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第21話 ラーカル町

魔物や盗賊の襲撃はなく、穏やかな夜を過ごすことが出来た爽やかな朝。


ディールとユウネが寝静まる前、ラーカル町からレメネーテ村への商人の一団が訪れ、同じく野宿ポイントで晩を過ごした。


ディールとユウネ、成人したての若い二人組というメンバーに一行は多少驚いたが、何よりも夜間、見張りも立てず二人共寝静まったのはさらに驚いた。


本来、交代で見張りを立てるのが常識だ。


寝静まった後、魔物や盗賊、または運悪くポイントで一緒になった商人やハンターの一団が出来心で襲ってくる可能性もある。

たまたま今商人の一団は良心的であり、ディールとユウネがまだ成人したてのような若者であったため “万が一、魔物や盗賊の襲撃があれば起こしてやろう” とも思われたのも要因の一つ。


本来、例え一宿一飯の恩があったとしてもそこまでやる義理など無い。


“自分や仲間の命は、自分達で守る”


それが、この世界の鉄則だ。



----



「よぉ、あんたら!運が良かったな!」


近くの河原で顔を洗うディールとユウネに声を掛ける商人一団の傭兵の男が声を掛けてきた。


「お前ら、見張りも立てずグッスリなんだからなー。たまたま居合わせたのがオレ達で、わずか一晩で付くレメネーテ村への道中だったから次いでに見張ってやったけど、そんな虫のいい話は無いからなー。」


別の傭兵も同じように顔を洗いながら言ってくる。


「ああ、心遣い感謝するよ。だが、心配は無用だ。」


そう言ってタオルで顔を拭くディール。

怪訝な顔をする傭兵の男。


「ん? なんか良い技能持ちか?」

「まあ、そんなところだ。もし異変があればすぐわかる。」


そう言って、ディールは軽くホムラに触れた。

感心したように、別の男が言う。


「お前さん、もしや上位の “探知” 持っているのか? 寝ていても気付けるレベルっていうと、それ以外考えられない。」


固有技能“探知”。

気配や魔力の流れ、また索敵にも使える万能系の技能。

加護によって所持できる者は限りなく少ないが、固有技能の中でも訓練や修行によって後天的に取得できる技能の一つである。


傭兵やハンターなら、仲間に一人は欲しい技能でもある。


「ああ、そんなところだ。」


さすがにホムラの事を説明する気は起きないので、そう答えた。

特段、当たり障りのない会話程度のつもりだった傭兵の男であったが、顔を拭いていたタオルを落としそうになった。


「本当ならすげぇな! 見たところ成人したてって感じだけど、ラーカル町に言ったらハンターギルドでハンター登録するんだろ?」


慌ててタオルを掴み、少し興奮気味に言った。

別の男も続く。


「“探知” 持ちなら、多少ランクが低くても引く手数多だ。どうだ、登録したらオレ達とパーティー組まないか? もちろん、そこの嬢ちゃんも一緒に!」


いきなり話を振られ、ビクッとするユウネ。


「ああ、ハンター登録はするつもりだけど、オレ達は北を目指して旅をしているんだ。有り難い申し出だけど……。」


笑顔で、やんわりと断るディール。

その言葉に心底残念そうにする傭兵の男。

本心からの勧誘だったのだ。


「そうか残念だな…。しかし北かぁ……。」


傭兵の男と別の男、それにディールとユウネは一緒に広場へ向けて歩く。


「何かあるのか?」

「いや、知っているだろ? 連合軍と帝国との戦争。酷ぇもんだって話だぜ?」


四大公爵国の連合軍と、ソエリス帝国との戦争。

ここ2年くらいで激化し物流や交通に影響が出ているのだ。


その戦火には、兄ゴードンも駆り出されているのだろう…。


静かに頷くディール。


「ここは相当南の方だからそこまで影響は無いが、直接の戦争地であるソリドール公爵国やバルバトーズ公爵国は、この前の大規模な衝突でいくつも町や村が滅び、難民が出ているって話だ。戦線は一進一退だそうだが、どうなることやらね……。」


心底うんざりして傭兵の男がぼやく。


「ま、それでも北を目指すってなら止めやしないが、せめてしっかり準備して、上手く馬車便を頼ることだな。こんなベッピンな彼女と一緒なんだろ? しっかり守ってやらないとな!」


別の男が笑いながら言う。

その言葉で顔を真っ赤にさせるユウネ。


「あ、あぁ…」


ディールも動揺して答える。


「かーー! いいね、若いって!」


傭兵の男がさらに茶化す。すると、


「お前たち! いつまで遊んでいる!? 日が暮れる前にレメネーテ村に行かにゃならんぞ!」


広場から、商人の怒鳴り声が聞こえた。


「おっと、やべぇ! じゃあな、お前さん達!縁があったらまた会おう!」

「彼女、大事によ~。」


そう言って走って二人は商人の下へ行った。



「……。」


気まずい二人。


―ちょっと!このホムラ様を差し置いて、誰がディールの彼女よ!―


ぷんぷん怒るホムラ。


「仕方ないだろ!男と女の二人旅にしか見えないんだ。だいたいホムラの存在が知られたら…」


―わかっているわよ!それより私たちもさっさと、そのラーカル町ってとこ行くわよ!―



----



商人一団と別れ、ディールとホムラもラーカル町を目指して歩き出した。


「ディール。ハンター登録するって言っていたけど……。」


傭兵の男の言葉を思い出す。

ああ、と頷き。


「色んな利点があるからな。オレは元々、成人したらハンター登録する予定だった。」


ハンターに対する羨望と期待。

だが、今のディールがハンターに臨む理由は別だ。


「ハンターになると、ハンター証を発行してもらえるんだ。これは身分証にもなるし、身元はハンターギルドが保証してくれる。色々と制限もあるけど、身分証の提示が必要な町に入るのに、ステータスプレートが必要じゃなくなるからな。」

「そう、ね……。」


ディールは【加護無し】

このためなのか、ステータスプレートは発動しなかった。


ステータスプレートが使えないということは、自分の存在を証明することが出来ないことと同義だ。

小さな町や村は良いが、大きい市街地や町には入場審査があり、どうしても身分を示さねばならない。

特に、四大公爵国の入国は身分証明の提示は必要ないが、グレバディス教国は必ず入国審査を行うため現状のディールでは些か問題がある。


「あ、ユウネももちろんハンター証を取ってもらうからな。」


思い出したように告げるディールに、思わず足元を躓きそうになるユウネ。

その表情は誰が見ても “なんで!?” と書いてある。


「えええ!? なんで?」


予想通り。

それに対してディールはさも当然のように答える。


「そりゃそうだろ? 【神子】……特に【星の神子】なんて謎の加護なんだ。ハンター証を取った方が正体を知られず旅が出来るだろ? ハンターとして旅をしている、とした方が良いと思うけど。」


確かに…、と頷くユウネ。


「あと、ハンター証取るのに試験があるけど、まぁ大丈夫だろ。」

「えええええ試験!?」


寝耳に水であった。


「ああ。剣技や魔力の試験って聞いた。実際どんなことをするかは分からないが…」

「えええええー…」


先行きは、不安である。



----



ラーカル町。

“町” というだけあって、スタビア村やレメネーテ村とは違い、広さも人の多さも、街並みの美しさも段違いである。

ユウネは時折、野菜や工芸品を売りに大人や孤児の仲間と訪れていたが、ディールは初めて訪れる町である。


「盛況な町だな!」

「でしょ! ここはもうラーグ公爵国との国境近くにもなるし、海も近いから景気が良いみたいなの。」


嬉しそうに話すユウネ。


―で、とりあえずこの町で、ハンター証とやらを取って、その後どうするの?―


ホムラが尋ねる。


「ああ。その前にまずは宿だ。もう夕方間際だしまずは宿を取ろう。予定ではこの町に2日か3日は滞在するつもりだ。」


そういうディールに異議を唱えるホムラ。


―なんでそんなにこの町に居る必要があるのよ!さっさと北に向かえばいいじゃない!―


その異議に呆れてディールが理由を答える。


「あのなぁ。ホムラと違ってオレ達は水も食料も、色々必要なんだ。あの傭兵達が言っていただろ。北に向かえば向かうほど、戦地に近づくんだ。栄えているこの町で、なるべく必要な物資を仕入れたい。そのためには2、3日必要なんだよ。」


ディールはユウネを見る。


「と、言ってもオレもこの町は初めてだ。何回か来たことのあるユウネが頼りになる。」

「え、ええ!う、うん!」


急に頼られ、顔を赤くして答えるユウネ。


「とりあえず宿だが……。女のユウネが居るんだ。あまり安くてむさいところは避けたい。多少値が張っても、飯が美味くて夜食にも対応してくれるところがいいが、どこかあるか?」

「うーーん、それなら。」


ユウネは10mくらい歩いて、右手の大通りの先を示した。


「あの奥の角にある、“銀の安眠亭” ってところがいいと思う。フロントが夜中まで開いているし、見張りも充実。お部屋も綺麗だし、お風呂も入れるし、ご飯もとってもおいしいの!」

「よし、そこにするか。」

「あ、でも。」


ユウネが躊躇するように言う。


「結構、お金掛かったと思うよ? 私も2年前に一度だけ泊まったことがあるけど、その時、工芸品が思いのほか高く売れたから、たまの贅沢だって泊まったの。確か、一泊銀貨10枚だったと思う。」


銀貨10枚というと相当な宿泊費である。


「ああ、それなら大丈夫だ。お金はたぶん心配ない。」


だが、ディールは意に介さず答えるのであった。


「……村長から村を救ってくれたお礼にと大金貨を渡そうとしたの断ったよね?」


大金貨は、金貨10枚相当。

金貨1枚は、銀貨100枚相当である。


「ディールって、実はお金持ち?」

「まあ金貨は持っているけど、今は手持ちはそこまで無い。伝手というか、それなりにお金になりそうな素材を持っているから、ここで換金してみようと思う。」


そう言って背中に背負うストレージバックを軽く上げる。


「あ、そうか。魔窟の魔石! それもあってハンターに?」

「そうだ。」


ハンターになる利点の一つに、魔物から獲れる素材や魔石をハンターギルドが通常価格より2~3割増しで買い取ってくれるのだ。


もちろん、素材を扱う店であればハンターであるかどうかに関わらず買い取ってくれるが、ハンターギルドのある町であれば、ハンターになった方が得である。


そうこうしているうちに “銀の安眠亭” についた。


中に入ると、フロントに居る受付嬢が元気よく「いらっしゃいませー!」と挨拶をするのであった。

その受付嬢のところへ足を運び、ディールが尋ねる。


「二人、とりあえず2泊したい。部屋は別々を希望するが、空いているか?」

「はいはい、お一人様一部屋で、二部屋でございますね!空いておりますので、ご案内します。当店は一泊に夕食と朝食が付いてお一人銀貨10枚となりますが、よろしいでしょうか?」

「ああ、構わない。」

「では、お二人2泊で、銀貨40枚です。当店は前金制となっています。」


受付嬢の言葉に、ディールはストレージバックから金貨を1枚取り出した。


「これで頼む。」

「かしこまりました。」


受付嬢は、慣れた手で銀貨10枚を6列並べ、計銀貨60枚をトレーに出た。

横に硬貨を入れる麻袋を付けた。これはサービスである。


「お返しは銀貨60枚です。ご確認ください。」


ディールはおもむろに銀貨10枚を手にとり、受付嬢の手に握らせた。


「お、お客様!?」

「ディール!?」


―ちょ、何やっているの!―


受付嬢もユウネも、ついでにホムラも驚く。


「オレ達はこの町に今日付いたばっかりだ。色々と教えてもらいたくて、ね。」


微笑んでディールが答える。

受付嬢は顔をポーと赤くして、


「は、はい……。ありがとう、ございます。」


と上の空のように答えた。


「ま、まずお部屋へご案内します……。こちらへ、どうぞ。」


顔を赤らめながら、ディールとユウネを案内する受付嬢。

それに付いていく二人。


―(ありゃあ…惚れたな。ディールって天然のスケコマシだな)―



ホムラは呆れるばかりである。

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