第141話 轟く鼓動
“何故、こうなった?”
【慈愛の女神ロゼッタ】では、日にたった一度しか発動できない殲滅攻撃 “ロンギヌス” を、守るべき施設 “移動要塞グリヘッタ” に迫りくる巨大な燃え盛る巨星を、それも2つもの塊を、砕くために遣ってしまった。
そうでなくとも、先ほど突如裏切った末妹 “グリヘッタ” を止む無く止めるために、力を解放させて機能停止にまで追い込んだ。
5,000年以上もの歳月を費やして、この身に蓄積したはずの【DEAR】は、あっという間に激減してしまった。
総量で言えばまだまだ十分あるが、遊び感覚で相手をしていたはずの人類の大半が生き残り、それどころか、大切な妹の【奇跡の女神セルティ】が超越者の手によって殺され、激高した【顕現の女神アシュリ】と【祝福の女神パルシス】も一気に人類を殲滅すると思いきや、逆に痛手を負い、ロゼッタ同様に体内の【DEAR】を激減させてしまった。
特に、【祝福の女神パルシス】は非常に不味い状態だ。
人類軍という150万人の人間と遊ぶために用意した、分体。
それだけでも【DEAR】が相当量使用したはずなのに、立て続けに完全体の分体を生み出し、唯一使える殲滅攻撃 “ミョルニル” を発動させただけで飽き足らず、跳ね返され、“移動要塞グリヘッタ” を守るために身を挺してその殲滅攻撃を自ら喰らってしまった。
【顕現の女神アシュリ】の力で、何とか回復はしたが。
その身に宿る【DEAR】は枯渇寸前だ。
まともに戦えば、先ほどのセルティ同様、殺されてしまうかもしれない。
“何故こうなった?”
未だ、平原に広がる人類と、背後で煙を上げながら墜落寸前にまでなっている “移動要塞グリヘッタ” の有り様を交互に眺め、絶望するロゼッタであった。
「よそ見とは、良いご身分だな?」
混乱するロゼッタの目の前に、忌々しい【剣聖】セナの生き写し、連合軍総統のマリィという女が跳躍して現れた。
身に纏う加護は大したことが無いが、手に持つのは【銀翔龍フウガ】であり、何故かその力を万全に遣えるほどの力量を有している。
「な、なめるな!」
ロゼッタも手に持つ長い紅い剣を揮い、マリィの剣閃を防ぐ。
ブワワッ、と音を立てて、風に乗り空中で跳躍するマリィ。
今度は頭上からフウガを振り下ろす。
『ガウンッ!!』
その瞬間、周囲の風が消えた。
マリィの瞳が銀色に輝き、叫ぶように宣言する。
「“凪の剣”!!」
ゾワリ、と悪寒のするロゼッタ。
だが、遅かった。
『ズガンッ!!』
「ギャアアアアアアッ!!!」
紅い剣ごと、ロゼッタの左肩、左翼を切り裂くマリィ。
だが、ロゼッタは歯を食いしばり、右手を貫手にしてマリィの胸を貫く。
「ウグッ!!」
「マリィちゃん!!」
即座に人化の姿となり、空中でマリィを掴んで、背に風の羽を作り出して地上へ向かう【銀翔龍フウガ】であった。
「逃がす、かぁ!!」
激怒したまま、ロゼッタは後を追う。
人間に、予想外に追い詰められたからか。
裏切り者エリアーデの策にまんまと掛かってしまったからか。
母が身を宿さんとする “移動要塞グリヘッタ” を傷つけられたからか。
それとも。
妹たちが、瀕死となり、一人死亡してしまったからか。
凡そ、冷静とは言い難い行動に出てしまうロゼッタ。
いや、頭では分かっている。
“追わず、妹たちと結託して上空から攻めれば良い”
“それか、”移動要塞グリヘッタ“ と共に姿を眩ませれば良い”
“多少、殲滅までに時間は要するだろうが、修繕して、通常に人類を根絶やしにしてしまえば良い”
それが、最善手。
最善手であるはずなのだ。
頭では分かっている。
だが、この身を焦がす怒り、焦りに抗うことが出来ない。
“何故か?”
【ディアの悪魔】は5,000年以上の時の中、【依代】の身で顕現した時、元々持っていた性格と知識をそのままで復活できる、即ち疑似不老不死の状態であった。
それは全て、【DEAR】を世界に溢れさせて、歪めたセカイの “理”、つまり【DEAR】システムでの恩恵だ。
本来、【DEAR】とは人の身に宿る “意識・記憶・感情” のエネルギーであり、そして、人の身に宿る【DEAR】の総量自体は不変である。
つまり、【依代】だろうと “ディア” 本体だろうと、【DEAR】というエネルギーを十全に扱える存在になったに過ぎず、本来、人の死を以て、生前蓄積された “意識・記憶・感情” が【DEAR】というエネルギー化して別の人物に宿り、さらにそのエネルギーを増加させる “正しい循環” から外れた存在になってしまったのだ。
それが、【ディアの悪魔】たちの最大の見落とし。
それは、“循環” による生物としての、成長を止めてしまった事に他ならない。
エネルギーとして【DEAR】を蓄積は出来ても、自らの肉体に宿った “意識・記憶・感情” を司る【DEAR】自体は、増えも減りもしない。
【ディアの悪魔】の身に宿り、疑似的に不老不死となった今、延々と同じ “意識、記憶、感情” を持ち続けるという ”異常事態” により、ある意味それが暴走状態へと成り下がってしまっているのだ。
この時代の誰よりも、絶対的な頭脳や知能を持っているはずのホムンクルスである【ディアの悪魔】は、誰よりも感情的に身を焦がし、歯止めが利かなくなってしまった。
【DEAR】を、ただのエネルギーとして認識してしまっていることの、ツケが全て回ってきてしまっている。
怒りに身を燃やすロゼッタが、傷ついたマリィと、マリィを背負う人化している【銀翔龍フウガ】を追う中、悍ましい気配と予感を感じて、空中で旋回する。
その眼前。
黄金の閃光が破裂した。
「アシュ、アシュリーーーー!!」
顔を絶望に歪めて、ロゼッタは閃光の元へ飛ぶ。
「はぁ、はぁ、……。」
巨大な爆発。
それを引き起こしたゼクトは肩で息をするが、即座にその場を離れる。
同時に、握る魔剣 “百式” が砕け散り、“従属契約” を結んだ魔物たちが外へ現れる。
その数、30匹。
近くに居た人類軍は全員度肝を抜かれたが。
「あ、安心しろ! 全て、ゼクト将軍の従魔だ!」
近くに居た、帝国軍十傑衆6位ジャッカルが叫ぶ。
そのジャッカルに、汗だくだが笑顔で応えるゼクトであった。
ゼクトの切り札、【百鬼夜行】の解放。
召喚系の加護の中で、実在する魔物を屈服させることで従魔契約を結び、自らの魔力を費やして自由に召喚できるという、シエラの【天衣無縫】と並ぶ前代未聞の加護であった。
その本質は、従魔として自らの魔剣に収めた魔物の、魔力を召喚せずとも扱えるという事と、僅かながらも魔剣に蓄積できるということだ。
この力を十全に扱えるようにするため、様々な鍛冶職人や魔石加工師が試行錯誤の上で生み出したのが、改造魔剣 “百式” であった。
ゼクトの力に耐えるだけでなく、従魔の魔力を延々と蓄積できるという、とてつもない魔剣へと成った。
その話を聞いたアゼイドは、ゼクトの力も “ディア” を斃すための切り札になると確信して、“六魔” を始めとした世にも凶悪な名高い魔物たちを従魔契約するための旅路を提案したのであった。
“邪神” アーシェの企みを阻止するために、その力は必要となると考えたゼクトはこれを了承し、アゼイド、シエラ、ゼクト、そして元皇帝オフェリアの4人による旅が始まったのであった。
そして今日。
大量に蓄積された魔剣 “百式” の力を全て解放して、ソエリス帝国を嵌めた大罪人でも “邪神” アーシェこと、【顕現の女神アシュリ】に、その一撃を食らわした。
『ぬ、主様っ! お逃げください!!』
叫び、ゼクトに体当たりするように当て身をするフェンリルの王『緑眼』
「ぐっ!」
吹き飛ばされるゼクトが見た光景は、
『ドシャアアアッ!!』
突っ込んできたロゼッタによって、粉々に砕かれる『緑眼』の姿であった。
「お、おいっ!!」
倒れるゼクト。
【百鬼夜行】の解放の反動で、身体が思うように動かない。
しかも魔剣 “百式” は砕けた。
満身創痍の上、丸腰。
だが、そんなゼクトを無視するように、ロゼッタは目を丸め、絶望の表情で紡ぐのであった。
「アシュリ……。」
爆発の中心地。
腹に、柄の部分が砕けたアゼイドの “神喰ノ咎人” の刃が突き刺さる。
両足、両腕は吹き飛び、翼も抉れている。
目の色彩を無くしたアシュリが倒れていた。
ロゼッタの周囲に、膨大な魔力が迸る。
「セルティだけに飽き足らず、アシュリまでこんな姿にして……。」
両目から血の涙を流し、怒りの形相で呟く。
その視線が、動けないゼクト。
そして、同じように全力を尽くして丸腰となったアゼイドに向けられる。
アゼイドは、即座にゼクトへ駆け寄り、肩を寄せる。
「ダメ、だ。アゼイド殿。逃げろ……。」
「こんな場で貴方を見捨てたら……オフェリアさんだけじゃなく、シエラにも、殺されるからね。」
アゼイドも、限界だ。
何とかゼクトを支えながら立ち上がる。
そんな二人の前に、シエラとオフェリアが駆け付ける。
「シ、シエラ!?」
「オフェリア! 何をしている、逃げろ!!」
叫ぶアゼイドと、ゼクト。
ニコリ、と笑う二人の女性。
「何、格好つけてさ。一緒に旅に出た時に一蓮托生だって言ったの、アゼイドさんだよ?」
「それにゼクトさんも。もう大殊勝じゃない? なんたって、あの糞女を斃したんだから。後は……皆に任せても、いいんじゃないかな?」
オフェリアとシエラは、強固な防壁魔法を展開させる。
そして、その前に姿を現すのはゼクトの従魔たち。
『奥様方! 我らも主様をお守りします!』
『我ら一同、命も魂も主様に捧げた故!』
その様子が、気に入らないロゼッタが叫ぶ。
「いい、度胸だぁ!! だが、そんな紙切れみたいな魔物や魔法で防げると思うなぁ! 後ろの、ニンゲン共も、纏めて殺してやる!!」
“この身に宿る【DEAR】など知った事か”
一発しか打てないはずの殲滅攻撃は、すでに “移動要塞グリヘッタ” を守るために “ロンギヌス” を放ったのであった。
だが、我を失った【赤き悪魔】は、その事などすでに忘れてしまっているように、全力で、全身の【DEAR】を絞り出すように力を籠める。
対象は、アシュリをボロボロした “咎人” たち。
そして、後ろで分体パルシスと闘っている、数十万人の人間たち。
“全て殺し、【DEAR】に変える”
両手、そして四枚翼の先端がロゼッタの胸元の中心へ向かい、幾重もの魔法陣を連ねる。
魔法陣は激しく動き回り、真っ赤な閃光と共に一つの輝く小さな球体を生み出した。
それは、最強の殲滅攻撃。
本来、アシュリにしか使う事が叶わない力。
“レーヴァテイン”
それを、ロゼッタは放とうとする。
放てば最期、眼前の人々は全て一瞬で、蒸発する。
防ぐとか、避けるとか、そういう話ではない。
纏う熱で、全てを蒸発させるのだ。
「さぁ、死ぬがいいっ! “レーヴァテ」
『ザンッ!!』
“大きな攻撃が、大きな隙となる”
青白いオーラに包まれた【剣聖】ゴードンが、魔剣 “アリア” でロゼッタの背中を切り裂く。
その刃は翼を割き、背中に大きな切り傷を与えた。
「がはっ!?」
霧散する、“レーヴァテイン” の赤い球体。
「はぁぁぁぁぁああああ!!!」
『ドダダダダダッ!!』
掛け声とともに、ロゼッタの全身を魔剣 “ガンテツ” で執拗に殴る、【武聖】マヤナ。
余りの唐突の攻撃に、ロゼッタも対処できない。
先ほどのマリィ同様に、貫き手で貫こうとする、が。
「“碧龍水天”!!」
『ドボンッ!』 という音と共に、大量の魔力が練られた水の塊に包まれるロゼッタ。
その目線の先では、教皇アナタシスこと、【聖者】メリティースが魔剣 “スイテン” を天に掲げていたのであった。
そして。
「“聖王、解放”!!」
叫ぶ、【聖王】オズノート。
全身が、青白いオーラに包まれ、両目に白い紋様が浮かぶ。
“ラグレス・スティグマ”
発現してしまうと、血筋、子孫へ継承されてしまう聖王の呪い。
それは、身に宿る【DEAR】を枯渇させてでも【赤き悪魔】を滅さんとした、伝説の大英雄【聖王】ラグレス・ソリドールの意思の具現化だ。
全身のオーラと、握る魔剣 “ライデン” の雷の魔力が合わさり、青紫の強大な電撃となる。
それを “ラグレス・スティグマ” によってライデンの剣先に集める。
総統マリィの奥義、“凪の剣” の、模倣。
マリィから見れば、未熟も良いところだろう。
だが、大量の水に捕らえられているロゼッタだ。
防ぐことも、避けることも出来ない。
自らが放とうとした “レーヴァテイン” 同様に。
「はああああああああっ!!」
悍ましい電撃を纏う、一撃をロゼッタに向けて揮うオズノート。
大量の水の中でもがく、ロゼッタは暴れるだけで、逃げられない。
『バジャジャジャジャジャジャッ!』
水の弾ける音と、雷が迸る音。
その一点の力は確実にロゼッタを穿ち、さらに溢れ出た雷の力は水を伝い、ロゼッタの全身を襲うのであった。
「ぐ、は……。」
全身を濡らしながらも、あちこちを焦がしたロゼッタが膝を着き、口から大量の血を吐き出した。
「まだ、終わりじゃないぞ!」
即座にゴードンは飛ぶ斬撃でロゼッタを急襲する。
青白い斬撃は容赦なくロゼッタへ向かうが、片手を突き出し、『バキッ』と音を立てて斬撃を砕いた。
「“流水捕縛”」
スイテンを掲げて、再度、メリティースは魔法を放つ。
水で出来た大きな縄が、ロゼッタの周囲を包む。
「こん、な、小細工……舐めているの、かね!?」
震えながら両手を突き出し、魔法陣を展開させる。
それを読んでいたように、マヤナは地面を殴る。
「“削岩”!!」
突然、ロゼッタが膝を着く地面がガクリと下がった。
余りの突然のことでバランスを崩すロゼッタ。
その隙を狙い、メリティースが放った “流水捕縛” がロゼッタの身体を包む。
「こんな、魔法、効くか!」
『パシャッ!』
一瞬で解かれてしまった。
しかし、その隙こそが狙いであった
「うおおおおおおおっ!!」
“流水捕縛” を解いたロゼッタの眼前に、大きく魔剣 “ライデン” を振り下ろすオズノートの姿が映った。
それは500年前、自分を追い詰めた【剣聖】セナ・バルバトーズと将来を誓い合った【聖者】アナタシスが握っていた “深淵” の一撃である。
留めの一撃となるその斬撃で、腕を千切られ、その隙にセナが握る魔剣 “アグロ” と “シロナ” の二振りによって “ディア” 本体の機能が低下し、動けなくなったのだ。
今思えば、【白陽龍シロナ】は裏切り者のエリアーデだった。
【依代】の身であったため、【五聖】の力である “ディア本体の機能停止” という例外ルールの内側でしか力を揮えていなかったが、それでも一瞬で意識を飛ばされ、エリアーデの手によって地中深くに封じられてしまったのだ。
だが。
今、その悍ましい魔剣を揮うのは、たった一人だ。
しかも大振りの剣閃。
バランスは崩し隙を見せてはいるが、対処できないレベルではない。
凄惨な笑みを浮かべて、右腕を突き出すロゼッタ。
これで、厄介な【聖王】を殺せる。
その確信が、あった。
「“嵐玉”!!」
それは、【暴風魔法】最強の攻撃。
普通に放てば竜巻となり、周囲を荒らす強靭な魔法を、僅か直径1m程の球体に押し込んだ圧縮魔法である。
振りかぶるオズノートの対面。
神子たちによって蹴散らされた分体パルシスの合間を縫って、【風の神子】アメリアがロゼッタに向けて放ったのだ。
『ドウゥゥゥゥッ』
地面を抉りながら突き進む “嵐玉”
その気配を感じ、反対の左腕をアメリアの方へと向ける。
先ほど、マリィに切り裂かれたとは言え、余裕で動く。
ニンゲンの小細工。
その程度の認識でしか、まだ無かった。
『ゴシャッ!!』
「あがっ!!」
ひしゃげる音。
同時に、ロゼッタの左腕が、千切れた。
後ろから、汗だくのマリィが “凪の剣” で切り裂いたのだ。
「さっき、の、お返しだ。」
胸を貫かれたのを、【土の神子】サリアの手によって応急処置が施された。
だがまだ万全では無く、紡ぐ言葉と同時に血を吐く。
マリィは倒れるように、身体を傾ける。
即座に魔剣から “人化” に戻る【銀翔龍フウガ】がマリィを掲げ、後ろに跳躍してその場から離れる。
わずか、一瞬の出来事であった。
『ズガガガガアアアアンッ!!』
『ドゴゴゴゴオオオオオッ!!』
オズノートの一撃と、【風の神子】アメリアの一撃。
それが重なりロゼッタを中心に雷と竜巻が炸裂する。
「す、す、凄い威力、ですね!」
“人化” して、雷と竜巻に巻き込まれる前にオズノートを離脱させ【紫電龍ライデン】が目を丸くして紡ぐ。
「いや……貴方様のお力、ですよ。」
汗だくで、肩で息を吐きながらオズノートが答える。
その言葉に、首をブンブンと横に振ってライデンが否定する。
「いえっ! ボクの力を引き出すのも、【聖王】の力を十分に使えるのも、オズノートさんの力ですよ!」
伝説の “龍神” から、認められた事実。
嬉し泣きしそうになりながらも、気を強くもち、立ち上がる。
「ありがとうございます、ライデン様。」
「そ、そ、それより、あいつは……!」
嵐が、収まった。
その中心部。
全ての翼がズタズタになり、天を仰いで白目を剥くロゼッタ。
左腕はマリィの攻撃で千切れ、右半身もオズノートの攻撃で潰れている。
地面に膝を着いて、事切れたように動かない。
復活仕立ての時、以上の満身創痍であった。
「“闇重牢獄”」
そこに、【魔聖】オフェリアが、魔剣 “アグロ” を掲げて【暗黒魔法】最高の捕縛魔法を紡いだ。
成すすべなく、捕らえられるロゼッタ。
「はぁ、はぁ、これで、アシュリ、ロゼッタを、止めました。」
胸に刺さった “ロンギヌス” を消し飛ばし、無理矢理止血したエリアーデが伝える。
アシュリもすでに事切れたように動かないところを、オフェリアの捕縛魔法で捕えている。
見守るのは、武器を無くしたとは言え、元々 “世界最強” と呼ばれた3人、シエラ、ゼクト、アゼイドだ。
近くに居た補充兵から【金剛龍ガンテツ】が作り出した金剛天鋼の魔剣を手にして、警戒する。
仮に目覚めても、命を懸れば、ある程度は対処が出来るという自信がある。
そしてロゼッタ。
【五聖】が “龍神” を握り、睨む。
「後は、……ディール殿、ユウネ殿、ホムラさんの誰かに、留めを刺してもらえば、セルティ同様に、完全に葬ることが出来ます。」
エリアーデの目線の先。
人類軍と、残る神子たちが分体パルシスと闘っているところだ。
そこから討ち漏らした分体や、本体である【祝福の女神パルシス】とディールとユウネがけん制するように戦っている。
「適任は、ディールだな。オレが呼んでこよう。」
そう告げ、【剣聖ゴードン】が向かおうとする。
その時。
『ボワッ』
空に浮かぶ【祝福の女神パルシス】が紫色の閃光を放ち、同時に現れる、無数の分体パルシス。
その数、30万。
「な、な、なんだこりゃあ!?」
「う、うわああああああっ!!!」
あまりの物量に押しつぶされるように次々と命を奪われる、人類軍。
神子、そしてディール達は辛うじて対処しているが、あまりの数の多さに人類軍の兵を守るまで手が回らない。
「まずい! パルシスを、ロゼッタ達に近づけないでください!!」
血を吐きながらエリアーデが叫ぶ。
臨戦態勢となる、【五聖】と、アゼイド達。
ゼクトの魔剣からあふれ出た魔物たちも、ズラリと並び応戦する。
『ドグンッ』
空に響く、鼓動。
エリアーデは青ざめて、空を見る。
ボロボロになりながらも、辛うじて宙に浮かぶ “移動要塞グリヘッタ” が、青白いオーラを放ちながら、鼓動を放つように鳴り響く。
「まずい……予想より、早い!」
迫りくるパルシスの軍勢と、轟く鼓動。
人類と悪魔との闘い。
後世、“邪神戦争” と呼ばれる争いは、まもなく終結を迎える。




