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第19話 ラーカル町への道中

盗賊を撃破した翌日。

ディールは約束通り、村長から食料と水、それにポーションをいくつか分けてもらい、また服も新調してもらった。

その上、背負っているストレージバックも、容量が1.5倍のものと交換してくれた。

荷物はかなり余裕を持っていけることとなった。


そしてユウネ。

あまり目立たず、かと言って決して脆くない、魔法使いの白いローブに青い水晶の埋まったロッド、ディール同様に旅の荷物が積まれたストレージバックを背負い、ディールに並んだ。


「それでは、ディール殿。くれぐれもユウネの事を頼みます。」

「ああ。兄と姉…【剣聖】と【水の神子】、そしてスカイハートの名に懸けてユウネをグレバディス教国まで送り届けるよ。」


それは、かつての兄と姉の道。

加護はなくとも、その同じ道に自分もようやく立てた気がした。


「ユウネ。長い道中になるかと思うが…身体に気を付けていくのだぞ。」

「はい!!私…村の皆のためになるようにこの力を磨いてきます!」


ロッドを強く握り、力強く宣言するユウネ。


「じゃあ、行くか。」


ディールが伝える。ユウネは、目に涙を溜ながらも笑顔で、


「みんな、行ってきます!!」


大きな声で、旅立つのであった。


----


「さっきからずっと黙っているけど、どうしたのマヤナ。」


遠ざかるディールとユウネの後ろ姿を眺めながら、一人の村娘が、村長の孫娘マヤナに尋ねる。

盗賊の子分に身を犯されそうになった寸でにディールに助けられた娘だ。


「…私、成人したらあの二人の後を追うわ。」


そう、宣言するのだった。


「あ、そっかー。マヤナは直接ディール様に助けられているからね!惚れた?」


茶化すように言う村娘。

だが、反論もせずマヤナは言う。


「…どんな加護が授かろうと、鍛錬して、ディール様のお傍で力になる。決めたの、私!」


力強い宣言。

その勢いに圧倒される村娘。


「そ、そう…でも、ユウネが授かった【神子】レベルじゃないと…あんた、太刀打ちできなくない?」

「それでも、私は負けない!」


一足先に加護を授かり、あまつさえ【神子】を授かった友人ユウネ。

嬉しさ半分、自分を救ってくれた命の恩人に同行するという嫉妬心。


ならば…どんな加護を授かろうと、彼の助けになりたい。

それがマヤナの結論であった。


(【加護無し】のディール様でも…あんなに強いんだもん。私だって…!!)


そう、村長とユウネ、ディールの会話をこっそり盗み聞ぎしていたのだった。

加護無しである命の恩人のあの強さ。


今からでも遅くない。


加護を得るまで、鍛えまくって…加護を得た後でも鍛えて…!

いつか、あの憧れる背中の殿方と肩を並べて一緒に歩むんだ!

マヤナは、決意した。


「いや、無理でしょ…」


呆れる友人の顔。

しかし、後日その決意が実を結ぶとは夢にも思わなかったのであった。


----


「この先の“ラーカル町”でいくつか準備して、乗れれば馬車に、ダメなら徒歩で先を行き、途中馬車を見かければ同乗を交渉してみるってところだが、それでいいか?」


村を離れ、ディールが隣を歩くユウネに尋ねる。


「ええ構わないわ。これでもラーカル町に卸で野菜とか運んだんだもん。野宿も何度もしたことあるから大丈夫だよ。」


笑顔で答えるユウネ。

その笑顔に、顔を背け「そっか」と呟くディール。


―ちょっとー!何照れてるのよディール!―


それが面白くないホムラ。

その言葉に顔を真っ赤にさせるのはユウネであった。


―なんであんたも照れるのよ!―


「ホムラ、あまりユウネに絡むな!だいたいお前は剣だろうが!」


ディールが窘める。

むうううう…と唸るホムラ。


「で、でも!ホムラさんって魔剣にしては人の機微に詳しいというか、感情に詳しいというか、凄いですよね!」


慌ててフォロー(?)をするユウネ。

何故かホムラの声がユウネにも伝わるようになったのだ。

逆にそれが面白くないホムラ。


―それは私がスーパー凄いからよ!だいたいあんたみたいな乳おん…―


ピシッ


そんな擬音を感じる氷点下の殺気。


「なぁに?」


笑顔のユウネ。

震えるディール。


―えっと…スーパー凄い私の声をキャッチできるユウネも、本当に凄い子ね、って話でぇ~―


ホムラもさっきの勢いは何処へやら。

たどたどしく答えるのであった。


「と、ところでユウネ。地図だとラーカル町に行くにはどこか道中で野宿しなければだけど、大丈夫か?」


焦りながらディールが尋ねる。


「もちろん!何度も荷物運んでいるからこの先の野宿ポイントはバッチリ!野宿は何度もしているし、今日はそこで休もうね!」


怖いくらいの笑顔で答えるユウネ。


(おい、昨日も言ったけど…ユウネの身体のことは触れるな!お前、折られるぞ!)

―(わ、わ、分かってるって!でも何故かムカつくのよ…あの乳は!)―


「あれー?二人とも何で黙っているのかなー?まさか、私に内緒で、何かお話、している、の、か、なー?」


ニコニコ笑いながらユウネがディールに近づく。


「まさかまさか!何て言うか、ユウネが野宿慣れしているのが意外だっていうか、その、なんて言うか…」

「優しいねディールは!でも大丈夫だから安心してね!」


笑顔が怖い。

ディールはもとより、ホムラも失言せぬよう心に決めるのであった。


----


「ここ、凄いな…」


薄暮時。

ディールとユウネはラーカル町の中間地点にある野宿ポイントにたどり着いた。


そこは、魔物が嫌う匂いを発する“メガの木”が周囲に生い茂る広場であった。

大きな石に囲まれた釜土やテントを張れるように整地された部分など、有効に使われている跡がある。


ディールは早速ストレージバックからテントを二張り取り出して設営した。

その間、ユウネは夕食の準備をするのであった。


レメネーテ村で旅の準備といただいた食料は豊富で、携帯食料の他に新鮮な肉や野菜のストレージバックに収納されている。

時間経過による劣化のしないストレージバックであるが、魔物や盗賊などの襲撃、また、何かしらのアクシデントでストレージバックが破損することへの配慮により、保存の利く携帯食料を積み込むことが主流であったが、レメネーテ村の村長、そしてユウネの拘りか、大量の新鮮な食料が収納されているのであった。


それを使い、鼻歌を歌いながら料理するユウネであった。




「さあ、召し上がれ!」


ユウネが作ったのは、ヤギの乳と小麦粉、バターを使った野菜たっぷりのシチューと、ファンゴルという豚の魔物の肉を捏ねて作ったハンバーグであった。

それを焼いたライ麦のパンでいただく。


「いただきます…」


まず、シチューを掬うディール。

フーフーと息を吹きかけ、口にする。

ヤギの乳の独特の臭みはなく、代わりに沢山の野菜の甘味とうま味が口いっぱいに広がる。


「…うまい!」


思わず声に出る感想。

その言葉に頬を赤らめ笑顔になるユウネ。


「よかったー!おかわりもあるから、沢山食べてね!」


次に口にするのはハンバーグ。

焼いている時に出た肉汁に絡め、香辛料などで味付けをしたソースが掛かっている。

一口大に切り、口にほうばる。

多量の肉汁に噛みごたえのある肉の弾力。


「これもうまいな!」


ガツガツと食べるディール。


「持ち歩く調味料がいつもより多かったから色々試してみたけど、お口にあってよかった。」


そう言ってユウネもシチューを口にする。


「いや、本当に旨い。昨日食べた宴の料理よりもずっと旨い。」


これはディールの正直な感想。

それほどユウネは料理上手なのだ。


その言葉に顔を真っ赤にさせて伏せるユウネ。


「そ、そんなこと…ないと思うけど…。」

「いやいや、本当においしいよコレ。まさか野宿でこんな美味しい料理にありつけるなんて…」


―あー、いいないいなー!私も食べたいなー!でも私は口とかないしねーー!―


そんな二人のやり取りにイラついたのか、ホムラがわざとらしく言う。


「ふふふっ」


その声に思わず笑うユウネ。


―なに笑っているのよ!―


「ううん、ごめんなさい。なんか、ホムラさんって本当に魔剣なのかなって。」


―はぁ?―


「食事を羨ましく思ったり、私とディールのやり取りにチャチャ入れたり…まるで、本当の人みたい。もしかして、ホムラさんって元々人間だったりして!」


笑いながら言うユウネ。


―何、バカなこと言って…―



【ホムラの封印7から封印9までを解除しました。残り、90。】



突然響く、あの声。


「ホムラ、今…」

―ええ…―


ディールとホムラは驚愕する。

急に黙る二人にユウネはは怪訝そうな顔をする。


「どうしたの、二人とも?」

「ユウネは、今、ホムラの封印が解除されたって声は聞こえなかったのか?」


ディールが尋ねる。

ユウネはキョトンとした顔で「聞こえなかったけど…」と言う。


(どうやら、封印が解除ってやつは…)


―(私たちにしか聞こえないみたいね♪)―


(なんでお前は嬉しそうなんだよ…)


呆れるディール。


「え、え?何かあったの?」


ちょっと拗ね気味でユウエが尋ねる。


----


「封印、かぁ…」


食事の片付けをしながらユウネは呟くように言った。

ディールは、ホムラの封印について説明した。

途中、ホムラから『言う必要ない!乳女になんて!』と言い放ち、例によってユウネの氷点下殺気を浴びて震える声で懇切丁寧に説明したのであった。


「それで、今回は何を思い出した?」


布で食器を拭きながらディールが尋ねる。


―うん、今回思い出したのは一つ。どうやら私を抜いた宿主、つまりディールね。私自身と同期して、離れていても私の力の一部を使えるみたいなの。―


それは、考えようによっては物凄い力であった。


「え、離れていても…ホムラの力を使えるって?熱纏とか?」


―熱纏は私無しじゃ使えない力ね―


「意味ないじゃん!」


あからさまにがっかりするディール。

それに『チッチッチッ』と舌打ちの真似をする魔剣。


―今回封印解けた能力が2つある。一つは、“熱錬”。これは、宿主、つまりディール自身の戦闘力を向上させるみたいなの。使い方は熱纏と同じだけど、私を介さなくても、イメージするだけで発動するみたいよ―


新しい能力はまさかの宿主、ディール自身の強化であった。


「本当かよ!凄いなホムラ!」


笑顔で褒めるディール。

―えへへ…―と照れながら、次の能力を説明する。


―もう一つは、“熱纏延伸”。熱纏は私の刀身のみに纏っていたけど、それを自由自在に伸ばしたり形を変えたりすることが出来るみたいなの。つまり…―


「剣の間合いを増やしたり、剣そのものの形を変えることが出来るってこと?」


ユウネが言う。


―ちょっと!なんであんたが言っちゃうのよ!―


ホムラがムッとした声で言う。


「なるほど、それは色々使えそうだな。」


ディールは感心して呟く。


「それに、同期している?離れていてもホムラさんの力を使えるってことは、さっき言っていた“熱錬”はいつでも、ディールは使えるってことだね!」


ユウネも嬉しそうに言う。


―ちょっと!私とディールが離れるなんてことは無いんだからね!!―


それを窘めるホムラ。


「ご、ごめんなさい…」

「まぁ、確かにオレはホムラを手放すつもりは無い。ただ、何があるか分からない状況でホムラの力の一部でも借りられるのは大きいな。」


―まぁ、私のなせるワザってことね!―


ディールの言葉に胸を張るように言うホムラ。


「しかし…ホムラの封印解除のタイミングってよくわからないな…。何でこのタイミングで解除されたんだ?」


―うーん。私もよく分からない―


その二人の言葉を聞き、ユウネは思案顔。


(…もしかして、ホムラさんの嫉妬心とか、何か確信めいた言葉とか…ホムラさん自身の感情を揺さぶると封印が解けるのとか、なのかな。)


だが、そうは思っても確信はない。

ディールとホムラもまだ付き合いは浅いようだ。

あまり色々言って不況を買うのもどうかと思う、とユウネは思うのだった。


だが、どうしても聞きたいことがあった。


「ねえ、ディールのステータスってどうなの?」


そう、これだけ強いディールだ。

物凄いステータスなはず!と思うユウネ。

だが、その言葉に苦笑いするディールだった。


「ユウネには言ってなかったが…加護無しは、ステータス表記がないんだ。」

「え、そうなの!?」

「あぁ。覚醒の儀の後、試してみたんだがステータスが表示されなかった。それでオレが加護無しってバレて司祭や村の皆から命を追われる羽目になったんだ。」


笑顔で答えるディール。

その事に、伏せるユウネ。


「ごめんなさい…変なこと聞いて。」

「いいって。オレも言ってなかったからな。」


微妙な空気。

またしてもそれを打ち破る、空気を読まない能天気な赤い剣。


―ある意味、私がディールの加護みたいなもんだけどね!適当な加護とやらを持つより、このホムラ様を握りしめている方がずっと強いんだから!―


えへん!と胸を張るように宣言する。


「そうだな。ホムラのおかげでオレは助かっているよ」


―か、かしこまって言われると照れるんですけど…!―


おどけたり、ふざけたりする割には、真面目に返すと急に素になる人間臭い魔剣。

そんなホムラを笑うディールとユウネの笑い声が、森に響くのであった。

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