら大丈夫”
と、目が訴えている。
ディールは軽く頷き、意を決して水晶に触れる。
「なんだと!?」
ディールが水晶に触れた瞬間、水晶は割れんばかりの赤い光を放ち始めた!
あまりの光に、カーマセ他受講生だけでなく、メアも驚愕する。
「おいおい、本当かよ……。お前、何者だ? こんな数値、見たことがない。」
水晶に表示される数値を見て、メアが呟く。
「メア試験官! 一体どんな数値が…」
カーマセが青ざめて尋ねる。
「25,890……」
「は?」
「だから、2万5千890だと言っている。」
全員、息を飲んだ。
当のディールも驚き呆然としているが、ただ一人だけ、ユウネはニコニコとほほ笑んでいる。
―当然よね! それくらい無くちゃ、私を握る資格なんて無いんだからっ!―
そして、ホムラも嬉しそうに叫ぶ。
もちろん、ディールとユウネにしかその声は聞こえていないが。
「ば、ば、ばかな! そんなのあり得ない!! その水晶が壊れているか、イカサマだ!」
カーマセが顔を真っ青にして叫ぶ。
その言葉に、ギロリとメアが睨む。
カーマセはビクッとして黙る。
「お前、ギルドが誇る魔道具にいちゃもん付けるのか? それにイカサマだぁ? 神が許しても、私がそんなこと許すはずないだろ?」
メアが水晶に触れる。
先ほどと同じく、赤い光が輝く。
「ふむ。私は先ほどと同じく5,590だ。壊れている可能性はゼロだな。」
「な! ばか、な……」
震えるカーマセ。
ホッと胸をなで下ろすディール。
しかし、魔法要素ゼロだった自分にそんな力が…いや、これはまさか。
(ホムラの力か?)
ホムラに尋ねる。
―いやー、私は何もしていないし、もともとのディールの力でしょ!―
能天気に答えるホムラ。
益々混乱するディール。
―そこのガタイの良い姉ちゃんが言っていたとおり、魔力と魔素の練る力? は数値に関係ないんでしょ? そういう力がもともとディールに備わっていたってことよ!―
そうか……?
何か釈然としないが、無理矢理納得するディールであった
「さて、最後は……9番、お前だ。」
最後、ユウネの番である。
ディールが見事勝負に勝ってくれたおかげで、自分は安心して水晶に触れる。
ユウネが水晶に触る。
今まで見たことのない、様々な色がと混ざり合いながら力強い光が放たれるのであった。
その強い力に、全員身を屈め、顔を伏せる。
「な、なんだぁ!?」
すると、“ピシッ!” という鈍い音がした。
「キャア!!」
その音に驚き、思わず手を放すユウネ。
光は収まり、あたりは静寂に包まれた。
「……なによ、これ。」
ひび割れた水晶にも驚いたが、先ほど光を放ちながら水晶が示した数値に、メアは驚愕した。
そのまま、メアは割れた水晶に手を触れ、先ほどと同じく自分の数値を見た。
「メア試験官?」
「割れていても、数値は正常。水晶は無事だし問題ない、と。すると、さっきの数値は間違いではない、か…」
一人でブツブツ呟くメア。
「いった、どんな数値だったのですか!?」
イラ付きながらカーマセが叫ぶ。
「96,720だ。」
そのメアの言葉に、全員、絶句した。
「9万6千……!?」
「前代未聞だな。私が知っている中で最高数値は“SS”のハンターで現在連合軍十二将第1席である“疾風戦姫”マリィ様、4万7千だ。その倍以上って…どんだけだよ。」
呆れ顔で言うメアだが、それ以上に驚くのが当のユウネだ。
「うそでしょ……」
「水晶は嘘は言わない。この数値はシビアで厳密そのものだ。ま、それがお前の実力ってことだ。次の試験も楽しみだな。」
笑って答えるメア。
だが、その心中は穏やかでない。
(数値もだが、さっきの光はなんだ?見たことがない。こいつの属性はなんだ?)
そう、水晶はただ光っているだけでない。
光の色でその者の『最も得意とする』属性が図れるのだ。
赤は火、青は水、と決まっている。だが、ユウネが発した光は、計り知れない。
(ま、私が関与することじゃないな。)
もともと考えることが苦手なメア。
特段報告とか必要ないだろうと、自己完結した。
「凄いな、ユウネ!」
結果に、嬉しそうに話しかけるディール。
「ディ、ディールだって……。凄いし、勝負に勝っちゃうし。」
顔を赤らめて答えるユウネ。
ディールも恥ずかしそうに頭を掻きながら顔を背ける。
「く……。いいなぁ、あのカップル。」
「とんでもない化け物カップルってことか」
「あのドラ息子がすげぇ数値出して、あ、こりゃダメだ、って思ったけど……まさに噛ませ犬だったな。」
「カーマセ、だけにな!」
他の受講者もヒソヒソと、二人を称えつつ、カーマセを笑う。
それが気にくわないカーマセ。
「良い気になるなよ! まだ試験は二つもある!! メア試験官! 次はなんですか!?」
「ククク。次は、あれを使う。」
そう言って、メアはグラウンドの中心の銅像を指さした。
全員でその近くへ行く。
銅像は2mくらいの大きさで、焦げ茶色の金属で出来ていた。
「これは、世界で2番目に硬い“グランツ鋼”で出来ている。魔力伝導率が極めて低く、ただただ硬いだけの金属だが、こうした試験にはうってつけの代物ってわけさ。2番目の試験は、どんな方法でもいいから、こいつに傷をつけることだ。」
説明するメア。
それに手を挙げて質問するカーマセ。
「ちょっと待ってください。それじゃ、オレ様……私たちの勝敗はどのように?」
「あ? 純粋に傷の多い方が勝ちだ。お前らのバカ共のために、ギルドはこんなあり難い魔道具を用意している。」
そう言って、銅像の脇に置いてある黒い箱を取り上げた。
「こいつは登録している金属の損傷率を計る魔道具だ。グランツ鋼は、緩いながらも傷くらいなら自己修復する金属だから、最初にどのくらい傷がついているか調べて、あと、受講者がどのくらい傷つけられたか計れば一発で分かる。ちょっと待っていろ。」
メアは慣れた手つきで一つ一つの銅像を調べる。
「うん、最近試験やってなかったからな。全部損傷率は0%だ。思う存分やってくれ。もちろん破壊しても構わない。予備もあるしな。まぁ、破壊出来たらの話だが。」
まず、ディールとカーマセの勝負に関係ない、7人からやることとなった。
その後、二人が同時にこの銅像に傷を付けるということで話が決まった。
最初の4人。番号1~4番だ。
「制限時間は1分。よぉい…始めっ!」
各々、剣や魔法を銅像にぶつける。甲高い剣戟の音や魔法音が響く。
「そこまで!!」
メアの掛け声で、全員攻撃をやめる。
銅像はというと…
「ぜ、ぜ、全然傷が付いていない…」
4人とも唖然とした。
世界2番目の硬さというのは伊達でない。
傷らしい傷が全然付いていないのだ。
「計測が終了した。1番2%。2番5%。3番1%以下。4番3%」
まさかの一桁台。
それどころか、3番の女に至っては…
「1%以下って…」
2番と一緒にハンター証を取りにきた女だ。
「ああ。こいつは1%以下は測定できないんだ。だから、以下。残念だったな。」
メアが笑いながら答える。
「ちなみに、以下が出た奴にはハンター証は交付されない。残念だがまた挑戦してくれ。」
その言葉に、3番目の女はがっくり項垂れた。
2番目の女が慰める。
「また挑戦しよう!私、待っているから!」女の友情である。
「さて、このまま数値は登録したから続けてやれるぞ。5番と6番、あと9番、用意しろ。」
次は、ユウネの番である。